育休中に「給与をもらい続けるか」「育児休業給付金を受け取るか」——この選択は、手取り額に大きな差を生む可能性があります。その核心にあるのが税金の扱いの違いです。育児休業給付金は所得税も住民税も非課税ですが、給与は課税対象。この一点だけで、受け取り方によって数十万円単位の差が出ることもあります。
本記事では、2025年時点の制度をもとに、給与と給付金の仕組みの違い・税金の計算方法・年収別の手取り比較を徹底的に解説します。「自分はどちらが得か」を判断できるよう、具体的な数字と法的根拠もあわせて示していきます。育休の選択は一度きりではなく、会社の制度やご家庭の事情によって最適な判断が変わります。迷ったときは、この記事と公式情報を合わせて、人事担当者やハローワークに相談することをお勧めします。
育休中のお金の受け取り方は「給与」か「給付金」の2択
育休中に受け取れる経済的な保障には、大きく分けて「育児休業給付金」「給与継続支給」「休業手当」の3種類があります。ただし、これらをすべて同時に受け取れるわけではなく、実質的には給与系(企業が払う)か給付金系(国が払う)かの2択に整理されます。
まずはそれぞれの仕組みを確認しておきましょう。
育児休業給付金とは?支給元・金額・対象者の基本
育児休業給付金は、雇用保険法第61条の4〜61条の6を根拠とし、ハローワーク(公共職業安定所)を通じて支給される国の給付制度です。支給元は会社ではなく、雇用保険の財源から賄われます。
支給額の計算式
| 育休開始からの期間 | 給付率 | 手取り換算目安 |
|---|---|---|
| 開始〜180日目(6ヶ月) | 休業開始前賃金の67% | 手取りベースで約80%相当 |
| 181日目以降 | 休業開始前賃金の50% | 手取りベースで約60%相当 |
※「休業開始前賃金」は、原則として育休開始前6ヶ月の賃金を180で割った額(休業開始時賃金日額)を基準に算定されます。なお、支給上限額は賃金日額の上限規定により決まります(2025年8月1日以降の上限額は毎年8月1日に改定)。
受給要件(主なもの)
- 雇用保険の一般被保険者であること
- 育休開始前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上(または就業時間が80時間以上)の月が12ヶ月以上あること
- 育休期間中の就業日数が月10日以下(または就業時間が80時間以下)であること
- 育休を取得している子が満2歳未満であること(保育所に入れない等の事情がある場合は最長2歳まで延長可能)
申請は原則として会社(事業主)経由でハローワークに行います。1〜2ヶ月ごとにまとめて申請するのが一般的で、支給は申請後おおむね2週間程度で口座に振り込まれます。
給与継続支給・休業手当とは?企業が支払う場合の仕組み
育休中も給与を支払い続ける制度は、法律で義務付けられているものではなく、各企業の就業規則や労働協約による独自の取り組みです。一部の大企業や公務員の職場では、育休中も給与の一部または全額を支給するケースがあります。
一方、休業手当は異なる概念です。労働基準法第26条に基づき、「使用者側の都合で休業させた場合」に支払う義務があるもので、平均賃金の60%以上が最低基準です。ただし、育児休業は労働者が申し出て取得するものであるため、休業手当の支払い義務が生じるわけではありません。育休中に会社が任意で支給する場合は「給与の一部支給」として扱われることがほとんどです。
両方は原則受け取れない——重複受給のルールを確認
「給与ももらいながら給付金ももらえれば一番いい」と思うかもしれませんが、原則として両方の満額受給はできません。育休中に給与(賃金)の支払いがある場合、その額に応じて給付金が減額または不支給になる仕組みになっています。
重複時の調整ルール(給付金の減額基準)
| 給与の支給額(休業前賃金比) | 給付金の扱い |
|---|---|
| 13%以下 | 給付金は満額支給 |
| 13%超〜80%未満 | 給付金は減額(合計が80%を超えないよう調整) |
| 80%以上 | 給付金は支給されない |
つまり、会社が育休中に休業前賃金の80%以上を給与として支給していれば、給付金はゼロになります。実質的には「給与か給付金か、どちらか一方を選ぶ」構造になっているのです。
【最重要】税金の扱いが全然違う——課税 vs 非課税の比較
給与と給付金の最大の違い、それが税金の扱いです。同じ金額を受け取ったとしても、課税か非課税かによって手取り額は大きく変わります。このセクションが本記事の最も重要な部分であり、育休中の給与選択を左右する最大のポイントです。
育児休業給付金は「非課税」——所得税も住民税もかからない理由
育児休業給付金は、所得税の課税対象となる「所得」に該当しません。根拠となるのは所得税法第9条第1項第13号で、「雇用保険法に基づく給付金」として非課税所得に列挙されています。
