産前休業を「全部まとめて取る」のではなく、5日単位で分割して取得する制度をご存知でしょうか。うまく活用すれば、働き続けながら給付金も受け取れるため、収入の大幅な減少を防ぐことができます。
2022年4月に新設されたこの制度は、従来の一括取得と比べて、体調管理と収入維持を両立できる選択肢として注目を集めています。この記事では、産前休業の部分取得(5日単位)における給付金の計算方法を中心に、対象者の条件・申請書類・手続きの流れをわかりやすく解説します。制度を正しく理解して、損のない受給を実現しましょう。
産前休業の「部分取得(5日単位)」とは?制度の基本を理解する
産前休業とは、出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から、出産当日まで取得できる休業制度です。労働基準法第65条に基づき、使用者は妊娠中の女性労働者から請求があった場合、必ず休業させなければなりません。
従来は「産前休業=まとまって一括で休む」というイメージが一般的でした。しかし、2022年4月に新設された「部分取得」制度により、産前休業期間中に全日休業するのではなく、1週間単位または5日単位で分割しながら休業を取得できるようになりました。
たとえば、出産予定日の6週間前から産前休業期間に入っていても、週3日だけ休業して残り2日は出勤する、という働き方が可能です。これにより、収入をある程度維持しながら体調や業務に合わせた柔軟な働き方ができるようになりました。
産前休業を部分取得できる期間はいつからいつまで?
部分取得が認められる産前休業期間は以下のとおりです。
| 妊娠の種類 | 部分取得開始可能日 | 終了日 |
|---|---|---|
| 単胎妊娠(1人) | 出産予定日の6週間前(42日前) | 出産当日まで |
| 多胎妊娠(双子以上) | 出産予定日の14週間前(98日前) | 出産当日まで |
法的根拠としては、労働基準法第65条が産前休業の基本ルールを定め、育児介護休業法第6条第2項が分割取得の可能性を規定しています。加えて、2022年3月発効の厚生労働省告示によって産前休業給付金制度が創設されたため、部分取得した日数に応じて給付金を受け取れるようになりました。
なお、「産前休業期間」に入っていない時期(出産予定日の6週間よりも前)は、そもそも制度の対象外です。部分取得の申請は、必ずこの期間内でおこなってください。
1週間単位との違い|5日単位を選ぶメリット・デメリット
産前休業の部分取得は「1週間単位」と「5日単位」の2種類があります。それぞれの特徴を比較してみましょう。
| 比較項目 | 1週間単位 | 5日単位 |
|---|---|---|
| 最小取得単位 | 1週間(7日) | 5日 |
| スケジュールの柔軟性 | やや低い | 高い |
| 給付金の計算単位 | 週単位 | 日単位(5日ごと) |
| 勤務調整の手間 | 比較的少ない | やや多い |
| 収入維持のしやすさ | 普通 | 高い |
5日単位を選ぶ主なメリットは、より細かい単位でスケジュールを組めるため、体調が良い週は多めに出勤し、体調不良が続く週は集中して休業に充てるといった調整がしやすい点です。また、出勤日には給与が発生するため、給付金と給与の両方を受け取りやすく、収入の落ち込みを最小限にとどめられます。
一方、デメリットとしては、勤務スケジュールの細かな調整が必要なため、職場との調整コストが高くなる可能性があります。また、5日単位でのスケジュールを事前に申告しなければならないため、急な体調変化に対応しにくいケースもあります。柔軟な勤務体制が整った職場であれば5日単位のほうが有利なことが多いですが、シフト管理が厳密な職場では1週間単位のほうが現実的な場合もあるでしょう。
給付金を受け取れる対象者の条件と注意点
産前休業給付金を受け取るためには、いくつかの要件を満たす必要があります。自分が対象かどうか、以下の条件を確認してください。
基本的な受給要件(すべてを満たすこと)
- 雇用保険に加入している労働者であること
- 産前休業開始日までに継続して1ヶ月以上雇用されていること
- 雇用保険料を滞納していないこと
- 女性労働者(妊娠・出産予定者)であること
- 産前休業終了前に雇用契約が終了しないこと
正規・非正規・パート・派遣社員は対象になる?
