育休中に特別養子縁組で新たな子を迎えた場合、育児休業給付金の支給はどうなるのでしょうか。「給付金が止まってしまう」「何も申請しなくていいのか」と不安を感じる方は少なくありません。
結論から言うと、育休中に特別養子縁組が成立すると、給付金の対象期間がリセットされ、家庭裁判所の認可日を起算点として新たな給付が開始されます。 この仕組みを知らないと、本来受け取れる給付金を申請せずに終わってしまう可能性があります。
本記事は、認定社会保険労務士による監修に基づき、制度の全体像から法的根拠、里親委託・普通養子縁組との違い、遡及申請の手順・必要書類・申請期限まで、人事担当者と当事者の双方が実務で使える情報を体系的に解説しています。
育休中に特別養子縁組で子を迎えた場合、給付金はどうなるのか?【制度の全体像】
育児休業給付金の「リセット」とは何か
育児休業給付金には、「支給対象期間は子どもの1歳(一定条件下では1歳6か月・2歳)の誕生日の前日まで」 という上限があります。つまり、現在育休中であっても、対象となる子どもを基準に給付の終了日が定まっています。
ここで「リセット」と呼ばれる仕組みが登場します。育休中に新たな子を迎えた場合、その新たな子を対象とする育児休業が新たに開始されます。 その結果、給付金の支給カウントもゼロからやり直しとなり、新たな子に対して原則1年分(最長2年分)の給付を受け取ることができます。
具体例で確認しましょう。
例: 第一子の育休中(給付金受給中)に、特別養子縁組が成立して第二子を迎えた場合。
- 第一子に対する育休給付は、引き続き第一子の1歳誕生日前日まで継続。
- 第二子に対して、認可日を起算点とする新たな育児休業を別途取得することで、第二子の1歳誕生日前日まで給付が新たに支給される。
つまり「リセット」とは給付金が消えることではなく、新たな子を対象に給付カウントが独立してゼロから再開されることを意味します。制度を知らずに申請しないままでいると、本来受け取れた数十万円単位の給付金を丸ごと取り逃がすことになります。
特別養子縁組・里親・普通養子縁組で扱いが異なる理由
子の迎え方によって「給付金の開始基準日」が異なります。その理由は、それぞれの法的根拠と「子との親子関係・養育関係が法的に発生するタイミング」が異なるためです。
| 迎え方 | 根拠法 | 給付金開始日の基準 |
|---|---|---|
| 特別養子縁組 | 民法第817条の2 | 家庭裁判所の認可日(審判確定日) |
| 普通養子縁組 | 民法第809条 | 養子縁組届の受理日 |
| 里親委託 | 児童福祉法第27条第1項第3号 | 児童相談所による委託日 |
| 実子(出産) | 育児・介護休業法 | 出産日(産前6週・産後8週の産休を経て育休開始) |
特別養子縁組が「認可日」を基準とする理由は、特別養子縁組が家庭裁判所の審判によって初めて法的な親子関係が確定する制度だからです。届出だけで成立する普通養子縁組とは異なり、特別養子縁組は審判の確定をもって法的効力が生じます(民法第817条の2第9項)。したがって、育児・介護休業法・雇用保険法の文脈においても、この「認可日」が育児休業取得の起算点として機能します。
一方、里親委託は法的な親子関係ではなく「養育委託」です。法的親子関係は生じませんが、育児・介護休業法上は里親委託日から育児休業を取得できるため、給付金の開始基準日も委託日となります。
給付金開始日の基準は「家庭裁判所の認可日」——法的根拠と理由を解説
家庭裁判所の認可日とはいつのことか
「家庭裁判所の認可日」とは、正確には審判が確定した日(審判確定日)を指します。審判書に記載される「審判の日付」ではなく、審判が確定した日である点に注意が必要です。
特別養子縁組の審判は以下のステップで進みます。
① 児童相談所との相談・マッチング
↓
② 試験的同居の開始(養親候補者の家庭での生活:原則6か月以上)
↓
③ 家庭裁判所への申し立て
↓
④ 家庭裁判所による審理・調査(通常3〜6か月程度)
↓
⑤ 審判の言い渡し
↓
⑥ 即時抗告期間(2週間)の経過
↓
⑦【重要】審判確定日=「認可日」← ここが給付金開始基準日
↓
⑧ 審判書謄本の受領(審判確定後に家庭裁判所から送付)
↓
⑨ 市区町村への特別養子縁組届の提出
よくある混同ポイントを整理します。
- ❌ 審判書に記載された「審判の日付」=給付金開始日ではない
- ❌ 審判書謄本を受け取った日=給付金開始日ではない
- ❌ 市区町村に届出をした日=給付金開始日ではない
- ✅ 審判確定日(即時抗告期間2週間経過後の日)=給付金開始基準日(認可日)
審判書謄本には「審判の確定証明書」が添付される場合があります。確定日が不明な場合は、申し立てを行った家庭裁判所に確認の上、審判確定証明書を取得してください。この書類が後述する申請手続きでも必要となります。
里親委託・普通養子縁組との開始日比較表
迎え方の違いによる給付金開始日を実務的に整理すると、以下のとおりです。