この非課税の範囲は所得税だけにとどまりません。
育児休業給付金に課税されないもの一覧
| 税・保険料の種類 | 課税・徴収の有無 |
|---|---|
| 所得税 | 非課税・ゼロ |
| 住民税(翌年分) | 非課税・ゼロ |
| 健康保険料 | 育休中は免除(社会保険料免除制度による) |
| 厚生年金保険料 | 育休中は免除(同上) |
住民税については、育児休業給付金は「合計所得金額」に含まれないため、翌年に課税される住民税の計算にも影響しません。これは、年収がそのまま課税ベースになる給与とは根本的に異なります。
また、年末調整や確定申告においても、育児休業給付金は申告不要です。給付金しか受け取っていない期間は、収入ゼロとして扱われます。これにより、育休を取得した年の年収が下がり、配偶者控除・配偶者特別控除の対象になる可能性も出てきます(配偶者の合計所得金額が48万円以下で配偶者控除、133万円以下で配偶者特別控除の対象)。
ポイント:給付金は「収入ゼロ扱い」になるため、その年の課税所得を下げる効果がある
給与として受け取ると「課税」——所得税・住民税が発生する仕組み
一方、会社から給与として受け取る場合は、金額にかかわらず給与所得として課税対象になります(所得税法第28条)。
給与所得の課税プロセスは以下のとおりです。
① 源泉徴収(毎月)
給与支給時に会社が所得税を天引き。育休中も支給があれば源泉徴収の対象になります。
② 住民税(翌年課税)
当年の給与所得をベースに翌年の住民税が計算されます。育休中に給与をもらった場合、翌年の住民税が発生します。育休明けに「住民税が高い」と感じる一因はここにあります。
③ 社会保険料
育休中は申請により健康保険料・厚生年金保険料が免除されますが、これは「育休中に給与の支払いがある場合も免除」という制度です(育児・介護休業法に基づく社会保険料免除制度)。ただし、月途中の短時間就労による給与支給がある場合は免除されないケースもあるため注意が必要です。
④ 年末調整
育休中に給与支給があれば、年末調整の対象になります。年内に育休を終えて復職した場合は、育休前後の給与をまとめて年末調整します。
年収別・手取り比較——具体的な数字で確認しよう
実際にどのくらい差が出るのか、モデルケースで比較します。
前提条件の整理
- 育休期間:12ヶ月(子どもが1歳になるまで)
- 育休前の月給(手取り):各モデルケース参照
- 社会保険料:育休中は免除(給与・給付金どちらの場合も同様)
- 住民税:育休中は特別徴収が一時停止または普通徴収に切り替わる場合あり
- 源泉徴収票と給与明細をもとに算出
モデルケース①:月給30万円(年収約360万円)の場合
【給付金を受け取る場合(育休6ヶ月+6ヶ月)】
育休開始前6ヶ月の平均給与が30万円の場合、育児休業給付金の計算ベースとなる「休業開始時賃金日額」は約13,333円となります。
| 期間 | 給付率 | 月額給付金(概算) |
|---|---|---|
| 1〜6ヶ月目 | 67% | 約201,000円 |
| 7〜12ヶ月目 | 50% | 約150,000円 |
- 年間合計受取額:約2,106,000円
- 所得税・住民税:ゼロ
- 手取り合計:約2,106,000円
【給与を受け取る場合(月給30万円を12ヶ月)】
- 年間総支給額:3,600,000円
- 所得税(概算):約100,000円(年間)
- 住民税(翌年):約170,000円
- 手取り合計(所得税分のみ控除):約3,500,000円
一見、給与のほうが受取額が大きく見えます。ただし、ここで注意すべきは以下の点です。
給与を選ぶと「給付金はゼロ」になる(会社が80%以上支給した場合)
つまり「給与30万円」と「給付金20万円」を単純比較しても意味がなく、「会社が給与を払い続ける制度があるか」が前提になります。中小企業の多くは育休中の給与支給制度がないため、現実的な選択肢は給付金のみというケースが大半です。
モデルケース②:月給50万円(年収約600万円)の場合
育児休業給付金には賃金日額の上限があります。2025年8月1日以降、支給上限額(1ヶ月あたり)は以下の通りです。
| 期間 | 1ヶ月あたりの上限支給額(目安) |
|---|---|
| 育休開始〜6ヶ月(67%) | 約310,143円 |
| 7ヶ月目以降(50%) | 約231,450円 |
※上限額は毎年8月1日に見直されます。正確な額はハローワークまたは厚生労働省の最新情報をご確認ください。
月給50万円の場合、給付金の計算ベースは上限でキャップされるため、給付率67%のまま単純計算すると約335,000円になりますが、上限規定により実際の支給はそれより少なくなります。高収入の方ほど「給付金だけでは元の生活水準を維持しにくい」ことを念頭に置く必要があります。
【給付金受取の場合】
- 年間合計受取額:約3,600,000円(上限により減額)
- 所得税・住民税:ゼロ
