育休中にパートナーが会社都合で突然退職——そんな状況に直面したとき、「自分の育休給付金は止まってしまうのだろうか」と不安を感じるのは当然です。
結論から言えば、原則として育休給付金は継続して受け取れます。
育児休業給付金は「本人の雇用継続」に基づく制度であり、配偶者の収入状況は支給要件に含まれません。しかしながら、扶養の切り替えや所得変化にともなう手続きを誤ると、思わぬ不利益が生じることもあります。
この記事では、配偶者退職が育休給付金に与える影響を法的根拠とともに整理し、必要な手続きをステップごとにわかりやすく解説します。
育休中に配偶者が退職しても給付金は継続できる
給付金が継続できる理由——制度の本質を理解する
育児休業給付金の法的根拠は雇用保険法第61条の4です。この条文が規定しているのは、育児休業を取得した本人の給与減少を補填するという目的です。
支給要件を具体的に確認すると、次のとおりです。
| 確認項目 | 要件の内容 |
|---|---|
| 雇用保険被保険者資格 | 育休開始前2年間に12ヶ月以上の加入実績があること |
| 育休の取得 | 育児・介護休業法に基づく育休を取得していること |
| 雇用の継続見込み | 育休終了後に職場復帰する見込みがあること |
| 就業日数の制限 | 育休期間中の就業が月4日以下であること |
ここに「配偶者の収入」や「世帯年収」という要件は一切含まれていません。
育休給付金はあくまで「育休取得者本人が給与を受け取れない期間の生活補填」を目的としているため、配偶者が失業しようと、世帯収入が大幅に減少しようと、本人の受給資格に直接の影響は生じないのです。
影響が出るケースとの違い——まず自分がどちらか確認しよう
「原則影響なし」という結論の一方で、間接的に影響が生じるケースも存在します。まず自分の状況がどちらに当たるかを確認してください。
| 状況 | 給付金への影響 | 必要な対応 |
|---|---|---|
| 本人が育休を継続しており、本人の雇用契約が続いている | 影響なし | 特別な手続きは不要 |
| 配偶者の退職にともない、本人が配偶者の健康保険の扶養から外れる必要が生じた | 給付金自体は継続。ただし健康保険の切り替え手続きが必要 | 国保・任意継続・勤務先保険への加入手続き |
| 配偶者が退職したことで、本人が「育休をやめて働かなければならない」と感じ、就業日数が増加する | 月4日超で給付金が減額または不支給 | 就業日数の厳格な管理が必要 |
| 配偶者の退職後に本人も育休を中断して復職する場合 | 育休・給付金ともに終了 | 会社と相談の上、復職手続きを行う |
ほとんどの方は「本人の育休と雇用が継続している」ケースに当てはまり、給付金の受給に問題はありません。ただし、健康保険の手続きと就業日数の管理は必ず確認が必要です。
育休給付金の基本受給要件(配偶者退職とは独立して確認)
配偶者退職の影響を正確に理解するために、まず育休給付金そのものの受給要件を整理しておきましょう。
雇用保険の被保険者資格と加入期間の確認方法
育休給付金を受給するには、育休開始前の2年間に通算12ヶ月以上の雇用保険加入実績が必要です(雇用保険法施行規則第101条の3)。
確認方法は次のとおりです。
- 給与明細を確認する——「雇用保険料」が控除されていれば加入中
- ハローワークで照会する——本人の「雇用保険被保険者証」を持参して問い合わせる
- 会社の人事・総務部門に確認する——雇用保険の加入状況は会社が把握している
職歴に中断がある場合の扱い
転職や育休前に一時的な離職期間があった場合でも、直近2年間の合算で12ヶ月に達していれば問題ありません。ただし、前の会社を辞めてから1年以上のブランクがある場合、その期間は加入期間に算入されない点に注意が必要です。
また、育休中に配偶者が退職したことで本人が離職するわけではないため、この要件は引き続き満たされています。
育休中の就業日数ルール——月4日を超えると給付金が減額される
育休給付金の受給中に就業(アルバイトや副業を含む)した場合、1支給単位期間(約1ヶ月)内の就業日数が月4日以下でなければなりません。
| 就業日数 | 給付金への影響 |
|---|---|
| 月0〜4日 | 給付金は通常通り支給 |
| 月5〜10日 | 就業した日数分、給付金が減額される |
| 月11日以上 | その支給単位期間の給付金は不支給 |
配偶者が退職した後に陥りやすいミス
配偶者が失業すると家計が急に苦しくなるため、育休中の本人が「少し働いて収入を補おう」と考えるケースがあります。臨時のアルバイトや在宅ワークを増やした結果、月4日を超えてしまい給付金が減額・不支給になるという事態は珍しくありません。
