育休申請の却下事由と法的基準【企業担当者向け2025年版】

育休申請の却下事由と法的基準【企業担当者向け2025年版】 企業の育休対応

育休申請を受けた人事担当者の多くが、「この申請を断ることはできないか」「業務が回らなくなるが、どうすればよいか」という疑問を抱えます。しかし、育児休業は労働者の法律上の権利であり、企業が自由に判断できる「承認・不承認」の問題ではありません。

本記事では、育児・介護休業法(以下、育介法)の条文に基づき、企業が育休申請を「却下できる場合」と「却下できない場合」を厳密に整理します。法的根拠・手続き・違反リスクまでを網羅した、2025年版の実務ガイドとして活用してください。


育休申請の却下は原則「できない」——法律が定める大原則

人事担当者が最初に理解すべき大前提は、育児休業の申請を却下することは、ほぼ例外なく違法になるという点です。

育介法は、「企業が育休を”許可”する」という構造をとっていません。労働者が法定の要件を満たしていれば、申し出た時点で育休取得の権利が発生します。企業の判断は「承認」ではなく、「申し出を受理し、法定要件を確認する」という受動的な役割に限定されているのです。

この大原則を踏まえずに育休申請を却下・拒否すると、行政指導・企業名の公表・損害賠償請求などの深刻なリスクを招きます。以下で、その法的根拠を条文レベルで確認しましょう。

育介法第5条・第6条が定める企業の義務とは

育介法第5条は、労働者が事業主に対して育児休業の申し出を行う権利を規定しており、第6条はその申し出を受けた事業主が取るべき措置を規定しています。

育介法第6条第1項(抜粋・要約)

事業主は、育児休業の申し出を拒むことができない。ただし、労使協定を締結している場合には、一定の労働者を対象から除外することができる。

ここで重要なのは「拒むことができない」という表現です。事業主には、申し出を受けた後、速やかに要件確認を行い、却下事由に該当しない場合は必ず申し出を受け入れる義務があります。

条文上の流れを整理すると以下のとおりです。

ステップ 内容 期限の目安
申し出の受理 労働者からの育休申請書を受け取る 即時(受取り拒否は不可)
要件確認 雇用契約書・住民票等で法定要件を確認 14日以内
承認または却下の通知 書面で労働者に通知する 要件確認後、速やかに
雇用保険窓口への届け出 ハローワークへの育児休業給付金の申請手続き 休業開始後、初回は2ヶ月後の翌月末まで

申し出を受け取った段階で「預かります」と言いつつ、実際には審査を先延ばしにする対応も、実質的な拒否とみなされるリスクがあります。受理後は14日以内を目安に対応を完了させることが実務上の基準です。

「申し出」と「申請」の違いが生む実務上の落とし穴

育介法の条文では、育児休業の手続きを「申し出」と表現しています。これは「申請」とは法的に意味が異なります。

  • 申請:企業が承認・不承認を判断する余地がある行為
  • 申し出:法定要件を満たした労働者が権利を行使する行為(企業の承認は不要)

「会社が承認して初めて育休が取れる」という誤解は、人事の現場でいまだに根強く残っています。しかし実際には、法定要件を満たした労働者の申し出は、企業が「承認」しなくても権利として成立します

企業が行うのは「却下事由に該当するかの確認」であり、該当しなければ必ず受け入れなければなりません。この認識の違いが、不当拒否や訴訟リスクの温床になります。社内の育休関連規程・申請書類に「承認」という言葉を使っている場合は、法的な誤解を招かないよう表現を見直すことも検討してください。


企業が育休申請を却下できる唯一の法定事由3つ

育介法第6条第1項が定める却下可能な事由は、厳格に限定列挙されています。この3つに該当しない場合、企業は一切の理由で申請を却下できません。「業務多忙」「代替要員がいない」「繁忙期だから」は一切、法的な却下理由になりません。

①勤続期間が1年未満の労働者

育介法第6条第1項第1号に定められた却下事由です。ただし、これを適用するためには労使協定の締結が前提条件であることに注意が必要です。労使協定なしにこの要件のみを理由に却下することはできません。

