育児休業給付金(以下「育休給付金」)を受け取っている方の多くが「確定申告は必要?」「税金はかかる?」と疑問を持ちます。結論からお伝えすると、育休給付金は所得税法第9条により非課税であり、給付金のみを受け取っているケースでは原則として確定申告は不要です。
ただし、「医療費控除を受けたい」「育休中に副業収入があった」といった事情がある場合は別途手続きが必要になることがあります。この記事では、育休給付金の非課税根拠を法律の条文レベルから丁寧に解説したうえで、確定申告が必要・不要になる状況をケース別に整理します。また、申告書への正確な記載方法、住民税への影響、ハローワークでの申請手続きに至るまで、育休中の税務手続きを総合的にガイドします。税務的な不安をスッキリ解消して、育休期間を安心して過ごしていただけるよう、具体的かつ実用的な情報をお届けします。
育休給付金は「非課税」——その法的根拠をわかりやすく解説
所得税法第9条とは?非課税所得の仕組み
所得税は、個人が1年間に得た「所得」に対して課税される税金です。しかし、すべての収入が課税対象になるわけではありません。所得税法第9条は「非課税所得」を列挙しており、ここに掲げられた収入は所得税の計算対象から除外されると定められています。
第9条が非課税と規定している収入には、障害年金・遺族年金・失業等給付などの社会保障給付が含まれており、育児休業給付金はこのうち「雇用保険法の規定による失業等給付(育児休業給付)」として非課税所得に該当します。
所得税法第9条(抜粋・概要)
次に掲げる所得については、所得税を課さない。
……雇用保険法の規定による失業等給付金……
この規定により、育休給付金は所得税の課税対象となる「所得」として計上されないため、いくら受け取っても所得税は発生しません。また、住民税(地方税)については地方税法第24条および第294条において、所得税の非課税所得に準じた取り扱いがなされているため、住民税も課税されません。
なお、育休給付金は雇用保険制度に基づく給付であり、国税庁も「雇用保険の育児休業給付金は非課税」との見解を公式に示しています。所得税基本通達9-1〜9-4においても、社会保障給付の非課税扱いが確認されており、税務上の扱いは法令により明確に定められています。
育休給付金が非課税になる3つのポイント
育休給付金の非課税性は、税務上で次の3つの側面から確認できます。
① 所得税がゼロになる
給付金額がどれだけ高くても、所得税法第9条の適用により所得税は一切発生しません。月額上限(2024年度時点で支給率67%適用時の上限は約305,319円/月)を超えたとしても同様です。源泉徴収の対象にもならないため、支払調書や源泉徴収票に育休給付金の金額は記載されません。
② 住民税がゼロになる
住民税は前年の所得をもとに課税されますが、育休給付金は所得に含まれないため、翌年度の住民税の計算にも影響しません。育休取得翌年に「住民税がほとんどかからない」と感じる方が多いのは、育休中の給与収入が大幅に減少していることに加え、給付金が住民税の課税対象外であることが理由の一つです。
③ 社会保険料の標準報酬月額の計算対象外になる
育休給付金は「報酬」ではないため、健康保険・厚生年金保険の標準報酬月額の算定には含まれません。また、育休期間中は本人・事業主双方の社会保険料が免除される制度(健康保険法第159条、厚生年金保険法第81条の2)があり、育休給付金を受け取りながら社会保険料負担もゼロになるケースが多くあります。
他の給付金との比較(参考)
– 持続化給付金(コロナ禍):課税対象(事業所得・雑所得に算入)
– 児童手当:非課税(ただし所得制限あり)
– 育休給付金:非課税(所得制限なし、金額に関わらず)
このように育休給付金は、税務上きわめて有利な給付です。「受け取りすぎると税金がかかるのでは?」という心配は無用です。
育休給付金を受け取っている間、確定申告は必要か?