| 迎え方 | 開始基準日 | 証明書類 | 親子関係の有無 |
|---|---|---|---|
| 特別養子縁組 | 審判確定日(認可日) | 審判書謄本・確定証明書 | あり(法的親子関係) |
| 普通養子縁組 | 縁組届の受理日 | 戸籍謄本・縁組届受理証明書 | あり(法的親子関係) |
| 里親委託 | 委託日 | 里親委託状(児童相談所発行) | なし(養育委託関係) |
| 実子出産 | 出産日 | 出生届受理証明書・母子手帳 | あり |
実務上のポイントとして、普通養子縁組は届出主義のため、戸籍届出の受理日が給付金開始日となります。一方、特別養子縁組は届出より前の「審判確定日」が基準日であるため、届出日との間にタイムラグが生じることが特徴です。このタイムラグの期間も育児休業として取得できるため、遡及申請が重要な意味を持ちます。
給付金を受け取るための申請手続きの全ステップ
申請前の事前準備
育休中に特別養子縁組が成立することが見込まれる場合、事前の準備が手続きをスムーズにする鍵です。
勤務先への事前連絡
家庭裁判所への申し立て段階から、勤務先の人事担当者に以下を伝えておきましょう。
- 特別養子縁組の手続きを進めていること
- 審判確定後に新たな育児休業を取得する予定であること
- 審判確定日が判明し次第、速やかに報告すること
育児・介護休業法の規定上、育児休業の申し出は原則として休業開始希望日の1か月前までに行う必要があります(育児・介護休業法第6条第1項)。ただし、特別養子縁組の審判確定は予測が難しいため、確定日から2週間以内に申し出れば認められる場合があります(同法第6条第3項の緊急事由に準じた取扱い)。詳細は勤務先と事前に確認してください。
ハローワークへの事前確認
管轄のハローワーク(公共職業安定所)に、以下の点を事前に問い合わせておくと安心です。
- 特別養子縁組の場合の申請窓口・担当部署
- 必要書類の最新リスト
- 遡及申請が必要になった場合の対応方法
必要書類の一覧
特別養子縁組による育児休業給付金の申請に必要な書類は以下のとおりです。
【ハローワークに提出する書類(事業主経由)】
| 書類名 | 取得先 | 備考 |
|---|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書(様式第5号) | ハローワーク(様式)または事業主 | 事業主が代行申請するケースが多い |
| 休業開始時賃金月額証明書 | 事業主が作成 | 育休開始前の賃金実績をもとに算定 |
| 審判書謄本(特別養子縁組審判書) | 家庭裁判所 | 認可日の証明として最重要書類 |
| 審判確定証明書 | 家庭裁判所 | 審判確定日(認可日)を証明 |
| 雇用保険被保険者証 | 事業主・ハローワーク | 被保険者番号の確認用 |
| 母子健康手帳(写し)または住民票 | 市区町村 | 子の年齢確認用 |
【事業主が準備・確認する書類】
- 育児休業取得に関する労使協定・就業規則
- 賃金台帳・出勤簿(賃金月額証明書の根拠)
- 雇用保険被保険者台帳
申請のタイムラインと期限
育児休業給付金の支給申請は、支給単位期間(原則2か月)ごとにまとめて申請します。ただし、初回申請(受給資格確認)は育休開始後速やかに行う必要があります。
【申請スケジュールの目安】
審判確定日(認可日)
↓
2週間以内
↓
勤務先に育休取得を申し出・育休開始
(育休開始後1か月以内)
↓
ハローワークに受給資格確認申請
(事業主経由・原則として育休開始日から1か月以内)
(その後2か月ごと)
↓
支給申請書を提出(各支給単位期間終了後)
(最終)
↓
子が1歳になる誕生日の前日まで給付継続
(一定要件を満たす場合は1歳6か月・2歳まで延長可)
申請期限の注意点
雇用保険法の規定上、育児休業給付金の支給申請の時効は2年です(雇用保険法第74条)。認可日から2年以内であれば遡及申請が可能ですが、早期に申請するほど受給漏れリスクが低くなります。 受給資格確認の申請が遅れると、初回の申請が複数の支給単位期間をまとめた遡及申請になるケースがあります。
遡及申請の手順と注意点
遡及申請が必要になるのはどんなケース
以下の状況では、遡及申請が必要になります。
- 審判確定日(認可日)から時間が経過してから申請に気づいた場合
- 勤務先が手続き方法を把握しておらず、申請が遅延した場合
- 審判書謄本の取得に時間がかかり、初回申請が遅れた場合
特別養子縁組の手続きは審判書謄本の受領まで数週間かかることがあります。焦らず正確な書類をそろえた上で、速やかに申請することが重要です。
遡及申請の具体的な手順
ステップ1:審判確定日の特定
まず審判確定日を正確に把握します。審判書に記載された日付に即時抗告期間(2週間)を加えた日が確定日です。不明な場合は家庭裁判所に「審判確定証明書」の発行を申請してください(手数料:収入印紙150円)。