「正規社員でなければもらえないのでは?」と不安に思う方も多いですが、産前休業給付金は雇用保険の加入有無が判断基準です。雇用形態の種類は問いません。
| 雇用形態 | 対象の可否 | 備考 |
|---|---|---|
| 正規社員(フルタイム) | ◎ 対象 | 標準的に対象 |
| 契約社員・嘱託社員 | ○ 対象 | 産前休業終了前に契約が切れないことが条件 |
| パート・アルバイト | ○ 対象 | 雇用保険加入が条件(週20時間以上勤務が目安) |
| 派遣社員 | ○ 対象 | 派遣元の雇用保険加入状況による |
| 日雇い労働者 | △ 原則対象外 | 継続雇用に該当しない場合は除外 |
| 自営業者・個人事業主 | × 対象外 | 雇用保険自体に加入できないため |
パートタイム労働者で「雇用保険に入っているか不明」という場合は、給与明細の保険料控除欄を確認するか、勤務先の人事担当者に確認しましょう。週20時間以上・31日以上の雇用見込みがあれば、原則として雇用保険に加入義務があります。
部分取得を選ぶ場合だけに求められる追加条件
通常の一括産前休業と異なり、部分取得を選択する場合にはいくつかの追加要件があります。
追加要件チェックリスト
- ✅ 部分取得を開始する前に、勤務先と事前に協議・合意を得ること
- ✅ 「産前休業部分取得予定申告書」を事前に会社へ提出すること
- ✅ 5日単位での取得スケジュール(どの日を休業日とするか)を申告時に具体的に明示すること
- ✅ 企業側が部分取得を受け入れられる職場体制を整備していること
特に重要なのは「事前の申告書提出」です。後から「あの日は休業だった」と遡及申告することは原則認められません。スケジュールが確定し次第、速やかに申告書を提出する習慣をつけましょう。
【核心】5日単位の部分取得における給付金の計算方法
ここが最も重要なセクションです。給付金がどのように計算されるのか、基本的な仕組みから具体的な数字まで丁寧に解説します。
給付金計算の基本式と使用する数値
産前休業給付金の計算には、以下の3つの数値が必要です。
産前休業給付金(1回あたり)= 賃金日額 × 給付率 × 休業日数
| 計算要素 | 内容 | 数値 |
|---|---|---|
| 賃金日額 | 直近6ヶ月の賃金合計 ÷ 180 | 個人によって異なる |
| 給付率 | 休業開始から180日目まで | 67% |
| 給付率 | 休業181日目以降 | 50% |
| 休業日数 | 実際に休業した日数(5日単位) | 申告した日数 |
賃金日額の計算方法:
賃金日額は、産前休業開始前の直近6ヶ月間の給与総額(通勤手当等含む)を180で割った金額です。
賃金日額 = 直近6ヶ月の賃金合計額 ÷ 180
なお、賃金日額には上限・下限が設定されており、2025年現在の目安は以下のとおりです。
| 区分 | 金額(目安・2025年度) |
|---|---|
| 賃金日額の上限 | 約15,190円(30歳未満)〜 約16,490円(45歳以上) |
| 賃金日額の下限 | 約2,746円 |
具体的な計算例(月収25万円のケース)
前提条件:
– 月収(額面):250,000円
– 直近6ヶ月の賃金合計:1,500,000円
– 産前休業を5日単位で部分取得
– 1週間のうち月・水・金の3日出勤、火・木の2日休業(5日単位取得)
STEP 1:賃金日額を計算する
賃金日額 = 1,500,000円 ÷ 180 = 8,333円
STEP 2:1回あたりの給付金を計算する(5日休業の場合)
給付金 = 8,333円 × 67% × 5日
= 8,333円 × 0.67 × 5
= 27,916円(端数処理後)
STEP 3:1ヶ月あたりの目安を試算する
1ヶ月(4週間)で週2日休業した場合、休業日数は合計8日になります。
1ヶ月の給付金目安 = 8,333円 × 67% × 8日
= 8,333円 × 0.67 × 8
= 44,665円(端数処理後)
同月の出勤日数(週3日×4週間=12日)の給与も別途発生するため、給与+給付金の両方を受け取れる点が部分取得の大きなメリットです。
給与と給付金を同時に受け取る場合の注意点
部分取得では、休業日には給付金が、出勤日には給与が支払われます。ただし、休業日に給与の一部が支払われる場合は給付金が減額調整されます。
