試用期間中に妊娠・出産が重なったとき、「自分は育休を取れるのだろうか」と不安になる方は少なくありません。また、企業の人事担当者も「試用期間中の申出にどう対応すべきか」と悩むケースがあります。
結論から言えば、試用期間中の労働者にも育休取得権は認められます。ただし、一定の要件を満たす必要があり、取得できるかどうかはケースバイケースです。本記事では、育児・介護休業法(以下、育介法)の法的根拠をふまえながら、試用期間中の育休取得権について実務レベルで詳しく解説します。
試用期間中でも育休は取得できる?結論と法的根拠
育児・介護休業法第10条が定める育休取得権の基本
育児・介護休業法(育介法)は、労働者が子を養育するために育児休業を取得できる権利を定めた法律です。同法第10条第1項には、「労働者は、子が1歳に達するまでの間、育児休業を申し出ることができる」 と規定されています。
ここで重要なのは、同法が保護する「労働者」に、試用期間中の方も含まれるという点です。育介法は正規雇用者のみを対象にした法律ではなく、雇用契約のある労働者全般を保護しています。したがって、試用期間中であっても育休取得権は原則として失われません。
育介法の基本原則
試用期間中の労働者であっても「労働者」であることに変わりはなく、育介法の保護対象となる。
試用期間の法的性質と育休取得権の関係
試用期間とは、企業が採用した労働者の能力・適性を確認するための期間です。法的には「解約権留保付き雇用契約」として扱われており、試用期間中であっても雇用契約は成立しています。
つまり、試用期間はあくまでも「本採用前の評価期間」であって、労働者としての基本的権利を剥奪する期間ではありません。育休取得権は法定権利ですから、就業規則や会社のルールよりも育介法が優先されます。
ただし、育休を取得するには後述する4つの要件を満たす必要があり、試用期間中は特に「継続雇用の見通し」要件の充足が問題になりやすい点に注意が必要です。
試用期間中の育休取得に必要な4つの要件
育介法第10条に基づき、試用期間中の労働者が育休を取得するには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。
| 要件 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| ① 雇用契約の存在 | 申出時点で雇用契約が成立していること | 育介法第2条 |
| ② 子の年齢 | 子が1歳に達するまで(最大2歳まで延長可) | 育介法第10条 |
| ③ 継続雇用の見通し | 申出日から1年以上継続雇用される見通しがあること | 育介法第10条第1項第1号 |
| ④ 勤続期間 | 過去2年間に同一事業主のもとで1年以上継続雇用されていること(2022年改正後は「見通し」で足りるが企業側からの引用注釈) | 育介法第10条第1項第2号 |
試用期間中の労働者がつまずきやすいのは、③継続雇用の見通しと④勤続期間の2つです。それぞれ詳しく見ていきましょう。
最重要要件「1年以上継続雇用の見通し」とは何か
「1年以上継続雇用の見通し」とは、育休申出日から1年以上、同一の事業主に雇用され続けることが合理的に見込まれる状態を指します。
試用期間中の場合、この要件の判断が難しくなります。なぜなら、本採用が確定していないケースでは、1年後の雇用継続が保証されないと判断される可能性があるためです。
判断のポイント
- 試用期間後に本採用になる予定が明確か
- 雇用契約書や内定通知に継続雇用の記載があるか
- 企業が口頭でも本採用予定を認めているか
なお、2022年の育介法改正により、「1年以上継続雇用されていない者を除外する」労使協定の締結が廃止されました(2022年10月1日施行)。これにより、入社1年未満の労働者でも「1年以上継続雇用の見通し」があれば育休を申し出ることができるようになっています。
ポイント
2022年10月以降、「入社1年未満だから育休取得不可」という理由は原則として認められなくなった。「見通し」があれば取得権は発生する。
申出日・子の年齢・勤続期間の確認チェックリスト
育休申請前に、以下のチェックリストで要件充足を確認しましょう。
【労働者向けチェックリスト】
- [ ] 現在、雇用契約が締結されている(試用期間中を含む)
- [ ] 子が1歳に達する前に育休を申し出る予定である
- [ ] 育休申出日から1年以上、雇用が継続される見通しがある
- [ ] 申出日の1ヶ月前までに会社へ申し出る(産後の場合は2週間前)
- [ ] 本採用予定や雇用継続を示す書類・メールなどの証拠がある
【企業担当者向けチェックリスト】
- [ ] 育介法に基づく育休取得権を試用期間中の従業員にも適用しているか
- [ ] 「継続雇用の見通し」を根拠に拒否する場合、客観的な理由があるか
- [ ] 育休取得を理由に試用期間の延長・解雇を検討していないか(育介法第16条違反)
パターン別判定|あなたの試用期間ケースで育休は取れる?
