育児休業中は給与が減る代わりに「育児休業給付金」と「社会保険料免除」の2つで生活を支えるのが従来の仕組みでした。しかし2025年3月末をもって社会保険料免除制度が廃止されます。これにより育休中の手取り額は想定外に減少し、育休取得を検討している方や企業の人事担当者にとって看過できない変化が生じています。
本記事では廃止の背景・法的根拠・金額シミュレーション・企業側の対応策まで、最新情報をもとに体系的に解説します。
2025年3月に何が変わる?社会保険料免除廃止の全体像
育児休業期間中は、これまで健康保険料と厚生年金保険料の両方が従業員負担分・企業負担分ともに全額免除されていました。2025年3月31日をもってこの免除制度が廃止され、2025年4月1日以降に開始または継続している育児休業については、原則として社会保険料の支払いが発生するようになります。
時系列で変化を整理すると以下のとおりです。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| ~2025年3月31日 | 育児休業中は健康保険料・厚生年金保険料が全額免除(従業員・企業の双方) |
| 2025年4月1日~ | 免除制度廃止。育児休業中でも社会保険料の支払い義務が発生 |
| 経過措置対象者 | 廃止前から育休を取得中の方は、廃止後一定期間の経過措置が設けられる(詳細は所属の年金事務所・健康保険組合に確認) |
法的根拠は健康保険法第156条(改正)および厚生年金保険法第27条(改正)です。2022年末の厚生労働省告示によって廃止の方向性が決定され、段階的な周知期間を経て2025年3月末の廃止に至ります。
なぜ今、免除制度が廃止されるのか?廃止の3つの背景
① 社会保険財源の確保
少子高齢化の進展により、医療保険・年金財源ともに持続可能性への懸念が高まっています。育児休業者への免除総額は年間数千億円規模に達しており、財源確保の観点から見直しが不可欠と判断されました。免除廃止によって徴収される保険料は社会保険制度全体の財源強化に充てられます。
② 社会保険適用拡大との整合性
2022年10月・2024年10月と段階的に進められてきたパートタイム労働者等への社会保険適用拡大。「働く形態に関係なく公平に負担する」という原則を徹底するにあたり、育児休業中のみ全額免除とする制度は整合性を欠くと指摘されてきました。
③ 不公平感の是正
自営業・フリーランス・国民健康保険加入者は育休取得時でも社会保険料の免除がありません。会社員のみが恩恵を受ける仕組みへの不公平感を解消するため、免除制度の廃止が政策的に決断されました。
廃止対象となる保険料の種類(健康保険・厚生年金)
廃止によって支払いが必要になる保険料は以下の2種類です。
| 保険の種類 | 保険料率(協会けんぽ・東京都 2024年度) | 労使折半 |
|---|---|---|
| 健康保険料 | 10.00%(介護保険料率含む)※40歳以上は1.60%加算 | あり(各5.00%) |
| 厚生年金保険料 | 18.30% | あり(各9.15%) |
| 合計(40歳未満) | 28.30% | 各14.15% |
現行の免除制度では、この従業員負担分(概ね月収の14〜15%)が0円だったところ、廃止後は毎月控除が発生します。育児休業給付金そのものは継続されますが、給付金から保険料が差し引かれるわけではなく、給付金は現行どおり振り込まれたうえで、別途保険料が徴収される形になります(給与がゼロの場合の徴収方法は後述)。
【金額シミュレーション】免除廃止で手取りはいくら減る?
