育休期間の退職金・年末調整の計算方法【勤続年数・給与扱い完全解説】

育休期間の退職金・年末調整の計算方法【勤続年数・給与扱い完全解説】 企業の育休対応

育休を取得した従業員の退職金はどう計算するのか、年末調整はどう対応すればよいのか——企業の人事担当者にとっても、育休を取得する本人にとっても、これらは非常に重要な実務上の疑問です。

本記事では、育休期間の退職金・年末調整について、法的根拠をおさえながら具体的な計算方法を丁寧に解説します。育休中も雇用関係は継続するため、勤続年数には原則として算入されます。一方で、育休中は給与が発生しないことが多く、育児休業給付金は「給与ではない」ため、年末調整の取り扱いが通常とは異なります。企業の人事担当者・育休取得者の双方がわかるよう、法律の規定と実務対応を整理しました。


育休中の退職金・年末調整の基本原則

項目 育休期間中 通常勤務時
雇用関係 継続(退職金の勤続年数に算入) 継続
給与支給 なし(育児休業給付金のみ) あり
育児休業給付金 非課税給付(給与ではない) 該当なし
年末調整の対象 給与なしの場合は対象外 対象
退職金計算(勤続年数) 原則として算入 算入

育休期間は雇用関係の継続か

育児休業を取得している期間中も、雇用契約は継続しています。育児・介護休業法第5条では、労働者が育児休業を申し出た場合、事業主はこれを拒むことができないと定められており、育休中は「休業中の労働者」として雇用関係が維持されます。

この雇用関係の継続という考え方は、退職金・年末調整の両面において重要な前提となります。雇用契約が継続している以上、育休期間は原則として勤続期間に算入されるのです。

労働基準法の観点からも、育休期間は「休業期間」として取り扱われ、継続勤務として認められます。最高裁判所の判例(昭和49年)においても、産前産後休業中の期間が勤続年数に含まれることが確認されており、育休期間も同様に扱われることが実務上の通例となっています。

なお、一点注意が必要です。退職金規程が「実際に就業した期間のみを勤続年数として計算する」と定めている場合、育休期間が勤続年数から除外されることも法的には可能です。ただし、この場合でも育児・介護休業法第10条が定める「育休取得を理由とした不利益取り扱いの禁止」に抵触しないかどうかを慎重に確認する必要があります。

「給与が発生しない」の意味

育休中は、原則として給与(賃金)は発生しません。これは「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づくものです。雇用契約は継続していますが、労務の提供がないため、使用者に賃金支払義務は生じません。

ただし、育休中でも会社の判断で給与を支払うことは可能であり、「育休中も基本給の一部を支給する」といった就業規則を定めている企業もあります。

代わりに支給されるのが育児休業給付金です。これは雇用保険法第61条の4〜第61条の8に基づき、雇用保険から支給される「給付金」であり、給与(賃金)ではありません。この区分が、年末調整の取り扱いを大きく左右します。

育児休業給付金の支給額は以下の通りです。

育休期間 給付率 実質手取り相当率(社会保険料免除を含む)
育休開始〜180日目 休業前賃金の67% 約80%
181日目〜育休終了 休業前賃金の50% 約67%

なお、2025年4月施行の改正により、一定の条件(夫婦が14日以上の育休を取得する場合など)のもとで最初の28日間は給付率が80%に引き上げられる制度改正も実施されています。

法的根拠となる条文一覧

育休期間の退職金・年末調整に関わる主な法的根拠を以下の表に整理します。

制度・項目 法律名 主な条文 内容の概要
育児休業制度 育児・介護休業法 第5条〜第16条 育休の申出・取得・期間の定め
不利益取り扱いの禁止 育児・介護休業法 第10条 育休取得を理由とした不利益扱い禁止
育児休業給付金 雇用保険法 第61条の4〜第61条の8 給付金の受給要件・支給額の計算
退職金計算の基準 労働基準法 第12条 平均賃金の計算における休業期間の扱い
年末調整 所得税法 第190条〜第198条 給与所得者の年末調整手続き
社会保険料免除 健康保険法・厚生年金保険法 第159条・第81条の2 育休中の保険料免除規定