試用期間の長さ・本採用の確度・雇用形態によって育休取得の可否は異なります。代表的な3つのパターンで判定を解説します。
パターンA|試用期間6ヶ月+本採用予定ありのケース
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| 試用期間 | 6ヶ月 |
| 本採用見込み | あり(内定通知書または雇用契約書に記載) |
| 勤続期間 | 1年未満 |
| 判定 | ✅ 取得可能 |
試用期間が6ヶ月で、その後本採用になる予定が書面などで確認できる場合、「1年以上継続雇用の見通し」を満たすと判断されます。入社1年未満でも、2022年の法改正以降は「見通し」があれば育休申出が認められます。
注意点: 本採用予定が口頭のみの場合、企業側が事後的に「継続雇用の見通しはなかった」と主張するリスクがあります。雇用契約書や採用通知書などの書面で確認しておくことが重要です。
パターンB|試用期間3ヶ月で本採用判定待ちのケース
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| 試用期間 | 3ヶ月 |
| 本採用見込み | 判定待ち(未確定) |
| 勤続期間 | 3ヶ月以下 |
| 判定 | ⚠️ 条件付きで取得可能・要確認 |
本採用が確定していない段階では、「1年以上継続雇用の見通し」の証明が困難になります。ただし、企業側が「見通しがない」と主張するためには客観的かつ合理的な理由が必要です。単に「試用期間中だから」という理由だけで取得を拒否することは、育介法の趣旨に反します。
この状況では、まず会社の人事担当者や上司に本採用の予定を確認し、書面で回答をもらうことが最初のステップです。本採用予定が認められれば、パターンAと同様に取得が可能になります。
パターンC|契約社員から無期雇用転換後のケース
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| 雇用形態 | 有期雇用(契約社員)から無期雇用転換 |
| 転換後の期間 | 転換日から1年以上経過 |
| 試用期間 | 無期転換時に試用期間が設定されているケース |
| 判定 | ✅ 取得可能 |
有期雇用から無期雇用転換(労働契約法第18条)後に試用期間が設定されている場合でも、転換前の有期雇用期間を通算すると1年以上継続雇用されていれば取得要件を満たします。
また、無期転換後は雇用の継続が前提となるため、「1年以上継続雇用の見通し」も原則として認められます。
ポイント
有期契約から無期転換した場合、転換前の勤続期間も「継続雇用」として通算されるため、育休取得のハードルは下がる。
試用期間中に育休申請する際の手順と注意点
育休申出の正しいタイミングと申請書類の準備
育休を取得するには、会社への事前申出が必要です。正しい手順を確認しましょう。
【申出のタイミング】
| 申出者の状況 | 申出期限 |
|---|---|
| 原則(産前・産後どちらも) | 育休開始予定日の1ヶ月前まで |
| 出産後(産後8週間以内)に申し出る場合 | 育休開始予定日の2週間前まで |
| パパ育休(出生時育児休業) | 取得希望日の2週間前まで |
【必要書類一覧】
| 書類 | 入手先・備考 |
|---|---|
| 育児休業申出書 | 会社の人事部門から入手。厚生労働省のモデル様式も利用可 |
| 母子健康手帳のコピー(出産予定日確認用) | 本人が用意 |
| 出生届のコピー(出産後に申し出る場合) | 本人が用意 |
| 雇用保険被保険者証(給付金申請用) | ハローワーク |
| 育児休業給付金支給申請書 | 会社または事業主経由でハローワークへ提出 |
【申請の手順】
- 上司または人事担当者への口頭相談(できるだけ早い段階で)
- 本採用見通しの書面確認(試用期間中の場合は特に重要)
- 育児休業申出書の記入・提出(申出期限に注意)
- 会社から育休取得の確認通知を受領
- 雇用保険の被保険者確認(給付金受給のために必要)
- 育児休業給付金の申請手続き(下記参照)
育休給付金の受給要件と申請方法
育休中の収入を補うのが育児休業給付金(雇用保険)です。試用期間中の労働者でも、雇用保険の被保険者であれば受給資格が生まれる可能性があります。
【受給要件】
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 雇用保険の被保険者であること | 原則として週20時間以上勤務・31日以上の雇用見込みがある場合に加入 |
| 被保険者期間 | 育休開始日前2年間に、賃金支払いの基礎となった日が11日以上ある月が12ヶ月以上あること |
| 育休取得の事実 | 育介法に基づく育休であること |
試用期間中の入社直後に妊娠・出産した場合、雇用保険の「12ヶ月以上の被保険者期間」を自社だけでは満たせないことがあります。この場合、前職の被保険者期間を通算できる場合があります(前職離職後1年以内かつ失業給付を受給していないことが条件)。
【給付金額の計算方法】
育児休業給付金の支給額は以下のとおりです。
| 育休期間 | 支給率 | 計算式(目安) |
|---|---|---|
| 育休開始から180日目まで | 休業開始時賃金の67% | 月収30万円の場合 → 約20.1万円/月 |
| 181日目以降 | 休業開始時賃金の50% | 月収30万円の場合 → 約15万円/月 |
【申請の流れ】
- 会社(事業主)が従業員に代わりハローワークへ申請するのが原則
- 育休開始後に受給資格確認と初回支給申請を行う
- 以降は2ヶ月ごとに支給申請(会社経由)
- 給付金は指定口座に振り込まれる
【育休給付金が受給できない場合の対応】
給付金の要件を満たさない場合でも、以下の制度を確認しましょう。
| 制度 | 条件 | 内容 |
|---|---|---|
| 出産手当金 | 健康保険加入者・産前42日・産後56日 | 標準報酬日額の3分の2 |
| 会社独自の育児支援手当 | 就業規則に規定がある場合 | 会社判断による |
| 育児休暇(有給) | 会社が任意で設けている場合 | 会社判断による |
よくある質問(FAQ)
Q1. 試用期間中に育休を申し出たら、本採用を取り消されることはありますか?