免除廃止の影響を実感するために、標準報酬月額別の試算を確認しましょう。協会けんぽ(東京都)の2024年度保険料率を使用し、40歳未満の従業員を想定しています。
月収別・負担増の試算表(2025年4月以降)
月収20万円モデル(標準報酬月額20万円)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 健康保険料(従業員負担分) | 10,000円/月 |
| 厚生年金保険料(従業員負担分) | 18,300円/月 |
| 月あたり合計負担増 | 28,300円/月 |
| 育休6ヶ月間の合計増加額 | 169,800円 |
| 育休12ヶ月間の合計増加額 | 339,600円 |
月収30万円モデル(標準報酬月額30万円)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 健康保険料(従業員負担分) | 15,000円/月 |
| 厚生年金保険料(従業員負担分) | 27,450円/月 |
| 月あたり合計負担増 | 42,450円/月 |
| 育休6ヶ月間の合計増加額 | 254,700円 |
| 育休12ヶ月間の合計増加額 | 509,400円 |
月収40万円モデル(標準報酬月額41万円適用)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 健康保険料(従業員負担分) | 20,500円/月 |
| 厚生年金保険料(従業員負担分) | 37,515円/月 |
| 月あたり合計負担増 | 58,015円/月 |
| 育休6ヶ月間の合計増加額 | 348,090円 |
| 育休12ヶ月間の合計増加額 | 696,180円 |
注記: 上記は協会けんぽ東京都の2024年度保険料率をもとにした概算です。健康保険組合加入者は組合ごとの料率が異なります。介護保険料(40〜64歳)は別途加算されます。実際の金額は毎年4月に改定される標準報酬月額・保険料率をご確認ください。
育休給付金との実質受取額を比較する計算式
育児休業給付金の支給率は以下のとおりです。
- 育休開始から180日目まで:休業開始時賃金月額の67%
- 181日目以降:休業開始時賃金月額の50%
2025年度以降(改正雇用保険法施行後)は、一定の要件を満たす場合に給付率が最大80%に引き上げられる予定(夫婦ともに育休を取得した場合等)ですが、本シミュレーションでは現行の67%・50%で計算します。
実質手取り率の計算式
実質月額受取額 = 育休給付金(月額) ― 社会保険料(月額)
育休給付金(月額) = 休業前賃金月額 × 給付率(67% or 50%)
実質手取り率 = 実質月額受取額 ÷ 休業前賃金月額 × 100
月収30万円モデルでの実質手取り率(免除廃止後)
| 期間 | 育休給付金 | 社会保険料負担 | 実質受取額 | 実質手取り率 |
|---|---|---|---|---|
| 1〜6ヶ月目(67%) | 201,000円 | 42,450円 | 158,550円 | 約52.9% |
| 7ヶ月目以降(50%) | 150,000円 | 42,450円 | 107,550円 | 約35.9% |
従来の免除制度がある場合、給付率67%がそのまま実質手取り率に直結していましたが、廃止後は1〜6ヶ月目でも実質52.9%、7ヶ月目以降は約36%程度まで低下します。育休期間が長くなるほど影響は累積します。
対象者チェックリスト:誰が影響を受けるか
免除廃止の影響を受けるのは主に以下に該当する方です。
影響を受ける方(要確認)
✓ 2025年4月1日以降に育児休業を開始する会社員・公務員
✓ 2025年3月31日時点で育児休業中で、4月以降も継続する方
✓ 厚生年金・健康保険(協会けんぽ・健保組合)に加入している被保険者
✓ 育児休業が1ヶ月を超える方(短期の場合は免除継続の可能性あり)
影響を受けない方(または対象外)
✗ 自営業者・フリーランス(もともと免除対象外)
✗ 国民健康保険・国民年金加入者
✗ 雇用保険未加入の日雇い労働者
✗ 2025年3月31日までに育休を終了する方
企業(事業主)側への影響
免除廃止の対象は従業員負担分だけでなく企業負担分(会社が支払う保険料)も同様です。これまで育休中の従業員がいれば会社側の保険料も免除されていましたが、2025年4月以降は企業にとっても保険料コストが発生します。
月収30万円の従業員が1人育休を取得している場合、企業が追加で負担する保険料は月あたり約42,450円(従業員負担額と同額)です。育休取得者が複数名いる企業では、人件費関連コストへの影響を事前に試算しておく必要があります。
保険料の実際の徴収方法:給与がない場合はどうなる?
