自営業者・フリーランスの方が子どもを授かったとき、「会社員のように育休給付はもらえないのでは?」と不安を感じるのは自然なことです。確かに、雇用保険の育児休業給付は対象外です。しかし、「出生後休業支援給付金」をはじめとする代替制度が存在し、条件を満たせば給付を受け取ることができます。
本記事では、自営業者・個人事業主・フリーランスの方が活用できる育児支援給付の全体像を整理し、申請手続き・対象条件・給付金額・必要書類まで2025年時点の最新情報を徹底解説します。また、令和6年4月の法改正により両親同時受給が可能になったポイントも含めて、ご説明しています。
自営業者は育休給付を受け取れないのか?まず知るべき前提
結論から言えば、「雇用保険の育児休業給付」は受け取れませんが、代替制度を活用することで育児期間中の経済的支援を受けることは可能です。まずこの前提を整理しておきましょう。
雇用保険の育児休業給付との違いを整理する
雇用保険の「育児休業給付金」は、雇用保険に加入している会社員・パート・派遣社員などが対象です。自営業者・個人事業主・フリーランスは雇用保険に加入できないため、この給付の対象外となります。
| 比較項目 | 雇用保険の育児休業給付 | 自営業者向け代替制度 |
|---|---|---|
| 対象者 | 雇用保険加入の被用者 | 自営業者・個人事業主 |
| 根拠法令 | 雇用保険法 | 児童手当法施行令 等 |
| 給付額の基準 | 休業前賃金の67〜50% | 一定額の支給(後述) |
| 申請先 | ハローワーク | 市区町村窓口 等 |
| 受給期間 | 最長1年(延長あり) | 出生後4か月以内 |
このように制度の根拠・申請先・給付内容は大きく異なります。「育休が取れない=何も支援がない」ではないことをまず押さえてください。
自営業者が利用できる4つの育児支援制度一覧
自営業者が活用できる主な育児支援制度を比較表で整理します。
| 制度名 | 根拠法令 | 所管官庁 | 主な給付・支援内容 |
|---|---|---|---|
| 出生後休業支援給付金 | 児童手当法施行令第2条の2 | 厚生労働省 | 休業中の生活支援給付(月額6.7万円〜) |
| 児童手当拡充 | 児童手当法 | 厚生労働省 | 子ども1人あたり月1〜1.5万円 |
| 小規模企業共済の特例貸付 | 小規模企業共済法 | 中小機構 | 低利の事業資金貸付(年0.9%) |
| 国民年金保険料産前産後免除 | 国民年金法 | 日本年金機構 | 産前42日・産後56日の保険料免除 |
このうち、育児期間中の収入補填として最も重要なのが「出生後休業支援給付金」です。次のセクションで詳しく解説します。
最重要制度|出生後休業支援給付金とは?法的根拠と制度の仕組み
制度の概要と給付の仕組み
出生後休業支援給付金は、2023年1月1日に「児童手当法施行令第2条の2」の改正により施行された制度です。雇用保険の育児休業給付を受け取れない自営業者が、子どもの出生後に一定期間休業した場合に給付金を受け取れる仕組みです。
制度の主なポイントは以下の通りです。
- 対象期間: 子どもの出生日から4か月以内に取得した休業(1か月以上4か月以内)
- 申請期限: 子どもの出生後8週間以内に申請が必要
- 給付の性格: 事業収入の補填ではなく、休業に対する支援給付(非課税)
- 申請先: お住まいの市区町村の窓口(担当:子育て支援課等)
⚠️ 申請期限は「出生後8週間以内」です。この期限を過ぎると申請できなくなるため、出産前から準備を進めておくことを強くおすすめします。
給付金額の目安
給付額は、申請者の前年・前々年の事業所得をもとに算定されます。2025年現在の標準的な給付額は以下の通りです。
| 休業取得期間 | 給付金額(目安) |
|---|---|
| 1か月(28日)の休業 | 約67,000円〜 |
| 2か月(56日)の休業 | 約134,000円〜 |
| 最大4か月の休業 | 約268,000円〜 |
※所得状況・休業日数により異なります。詳細は申請先の市区町村窓口にご確認ください。
2024年法改正のポイント|両親同時受給が可能になった背景
令和6年(2024年)4月の法改正により、出生後休業支援給付金の制度が大きく変わりました。最も重要なポイントは「両親が同時期に休業しても両方給付を受けられるようになった」ことです。
改正前(令和5年12月31日まで)
- 配偶者が育児休業中の場合、自営業者側は受給対象外
- どちらか一方しか受給できない「排他的給付」の仕組み
改正後(令和6年4月1日以降)
- 配偶者(会社員)が育児休業給付を受給中でも、自営業者は出生後休業支援給付金を受給可能
- 夫婦で同時に育児支援給付を受け取れる制度へ転換
この改正の背景には、「男性育休の取得促進」と「育児の共同参画を後押しする」という政府の方針があります。会社員の配偶者と共働きの自営業者家庭でも、育児期間中の収入減少を二重にカバーできるようになった点は大きな前進です。