調整ルールのポイントは以下のとおりです。
- 休業日に給与ゼロ → 給付金は満額支給(賃金日額 × 67%)
- 休業日に給与あり(賃金日額の13%以下)→ 給付金は満額支給
- 休業日に給与あり(賃金日額の13%超80%未満)→ 給付金は一部減額
- 休業日の給与が賃金日額の80%以上 → 給付金は支給停止
有給休暇を休業日に充当した場合は給与が全額支払われるため、実質的に給付金は受け取れません。有給休暇と産前休業の部分取得を組み合わせる際は、どちらを優先するか慎重に計画しましょう。
多胎妊娠の場合の計算上の注意点
多胎妊娠の場合は産前休業期間が14週間前から始まるため、取得できる休業日数が単胎より大幅に増えます。計算式自体は同じですが、181日目以降は給付率が50%に下がる点に注意が必要です。
(例)14週間の産前休業のうち180日目まで)
給付金 = 賃金日額 × 67% × 休業日数
181日目以降:
給付金 = 賃金日額 × 50% × 休業日数
申請に必要な書類と提出先
部分取得の申請には複数の書類が必要です。事前に準備しておきましょう。
必要書類一覧
| 書類名 | 取得先・記載者 | 備考 |
|---|---|---|
| 産前休業部分取得予定申告書 | 勤務先(人事部門) | 取得スケジュールを明記 |
| 母子健康手帳の写し(出産予定日確認) | 本人 | 表紙+出産予定日記載ページ |
| 雇用保険被保険者証の写し | 本人 | 番号確認のため |
| 賃金台帳(直近6ヶ月分) | 勤務先 | 給付金計算の基礎資料 |
| 出勤簿・タイムカードの写し | 勤務先 | 休業日・出勤日の確認 |
| 産前休業給付金支給申請書 | ハローワーク所定書式 | 休業終了後に提出 |
| 医師の診断書または証明書 | 担当産科医 | 出産予定日・妊娠週数を証明 |
申請の流れとタイムライン
【出産予定日の8週間前】
医師に妊娠・出産予定日の証明書類を取得
【出産予定日の7週間前までに】
勤務先と部分取得スケジュールを協議
→「産前休業部分取得予定申告書」を提出
【出産予定日の6週間前(産前休業開始)】
部分取得スタート
出勤日・休業日をスケジュール通りに遂行
【休業期間中(随時)】
出勤・休業の記録(タイムカード等)を保存
【産前休業終了後(出産後)】
ハローワークへ「産前休業給付金支給申請書」提出
→ 原則として出産後2ヶ月以内に申請
【給付金振込】
申請受理後、約2〜3週間で指定口座へ振込
提出先は居住地を管轄するハローワーク(公共職業安定所) です。勤務先の所在地ではなく、自身の住所地を管轄するハローワークへ提出する点に注意してください。なお、申請書類の一部は勤務先が代行して提出する場合もありますので、事前に人事担当者と確認しておきましょう。
部分取得スケジュールの組み方と実践例
実際にどのようなスケジュールで取得するか、具体的なイメージを持てるよう例示します。
スケジュール例①:週2日休業パターン(体調優先型)
| 曜日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第1週 | 出勤 | 休業 | 出勤 | 休業 | 出勤 |
| 第2週 | 出勤 | 休業 | 出勤 | 休業 | 出勤 |
このパターンは、週2日(10日で2セット)の休業日を設けることで、出勤日の疲労を翌日に持ち越さない設計です。5日単位の取得に該当し、各セットで給付金を申請できます。
スケジュール例②:週3日休業パターン(出産直前集中型)
産前休業後半(出産予定日まで4週間を切ったあたり)から休業日数を増やすパターンも有効です。
| 時期 | 休業日数/週 | 給付金の目安(月収25万の場合) |
|---|---|---|
| 産前6〜4週前 | 週2日 | 約44,665円/月 |
| 産前4〜2週前 | 週3日 | 約66,997円/月 |
| 産前2〜0週前 | 週5日(全休) | 約111,662円/月 |
体調や仕事の引き継ぎ状況に合わせて、段階的に休業日数を増やしていくことで、無理なく職場から離れることができます。
よくある疑問と注意点
給付金計算や手続きに関してよくある疑問をまとめました。
Q1. 部分取得中に体調が悪化して急遽全日休業になった場合はどうなる?