育休中は給与の支払いがゼロか大幅に減少しているケースが大半です。社会保険料は通常「給与から天引き」されますが、給与がない場合の徴収方法は以下の2通りです。
方法①:翌月の給与・賞与からまとめて控除
育休明けに復職した際、育休期間中に未払いとなっていた保険料をまとめて翌月給与または賞与から控除する方法。企業が従業員に事前説明を行い、了解を得たうえで実施します。
方法②:毎月現金で納付
育休中でも毎月現金(口座振替等)で従業員が保険料を直接納付する方法。給与が出ない状態での月次支出が増えるため、家計への負担感が大きい方法です。
重要: 具体的な徴収方法は会社と年金事務所・健康保険組合の協議によって決まります。育休開始前に人事・総務担当者に徴収方法を確認し、育休中の生活費計画に組み込んでおくことが強く推奨されます。
申請手続きの変更点:2025年以降の育休給付金申請
社会保険料免除の廃止により、育休給付金の申請手続き自体に大きな変更はありませんが、関連する届出・手続きに注意点が生じます。
育休給付金の申請フロー(現行・廃止後ともに共通)
【Step 1】育児休業開始の申出(育休開始の1ヶ月前までに会社へ)
【Step 2】会社がハローワークへ「育児休業給付受給資格確認票」を提出
【Step 3】第1回目の支給申請(育休開始から約4ヶ月後が目安)
※会社経由でハローワークへ提出が一般的
【Step 4】ハローワークが支給決定(最短約2週間)
【Step 5】指定口座へ振込(2ヶ月分まとめて支給)
【Step 6】以降2ヶ月ごとに支給申請を繰り返す
廃止後に追加で必要な手続き
| 手続き | 担当窓口 | タイミング |
|---|---|---|
| 社会保険料の徴収方法確認 | 会社の人事・総務 | 育休開始前 |
| 保険料納付額の通知確認 | 健康保険組合・年金事務所 | 育休開始月翌月以降 |
| 育休終了後の清算処理 | 会社の人事・総務 | 復職時 |
| 産後パパ育休(出生時育休)の保険料確認 | 会社の人事・総務 | 出生後8週間以内 |
必要書類一覧
育休給付金の申請に必要な書類(変更なし)
- 育児休業給付受給資格確認票(初回のみ)
- 育児休業給付金支給申請書(2ヶ月ごと)
- 母子健康手帳(出生日確認)
- 賃金台帳・出勤簿(会社保管分)
- 振込先金融機関口座情報
社会保険料関連で新たに確認すべき書類
- 標準報酬月額決定通知書(保険料計算の根拠)
- 社会保険料納入告知額・領収済額通知書(毎月発行)
- 会社との保険料徴収に関する確認書(会社が独自に作成する場合あり)
育休中の手取り減少を最小化するための対策
労働者ができる5つの対策
① 育休前に生活費の備えを厚くする
免除廃止後は月額2〜6万円程度の追加負担が発生します。育休開始前の半年〜1年間で、育休期間に対応した生活費の積み立てを強化しましょう。月収30万円で12ヶ月育休を取る場合、保険料負担だけで約50万円超の準備が目安になります。
② 育休期間の長さを再設計する
7ヶ月目以降は給付率が67%から50%に下がり、保険料負担が同額のまま実質手取り率が約36%まで低下します。共働き家庭では夫婦で育休を分割取得し、給付率67%の期間を最大限に活用する設計が有効です(パパ・ママ育休プラスの活用)。
③ 産後パパ育休の活用による給付最大化
2022年10月から創設された産後パパ育休(出生時育児休業)は、子の出生後8週間以内に最長4週間取得できる制度です。父親がこの制度を活用することで、夫婦合計の給付金受取総額を増やし、家計全体での実質手取りを改善できます。
④ 配偶者控除・税制上の特典の確認
育休中の収入が大幅に減少した場合、配偶者の所得控除(配偶者特別控除)が適用できるケースがあります。年末調整・確定申告の時期に税理士や税務署に確認しましょう。
⑤ 会社の育休支援制度を確認・活用する
法律上の給付金とは別に、会社独自の育休補助金・育休中の手当制度を設けている企業もあります。就業規則・社内規定を再確認し、該当する支援制度があれば積極的に申請しましょう。
企業・人事担当者が取るべき対応
① 従業員への事前周知と説明会の実施
2025年4月以降に育休を開始する・継続する従業員に対し、保険料の徴収方法・金額・スケジュールを文書で事前に説明します。サプライズによるトラブルを防ぐためにも、人事担当者から個別の案内を行うことが重要です。
② 保険料徴収方法の社内ルール策定
「復職後にまとめて控除」「毎月現金徴収」など、会社としての統一方針を就業規則または運用規程に明文化しましょう。年金事務所・健康保険組合とも協議のうえ、トラブルのない運用を設計します。
③ 会社負担増の予算計上