育休取得者と退職金・年末調整の対象者の条件

育児休業の対象者要件

育児休業を取得できる労働者の要件は、育児・介護休業法第5条に定められています。

要件 内容 備考
雇用形態 正社員・契約社員・パートタイム労働者なども対象 派遣社員は派遣元が雇用主として対応
勤続期間 同一事業主に継続して1年以上雇用されていること 有期雇用の場合の特別要件あり
雇用継続見込み 子が1歳6ヶ月を超えても雇用が継続される見込み 2022年改正で要件緩和
対象となる子 法律上の親子関係がある子(養子含む) 原則として子が1歳になるまで(最長2歳)

2022年10月の育児・介護休業法改正により、有期雇用労働者の育休取得要件から「週3日以上勤務」の要件は撤廃されました。現在は「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件が原則ですが、労使協定により「勤続1年未満の労働者を対象外とする」ことも可能です。

育休を取得できない(対象外となる)主なケース:

  • 日々雇い入れられる者(日雇い労働者)
  • 勤続1年未満で労使協定により除外された者
  • 育休申出の時点で、子が1歳2ヶ月に達する日までに雇用契約が終了することが明らかな者

年末調整の対象者条件

育休取得者が年末調整の対象となるためには、「その年に給与の支払いがあること」が前提です。育休期間中に会社から給与(賃金)が一切支払われていない場合でも、育休開始前または育休終了後に給与が発生していれば、年末調整の対象となります。

ケース 年末調整の対象 備考
年の途中から育休取得(その年に給与あり) 対象 育休前の給与分について年末調整
年初から育休中(1月〜12月まるまる育休) 原則対象外(確定申告も不要の場合あり) 給与収入がゼロのため
育休中に一部給与が支払われた 対象 支払われた給与分について実施
年末までに育休から復職した 対象 復職後の給与も含めて年末調整

重要なのは、育児休業給付金は年末調整の対象ではないという点です。給付金は雇用保険から支給される所得税非課税の給付であり、給与所得には該当しません。源泉徴収票にも記載されません。


退職金における育休期間の計算方法

退職金計算の基本的な仕組み

退職金の計算方法は会社ごとに異なりますが、最も一般的な計算式は以下の通りです。

退職金 = 基本給(または退職時の月額給与) × 勤続年数 × 給付率

あるいは「ポイント制退職金」を採用している企業では以下のように計算します。

退職金 = 勤続ポイント × 役職ポイント × 単価

育休期間の勤続年数への算入

前述のとおり、育休期間は原則として勤続年数に算入されます。つまり、育休を取得していない場合と同様に勤続年数として計算されるのが基本です。

【具体例】

  • 入社日:2016年4月1日
  • 退職日:2024年3月31日(勤続8年)
  • 育休取得期間:2021年5月〜2022年4月(12ヶ月)

この場合、育休12ヶ月を含めた8年間がすべて勤続年数として算入されます。

退職金 = 基本給(例:30万円)× 8年 × 給付率(例:1.2)
       = 30万円 × 8 × 1.2
       = 288万円

退職所得控除の計算方法

退職金には退職所得控除が適用され、税負担が軽減されます。控除額の計算式は所得税法第30条に定められており、以下の通りです。

勤続年数 退職所得控除額の計算式
20年以下 40万円 × 勤続年数(最低80万円)
20年超 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

育休期間が勤続年数に算入されることで、退職所得控除の計算基礎となる「勤続年数」も増える可能性があります。これは従業員にとって有利な扱いとなります。

【具体例で見る退職所得控除】

勤続8年(うち育休1年含む)で退職した場合:

退職所得控除 = 40万円 × 8年 = 320万円

退職金288万円 < 控除額320万円
→ 退職所得 = 0円(課税なし)

会社規程による育休期間の「減額」措置について

法律上、育休期間を理由に退職金を不利益に扱うことは、育児・介護休業法第10条の「不利益取り扱いの禁止」に抵触するリスクがあります。ただし、以下の判断基準が実務上参考にされています。