申告したスケジュールから変更が生じた場合は、速やかに勤務先に連絡し、「変更届」をハローワークへ提出してください。正当な理由(医師の指示など)があれば、給付金の受給資格が失われることはありません。ただし、事後に「やっぱり休業にしたい」と遡及変更することは認められないため、体調不良が続く場合は早めに判断することが重要です。
Q2. 有給休暇と産前休業の部分取得は併用できる?
有給休暇と産前休業は別の制度ですが、同一日に重複させることはできません。有給休暇を使用した日は「出勤扱い」となるため、その日は産前休業給付金の対象外です。一般的には、有給休暇を産前休業の開始前や出勤日に充てて、産前休業日は無給にしておくほうが、給付金を最大限受け取れます。
Q3. 申請期限を過ぎてしまった場合は?
産前休業給付金の申請期限は、原則として産前休業終了後(出産後)2年以内とされていますが、出産後の体力回復や育休手続きに追われる時期であることを考えると、できるだけ早めに申請することをお勧めします。ハローワークへの相談は期限内であればいつでも可能です。不明な点がある場合は、早めに専門家や窓口に相談しましょう。
Q4. 多胎妊娠の場合、部分取得の給付金はどう変わる?
取得できる産前休業期間が単胎の6週間から14週間に延びるため、部分取得の休業日数も増えます。計算式は同じですが、休業日数が増える分、受け取れる給付金の総額も大きくなります。ただし181日目以降は給付率が67%から50%に下がる点は変わりません。
Q5. 5日単位で取得した場合、最低何日以上休業しないと給付金が受け取れない?
最低取得単位が「5日」であるため、申請1回あたり5日の休業日数が確定していることが条件です。4日以下の端数では申請できません。たとえば、月に7日休業した場合は、5日分を1回の申請とし、残り2日は次の5日に到達した時点でまとめて申請することになります。
Q6. 出産予定日より早く出産した場合、給付金の計算はどうなる?
産前休業は出産予定日を基準に計算されますが、実際の出産日が予定より早かった場合は、実際の出産日が産前休業の終了日となります。部分取得した日数分については、その実績に基づいて給付金が計算されます。申告していた予定取得日が一部未消化になった場合は、その分の給付金は支給されません。
まとめ
産前休業の部分取得(5日単位)は、2022年4月に新設された比較的新しい制度です。うまく活用すれば、体調管理と収入維持を両立しながら出産に備えることができます。
この記事のポイントを整理します。
- 部分取得は5日単位または1週間単位で分割取得できる
- 給付金の計算式は「賃金日額 × 給付率(67%または50%)× 休業日数」
- 対象者は雇用保険加入済みの女性労働者(正規・非正規問わず)
- 取得には事前の申告書提出と勤務先との協議が必須
- 休業日に給与が発生する場合は給付金が減額または停止される可能性がある
- 有給休暇との併用は原則不可(同日充当は不可)
部分取得を検討する際は、勤務先の人事部門と十分に協議し、自分の体調や職場環境に合ったスケジュールを設定することが成功の鍵となります。制度の詳細は年度によって改定される場合があるため、最新情報はお住まいの地域を管轄するハローワークまたは厚生労働省の公式サイトでご確認ください。また、給付金の計算や申請書類に不安がある場合は、社会保険労務士や会社の人事担当者へ早めに相談することをお勧めします。
出産という大切なライフイベントに向けて、制度を賢く活用し、安心して産前休業を迎えましょう。
本記事は2025年時点の情報をもとに執筆しています。制度は改正される場合があるため、申請前に最新情報をご確認ください。