育休中の従業員にかかる企業負担分の保険料も増加します。育休取得予定者の標準報酬月額をもとに、年度予算に保険料増加分を計上しましょう。
④ 育休取得促進の環境整備で給付率80%を目指す
2025年度以降の改正雇用保険法(施行時期は省令で確認)では、育休給付率が最大80%に引き上げられる要件として夫婦による育休の同時取得が想定されています。保険料負担増を従業員に課す一方で、給付率アップにつながる制度整備を進めることで従業員満足度を維持できます。
産休中の社会保険料免除との違い
育休(育児休業)と産休(産前産後休業)の保険料取り扱いを混同するケースがあります。整理しておきましょう。
| 区分 | 産前産後休業(産休) | 育児休業(育休) |
|---|---|---|
| 対象者 | 出産する女性従業員 | 男女ともに対象 |
| 期間 | 産前6週・産後8週 | 子が原則1歳まで(最長3歳まで延長可) |
| 社会保険料免除 | 廃止対象外(継続) | 2025年3月末に廃止 |
| 法的根拠 | 健康保険法第159条 | 健康保険法第156条(改正) |
産前産後休業中の社会保険料免除は廃止されません。 廃止の対象はあくまで育児休業期間中の免除に限られます。育休開始日より前の産休期間については、引き続き免除が適用されます。
まとめ:2025年4月以降の育休設計は早めの準備が鍵
2025年3月末の社会保険料免除廃止は、育休を取得するすべての会社員に影響を与える大きな制度変更です。要点を整理します。
- 何が変わる: 育児休業中の健康保険料・厚生年金保険料の免除が廃止され、2025年4月以降は従業員・企業ともに保険料支払いが必要
- 影響額の目安: 月収30万円で月約42,450円の追加負担(年間で約50万円超)
- 実質手取り率: 免除廃止後は育休前半でも約53%、後半は約36%程度に低下
- 産休中の免除: 産前産後休業中の免除は廃止対象外で継続
- 対策: 育休前の貯蓄強化・夫婦分割取得・会社との徴収方法確認が有効
育休取得を検討している方は、育休開始前に必ず会社の人事担当者と保険料の徴収方法を確認してください。企業の人事担当者は、年金事務所・健康保険組合との連携のもと、社内規程の整備と従業員への周知を早急に進めることをお勧めします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 2025年3月31日時点で育休中の場合、4月以降も免除は続きますか?
原則として、2025年4月1日以降は育休中であっても社会保険料の免除が廃止されます。ただし経過措置の設定が検討されており、詳細は所属の年金事務所または健康保険組合に直接確認してください。3月末時点での育休継続者は特に注意が必要です。
Q2. 育休給付金の金額や申請方法は変わりますか?
育児休業給付金(雇用保険から支給)の申請手続き・支給率・申請期限自体に変更はありません。変更があるのは社会保険料(健康保険・厚生年金)の免除の廃止であり、給付金はこれまでどおり2ヶ月ごとにハローワーク経由で申請・受取ができます。
Q3. 育休中に給与が出ない場合、保険料はいつ・どこに払えばいいですか?
会社が立替払いをして復職後の給与から控除する方法と、毎月直接納付する方法があります。どちらの方法を採用するかは会社と年金事務所・健康保険組合の協議によって決まります。育休開始前に会社の人事・総務担当者に必ず確認しましょう。
Q4. パパ育休(産後パパ育休)も保険料免除廃止の対象ですか?
はい、産後パパ育休(出生時育児休業)も育児休業の一形態であるため、2025年4月以降は同様に社会保険料免除が廃止されます。4週間以内の短期取得であっても対象となる点に注意してください。
Q5. 個人事業主・フリーランスは影響を受けますか?
もともと厚生年金・健康保険(協会けんぽ等)に加入していない個人事業主・フリーランスは免除制度の対象外でしたので、今回の廃止による直接的な影響はありません。ただし、国民年金・国民健康保険の産前産後免除制度(別制度)は引き続き適用されます。
Q6. 会社側(事業主)の保険料負担も増えますか?
はい。社会保険料は労使折半のため、従業員負担分と同額が企業負担として発生します。月収30万円の従業員1名につき、企業側も月約42,450円の追加コストが発生します。育休取得者数が多い企業は年度予算への影響を事前に試算しておくことを強くお勧めします。
免責事項: 本記事は2024年末時点の情報をもとに作成しています。法改正・保険料率の改定によって内容が変わる場合があります。具体的な手続きや金額については、ハローワーク・年金事務所・加入健康保険組合または社会保険労務士にご相談ください。


