産後休業中に乳房炎や産後鬱で再入院してしまった——そんな状況に直面したとき、「休業期間はどうなるの?」「給付金は受け取れる?」という不安は当然のことです。
この記事では、産後合併症による再入院が産後休業の継続計上に該当するのか、手続きに必要な書類は何か、給付金への影響はどう変わるのかを、社労士監修のもと法律の根拠とともに実用的に解説します。
産後休業中に再入院したら「休業はどうなる?」——まず知りたい3つの結論
長い記事を読む前に、多くの方が最初に知りたい結論を先にお伝えします。
結論①:産後合併症での再入院なら、産後休業期間はリセットされない
乳房炎・産後鬱・産褥熱など、妊娠・分娩に医学的に起因する疾患での再入院は、産後休業期間として継続計上されます。休業期間が「ゼロから再スタート」になるわけではありません。
結論②:産後鬱は「産後合併症」として認められる
精神疾患である産後鬱も、医師の診断があれば産後合併症として扱われます。ただし、診断書の取得と会社への届出が必須です。
結論③:産後と無関係の疾病での入院は別制度(傷病手当金)が適用される
産後休業中に、産後とまったく関係のない疾病(例:盲腸炎など)で入院した場合は、産後休業とは別制度として傷病手当金の対象となることがあります。
再入院しても産後休業期間はリセットされない理由
産後休業は労働基準法第65条にもとづき、出産日の翌日から8週間(56日間)が保護されています。この期間は「出産という事実」に紐づいて発生するものであり、退院・再入院を繰り返しても期間のカウントそのものは止まりません。
つまり、たとえば産後3週目に乳房炎で再入院したとしても、産後休業の終了日(出産翌日から56日目)は変わりません。「再入院=休業期間のリセット」ではないという点を、まず押さえておきましょう。
一方で、産後合併症が重症で長期入院が必要な場合、産後休業終了後に育児休業へ移行する際の調整が生じることがあります。この点は後述の給付金の項目で詳しく説明します。
産後鬱がなぜ「産後合併症」として法律で認められるのか
産後鬱(産後うつ)は、分娩後のホルモンの急激な変動・睡眠不足・育児ストレスなどが複合的に作用する精神疾患です。国際疾病分類(ICD-10)でも産褥期(分娩後6週間以内)に発症したうつ病は「産褥期に関連する精神および行動の障害」として産後に特有の疾患と位置づけられています。
厚生労働省の2023年通達では、産後の精神的な健康支援の強化が明示され、産後鬱を含む周産期メンタルヘルス疾患について、産後休業期間中の疾患として扱う方向が示されています。
これにより、産後鬱と医師が診断した場合は、産後合併症として会社に届け出ることができ、産後休業の継続計上や給付金受給への影響を最小限に抑えることが可能となります。
産後休業中の再入院——法律上の2パターンと判定フロー
再入院の扱いは、大きく「産後合併症かどうか」で分かれます。自分がどちらに該当するかを確認しましょう。
ケース① 産後合併症(乳房炎・産後鬱など)——休業期間継続計上の仕組み
産後合併症に該当する主な疾患は以下の通りです。
| 疾患名 | 主な症状の特徴 |
|---|---|
| 乳房炎 | 授乳中の乳腺感染症。高熱・局所の腫脹 |
| 産褥熱 | 分娩後の感染による発熱(38℃以上が24時間以上続く) |
| 産後鬱(産後うつ) | 分娩後に発症する抑うつ状態・不安障害 |
| 帝王切開後の感染症 | 創部感染・腹腔内感染など |
| 産後の出血合併症 | 弛緩出血・産後遅発性出血 |
| 血栓症(深部静脈血栓症など) | 産後に多い凝固亢進状態に起因 |
| 産後の腸閉塞 | 帝王切開後に起こりやすい腸管癒着 |
これらは「妊娠・分娩に医学的に直接起因する疾患」として分類されます。再入院の理由がこれらに該当する場合、産後休業の継続計上が認められます。
継続計上の仕組み(フロー)
再入院
↓
担当医が産後合併症と診断
↓
診断書を取得(産後合併症である旨の記載が必要)
↓
会社(人事・総務部)へ報告・診断書提出
↓
産後休業の期間カウントを継続
↓
出産翌日から56日目で産後休業終了(変わらず)
↓
育児休業へ移行 or 職場復帰を選択
ケース② 産後無関係の疾病——傷病手当金が適用される場合
産後休業中に、産後合併症とは医学的に無関係の疾病(急性虫垂炎・交通事故による外傷など)で入院した場合は、産後休業の継続計上の扱いが異なり、個別の判断が必要になります。
