育休を取りたいと申請したのに「うちの会社では認められない」「今は人手不足だから無理」と言われた経験はありませんか?
実は、育児休業の申請を企業が受け取り拒否することは、育児・介護休業法に違反する違法行為です。育休は企業が「承認する」制度ではなく、労働者が「申し出る」法定権利であるため、受け取りを拒否される理由はどこにもありません。
この記事では、育休申請を拒否された場合の具体的な対処法を、社内での証拠保全から外部機関への申告手順、是正指導・強制措置の内容、相談窓口の使い分けまで、法的根拠とともにわかりやすく解説します。
育休申請の受取拒否は違法|育児・介護休業法の基本ルール
育休申請は「申出制度」であり企業に拒否権はない
育児休業の申請は、「育児・介護休業法」という法律によって保障された労働者の権利です。まずこの大前提を正確に理解することが重要です。
育児・介護休業法第6条には、「事業主は、育児休業申出があったときは、当該育児休業申出を拒むことができない」と明記されています。つまり、育休は会社が「許可する」制度ではなく、労働者が「申し出る」制度なのです。
育児・介護休業法 第6条(育児休業申出)
「事業主は、労働者からの育児休業申出があったときは、当該育児休業申出を拒むことができない」
この条文が意味するのは、申請の受け取り自体を企業が拒否することは認められないということです。企業側に与えられているのは「申請書類を受け取る義務」であり、受け取った上で理由なく取得を妨げることも同様に違法となります。
育休申請権を持つ労働者の要件
受取拒否が違法となるのは、以下の要件を満たす労働者が申請した場合です。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 雇用形態 | 正社員・有期雇用労働者(以下の条件を満たす場合) |
| 雇用継続見込み | 申出日から1歳6か月(最長2歳)まで雇用が継続される見込みがある |
| 週所定労働日数 | 週3日以上(日雇い労働者は対象外) |
| 子の年齢 | 原則として1歳未満の子を養育している(延長申請あり) |
2022年の育児・介護休業法改正により、有期雇用労働者についても「雇用期間が1年以上」という要件が撤廃され、対象が大幅に拡大されました。パートタイム労働者や契約社員も原則として育休を取得できます。
受取拒否が違法となる具体的な行為パターン
企業による「受取拒否」は、明確に書類を突き返す場合だけではありません。以下のような行為もすべて、育児・介護休業法違反に該当する可能性があります。
口頭での拒否
– 「うちの会社は育休が取れない職場だ」と上司が発言する
– 「今は人手が足りないから後にしてほしい」と取得を先送りさせる
– 「育休を取ると評価が下がる」などと暗に圧力をかける
書類上の妨害
– 申請書類の提出先を教えない・書類そのものを渡さない
– 提出した申請書を受け取ったと認めない
– 「所定の様式がない」と言って申請させない
不合理な理由づけ
– 「試用期間中だから取れない」(法律上、試用期間中でも要件を満たせば取得可能)
– 「業務上の都合で認められない」(業務上の都合は拒否理由にならない)
– 「前例がない」「就業規則に載っていない」(法定権利は就業規則がなくても行使できる)
また、育休申請を理由とした不利益取扱い(解雇・降格・賃金減額など)も、育児・介護休業法第10条で禁止されています。いわゆる「マタハラ(マタニティハラスメント)」「パタハラ(パタニティハラスメント)」と呼ばれる行為がこれに当たります。
罰則規定について(育児・介護休業法 第66条)
育児・介護休業法第66条では、行政が是正勧告を行った後も違反が是正されない場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられると定められています。さらに、同法第56条の2に基づき、悪質な違反企業については企業名の公表という行政措置も取られます。
まず試すべき社内対応ステップ|証拠を残す方法
外部機関への申告は強力な手段ですが、その前に社内での証拠保全と書面による再申請を行っておくことが、後々の対応を有利に進めるうえで非常に重要です。
書面・メールで再申請する方法と証拠の残し方
口頭で拒否された場合でも、あきらめずに書面またはメールで改めて申請してください。書面での申請は、後に「申請していない」と言われることを防ぎ、法的手続きを進める際の証拠になります。