申請できる?できない?対象者・対象外の条件を完全整理
対象になる自営業者の4つの基本要件
自分が申請対象かどうかを、以下のチェックリストで確認してください。4つすべてを満たす必要があります。
- [ ] ① 出生児の父または母である(養子縁組含む)
- [ ] ② 雇用保険に加入していない自営業者・個人事業主・フリーランスである
- [ ] ③ 子どもの出生後4か月以内に1か月以上4か月以内の休業を取得する
- [ ] ④ 開業届を提出済みであり、事業活動を継続していること(赤字・開業直後も対象、詳細は後述)
4つすべてにチェックが入れば、原則として申請対象です。
対象外となるケース|配偶者が育休中の場合の旧・新制度比較
以下に該当する場合は、申請できないか、または一部要件の確認が必要です。
申請できないケース(現行制度)
- 雇用保険に加入している(会社員・パート等の被用者)
- 子どもの出生後8週間を超えてから申請した
- 設定した休業期間が1か月未満または4か月超である
- 子どもの出生日から4か月を超えた期間に休業を設定している
- 開業届を提出していない、または事業実態がない
配偶者が会社員で育休取得中のケース:旧・新制度の比較
| 状況 | 旧制度(〜令和5年12月31日) | 新制度(令和6年4月1日〜) |
|---|---|---|
| 配偶者が育児休業給付を受給中 | 自営業者は対象外 | 自営業者も受給可能 |
| 配偶者が育休を取得していない | 自営業者は受給可能 | 自営業者は受給可能 |
| 配偶者も自営業者 | 双方受給可能 | 双方受給可能 |
令和6年4月以降に出産した方・出産予定の方は、新制度が適用されるため、配偶者が会社員で育休中であっても自営業者側の申請が可能です。
開業直後・赤字経営でも申請できる?所得要件の正しい理解
「まだ開業して間もない」「昨年は赤字だった」という方からよく質問を受けます。結論として、開業直後・赤字経営でも申請は可能です。ただし、以下の条件を確認してください。
所得要件の考え方
| 状況 | 申請可否 | 必要な対応 |
|---|---|---|
| 開業2年以上・黒字 | ○ | 直近2年分の確定申告書を提出 |
| 開業直後(1年未満) | ○ | 開業届+事業継続見込み誓約書で対応 |
| 直近年度が赤字 | ○ | 赤字申告でも「事業継続性」が認められれば可 |
| 開業届未提出・事業実態なし | ✕ | 開業届の提出と事業実態の確認が必要 |
重要なのは「事業所得があるかどうか」ではなく、「自営業者として事業を継続している実態があるかどうか」です。事業を継続している実態が確認できれば、経営状況の安定性は問われません。
申請手続きの全ステップ|必要書類・提出先・期限
STEP1:出産前の準備(出産2〜3か月前)
申請期限が出生後8週間と短いため、出産前から準備を始めることが重要です。
出産前に準備しておくもの
- 直近2年分の確定申告書(第一表)の控え(税務署の受付印があるもの)
- 開業届の写し(税務署に提出済みのもの)
- 事業継続見込み誓約書(市区町村指定様式の場合あり)
- 健康保険証(国民健康保険等)
- 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証等)
STEP2:申請書類の入手と記入(出産前〜出生後8週間以内)
申請書類はお住まいの市区町村の子育て支援課または担当窓口で入手できます。多くの市区町村では公式ウェブサイトからダウンロードも可能です。
申請に必要な主な書類一覧
| 書類名 | 取得先 | 備考 |
|---|---|---|
| 出生後休業支援給付金申請書 | 市区町村窓口・HP | 指定様式 |
| 出生証明書または母子健康手帳(出生届出済証明) | 市区町村 | 出生の証明 |
| 直近2年分の確定申告書(第一表)の控え | 自身で保管 | 税務署受付印必須 |
| 開業届の写し | 自身で保管 | 税務署提出済みのもの |
| 休業期間を確認できる書類 | 自身で作成 | 業務停止証明・スケジュール表等 |
| 本人確認書類(マイナンバーカード等) | 自身で保管 | 顔写真付きが望ましい |
| 振込先口座の通帳またはキャッシュカードの写し | 自身で保管 | 申請者名義のもの |
STEP3:申請書の提出(出生後8週間以内)
書類が揃ったら、子どもの出生後8週間以内に市区町村窓口へ提出します。郵送対応している市区町村も増えていますが、窓口での直接提出が確実です。不備があった場合に即座に対応できます。
✅ 提出時のポイント
– 確定申告書の控えは必ずコピーを手元に残すこと
– 窓口で受付番号・受付日を確認・記録しておくこと
– 不明点はその場で担当者に質問すること
STEP4:審査・給付(申請後1〜2か月)
申請後、市区町村が審査を行い、適合と判断された場合に指定口座へ振り込まれます。一般的な目安は申請から1〜2か月程度ですが、市区町村によって異なります。