この場合、健康保険の傷病手当金が適用できる可能性があります。
傷病手当金の主な要件(健康保険法第108条)
- 業務外の疾病・負傷による療養であること
- 労務不能(働けない状態)であること
- 連続3日間の待期期間を経過していること
- 雇用されている健康保険の被保険者であること
ただし、産後休業期間中は「もともと労働義務がない期間」であるため、傷病手当金の「労務不能」要件の解釈が複雑になります。この点は会社の担当者および健康保険組合に個別確認することを強くお勧めします。
判定に必要な「医師の診断書」——記載事項チェックリスト
産後合併症として認定してもらうために、診断書に盛り込んでほしい内容は以下の通りです。
診断書に記載が必要な項目(チェックリスト)
- ✅ 病名(産後合併症であることが明確なもの)
- ✅ 発症日・入院日・退院(予定)日
- ✅ 今回の疾患が分娩・妊娠に起因することの医学的説明
- ✅ 就労が困難である旨の記載
- ✅ 医師の署名・医療機関の公印
産後鬱の場合は、精神科または産婦人科(周産期メンタルヘルスを専門とする医師)が発行した診断書が最も有効です。診断書の取得費用(通常3,000〜5,000円程度)は自己負担となりますが、医療費控除の対象になる場合もあります。
産後鬱で再入院した場合の特別ルールと認定基準【2024年通達対応】
産後鬱は、身体的な産後合併症と比べ、認定プロセスに特有の注意点があります。ここでは産後鬱に絞った詳細を解説します。
産後鬱の医学的定義と診断基準——2週間以上の症状が判断基準
産後鬱(Postpartum Depression:PPD)は、分娩後4週間以内に発症するケースが多く、以下の症状が2週間以上続く場合に診断されます。
- 持続する抑うつ気分・気力の低下
- 育児に対する強い不安・自己嫌悪
- 不眠または過眠
- 体重変化・食欲の変動
- 集中力・判断力の低下
- 自傷・自死念慮(重症の場合)
これらの症状は、出産後の「マタニティブルー(産後3〜5日目頃に生じる一時的な気分の落ち込み)」とは異なり、医師による正式な診断と治療が必要です。厚生労働省の2023年通達でも、周産期メンタルヘルスを含む産後の精神的健康支援が強調されており、産後鬱は単なる「気の持ちよう」ではなく医学的に確立した疾患として扱われています。
会社への届出——産後鬱の場合はどう伝えるか
産後鬱の診断を受けた場合、会社への報告は「医師の診断書を通じて行う」のが基本です。口頭や自己申告だけでは不十分で、産後合併症として認定されない可能性があります。
会社への届出の流れ
- 医師に診断書を依頼する(産後合併症として産後鬱の診断を明記してもらう)
- 会社の人事・総務担当者へ連絡する(本人が困難な場合は家族が代理連絡しても可)
- 診断書の写しを会社へ提出する(原本を提出する場合は手元にコピーを保管)
- 産後休業の継続を会社が確認・記録する
プライバシーへの配慮として、精神疾患の診断内容の詳細を会社が第三者に開示することは個人情報保護法上問題があります。「産後合併症による入院」という事実のみの共有で足りる場合もあります。担当者にどの程度の情報を伝えるか、事前に確認しておきましょう。
産後鬱の治療と産後ケア制度の活用
産後鬱での入院・治療と並行して活用できる公的支援として、産後ケア事業があります。
2021年度から母子保健法の改正により、産後ケア事業は市区町村の努力義務となり、全国的な拡充が進んでいます。
産後ケア事業の主な内容
| サービス種別 | 内容 |
|---|---|
| 短期入所(ショートステイ) | 産後の母子が医療機関・助産所に宿泊し専門的ケアを受ける |
| 通所(デイサービス) | 日帰りで助産師によるケアを受ける |
| 居宅訪問 | 助産師などが自宅を訪問し育児・健康相談を実施 |
費用は市区町村によって異なりますが、多くの自治体で所得に応じた補助があります。住んでいる市区町村の母子保健担当窓口に相談してみてください。
必要書類と手続きの進め方——チェックリスト付き
産後合併症による再入院が確認できたら、以下のステップで手続きを進めましょう。
会社への提出書類
基本セット(産後合併症共通)
| 書類名 | 取得先 | 提出先 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 医師の診断書 | 担当医・医療機関 | 会社(人事・総務) | 産後合併症の記載必須 |