書面申請の方法(優先順位順)
-
社内メールでの申請
会社のメールシステムを使って人事担当者に申請内容を送信します。送信日時・受信確認が記録に残るため、最も手軽な証拠保全方法です。「育児休業を○年○月○日から○年○月○日まで取得したい」と明記し、申請書類の様式がある場合は添付します。 -
配達証明付き内容証明郵便
社内メールが使えない場合や、受け取ったことを確実に証明したい場合に有効です。郵便局で「配達証明」をつけて送付することで、いつ誰に届いたかが公的に証明されます。 -
社内申請書の提出(控えを必ずコピー)
書類を窓口に提出する際は、必ず写しを手元に残してください。提出した日時と、受け取った担当者名もメモしておきましょう。
証拠として残しておくべきもの
- 申請書の控えコピー
- メールの送受信記録(スクリーンショットも有効)
- 拒否された際の発言をメモしたもの(日時・場所・発言者・発言内容)
- 配達証明の受領書
- 上司や人事担当者とのチャット・LINE・SNSメッセージ
社内相談窓口(人事・コンプライアンス・ハラスメント窓口)への報告手順
書面申請と並行して、社内の相談窓口にも状況を報告しておきましょう。直属の上司が拒否している場合でも、人事部門やコンプライアンス部門が適切に対応してくれることがあります。
相談先の優先順位
| 相談先 | 状況に応じた使い分け |
|---|---|
| 人事部門(HR) | 上司から口頭で拒否された場合の第一報告先 |
| コンプライアンス部門 | 人事部門が機能しない・人事自体が拒否している場合 |
| ハラスメント相談窓口 | 脅迫・威圧・暴言を伴う場合(マタハラ・パタハラとして申告) |
| 顧問弁護士・産業医 | 健康被害・メンタルヘルスへの影響がある場合 |
相談する際のポイントは、相談内容を書面またはメールで行い、記録を残すことです。口頭での相談だけでは「相談した」という事実が証明できなくなることがあります。
社内対応を試みても3営業日以内に具体的な返答がない、または明確に拒否された場合は、外部の相談機関に申告する段階と判断して問題ありません。
外部相談窓口への申告方法|労働局・労基署の使い分け
社内での解決が困難な場合は、外部の行政機関に申告することができます。育休申請に関するトラブルを扱う機関は主に2つあり、それぞれ役割が異なります。
都道府県労働局 雇用環境・均等部への申告手順
育休申請の受取拒否に関する申告の第一選択肢は「都道府県労働局 雇用環境・均等部(または雇用環境・均等室)」です。
雇用環境・均等部は、育児・介護休業法・男女雇用機会均等法・パワハラ防止法などを所管する専門部署であり、育休トラブルの相談を受け付けています。育休申請拒否は同部が扱う典型的な違反事例であり、豊富な指導実績を持つため、最も適切な対応が期待できます。
申告の流れ
① 電話・来所・メールで相談
↓
② 相談内容を担当官が確認
↓
③ 担当官が事業所に対して調査・指導
(相談者の同意がなければ企業名は通知しない)
↓
④ 是正が必要と判断された場合、「指導票」を発行して是正を求める
↓
⑤ 改善されない場合、「勧告」に移行し、公表措置の対象となる場合も
連絡方法と相談時間
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 相談時間 | 月曜日〜金曜日 8:30〜17:15(祝日・年末年始を除く) |
| 連絡方法 | 電話・来所・一部労働局ではメール対応あり |
| 秘密保持 | 相談者の同意がなければ企業名・氏名は企業に通知されない |
| 費用 | 無料 |
| 窓口検索 | 厚生労働省ウェブサイト「都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)一覧」から確認可能 |
ポイント: 雇用環境・均等部への申告は秘密が守られます。「申告したことが会社にバレて報復されるのでは」という不安がある方も、安心して相談してください。ただし、調査の過程で企業への事実確認が必要となる場合があり、その際は事前に相談者の同意を得た上で進められます。
労働基準監督署(労基署)への申告が有効なケースと手順
労働基準監督署(労基署)は、主に労働基準法違反を取り締まる機関です。育休問題に直接対応するのは前述の雇用環境・均等部ですが、以下のケースでは労基署への申告が有効です。