原則「申告不要」——給付金のみ受け取っている場合
育休給付金だけを受け取っており、他に申告すべき所得や控除の申請がない場合は、確定申告は一切不要です。
理由は明快です。育休給付金は非課税所得であり、所得税法上の「所得」に該当しないため、そもそも申告書に記載する欄も義務もありません。確定申告書の「収入金額」「所得金額」のどちらの欄にも、育休給付金の金額を書く必要はありません。
また、源泉徴収票にも育休給付金は記載されません。源泉徴収票はあくまで給与等の課税所得を証明する書類であり、非課税給付である育休給付金は記載対象外です。年末調整においても、育休給付金の金額を勤務先に報告する必要はありません。
なお、育休中に給与の支払いが一部あった場合(例:育休開始月に数日分の給与が支払われた場合)は、その給与部分は通常どおり課税対象となりますが、勤務先が年末調整を行うことで、原則として確定申告は不要になります。
「申告が必要になるケース」チェックリスト
育休給付金自体の申告は不要ですが、以下のようなケースでは育休中であっても確定申告が必要または有利になる場合があります。ご自身の状況と照らし合わせてご確認ください。
✅ 確定申告が必要・有利になるケース
-
医療費控除を受けたい場合
出産・入院・通院などで年間医療費が10万円(または所得の5%)を超えた場合、確定申告で医療費控除を申請できます。この場合でも、申告書に育休給付金の金額は記載しません。医療費控除の計算は課税所得をベースにするため、非課税の給付金は関係ありません。 -
配偶者控除・配偶者特別控除の適用を変更したい場合
育休中の所得が減少したことで、配偶者(パートナー)の所得控除の種類や金額が変わる可能性があります。ただし、この手続きは配偶者側の年末調整または確定申告での対応となります。 -
副業・フリーランス収入がある場合
育休中に在宅で副業収入を得た場合、その所得が年間20万円を超えると確定申告が必要です。副業収入は雑所得または事業所得として申告しますが、育休給付金はここには含めません。 -
個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛金控除を申請する場合
iDeCoの掛金は小規模企業共済等掛金控除として申告できます。育休中も掛金を継続している場合は、確定申告で控除を受けられます。ただし、育休中は課税所得が少ないため、控除の効果が限定的な場合もあります。 -
住宅ローン控除の初年度申請
住宅ローン控除の初年度は確定申告が必要です(2年目以降は年末調整で対応可)。育休中でも手続きは同様です。 -
年途中で退職した年に育休を取得していた場合
同年中に退職した給与収入がある場合、年末調整が行われていないことがあるため、確定申告が必要なケースがあります。 -
ふるさと納税でワンストップ特例を利用しなかった場合
ワンストップ特例(5自治体以内)を使わずにふるさと納税を行っている場合、寄付金控除のために確定申告が必要です。
給与と育休給付金を同じ年に受け取った場合の取り扱い
育休は年の途中から取得するケースがほとんどのため、同じ年に「給与所得」と「育休給付金」の両方を受け取ることが一般的です。この場合の税務処理は以下のとおりです。
給与所得部分
育休取得前(および職場復帰後)に受け取った給与は、通常どおり所得税・住民税の課税対象です。勤務先が年末調整を行う場合は、給与所得については申告不要になります。
育休給付金部分
先述のとおり、全額非課税です。給与所得と合算して所得を計算する必要はありません。
具体的なイメージ(例)
| 項目 | 金額 | 課税対象 |
|---|---|---|
| 1〜3月の給与収入 | 75万円 | ✅ 課税対象 |
| 4〜12月の育休給付金 | 135万円 | ❌ 非課税 |
| 合計受取額 | 210万円 | 給与75万円のみ課税 |
この例では、課税所得の計算に使われるのは給与75万円のみです。給与所得控除を差し引いた後の所得金額をもとに所得税・住民税が計算され、育休給付金135万円は計算に一切影響しません。
なお、育休中に賞与(ボーナス)が支給された場合も給与と同様に課税対象となります。賞与は給与所得に含まれるため、年末調整の際に合算して処理されます。
確定申告書への育休給付金の記載方法
申告書のどこにも記載不要——正確な書き方
確定申告書(第一表・第二表)において、育休給付金を記載する欄は存在しません。記載が必要な主な項目は次のとおりです。
記載が必要な項目(育休中でも課税所得がある場合)
- 給与所得の欄:育休取得前・復帰後に受け取った給与収入
- 医療費控除の欄:出産・育児にかかった医療費(申請する場合)
- 社会保険料控除の欄:支払った国民健康保険料・国民年金保険料など