就業した場合は必ずハローワークへの申告が義務付けられています。申告漏れは不正受給に該当し、支給停止や返還命令の対象となるため、日数管理は特に慎重に行ってください。
配偶者退職後に必要な3つの手続き確認
育休給付金自体の継続は自動的に行われますが、配偶者の退職にともなって本人側で別途対応すべき手続きが発生することがあります。
健康保険の切り替えを確認する
育休中に最も注意が必要な手続きが、健康保険の変更です。
育休取得者本人は、育休中も自分の勤務先の健康保険に加入し続けているのが原則です(保険料は育休中に限り免除されます)。
ただし、状況によっては次のような変化が生じます。
パターン①:本人が自分の会社の健康保険に加入している場合
配偶者が退職しても本人の保険は変わりません。手続き不要です。
パターン②:本人が配偶者の健康保険(被扶養者)に加入していた場合
育休取得者が配偶者の被扶養者になっていたケースでは、配偶者の退職によって保険証が失効します。この場合は以下のいずれかの方法で切り替えが必要です。
| 選択肢 | 手続き先 | 特徴 |
|---|---|---|
| 自分の勤務先の健康保険に加入(または復帰) | 勤務先の人事部門 | 育休中でも加入可能。保険料免除が適用される場合あり |
| 国民健康保険に加入 | 住所地の市区町村窓口 | 退職日の翌日から14日以内に手続きが必要 |
| 配偶者の任意継続保険に加入(被扶養者として) | 配偶者の元勤務先の健保組合 | 配偶者が任意継続を選択した場合のみ有効 |
130万円の壁と育休給付金の関係
育休給付金は非課税ですが、健康保険の扶養認定においては「収入」として計算される場合とされない場合があります。
- 所得税・住民税の扶養(税の扶養):育休給付金は非課税のため、控除対象配偶者の判定には含まれません
- 健康保険の扶養(社会保険の扶養):保険者によって異なりますが、育休給付金を収入としてカウントする保険者も存在します
配偶者が退職後に本人を扶養に入れようとする場合、または逆に本人が別の保険に移る場合は、健保組合に直接確認することを強くお勧めします。
ハローワークへの申告義務を確認する
育休給付金を受給中の方は、支給単位期間ごとにハローワークへの申告(育児休業給付受給資格者通知の提出)を行っています。
配偶者が退職した場合、本人のハローワークへの申告内容に変更が生じる可能性のある項目は以下のとおりです。
| 申告項目 | 配偶者退職による変化 | 対応 |
|---|---|---|
| 本人の就業状況 | 変化がなければ変更なし | 就業日数が増えた場合のみ報告 |
| 本人の賃金 | 変化がなければ変更なし | 育休中に賃金が支払われた場合は申告 |
| 育休の継続意思 | 変化がなければ変更なし | 育休を中断する場合は届出が必要 |
配偶者の退職そのものをハローワークに報告する義務はありませんが、本人の就業状況や育休継続に変化が生じた場合には速やかに申告してください。
配偶者の失業給付金受給と扶養の関係を把握する
会社都合で退職した配偶者は、原則としてすぐに失業給付金(基本手当)を受給できます(自己都合退職の場合は2〜3ヶ月の給付制限があるのとは異なります)。
この失業給付金の受給が、本人の扶養認定や給付金に影響するかを整理します。
育休給付金への影響:なし
配偶者が失業給付金を受け取ることは、育休給付金の本人受給要件に何ら影響を与えません。
健康保険の扶養認定への影響:要確認
失業給付金の日額が3,612円以上(年換算で130万円以上に相当)の場合、配偶者を本人(育休取得者)の健康保険の扶養に入れることができません。逆に、本人が配偶者の扶養に入ることも同様の理由で認められないケースがあります。
扶養関係が複雑になる場合は、勤務先の人事部門または健保組合に相談することが最善です。
育休給付金の具体的な支給額と計算方法
ここで、育休給付金の受給額そのものを確認しておきましょう。配偶者退職によって世帯収入が変わった際、「実際にいくら受け取れるのか」を正確に把握しておくことが家計管理の出発点となります。
支給率の仕組み
育休給付金の支給率は、育休開始から通算180日(約6ヶ月)までと181日以降で異なります。
| 育休開始からの期間 | 支給率 | 実質的な手取り率の目安 |
|---|---|---|
| 開始〜180日目 | 休業前賃金の67% | 社会保険料・所得税が免除されるため、実質約80%相当 |
| 181日目以降 | 休業前賃金の50% | 同様の免除により実質約60〜65%相当 |
計算式と具体例
支給額の計算式