確認手順

  1. 労働者の入社日(雇用開始日)を雇用契約書・辞令等で確認
  2. 育休開始予定日の時点で、雇用期間が1年に満たないかを計算
  3. 自社に「勤続1年未満の者を育休対象から除外する」旨の労使協定が締結されているかを確認

実務上の注意点

有期契約から正規雇用に切り替えた場合や、派遣から直接雇用に変わった場合は、雇用形態が変わっても継続雇用期間として通算できるケースがあります。単純に現在の雇用契約書の開始日だけで判断せず、実質的な雇用継続期間を確認してください。

また、勤続1年未満であっても、出生時育児休業(産後パパ育休)については別途判断が必要です。制度改正により出生時育児休業の要件は通常の育休と一部異なりますので、最新の厚生労働省資料で確認することを推奨します。

②申請対象の子と同居していない場合

育介法第6条第1項第2号(労使協定に基づく除外事由)に規定されています。これも労使協定の締結が前提です。

確認書類の例

書類 目的
住民票(世帯全員) 子と労働者が同一世帯に属しているかの確認
出生届の受理証明 子の出生事実と親子関係の確認
戸籍謄本 法律上の親子関係の確認

判定の注意点

転勤・単身赴任などにより一時的に別居している場合は、「同居していない」の判断が難しくなります。この場合、実態として育児を担う意思・関係があるかを重視する解釈が一般的です。単身赴任先から週末帰宅して育児を担うケースなどは、安易に「同居なし」と判断せず、労働局や社労士に相談することを強くお勧めします。

また、子の養育状況が変わった(同居が再開された)場合は、除外事由がなくなるため、改めて申し出を受け入れる必要があります。

③雇用関係が子の満3歳前に終了することが明らかな場合

育介法第6条第1項第3号(労使協定に基づく除外事由)です。主に有期契約労働者のケースで問題となります。

判定のポイント

  • 雇用契約の終了予定日が、申請に係る子が満3歳に達する日より前であること
  • 「終了することが明らかである」とは、契約更新がなされないことが客観的に確実な場合を指す

実務上の重要な留意点

この「明らかである」という要件は非常に厳格に解釈されます。以下のような場合は「明らかではない」と判断されるリスクがあります。

  • 過去に契約が更新されてきた実績がある
  • 契約書に「更新する場合がある」旨の記載がある
  • 業務内容が継続していることが見込まれる

反対に「明らか」と判断しやすいのは、プロジェクト完了に伴う雇用で、プロジェクト終了日が子の3歳到達日より前に確定している場合などです。

単に「契約期間が子の3歳前に満了する」というだけでは不十分です。更新可能性がある場合は却下できないと理解してください。


「業務が回らない」は却下理由にならない——厚労省見解

育休申請に対して最も多い企業側の反論が「今は繁忙期で人手が足りない」「この人が抜けると業務が回らない」というものです。しかし、これらは育介法上、一切の却下理由になりません。厚生労働省も公式に「業務多忙は拒否理由にならない」と明示しています。

厚生労働省が明示する「業務上の理由」の扱い

厚生労働省の「育児・介護休業法のあらまし」では、以下の公式見解が示されています。

育児休業の申し出を拒否できる場合は、労使協定を締結した上で、法定の要件に該当する場合に限られる。業務が忙しい、代替要員が確保できないといった理由は、拒否事由にはならない

企業には、育休取得者が出た場合でも業務を継続できるよう、体制を整備する義務が課されています。具体的には以下のような対応が企業に求められます。

対応策 具体例
業務の分担見直し 休業者の業務を既存スタッフで再分配
代替要員の確保 派遣社員・契約社員・アルバイトの採用
業務の一時的縮小・延期 優先度の低い業務をいったん停止
外部委託 一部業務をアウトソーシング

人手不足を理由に育休申請を却下した場合、それは違法行為です。後述する重大なペナルティリスクを認識した上で、必ず代替策を講じてください。

「業務多忙」を理由に却下した場合のペナルティ

育休申請を不当に拒否・妨害した場合、企業には以下のリスクが生じます。

行政上のリスク
– 都道府県労働局による行政指導・勧告
– 勧告に従わない場合、企業名の公表(育介法第56条の2)
– 過料(育介法第66条:10万円以下)