育介法第16条は、育休申出を理由とした不利益取扱いを明確に禁止しています。試用期間中であっても、育休申出を理由に本採用を取り消したり、試用期間を延長したりすることは違法です。もし不利益な扱いを受けた場合は、都道府県の労働局(雇用環境・均等部)に相談することができます。
Q2. 試用期間が1年間と長い場合、その間に育休を申し出ることはできますか?
可能です。試用期間の長短は育休取得権の有無に直接影響しません。1年の試用期間中でも、「1年以上継続雇用の見通し」があれば申出が認められます。なお、試用期間を1年以上設定すること自体の合理性については別途問題になる場合がありますが、育休取得権への影響は限定的です。
Q3. 育休を取得すると試用期間はどうなりますか?
育休期間中は試用期間の進行が実質的に停止するかどうかは、会社の就業規則の定めによります。就業規則に明確な規定がない場合は、育休期間が試用期間に算入されることが一般的です。試用期間の取扱いについては、事前に会社の人事担当者に確認しておくことを推奨します。
Q4. 試用期間中に雇用保険に加入していない場合、育休給付金はもらえませんか?
雇用保険に加入していない場合、育児休業給付金の受給はできません。ただし、雇用保険の加入要件(週20時間以上・31日以上の雇用見込み)を満たしているにもかかわらず加入されていない場合は、会社が加入手続きを怠っている可能性があります。ハローワークに相談することで遡及加入が認められるケースもあります。
Q5. 試用期間中に企業として育休申出を断ることはできますか?
「継続雇用の見通しがない」という客観的・合理的な理由がある場合に限り、断ることが可能です。ただし、単に試用期間中であることや人員不足を理由に断ることは認められません。不当な拒否は育介法違反となりますので、企業の人事担当者は慎重な対応が求められます。
Q6. 育休申請時に試用期間の身元調査結果が出ていない場合はどうなりますか?
育介法上の育休取得権は、身元調査の結果とは独立した権利です。調査が完了していなくても、「1年以上継続雇用の見通し」があれば育休申出は認められます。ただし、調査結果によって本採用が見送られる場合は、企業側から「見通し」がなくなった旨を通知される可能性があります。その際は、不利益を受けないよう労働局に相談することをおすすめします。
まとめ
試用期間中であっても、育介法上の育休取得権は原則として認められます。最も重要な要件は「1年以上継続雇用の見通し」であり、この見通しがあれば入社1年未満の試用期間中でも育休を申し出ることができます(2022年10月の法改正以降)。
育休取得を検討している労働者の方は、まず雇用契約書や本採用予定を書面で確認し、申出期限(育休開始の1ヶ月前)に間に合うよう早めに行動することが重要です。また、育児休業給付金の受給要件も事前に確認しておきましょう。
企業の人事担当者の方は、試用期間中の申出であっても適切に対応することが法的義務であることを再確認してください。育介法第16条の不利益取扱い禁止規定や、育休取得を理由とした試用期間の延長・解雇は違法です。不明な点があれば、都道府県の労働局や社会保険労務士に相談することをおすすめします。
試用期間は評価期間であっても、労働者としての基本的権利は侵害されません。双方が法的理解を深めることで、安心して育児と仕事を両立できる職場環境の実現が期待できます。
【参考】相談窓口一覧
| 窓口 | 主な相談内容 | 連絡先 |
|---|---|---|
| 都道府県労働局(雇用環境・均等部) | 育休取得に関するトラブル・相談・不利益取扱い | 各都道府県の労働局 |
| ハローワーク | 育児休業給付金の申請・相談・被保険者確認 | 居住地または勤務地のハローワーク |
| 社会保険労務士 | 申請手続き・就業規則の確認・法的相談 | 全国社会保険労務士会連合会 |
| 厚生労働省(育児休業制度) | 最新の法令・制度情報・改正内容 | mhlw.go.jp |