支給額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 支給率
「休業開始時賃金日額」は、育休開始前6ヶ月間の賃金総額を180で割った金額です。
具体例
- 育休前の月収:月額30万円(年収360万円)
- 休業開始時賃金日額:180万円 ÷ 180日 = 10,000円
- 育休開始から180日間の支給額:10,000円 × 30日 × 67% = 約201,000円/月
- 181日目以降の支給額:10,000円 × 30日 × 50% = 約150,000円/月
なお、支給額には上限額と下限額が設定されており、毎年8月1日に改定されます。2024年度の上限額(180日以内)は月額約310,143円、下限額は月額約50,160円が目安です(ハローワークの最新情報を必ず確認してください)。
2022年改正後の育休制度——分割取得と給付金の関係
2022年10月の育児・介護休業法改正により、育休の取り方が大きく変わりました。配偶者退職という状況変化があった場合にも関係する改正点を確認しておきましょう。
育休の分割取得と給付金
改正後、育休は2回まで分割して取得できるようになりました。分割取得した場合の給付金の扱いは以下のとおりです。
| 分割取得の状況 | 給付金の通算180日カウント |
|---|---|
| 1回目の育休取得後、復職して2回目を取得 | 通算して180日でカウントされる |
| 配偶者退職後に育休を中断し、再度取得 | 中断前の日数と合算してカウント |
配偶者が退職したことで一時復職し、後に再度育休を取得した場合、支給率(67%か50%か)の判定は通算の日数で行われます。「もう一度最初から67%で受け取れる」という誤解がないよう注意してください。
パパ・ママ育休プラスの活用
配偶者が会社都合退職後に再就職する前の期間、育休取得者本人が継続して育休を取るケースは多くあります。一方で、配偶者が再就職後に改めて育休を取得することも可能です。
「パパ・ママ育休プラス」制度を活用すると、夫婦両方が育休を取得した場合に限り、子が1歳2ヶ月になるまで育休を延長できます(ただし各自の育休期間は最長1年間)。
配偶者退職後の家計を守るためのチェックリスト
配偶者が会社都合で退職した直後から行うべき確認事項を時系列でまとめます。
退職直後(〜1週間以内)
- [ ] 配偶者の退職日・退職理由を書面で確認する(離職票は後日郵送されることが多い)
- [ ] 本人(育休取得者)の健康保険証の有効性を確認する
- [ ] 配偶者が勤務先の健保から扶養を受けていた場合、本人の保険切り替え手続きを開始する
退職後2週間以内
- [ ] 国民健康保険の加入手続き(必要な場合)——市区町村窓口へ、退職日翌日から14日以内
- [ ] 配偶者のハローワークへの求職登録(会社都合退職は待機期間7日のみで給付開始)
- [ ] 本人の就業日数の管理徹底——副業・手伝いなどが月4日を超えないよう注意
退職後1ヶ月以内
- [ ] 育休給付金の次回申請(2ヶ月ごとにハローワークへ提出)——内容に変更がなければ通常どおり手続き
- [ ] 世帯の家計収支の見直し——失業給付金の受給額と育休給付金の合計を正確に把握
- [ ] 配偶者の税の扶養・社会保険の扶養に関して、会社人事部門または社労士に相談(必要な場合)
よくある誤解とその正しい理解
配偶者退職と育休給付金に関しては、誤った情報が広まっていることも少なくありません。代表的な誤解を整理します。
誤解1:「配偶者が退職したら育休給付金も止まる」
→ 誤りです。育休給付金は本人の雇用保険に基づくものであり、配偶者の雇用状況とは無関係に継続します。
誤解2:「世帯収入が減ったので給付金が増額される」
→ 誤りです。育休給付金の支給率(67%・50%)は本人の育休前賃金のみに基づいて計算され、世帯収入によって増減する仕組みにはなっていません。
誤解3:「配偶者が失業給付金を受け取ると扶養に入れない」
→ 一部誤りです。失業給付金の日額が3,612円以上の場合、健康保険の扶養に入れないことがありますが、税の扶養(配偶者控除)については別の判断基準が適用されます。
誤解4:「育休中に配偶者が退職したら育休を切り上げなければならない」
→ 誤りです。育休を継続する法的根拠(育児・介護休業法)は配偶者の就業状況に左右されません。本人と会社の間の契約であり、配偶者の退職を理由に育休の短縮を強制することはできません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 配偶者が会社都合で退職した場合、ハローワークに何か届け出が必要ですか?