民事上のリスク
– 労働者からの損害賠償請求(休業できなかったことによる損害、精神的損害)
– 育休申請を契機とした不利益取り扱いがあった場合は、不法行為・債務不履行による賠償責任

その他のリスク
– ハラスメント(マタハラ・パタハラ)としてSNS・メディアへの情報拡散
– 採用ブランドの毀損(求職者・取引先からの信頼喪失)

2022年の育介法改正以降、行政のチェック機能は強化されており、「知らなかった」では済まされない状況です。


育休申請の受理から承認通知までの実務手順

法的リスクを回避し、適切に育休申請を処理するために、以下の実務フローを社内標準として確立してください。

申請受理から通知までのステップ

Step 1:申し出の受理(即時)

労働者から育休申請書を受け取った時点で、「受理した」という事実を記録します。受取りを拒否すること、または「持ち帰って検討する」と言いながら受理を保留することは、実質的な拒否とみなされる可能性があります。

必要書類の例:
– 育児休業申出書(厚労省の様式例あり)
– 母子健康手帳(写し)または出生証明書
– 有期契約の場合は雇用契約書(写し)

Step 2:法定要件の確認(14日以内を目安)

以下の3つの却下事由に該当するかを確認します。

確認項目チェックリスト
□ 労使協定の有無の確認
□ 勤続期間が1年以上か(雇用契約書・入社日の確認)
□ 申請対象の子と同居しているか(住民票等)
□ 雇用関係が子の3歳前に終了することが明らかでないか
  (契約終了日と更新実績の確認)

Step 3:承認または却下の通知(書面交付)

要件確認の結果を、必ず書面で労働者に交付します。口頭のみの通知は後日のトラブル防止の観点から避けてください。

承認通知に記載すべき事項:
– 育休開始日・終了予定日
– 休業中の連絡方法・手続きに関する案内
– 育児休業給付金の申請に関する説明

却下通知に記載すべき事項(却下事由に該当する場合のみ):
– 却下の理由(法的根拠を明示)
– 育介法第6条第1項第何号に基づく却下かを明記
– 労働者が異議申し立てできる旨の案内

Step 4:雇用保険の届け出(企業が主体)

育休給付金の申請は、原則として事業主が代理でハローワークに届け出る仕組みです。

手続き 期限 提出先
育児休業給付受給資格確認票・育児休業給付金支給申請書(初回) 育休開始日の翌日から2ヶ月後の末日まで 事業所を管轄するハローワーク
2回目以降の支給申請 2ヶ月ごとに支給単位期間の末日から1ヶ月以内 同上

給付金の計算例(2025年現在)

育児休業給付金の給付率は、休業開始後180日間は休業前賃金の67%、以降は50%(社会保険料が免除されるため、実質的な手取りはほぼ従前と同水準とされています)。

たとえば、月収30万円の労働者の場合:
– 休業開始〜180日:30万円 × 67% = 約20.1万円/月
– 181日目以降:30万円 × 50% = 15万円/月

なお、2025年度以降の育児休業給付の拡充(育休開始28日間の給付率引き上げ等)については、雇用保険法の改正内容を厚生労働省の最新情報で確認してください。


社内規程の整備と未然防止策

育休申請をめぐるトラブルの多くは、社内に明確なルール・手順がないことから発生します。以下の整備が企業に求められます。

労使協定の締結

前述のとおり、育介法第6条の却下事由(勤続1年未満・同居なし・雇用終了確実)を実際に適用するためには、労使協定の締結が前提条件です。労使協定のない企業では、これらの除外事由を援用することすらできません。

労使協定に盛り込むべき内容:
– 育児休業の対象から除外する労働者の範囲(法定事由に限定)
– 協定の有効期間
– 労働者代表または過半数組合の署名・捺印

社内周知・研修の実施

育介法の2022年改正により、企業には育休取得の意向確認・制度の周知が義務化されています。従業員数1,000人超の企業には取得率の公表義務も課されています。

人事担当者向け・管理職向けの研修を定期的に実施し、「育休は権利」「業務多忙は拒否理由にならない」という認識を組織全体で共有することが、トラブル予防の最も効果的な手段です。