| 産後休業継続届(社内書式) | 会社から入手 | 会社(人事・総務) | 書式がない場合は口頭+診断書でも可 |
| 母子健康手帳の写し | 手元にある | 会社(必要に応じて) | 出産日の確認用 |
育児休業給付金への影響と手続き
産後休業が終了すると、次は育児休業・育児休業給付金の申請に移ります。再入院があった場合でも、基本的な計算式は変わりません。
育児休業給付金の支給額(2025年時点)
育児休業給付金は雇用保険から支給されます。
育休開始から180日間(6か月):
休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%
181日目以降:
休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 50%
「休業開始時賃金日額」の計算の基礎
育児休業給付金の計算に使われる「みなし賃金日額」は、育児休業を開始した月以前の6か月間の賃金(通勤手当を含む)の合計を180で割った金額です。
産後休業期間は「産前産後休業」として雇用保険上の被保険者期間に算入されるため、産後休業中に再入院があっても、この計算に悪影響は及びません。
支給上限・下限の目安(2025年度)
| 区分 | 金額(1か月あたりの上限目安) |
|---|---|
| 支給上限(育休開始6か月以内) | 約310,143円 |
| 支給上限(育休開始6か月超) | 約231,450円 |
| 支給下限 | 約50,270円 |
※上限額は毎年8月1日に改定されます。最新の数値はハローワークまたは厚生労働省ホームページでご確認ください。
傷病手当金と育児休業給付金の「重複受給」に注意
産後休業中の再入院が産後合併症以外と判定された場合、健康保険の傷病手当金が関係してくることがあります。
傷病手当金と育児休業給付金は原則として同時受給できません。育児休業期間中は育児休業給付金が優先されます。産後休業終了後に育児休業へ移行した後に傷病手当金を申請しようとした場合、育児休業給付金との調整が必要になります。
具体的な手続きは加入している健康保険組合または協会けんぽへ問い合わせましょう。
傷病手当金の支給額の目安
傷病手当金(1日あたり)
= 支給開始日以前12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30 × 2/3
職場復帰後の注意点——産後鬱が回復しきっていない場合
産後休業・育児休業が終了し職場復帰を迎える時点で、産後鬱が完全に回復していない場合はどうすればよいでしょうか。
復職前に会社・医師と必ず確認すること
- 主治医の復職可否の意見書を取得する
- 必要に応じて産業医・会社の衛生管理者との面談を受ける
- 復職直後から短時間勤務(育児・介護休業法第23条)の適用を検討する
- 会社が育児休業の延長(子が1歳6か月・最長2歳まで)を認める条件を確認する
育児休業の延長は、保育所に入所できないなどの「育児休業の延長事由」が必要ですが、主治医が「精神的な健康上の理由で就労困難」と判断した場合は、会社と相談して休職制度(育児休業とは別の病気休職)を活用する選択肢もあります。
短時間勤務と復職支援制度の活用
育児・介護休業法第23条により、3歳に達するまでの子を養育する労働者は、1日6時間の短時間勤務を会社に申請する権利があります。産後鬱の回復途中の方にとって、この制度は職場復帰の負担を大きく軽減します。
また、多くの自治体で「産後ケア事業」が継続して活用できるため、復職後も必要に応じて居宅訪問サービスや相談窓口を利用してください。
手続きタイムライン——産後から育休開始までの全体像
産後休業・再入院・育児休業の手続きがどのような順番で発生するかを、時系列で整理します。
出産
↓(翌日)
産後休業開始(56日間カウント開始)
↓
【再入院発生】
↓ ※産後合併症と診断されるケース
医師に診断書依頼 → 会社へ報告・提出(なるべく早く)
↓
産後休業は継続カウント
↓(産後57日目以降)
育児休業開始の申出(開始1か月前までに書面で会社へ)
↓
育児休業給付金の申請(ハローワーク、会社経由)
※最初の申請:育休開始から約2か月後
※以後2か月ごとに支給申請
↓
子が1歳になる日の前日まで育児休業(原則)
↓(延長する場合は1歳6か月・最長2歳まで)
職場復帰 or 退職
よくある質問(FAQ)
Q1. 再入院中に産後休業期間が終わってしまったら育児休業はどうなる?