育休給付金の受給者本人としては、配偶者の退職をハローワークに報告する義務はありません。ただし、退職をきっかけに本人の就業状況(就業日数)や育休継続の意思に変化が生じた場合は、次の申請時に正確に申告してください。
Q2. 育休中に配偶者が退職し、生活が苦しくなった場合に利用できる公的支援はありますか?
いくつかの支援制度が活用できます。まず、配偶者が会社都合退職であればハローワークで失業給付金(基本手当)を速やかに受給できます。また、世帯収入が著しく低下した場合は住民税の減額・免除制度(市区町村窓口)や、保育料の所得段階の見直し申請なども検討に値します。
Q3. 育休給付金を受給しながら配偶者の扶養に入ることはできますか?
税の扶養(配偶者控除)については、育休給付金が非課税のため合計所得金額に算入されず、所得要件(合計所得48万円以下)を満たしている限り扶養に入ることができます。健康保険の扶養については、育休給付金を「収入」とみなすかどうかは保険者(健保組合)によって異なります。加入予定の健保組合に直接確認してください。
Q4. 育休中の配偶者退職後、本人も近々退職を検討しています。育休給付金への影響は?
本人が育休中に自己都合退職した場合、退職日をもって育休給付金は支給終了となります。なお、退職後は育休給付金ではなく育児休業後の復職が前提となっている制度上、退職した時点で受給資格が消滅します。退職を検討している場合は、給付金の受給完了時期と退職のタイミングを慎重に計画することをお勧めします。
Q5. 育休期間を延長したい場合(子が1歳を超える場合)、配偶者が退職していることで延長できなくなりますか?
育休の延長要件(保育所に入所できないなど)は、配偶者の就業状況とは独立しています。従来の要件(認可保育所への入所申し込みをしたが入れないこと等)を満たしていれば、配偶者が退職していても1歳6ヶ月・2歳までの延長は可能です。ただし、「配偶者が育休を取得できる状況にある」場合は延長が認められないケースがあるため(育児・介護休業法第5条第3項)、詳細は会社の担当部門に確認してください。
まとめ
育休中に配偶者が会社都合で退職したとしても、育休給付金(雇用保険法第61条の4)は本人の雇用継続を根拠とするものであり、原則として継続受給できます。
ただし、以下の3点は確実に対応してください。
- 健康保険の切り替え——本人が配偶者の健保の扶養に入っていた場合は速やかに切り替え手続きを行う
- 就業日数の管理——家計の苦しさから就業日数を増やすと給付金が減額・不支給になるリスクがある
- 正確な申告——就業状況や育休継続の変化はハローワークに必ず申告する
制度の仕組みを正しく理解し、必要な手続きを確実に進めることで、配偶者退職という予期せぬ状況の中でも給付金を安心して受け取り続けることができます。
不明な点がある場合は、最寄りのハローワーク、勤務先の人事部門、または社会保険労務士に相談することをお勧めします。
本記事は2024年時点の法令・制度に基づいて作成しています。制度は改正される場合がありますので、最新情報は厚生労働省またはハローワークの公式サイトでご確認ください。