ステップ2:勤務先への報告と育休申請
遡及的に育休を取得する場合も、まず勤務先(人事担当者)に状況を説明し、育休の取得申請を行います。育児・介護休業法上の手続きを勤務先と確認してください。
ステップ3:ハローワークへの相談
管轄ハローワークに「特別養子縁組成立後の遡及申請」である旨を伝えた上で、担当者の指示に従って書類をそろえます。
ステップ4:必要書類の提出
審判書謄本・審判確定証明書を含む必要書類一式を事業主経由でハローワークに提出します。
ステップ5:支給決定の確認
ハローワークから支給決定通知が届いたら、給付金の支給単位期間・金額・振込予定日を確認します。
遡及申請における給付金の計算方法
遡及申請の場合も、給付金の計算方法は通常の申請と同じです。
育児休業給付金の基本計算式
【支給開始後180日以内(通常)】
支給額 = 休業開始時賃金月額 × 67%
【180日経過後】
支給額 = 休業開始時賃金月額 × 50%
「休業開始時賃金月額」の算定方法
休業開始時賃金月額は、育児休業開始前6か月間の賃金合計 ÷ 180で算出した日額に30を乗じた金額です(雇用保険法第61条の4)。
2024年度の支給上限額と下限額は以下のとおりです。
| 区分 | 支給率 | 上限額(月額) | 下限額(月額) |
|---|---|---|---|
| 育休開始後180日以内 | 67% | 310,143円 | 51,765円 |
| 180日経過後 | 50% | 231,450円 | 38,622円 |
(※上限・下限額は毎年8月1日に改定されます。最新の金額はハローワークまたは厚生労働省の公式サイトで確認してください。)
遡及申請の場合、認可日から申請日までの期間について一括して支給されることがあります。この場合も支給上限や計算方式に変わりはありません。
人事担当者が押さえるべき実務対応のポイント
在職中の従業員が特別養子縁組を行う場合の対応フロー
人事担当者として、従業員から「特別養子縁組の手続きを進めている」と相談を受けた場合の対応フローを確認しておきましょう。
①従業員からの申し出を受けたら
- 特別養子縁組・里親委託の場合、育児・介護休業法上の育児休業取得権があることを確認・案内する
- 審判確定日(認可日)が判明した時点で速やかに連絡するよう依頼する
- 現在育休中の場合:既存の育休に加えて、新たな子に対する育休を取得できる旨を説明する
②認可日確定後の手続き
- 育休取得の申し出を受領し、労使協定・就業規則に基づいて処理する
- 休業開始時賃金月額証明書を作成する(賃金台帳・出勤簿をもとに算定)
- ハローワークに受給資格確認の申請を行う(事業主経由が原則)
③給付金支給期間中の継続管理
- 2か月ごとの支給申請書の提出管理
- 育休終了予定日・給付終了日のカレンダー管理
- 延長要件(保育所等に入れない等)が生じた場合の対応確認
見落としがちな注意点
【注意1】育休中の新たな育休取得は「重複取得」になるか
育休中に新たな子の育休を取得する場合、実務上は「育休中の育休申し出」という形になります。原則として、前の子の育休終了後に新たな育休が開始されますが、会社の制度や就業規則によっては柔軟な対応が可能です。事前に労使間で確認・合意しておくことが重要です。
【注意2】給付金の「通算」に注意
特別養子縁組による新たな育休の給付金は、前の子の育休給付金の通算日数には影響しません。完全に独立した給付として計算されます。
【注意3】社会保険料の免除との関係
育児休業中は健康保険料・厚生年金保険料が免除されます(健康保険法第159条・厚生年金保険法第81条の2)。新たな育休開始に伴う免除期間の変更については、管轄の年金事務所にも届出が必要です。
給付金シミュレーション:具体的な金額例
育休中に特別養子縁組で子を迎えた場合の給付金総額のイメージを、具体例で確認しましょう。
【ケース設定】
- 休業開始前6か月の賃金合計:180万円
- 休業開始時賃金月額:180万円 ÷ 180日 × 30日 = 30万円
【給付金の計算】
| 期間 | 計算式 | 月額給付金 |
|---|---|---|
| 育休開始後〜180日以内(約6か月) | 30万円 × 67% | 201,000円/月 |
| 180日経過後〜1歳誕生日前日(約6か月) | 30万円 × 50% | 150,000円/月 |
【合計受給額の目安(1歳まで育休の場合)】
– 前半6か月:201,000円 × 6か月 = 1,206,000円
– 後半6か月:150,000円 × 6か月 = 900,000円
– 合計:約2,106,000円
この金額が「申請しなければゼロ」になります。認可日を起点とした申請漏れは、100万円〜200万円規模の損失につながる可能性があります。制度の理解と早期申請が極めて重要です。
よくある質問
Q1. 審判確定日と審判書の日付が違います。どちらを「認可日」として申請すればよいですか?