他の支援制度も活用しよう|育児期間中の収入補填策
出生後休業支援給付金と組み合わせることで、育児期間中の経済的負担をさらに軽減できます。
児童手当(拡充後)
令和6年10月の児童手当法改正により、受給対象が高校生年代(18歳)まで拡大されました。自営業を含む全世帯が対象で、所得制限が撤廃されています。
| 子どもの年齢 | 月額給付額 |
|---|---|
| 3歳未満 | 15,000円 |
| 3歳〜小学校修了前 | 10,000円(第3子以降:15,000円) |
| 中学生〜高校生年代 | 10,000円 |
国民年金保険料の産前産後期間の免除
自営業者も、産前産後の一定期間(産前42日・産後56日)は国民年金保険料が免除されます。免除期間は保険料を納付したものとして将来の年金額に反映されるため、申請を忘れずに行いましょう。
- 申請先: 最寄りの年金事務所または市区町村の国民年金担当窓口
- 必要書類: 出産予定日または出産日がわかる書類(母子健康手帳等)
小規模企業共済の育児関連特例貸付
小規模企業共済に加入している自営業者は、育児を理由とした休業中に「傷病・育児特例貸付」を利用できます。掛金の範囲内で低利で資金を借り入れられるため、育児期間中のキャッシュフロー対策として有効です。
- 貸付限度額: 掛金累計額の7割(最大2,000万円)
- 金利: 年0.9%(2025年現在)
- 問い合わせ先: 中小機構または加入している商工会議所・商工会
確定申告への影響|給付金の税務処理
出生後休業支援給付金の受給が確定申告に与える影響についても確認しておきましょう。
出生後休業支援給付金は「非課税所得」です。確定申告書への記載は不要であり、事業所得には含まれません。ただし、以下の点に注意してください。
- 育児期間中に事業収入が発生している場合は、通常通り申告が必要
- 休業期間中に経費が発生している場合は、その処理について税理士に相談することを推奨
- 翌年度の確定申告で前年所得が変動する場合、翌年以降の給付金算定に影響する可能性あり
よくある質問(FAQ)
Q1. 副業で会社員をしながら個人事業もしている場合は?
会社員として雇用保険に加入している場合、育児休業給付(雇用保険)が優先されます。その場合、出生後休業支援給付金は対象外となります。雇用保険に加入していない副業のみの形態であれば対象となりますが、詳細は市区町村窓口に確認してください。
Q2. 夫婦ともに自営業の場合、両方申請できますか?
はい、可能です。夫婦双方が自営業者(雇用保険非加入)で、それぞれが要件を満たした形で休業を取得する場合、双方が申請できます。申請はそれぞれが個別に行う必要があります。
Q3. 開業届を出していない場合はどうすればよいですか?
申請前に速やかに税務署へ開業届を提出してください。開業届は事業開始から1か月以内に提出することが原則ですが、遡って提出することも可能です。開業届なしでの申請は認められません。
Q4. 申請後に審査が否決された場合、不服申立てはできますか?
はい、審査結果に不服がある場合は、決定通知を受け取った日から一定期間内に審査請求を行うことができます。詳細は通知書に記載されているほか、市区町村の担当窓口に問い合わせてください。
Q5. 双子・三つ子の場合、給付額は増えますか?
多胎出産の場合も、基本的な給付の枠組みは単胎出産と同様です。ただし、自治体によっては多胎加算の独自制度がある場合もあります。お住まいの市区町村の子育て支援窓口にご確認ください。
Q6. 給付金の申請と同時に確定申告の手続きは必要ですか?
申請時に直近2年分の確定申告書の控えを提出しますが、これは申請書類の一部であり、確定申告の手続きそのものではありません。確定申告は通常通り、翌年2〜3月に行ってください。
まとめ|自営業の育児支援は「申請期限」がすべてのカギ
本記事のポイントを整理します。
- 自営業者は雇用保険の育児休業給付の対象外だが、出生後休業支援給付金など代替制度がある
- 申請期限は子どもの出生後8週間以内。この期限を過ぎると申請不可
- 令和6年4月以降は、配偶者が会社員で育休中でも自営業者側の受給が可能に
- 開業直後・赤字経営でも、事業実態と開業届があれば申請対象
- 児童手当・国民年金免除・小規模企業共済貸付も組み合わせて活用する
育児期間中の収入減少は、自営業者にとって特に深刻な問題です。しかし、適切な制度を理解し、期限内に手続きを行えば、経済的な不安を大きく軽減することができます。
出産が近づいたら、早めにお住まいの市区町村の子育て支援窓口へ相談に行くことを強くおすすめします。
関連リンク(外部)
– 厚生労働省|育児・介護休業制度の概要
– 日本年金機構|産前産後期間の国民年金保険料免除
– 中小機構|小規模企業共済
本記事は2025年時点の制度情報をもとに執筆しています。制度の詳細・給付額は変更される場合がありますので、申請前に必ず最新情報をお住まいの市区町村窓口または厚生労働省公式サイトでご確認ください。