  • 勤続年数から育休期間を全除外する:不利益取り扱いとして違法となる可能性が高い
  • 育休期間の一部(例えば半分)を除外して計算する:就業規則の内容・合理性によっては許容されうるが、慎重な判断が必要
  • 育休取得前の基本給を基準に計算する:育休に伴う昇給の遅れを退職金計算に反映することは一般的に許容される

企業の人事担当者は、退職金規程の見直しを行う際、社会保険労務士や弁護士に相談することを強くお勧めします。


年末調整における育休期間の具体的な処理方法

年末調整の基本的な流れ(育休取得者の場合)

育休取得者の年末調整は、給与が発生した期間の所得のみを対象に行います。育児休業給付金は所得に含まれないため、対象から除外します。

手順の概要:

  1. その年に支払われた給与(賃金)の総額を確認
  2. 源泉徴収された所得税の総額を確認
  3. 各種所得控除(配偶者控除・扶養控除・社会保険料控除など)を確認・計算
  4. 年末調整による過不足税額を精算
  5. 源泉徴収票を作成・交付

育休中の各種控除の適用

育休中でも以下の控除は適用可能です。

控除の種類 育休取得者への適用 注意点
社会保険料控除 適用可 育休前に支払った分が対象(育休中は免除)
配偶者控除 適用可能性あり 配偶者の所得が一定以下であれば適用
扶養控除 適用可 対象扶養家族がいれば適用
生命保険料控除 適用可 支払い実績があれば適用
地震保険料控除 適用可 支払い実績があれば適用
基礎控除 適用可 48万円(合計所得金額2,400万円以下の場合)

育休中の社会保険料免除と年末調整の関係

育休期間中は、健康保険・厚生年金保険の保険料が免除されます。健康保険法第159条と厚生年金保険法第81条の2に基づき、このため、育休前に納付した保険料のみが社会保険料控除の対象となります。

注意点:
育休中に社会保険料の免除を受けている場合、免除期間中の保険料は支払っていないため、社会保険料控除の対象にはなりません。給与明細・保険料納付記録をもとに正確な金額を確認してください。

育休取得者の源泉徴収票の書き方

育休取得者の源泉徴収票には以下の点に注意して記載します。

記載項目 記載内容 備考
支払金額 育休前・育休後に実際に支払った給与の合計 育児休業給付金は含めない
源泉徴収税額 年末調整後の最終的な所得税額 還付・追加徴収後の金額
社会保険料等の金額 実際に控除・納付した社会保険料の合計 免除期間分は含めない
生命保険料の控除額 申告書に基づく控除額 上限あり
備考欄 育児休業取得期間を記載することが推奨される 例:「育児休業期間:令和○年○月○日〜令和○年○月○日」

年間を通じて育休だった場合の特別な対応

1月〜12月まるまる育休の場合

1月から12月まで育休を取得し、その年に会社から給与が一切支払われなかった場合、年末調整の対象とはなりません。

ただし、以下の場合は確定申告が必要になることがあります。

  • 育休前の会社を退職して別の会社に転職した場合
  • 医療費控除などを受けたい場合
  • 株式の配当・売買益などの所得がある場合

給与収入がゼロで、育児休業給付金のみを受給していた場合、所得税は原則として発生せず、確定申告も不要です。ただし、住民税については前年の所得をもとに課税されるため、育休前年の収入によっては住民税の支払いが発生します。

育休取得者の配偶者控除の活用

育休取得者の配偶者(主に育休を取得した側の配偶者)の所得が基準を下回る場合、配偶者控除・配偶者特別控除を申告することで、世帯全体の税負担を軽減できます。

配偶者控除の適用条件(2024年度):

条件 内容
配偶者の合計所得金額 48万円以下(給与収入のみなら103万円以下)
申告者本人の合計所得金額 1,000万円以下

育休中に給与収入がほぼなかった場合、配偶者の合計所得金額が48万円以下となる可能性が高く、もう一方の配偶者が配偶者控除(最大38万円)を受けられるケースがあります。