審判書に記載された日付ではなく、審判確定日(即時抗告期間2週間経過後の日)が「認可日」です。 審判確定証明書を家庭裁判所から取得し、その証明書に記載された確定日をもって申請してください。審判書の日付を誤って記載すると、支給開始日がずれる可能性がありますので注意が必要です。
Q2. 現在育休中ですが、特別養子縁組が成立した場合、今の育休はどうなりますか?
現在取得中の育休はそのまま継続されます。新たな子を対象とする育休は、別途取得することができます。ただし、前の子の育休と新たな子の育休が重複する期間の取り扱いは、就業規則や労使協定によって異なる場合があります。勤務先の人事担当者と事前に確認してください。
Q3. 里親として子を委託されている場合、給付金の開始日はいつになりますか?
里親委託の場合、児童相談所による委託日が給付金開始日の基準となります。委託の証明書類として、児童相談所が発行する「里親委託状」をハローワークに提出してください。
Q4. 特別養子縁組の審判が確定してからどれくらいの期間、遡及申請が可能ですか?
雇用保険法上の時効は2年です(雇用保険法第74条)。したがって、審判確定日から2年以内であれば遡及申請が可能です。ただし、申請が遅れるほど手続きが複雑になりやすいため、審判確定後は速やかに手続きを開始することを強くお勧めします。
Q5. 普通養子縁組と特別養子縁組を選ぶ予定ですが、給付金の金額自体に違いはありますか?
給付金の計算方法・支給率・上限額に違いはありません。 異なるのは「給付金開始日の基準日」のみです(特別養子縁組=審判確定日、普通養子縁組=縁組届受理日)。金額面での差はありませんが、基準日の違いにより給付開始のタイミングが異なることに留意してください。
Q6. 手続きは自分でハローワークに行けばよいですか?
育児休業給付金の申請は、原則として事業主(勤務先)がハローワークに対して代行申請する仕組みです。まず勤務先の人事・総務部門に相談し、必要書類を提出してください。事業主が手続き方法を把握していない場合は、管轄ハローワークの「雇用保険給付課」に事業主とともに相談することをお勧めします。
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まとめ
育休中に特別養子縁組で新たな子を迎えた場合の育児休業給付金について、重要なポイントを整理します。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 給付開始日の基準 | 家庭裁判所の審判確定日(認可日) |
| 里親委託の場合 | 児童相談所の委託日 |
| 普通養子縁組の場合 | 縁組届の受理日 |
| 遡及申請の期限 | 審判確定日から2年以内 |
| 申請の窓口 | 事業主経由でハローワーク |
| 最重要書類 | 審判書謄本・審判確定証明書 |
特別養子縁組という特殊な経緯で子を迎える場合、制度の複雑さから申請漏れが起きやすい状況です。認可日の正確な把握、速やかな勤務先への申し出、ハローワークへの早期申請の3点を徹底することで、本来受け取れる給付金を確実に受給してください。
不明点がある場合は、管轄のハローワーク(公共職業安定所) または認定社会保険労務士に相談することをお勧めします。多くの自治体でも特別養子縁組に関する相談窓口を設置していますので、地域の児童相談所・福祉事務所の支援制度も併せて活用してください。
参考法令・資料
- 育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)
- 雇用保険法 第61条の4〜第61条の9
- 雇用保険法施行規則 第99条〜第105条
- 民法 第809条(普通養子縁組)
- 民法 第817条の2(特別養子縁組)
- 児童福祉法 第27条第1項第3号(里親委託)
- 健康保険法 第159条(保険料免除)
- 厚生年金保険法 第81条の2(保険料免除)
- 厚生労働省通知「育児休業給付に関する留意事項について」(平成29年1月1日改正版)
- 厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」(最新版)
- 家庭裁判所「特別養子縁組の手続き」(公開資料)