労基署が有効な場面
- 育休取得を理由に解雇・雇い止め・不当な配置転換が行われた場合
- 育休中に給与・賞与の不当な減額があった場合
- 育休から復帰後に不当な降格・業務外しなどの嫌がらせがあった場合
- 就業規則に育休規定がなく、法定の権利すら知らされていない場合
労基署への申告手順
- 管轄の労働基準監督署を確認する(厚生労働省ウェブサイトで検索可能)
- 「申告書」に必要事項を記入して提出(窓口・郵送・一部はFAX対応)
- 担当の監督官が内容を確認し、必要に応じて事業所に立ち入り調査
- 違反が認められれば「是正勧告書」または「指導票」を発行
相談時に準備しておくべき書類・情報チェックリスト
相談窓口に連絡する前に、以下の情報と書類を整理しておくと、手続きがスムーズに進みます。
基本情報
– [ ] 会社名・所在地・代表者名(または担当管理者の名前)
– [ ] 自分の雇用形態(正社員・契約社員・パートなど)・入社年月日
– [ ] 子どもの生年月日(または出産予定日)
– [ ] 育休申請を希望している期間
証拠書類
– [ ] 申請書の控え・コピー
– [ ] メール・チャットの送受信記録(スクリーンショット)
– [ ] 配達証明付き郵便の受領書
– [ ] 拒否された状況のメモ(日時・場所・発言内容・発言者名)
– [ ] 就業規則・雇用契約書のコピー(育休規定が記載されているか確認)
是正指導・強制措置の流れと企業への影響
申告を受けた行政機関が動き出すと、企業に対してどのような措置が取られるのかを理解しておくことは、申告を検討する上で重要です。
是正勧告・指導票の発行から企業名公表までの流れ
行政による是正指導の流れは、以下のステップで進みます。
第1段階:調査・任意指導
都道府県労働局または労基署が申告内容を受理すると、担当官が事業所に対して状況確認の連絡を入れ、場合によっては立ち入り調査(監督・調査)を行います。この段階では「指導票」を発行し、任意の改善を求めます。
第2段階:是正勧告
任意指導に応じない場合、または違反が明確である場合は「是正勧告書」が交付されます。是正勧告書には改善期限が記載されており、企業はその期限内に「是正報告書」を提出しなければなりません。
第3段階:企業名公表
育児・介護休業法第56条の2に基づき、厚生労働大臣または都道府県労働局長による勧告に従わない場合、企業名が公表されます。これは企業の社会的信用・採用活動・取引先との関係に重大な影響を及ぼす強力な行政措置です。
第4段階:告発・送検
悪質な違反が繰り返される場合、行政は検察庁への送検(告発)を行い、刑事手続きに移行します。育児・介護休業法第66条に定める6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が適用される可能性があります。
企業が受け取り拒否を続けた場合の法的リスクまとめ
| 違反内容 | 適用される法律 | 行政措置・罰則 |
|---|---|---|
| 育休申請の受取拒否 | 育児・介護休業法第6条 | 指導票→是正勧告→企業名公表 |
| 育休取得を理由とした解雇・不利益取扱い | 育児・介護休業法第10条 | 同上+損害賠償請求の対象 |
| 是正勧告後も改善しない | 育児・介護休業法第66条 | 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
| 勧告に従わない | 育児・介護休業法第56条の2 | 企業名の公表 |
弁護士・労働組合など追加の相談先
行政機関以外にも、育休拒否への対応を支援してくれる機関があります。状況に応じて活用してください。
総合労働相談コーナー(各都道府県労働局)
都道府県労働局内に設置されている「総合労働相談コーナー」では、あらゆる労働問題についての無料相談を受け付けています。雇用環境・均等部に相談する前に、まずここで状況を整理するのも有効な方法です。相談は予約不要で、電話・来所のどちらでも対応しています。
法テラス(日本司法支援センター)
費用の面で弁護士への相談が難しい場合、法テラス(電話:0570-078374)を活用できます。収入・資産が一定基準以下であれば、弁護士費用の立替制度が利用可能です。育休拒否に伴う損害賠償請求や不当解雇への対応を弁護士とともに検討できます。