- 手取り合計:約3,600,000円
【給与受取の場合】
- 年間総支給額:6,000,000円
- 所得税(概算):約200,000円
- 住民税(翌年):約300,000円
- 手取り合計(所得税分のみ控除):約5,800,000円
高収入層の場合、給付金の上限により「給与支給のほうが実際の受取額は大きい」ケースになります。ただしこれは「会社が給与を支給する制度を持つ場合」の前提です。
税負担を含めた総合比較(まとめ)
| 比較項目 | 育児休業給付金 | 給与継続支給 |
|---|---|---|
| 支給元 | 雇用保険(国) | 企業 |
| 所得税 | 非課税 | 課税 |
| 住民税(翌年) | 非課税 | 課税 |
| 社会保険料 | 免除(別途申請) | 免除(別途申請) |
| 年末調整 | 不要 | 必要 |
| 配偶者控除への影響 | 影響なし(所得ゼロ) | 所得が増え控除対象外になる可能性 |
| 実質的な手取り率 | 支給額の100% | 支給額の85〜90%程度(税引後) |
育休と税金にまつわる重要な注意点
住民税の「ズレ」に注意
住民税は前年の所得をもとに翌年6月から翌々年5月にかけて課税されます。たとえば、2024年に育休を取得して給付金のみを受け取った場合、2024年の所得はゼロになるため、2025年6月以降の住民税は大幅に下がります(または非課税になる場合も)。
一方、2024年に給与を受け取っていた場合は、2025年の住民税が通常どおりかかります。育休から復職した直後に「住民税が重い」と感じるのは、前年に給与所得があったためです。
ふるさと納税への影響
育休中に給付金のみを受け取っている場合、課税所得がゼロになるため、ふるさと納税の控除限度額も実質ゼロになります。育休前年や復職後に計画的に行うことが重要です。
育休中の確定申告が必要になるケース
育児休業給付金は申告不要ですが、以下のケースでは確定申告が必要または有益になることがあります。
- 育休中に副業・フリーランス収入があった場合(年20万円超)
- 年の途中で育休に入り、年末調整が未完了のまま退職した場合
- 医療費控除を申告する場合
- 住宅ローン控除の初年度申告
給与を選んだほうが得になるケースはある?
原則として税金面では給付金が有利ですが、以下のような状況では給与支給が検討に値します。
給与支給が有利になる可能性があるケース
-
育休期間が非常に短い場合(1〜2ヶ月程度)
給付金の手続き負担が大きく、給与でそのまま支給されるほうがシンプルなケースもある。 -
育休前賃金が非常に低い場合
給付率67%や50%では生活費を賄えないほど元の給与が低い場合、会社の補填給与のほうが実生活では助かることがある。 -
将来の年金受給額を上げたい場合
厚生年金の標準報酬月額は、給与が支払われていれば継続して記録されますが、給付金のみの期間は賃金実績には影響しません(ただし育休中の社会保険料免除中も「みなし標準報酬」で年金が計算される仕組みがあります)。 -
会社が給与の100%を保障する制度がある場合
大手企業や一部の公務員職場では、育休中も給与100%を支給する制度があります。この場合、給付金はもらえなくなりますが、税引き後でも手取りが大幅に増えることがあります。
申請手続きの流れと必要書類
育児休業給付金の申請手順
育児休業給付金の申請は、原則として会社(事業主)経由でハローワークに行います。本人が直接ハローワークに行く必要は基本的にありません。
申請の流れ
STEP 1:育休開始前(1〜2ヶ月前)
└─ 会社の人事・総務に育休取得の意思と給付金申請の希望を伝える
STEP 2:育休開始後(速やかに)
└─ 会社が「育児休業給付金受給資格確認票・初回支給申請書」を作成
└─ ハローワークに提出(会社が代行)
STEP 3:2回目以降の申請(2ヶ月ごと)
└─ 「育児休業給付金支給申請書」を会社が提出
└─ 支給決定後、約2週間で口座に振込
STEP 4:育休終了時
└─ 終了の手続きを会社がハローワークに報告
主な必要書類(会社が準備)
| 書類名 | 内容 |
|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認票・初回支給申請書 | 初回の申請に使用 |
| 育児休業給付金支給申請書 | 2回目以降に使用 |
| 賃金台帳・出勤簿 | 休業前の賃金証明用 |
| 育児休業取扱通知書 | 育休の開始・終了を証明 |
| 母子健康手帳(子の生年月日確認) | 対象となる子の確認用 |
| 被保険者の通帳(写し) | 振込先の確認 |
申請期限は、各支給対象期間の末日の翌日から2ヶ月以内です。申請が遅れると時効(2年)で受給権が消滅するケースもあるため、会社への早めの申し出が重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 育休中に少しだけ仕事をしても給付金はもらえますか?