記載が不要な項目
- 育休給付金の金額:一切不要
- 雇用保険の受給額:育休給付金は記載不要(失業給付も同様)
申告書記入時の注意点
確定申告書の「収入金額等」欄に育休給付金を誤って記入してしまうと、本来ゼロであるはずの課税所得が増加し、還付額が減る・または納税が発生するという誤った結果になります。申告ソフトやe-Taxを使用する際も、育休給付金の入力欄は設けられていないため、無理に入力しないよう注意してください。
住民税への影響と非課税証明書の活用
育休給付金と住民税申告の関係
住民税は前年(1月〜12月)の所得をもとに翌年6月から課税されます。育休給付金は非課税所得であるため、受給額が多くても翌年度の住民税には影響しません。
ただし、育休中に給与収入がほとんどなかった場合、翌年度の住民税が非常に低くなる(または非課税になる)ことがあります。これは給付金が非課税であるのに加え、育休期間中の課税所得(給与)が少ないためです。
住民税非課税の目安(2024年度参考値)
自治体によって異なりますが、一般的に合計所得金額が35万円以下(扶養親族がいる場合は35万円×(本人+扶養人数)+32万円以下)であれば住民税が非課税になります。育休中の給与収入が少ない場合、この水準に該当するケースがあります。
非課税証明書・所得証明書が必要な場合
保育園の入園審査、各種給付金の申請、奨学金の手続きなどで「所得証明書」や「非課税証明書」の提出を求められることがあります。
育休給付金は所得証明書に記載されません。育休給付金は非課税所得のため、市区町村が発行する所得証明書には収入金額として反映されません。そのため、給与所得が少ない育休中・育休翌年は、所得証明書上の収入金額が実際の受取額より大幅に少なく見える場合があります。
保育園の入園審査では、所得証明書に加えて「育休中であること」を証明する書類(育児休業取得確認通知書など)を併せて提出することで、適切な審査を受けられます。事前に各自治体や施設に確認することをお勧めします。
育休給付金の申請手続きと受け取りまでの流れ
確定申告が不要であることが分かった上で、育休給付金を確実に受け取るための申請手続きも確認しておきましょう。
ハローワークへの申請手続きの流れ
① 育児休業開始(事業主が雇用保険へ報告)
↓
② 初回申請(育休開始から約2ヶ月後)
・事業主経由でハローワークへ提出
↓
③ 定期申請(1〜2ヶ月ごと)
・支給単位期間ごとに継続申請
↓
④ 給付金の受領(銀行振込)
・通常、申請から約1〜2週間で振込
↓
⑤ 確定申告【原則不要】
・医療費控除等が必要な場合のみ申告
↓
⑥ 源泉徴収票・年末調整の確認
・育休給付金は記載なし(正常)
申請に必要な主な書類
| 書類名 | 内容・備考 |
|---|---|
| 育児休業給付金支給申請書 | ハローワーク所定の様式。事業主が記入・提出するケースが多い |
| 賃金台帳 | 事業主が準備。育休前の賃金を確認するために使用 |
| 出勤簿・タイムカード | 育休期間中の就労日数を確認するために使用 |
| 母子健康手帳(出生証明) | 子の生年月日確認のため(初回申請時) |
| 育児休業取得確認通知書 | 育休取得を証明する書類(雇用主が発行) |
| 振込先口座情報 | 本人名義の口座 |
なお、多くの企業では事業主(会社の人事・総務担当)がハローワークへの申請手続きを代行します。従業員は必要書類を会社に提出し、会社がまとめて申請するのが一般的な流れです。
給付金の支給額の計算方法
育休給付金の支給額は、休業開始時の賃金をもとに以下のように計算されます。
支給額の計算式
| 期間 | 支給率 | 計算式 |
|---|---|---|
| 育休開始〜180日目 | 67% | 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67% |
| 181日目以降 | 50% | 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 50% |
支給上限額(2024年度参考値)
| 支給率 | 上限額(月額) |
|---|---|
| 67%適用時 | 約305,319円 |
| 50%適用時 | 約227,850円 |
※上限額は毎年8月1日に改定されます。最新の金額はハローワークまたは厚生労働省のウェブサイトでご確認ください。
これらの給付金はすべて非課税であり、上限額を受け取った場合でも所得税・住民税はゼロです。
よくある疑問・誤解を解消する
育休給付金の税務に関して、実際によく寄せられる疑問をまとめました。
Q1. 育休給付金の受給額が多かった年は、翌年の住民税が上がりますか?