パタハラ防止対策

男性の育休取得を管理職が「空気」で妨げるケース(パタニティハラスメント=パタハラ)も、育介法が禁止するハラスメントに該当します。

2022年の法改正により、全ての企業にパタハラを含む妊娠・育児等に関するハラスメント防止措置の義務が課されています。相談窓口の設置・就業規則への明記・行為者への懲戒規定の整備を進めてください。


労働局・専門家への相談窓口

育休申請の処理に迷った場合、または労働者から異議申し立てがあった場合は、以下の機関に相談することを強くお勧めします。

相談先 対象 連絡先
都道府県労働局 雇用環境・均等部(室) 企業・労働者双方 厚生労働省ウェブサイトで各都道府県の窓口を確認
ハローワーク 給付金・手続き面の相談 事業所管轄のハローワーク
社会保険労務士(社労士) 企業の規程整備・個別事案の対応 都道府県社労士会
労働組合・ユニオン 労働者側の相談 各地域のコミュニティユニオン等

育介法の義務違反に対する行政調査は、労働者からの申告を契機に開始されることがほとんどです。「申告があってから対応する」ではなく、事前に適正な体制を整備することが企業を守る唯一の方法です。


よくある質問(FAQ)

Q1. 試用期間中の社員から育休申請が来た。却下できるか?

試用期間中であっても、勤続期間が1年以上であれば原則として育休申請を却下できません。試用期間と勤続期間は別概念です。労使協定を締結した上で勤続1年未満に該当する場合のみ、除外の可能性があります。

Q2. 育休申請の書類を受け取らずに「口頭で却下した」とみなしてよいか?

なりません。申し出の受理拒否は、それ自体が育介法違反とみなされます。書類を受け取った上で、法的要件を確認し、書面で回答することが義務です。

Q3. 育休取得後に退職した場合、給付金の返還を求められるか?

原則として返還は不要です。育児休業給付金は、休業期間中の収入補填を目的とした給付であり、その後の離職を理由に遡って返還を求める規定はありません。ただし、不正受給(実際には就労していたなど)が発覚した場合は返還・罰則の対象となります。

Q4. 正社員が育休申請してきたが、現在進行中の大型プロジェクトのリーダーだ。申請を先延ばしにさせてよいか?

なりません。「業務多忙」「プロジェクト進行中」は却下・延期の法的根拠になりません。申請を受理した上で、代替要員の確保や業務分担の見直しを行うことが企業の義務です。先延ばしを強要することはハラスメントに当たる可能性があります。

Q5. 育休から復帰後の配置転換は自由に行えるか?

育休取得を理由とした不利益な配置転換は、育介法第10条が禁止する「不利益取り扱い」に該当します。復職後の配置は、原則として原職または原職相当の職への復帰が求められます。業務上の必要性に基づく配置転換を行う場合も、育休取得との因果関係がないことを明確にした上で進めてください。

Q6. 男性社員から育休申請が来た。男性でも却下できない?

男性も育介法上、育休取得の権利を持ちます。却下事由は男女を問わず同一であり、「男性だから」という理由は一切の法的根拠になりません。むしろ、男性育休の取得促進は2022年改正の重要施策であり、妨害はパタハラとして厳しく問われます。


まとめ

育休申請の法的処理において、企業担当者が押さえるべきポイントを整理します。

項目 結論
育休申請の却下 原則として「できない」
法定の却下事由 3つのみ(勤続1年未満・非同居・雇用終了確実)+労使協定が必要
「業務多忙」「人手不足」 却下理由にならない(厚労省公式見解)
申請の受理方法 書面受理→14日以内に要件確認→書面で通知
不当却下のリスク 行政指導・企業名公表・損害賠償・ハラスメント認定
予防策 労使協定締結・社内規程整備・管理職研修

「育休は労働者の権利である」という法の大前提を組織全体で共有し、適切な受理・承認手続きを整備することが、企業にとってのリスク管理であり、同時に優秀な人材が長く働き続けられる職場環境の構築にもつながります。

育休申請への対応に不安がある場合は、自社の社労士や管轄の都道府県労働局に早期に相談し、法的に適正な体制を整えてください。

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