労働組合(ユニオン)
社内に労働組合がある場合は、組合を通じた団体交渉が有効です。社内組合がない場合でも、個人で加入できる「合同労組(ユニオン)」を通じて企業との交渉を行う選択肢があります。
みんなの人権110番(法務省)
マタハラ・パタハラなどのハラスメントが伴う場合、法務省の「みんなの人権110番(電話:0570-003-110)」への相談も有効です。
申告後に知っておくべき注意点
申告を理由とした不利益取扱いは禁止
「申告したことで会社から報復されるのでは」と心配される方も多いですが、申告を理由とした解雇・降格・嫌がらせは育児・介護休業法で明確に禁止されており、そのような行為が行われた場合は追加の法的措置の対象となります。
万が一、申告後に不当な扱いを受けた場合は、その事実も記録しておき、再度相談窓口に報告してください。
育休給付金の受給期間への影響
育休取得が遅れた場合、雇用保険から支給される育児休業給付金(休業開始時賃金日額の67%、180日経過後は50%)の受給開始も遅れることになります。
育児休業給付金を受給するためには、育休開始後2か月ごとに管轄のハローワークへ申請が必要ですが、企業の拒否によって申請が遅れた場合、その遅延が正当な事由によるものであれば、ハローワークに相談することで対応が可能です。育休拒否の証拠を持って、ハローワークにも状況を説明しておきましょう。
まとめ|育休申請を拒否されても諦めないために
育休申請の受取拒否は、育児・介護休業法に違反する違法行為です。企業に「うちでは取れない」と言われても、それは法律上正しくありません。
この記事で解説した対応の流れを改めて整理します。
- 証拠を残して書面・メールで再申請する(口頭での拒否だけでは終わらせない)
- 社内の人事・コンプライアンス窓口に報告する(社内での解決を先に試みる)
- 都道府県労働局 雇用環境・均等部に申告する(第一の外部相談先)
- 状況に応じて労基署・法テラス・弁護士・ユニオンに相談する
育休は子どもと家族のための大切な権利です。一人で悩まず、行政機関や専門家を積極的に活用してください。相談は無料で、秘密も守られます。
育休申請を拒否された場合、すぐに外部機関へ相談するという方法もありますが、まずは社内での証拠保全と書面申請を優先させることで、より強固な立場から対応を進めることができます。あなたの権利を守るために、この記事で紹介した手順と相談窓口を活用してください。
よくある質問
Q1. 会社が「就業規則に育休の規定がない」と言っています。それでも申請できますか?
はい、申請できます。育休は育児・介護休業法という国の法律によって保障された権利であり、会社の就業規則に記載がなくても行使できます。むしろ、育休に関する事項を就業規則に定めていない会社は、それ自体が労働基準法違反となる場合があります。雇用環境・均等部に相談すれば、就業規則の整備を含めた指導が行われます。
Q2. パートタイムや契約社員でも育休を取れますか?
はい、取れます。2022年の法改正により、有期雇用労働者の「1年以上継続雇用」要件が撤廃されました。現在は、「子が1歳6か月に達する日までの間に雇用契約が終了することが明らかでない」場合であれば、パートタイム・契約社員も育休を取得できます。
Q3. 拒否された証拠がメモしかありません。申告できますか?
申告は可能です。メモであっても、日時・場所・発言者・発言内容が具体的に記録されていれば、調査の端緒として十分に活用されます。できれば申告前に書面やメールで再申請し、企業側の対応を記録に残しておくと、調査がよりスムーズに進みます。
Q4. 申告後、どのくらいの期間で解決しますか?
ケースによって異なりますが、雇用環境・均等部が企業への指導・調査を開始してから是正されるまで、数週間〜数か月程度かかることが多いです。緊急性が高い場合(出産予定日が近い・復職期限が迫っているなど)は、その旨を担当官に伝えることで優先的に対応してもらえる場合があります。
Q5. 申告したら会社に報復されませんか?
申告を理由とした不利益取扱い(解雇・降格・減給など)は育児・介護休業法で禁止されており、それ自体が法律違反となります。万が一、報復的な行為があった場合は再度相談窓口に報告してください。また、相談者の同意なく企業に氏名が知らされることはありませんので、まずは安心して相談してみてください。