産後休業の56日目が経過しても入院中の場合、産後休業は自動的に終了します。育児休業へ移行する手続きを、なるべく早めに会社へ申し出る必要があります。育児休業開始の申出は「開始1か月前まで」が原則ですが、緊急の入院などやむを得ない事情がある場合は、事後に申し出ることも認められることがあります。会社の担当者または社会保険労務士に相談してください。
Q2. 会社が「再入院は産後合併症ではない」と判断した場合はどうすれば?
会社が診断書を確認したうえでそのような判断をしても、医師が産後合併症と診断している事実は変わりません。会社の判断に納得できない場合は、都道府県の労働局(総合労働相談コーナー)への相談や、社会保険労務士への相談を検討しましょう。必要に応じて紛争解決援助(あっせん)制度を利用することも可能です。
Q3. 産後鬱の診断書は精神科でないと取得できない?
産婦人科医や総合病院の産科担当医でも、産後鬱の診断書を発行できます。かかりつけの産婦人科で産後鬱と診断された場合は、そのまま同じ医師に依頼するのが最も手続きがスムーズです。ただし、重症の場合は精神科・心療内科への紹介が行われることが多く、その際は引き継ぎ先の医師に診断書を依頼することになります。
Q4. 乳房炎での入院期間が長引いて産後休業を超えた場合、給付金はどうなる?
産後休業の56日が終了した後も引き続き入院している場合は、育児休業への移行を申し出ることで育児休業給付金の受給が開始できます。乳房炎の治療が続いていても、「育児休業の申出」という形式的な手続きを行うことで、給付金の空白期間が生じないように対応できます。会社の人事担当者・ハローワークに早めに相談しましょう。
Q5. 産後休業中は社会保険料(健康保険・厚生年金)はかかる?
産後休業期間中は、会社と本人の双方の社会保険料が免除されます(産前産後休業期間の社会保険料免除制度)。育児休業中も同様に免除されます。再入院による産後休業の継続中も、この免除は継続して適用されます。免除の手続きは会社が行うため、従業員本人が個別に申請する必要はありません。
Q6. 夫(配偶者)の育児休業との関係は?
配偶者の育児休業(パパ育休)は、妻の産後休業・再入院とは独立して申請できます。産後鬱などの重症の産後合併症がある場合、配偶者が育児休業を積極的に取得することで家族全体の回復を支援できます。2022年10月から導入された「産後パパ育休(出生時育児休業)」を活用することで、出生後8週間以内に最大4週間の育児休業を2回に分けて取得することが可能です。
まとめ
産後休業中の再入院については、以下のポイントを押さえておけば、制度の全体像が把握できます。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 再入院の理由 | 産後合併症(乳房炎・産後鬱・産褥熱など)かどうかを医師と確認 |
| 診断書の取得 | 産後合併症であることが明記された診断書を医師に依頼 |
| 会社への届出 | 診断書を添えて人事・総務に報告(家族の代理連絡も可) |
| 産後休業期間 | 56日間のカウントは継続(リセットされない) |
| 育児休業への移行 | 産後休業終了後、速やかに育児休業の申出を行う |
| 給付金への影響 | 育児休業給付金の計算は産後休業中の再入院で変動しない |
| 傷病手当金 | 産後合併症以外の入院の場合のみ個別に検討 |
産後は心身ともに大きな変化が起きる時期です。不安や疑問が生じた際は、一人で抱え込まず、会社の人事担当者・ハローワーク・社会保険労務士・市区町村の母子保健窓口など、複数の窓口を活用してください。専門家のアドバイスを受けることで、制度の手続きも心の負担も大きく軽減されます。
参考法令・資料
- 労働基準法 第65条(産前産後休業)
- 育児・介護休業法 第3条・第23条
- 雇用保険法 第37条(育児休業給付金)
- 健康保険法 第108条(傷病手当金)
- 母子保健法 第17条の2(産後ケア事業)
- 厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続き」(2024年版)
- 厚生労働省「周産期メンタルヘルス支援の推進について」(2023年通達)
本記事の内容は2025年4月時点の法令・通達等にもとづいています。制度の変更が行われた場合、最新情報を厚生労働省または各担当窓口でご確認ください。