就業日数が月10日以下、かつ就業時間が月80時間以下であれば、原則として給付金は受給できます。ただし、就労による収入が発生した場合は申告が必要で、一定額を超えると給付金が減額されることがあります。会社の人事担当者を通じて事前にハローワークに確認することをお勧めします。
Q2. 育児休業給付金は確定申告する必要がありますか?
不要です。育児休業給付金は非課税所得であり、申告義務はありません。ただし、給付金以外に副業収入や不動産所得がある場合は、それらについて別途確定申告が必要になる場合があります。
Q3. 育休中も住民税を払い続けなければなりませんか?
育休「中」の住民税は、前年の所得に基づくものです。育休開始前に給与所得があれば、育休中も住民税の支払いが発生します。ただし、育休中に給付金のみを受け取り前年の所得が少なければ、育休期間の住民税は少なくなります。なお、翌年課税分(育休中の所得が非課税のため)は大幅に減少します。
Q4. 夫婦で同時に育休を取ることはできますか?その場合の給付金はどうなりますか?
2022年10月の育児・介護休業法改正により、「産後パパ育休(出生時育児休業)」が創設され、夫婦で同時に育休を取得することが可能になりました。それぞれが受給要件を満たしていれば、夫婦それぞれが育児休業給付金を受け取ることができます。
Q5. 育休中の給付金は、翌年の保育所の利用料(保育料)に影響しますか?
保育料は市区町村民税の額をもとに算定される自治体が多いです。育休中に給付金のみで過ごした年は課税所得が下がるため、翌年度の保育料が低くなる可能性があります。ただし、算定基準は自治体によって異なるため、お住まいの市区町村の窓口で確認することをお勧めします。
Q6. 育休後に退職した場合、もらった給付金は返還しなければなりませんか?
育休後に退職しても、適法に取得した育児休業給付金を返還する義務はありません。ただし、育休前から退職を前提として育休を取得した場合は不正受給と見なされる可能性があるため、注意が必要です。また、会社独自の育休中給与支給制度では「育休後一定期間勤務しなければ返還」を定める規定がある場合もあります。就業規則を必ず確認してください。
まとめ——税金面では給付金が圧倒的に有利
本記事の内容を整理します。
給与 vs 給付金、税金面での結論
- 育児休業給付金は所得税・住民税ともに非課税。手取りが支給額の100%になる。
- 給与は課税対象。所得税・翌年の住民税が発生し、手取りが目減りする。
- 給与と給付金の重複受給は原則不可。会社が休業前賃金の80%以上を支給すると給付金はゼロになる。
- 給付金を受け取ることで課税所得が下がり、配偶者控除・保育料の軽減にも好影響をもたらす可能性がある。
税金面だけで見れば、育児休業給付金を活用するほうが明らかに有利です。会社から育休中に給与が支払われる制度がある場合でも、給付金との兼ね合いや税負担を考慮したうえで、人事担当者やハローワークに具体的なシミュレーションを依頼することをお勧めします。
特に、月給50万円を超えるような高収入層の場合でも、給付金の上限規定により「給付金では十分な保障が難しい」可能性があります。その際は、会社の給与支給制度の有無を最優先に確認し、なければ育休前に貯蓄を確保するなど、ご家庭の事情に応じた準備をしておくことが重要です。
育休の制度は毎年改正が続いています。2025年時点の最新情報は厚生労働省の公式サイトやハローワーク窓口で必ずご確認ください。
参考法令・根拠
– 雇用保険法 第61条の4〜61条の6
– 所得税法 第9条第1項第13号
– 所得税法 第28条(給与所得)
– 労働基準法 第26条
– 育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)