A. いいえ、上がりません。育休給付金は非課税所得であるため、受給額がいくら多くても住民税の課税対象所得には含まれません。住民税に影響するのは給与所得など課税所得のみです。
Q2. 確定申告書に育休給付金の金額を記入しないと、税務署に怪しまれませんか?
A. 全く問題ありません。育休給付金は非課税所得であり、確定申告書への記載義務がないため、記入しないことが正しい対応です。税務署も育休給付金が非課税であることを把握しており、未記入を不審に思うことはありません。
Q3. 育休中に株式の配当収入や売却益があった場合はどうなりますか?
A. 株式の配当収入や譲渡所得は課税対象です。育休給付金とは別に、これらの所得が確定申告の要件(総合課税の場合、給与以外の所得が20万円超など)に該当する場合は申告が必要です。ただし、これらを申告する際も育休給付金は申告書に記載する必要はありません。
Q4. 育休中に年末調整の書類を会社から求められました。育休給付金の金額を記入すべきですか?
A. 記入不要です。年末調整は給与所得に対して行われるものであり、育休給付金は給与ではなく雇用保険からの非課税給付です。「生命保険料控除申告書」「扶養控除等申告書」など通常の年末調整書類への育休給付金の記入欄はなく、書く必要もありません。
Q5. 育休取得後に退職した場合、育休給付金の返還や課税はありますか?
A. 退職後に育休給付金を受け取っていた場合、一定の条件下では返還を求められることがあります(例:育休終了後の職場復帰が条件だったにもかかわらず退職した場合)。ただし、返還義務がない受給済み給付金については、退職後であっても非課税の扱いに変わりはなく、課税されることはありません。返還が必要かどうかはハローワークまたは事業主に確認してください。
Q6. パートナー(配偶者)が育休中で収入が減った場合、配偶者控除を受けられますか?
A. 育休中のパートナーの「合計所得金額」が48万円以下であれば配偶者控除、48万円超133万円以下であれば配偶者特別控除が適用できます。育休給付金は所得に含まれないため、配偶者の所得を計算する際には育休給付金を除いた課税所得(給与所得など)のみで判定します。育休中に給与所得が少なくなった場合、配偶者控除が適用できるケースが増えます。この控除はパートナー(配偶者)側の年末調整または確定申告で申請します。
Q7. 医療費控除の申請時、育休給付金は総所得金額に含めるべきですか?
A. いいえ、含める必要はありません。医療費控除は「医療費の合計−10万円(または所得の5%のいずれか低い方)」で計算されますが、この計算の「所得」には課税所得のみが該当します。育休給付金は非課税所得であるため、医療費控除の計算には一切影響しません。
まとめ
育休給付金の税務上の取り扱いについて、重要ポイントを整理します。
| 項目 | 結論 |
|---|---|
| 所得税 | 非課税(所得税法第9条) |
| 住民税 | 非課税(地方税法の準用) |
| 社会保険料 | 計算対象外(育休中は免除制度あり) |
| 確定申告 | 原則不要(医療費控除等がある場合は必要) |
| 申告書への記載 | 不要(収入欄・所得欄どちらも記入しない) |
| 源泉徴収票への記載 | なし(正常な状態) |
| 住民税への影響 | なし(翌年の住民税計算に含まれない) |
育休給付金は、受け取る金額の多寡にかかわらず完全に非課税です。税金の心配をすることなく、安心して育児に専念していただくための制度として設計されています。
一方で、医療費控除・iDeCo・副業収入・配偶者控除の変更など、育休給付金以外の事情で確定申告が必要になるケースは存在します。ご自身の状況をチェックリストで確認し、申告が必要な場合は期限(原則翌年3月15日)を守って適切に手続きを行いましょう。
不明な点がある場合は、お住まいの地域の税務署や、ハローワーク・社会保険労務士などの専門家にご相談することをお勧めします。専門家への相談は無料または低額で対応している自治体も多いため、安心して育休期間を過ごすためにも活用してみてください。
参考法令・情報源
– 所得税法第9条(非課税所得)
– 雇用保険法第61条の7(育児休業給付)
– 地方税法第24条・第294条
– 厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続き」
– 国税庁「雇用保険の各種給付金と税金」
– 厚生労働省ハローワーク公式サイト