企業の人事担当者が行うべき実務チェックリスト

育休取得者が発生した際、企業の人事・給与担当者が確認すべき事項をまとめました。

育休開始時の確認事項

  • [ ] 育休期間・開始日・終了予定日の確定
  • [ ] 給与・賞与の支給停止の確認と手続き
  • [ ] 社会保険料免除申請(育児休業等取得者申出書を年金事務所へ提出)
  • [ ] 住民税の徴収方法の変更(普通徴収への切替手続き)
  • [ ] 育児休業給付金の申請サポート(ハローワークへの申請:初回は育休開始から2ヶ月後)

年末調整時の確認事項

  • [ ] その年に支払った給与総額の確認
  • [ ] 育児休業給付金を給与に含めていないか確認
  • [ ] 社会保険料免除期間の確認(控除対象外となる期間を除外)
  • [ ] 扶養控除等申告書・保険料控除申告書の提出を受領
  • [ ] 源泉徴収票の備考欄に育休期間を記載

退職時の確認事項

  • [ ] 退職金規程における育休期間の扱いを確認
  • [ ] 勤続年数への算入方法を規程に基づいて計算
  • [ ] 退職所得控除額の計算(育休期間を含む勤続年数で計算)
  • [ ] 退職所得の源泉徴収票を作成・交付(退職後1ヶ月以内)
  • [ ] 「退職所得の受給に関する申告書」の受領確認

よくある間違いと注意点

育休取得者の退職金・年末調整において、企業・本人の双方でよく起こる誤りをまとめます。

誤り①:育児休業給付金を給与として年末調整に含める
→ 育児休業給付金は雇用保険からの給付であり、所得税の課税対象外です。給与所得として処理しないよう注意が必要です。

誤り②:育休期間の社会保険料を控除対象に含める
→ 育休中の社会保険料は免除されており、実際には支払っていないため控除対象になりません。

誤り③:育休期間を一律に勤続年数から除外して退職金を計算する
→ 合理的な理由のない一律除外は、育児・介護休業法第10条の不利益取り扱い禁止に抵触するリスクがあります。

誤り④:育休中の住民税を特別徴収のままにする
→ 給与から控除できないため、普通徴収(本人が直接納付)への切替手続きが必要です。


よくある質問(FAQ)

Q1. 育休中に賞与が支給された場合、年末調整はどうなりますか?

育休中に賞与(特別手当を含む)が支給された場合は、その賞与も給与所得として年末調整の対象となります。支給した賞与から源泉徴収を行い、年末調整で精算します。社会保険料については、賞与支給月が育休期間中かどうかによって免除の対象になるかが異なるため、支給日と育休期間を確認してください。

Q2. 育休から復職後すぐに退職した場合、退職金はどう計算されますか?

退職金は原則として退職日時点の勤続年数(育休期間を含む)で計算されます。復職後の在職期間が短い場合でも、育休取得前の勤続年数も含めて計算されます。ただし、会社の退職金規程によって取り扱いが異なる場合があるため、規程を確認してください。

Q3. 育休中に転職した場合、前の会社の年末調整はどうなりますか?

育休中に退職(転職)した場合、退職時に前の会社が「退職後に給与が支払われなかった場合」に該当するときは年末調整が行われます。転職先で年末調整を受ける場合は、前職の源泉徴収票を転職先に提出してください。年内に転職先から給与を受け取らなかった場合は、翌年に確定申告が必要です。

Q4. 育休中の住民税はどのように支払えばよいですか?

育休中は給与から天引き(特別徴収)できないため、市区町村から自宅に送付される納税通知書に基づき、自分で納付する「普通徴収」に切り替わります。育休開始時に会社が切替手続きを行う必要があります。万が一手続きが漏れた場合は、滞納とならないよう早急に市区町村の税務窓口に相談してください。

Q5. 男性が育休を取得した場合も、退職金・年末調整の扱いは同じですか?

はい、男性・女性を問わず、育児休業取得者の退職金・年末調整の取り扱いは同様です。育児・介護休業法は性別に関係なく適用されるため、男性の育休取得者も同じ原則のもとで勤続年数の算入・年末調整が行われます。


企業・本人が年末調整と退職金でやるべき対応

育休取得者の退職金・年末調整を適切に処理するには、企業側と本人側の双方の理解が重要です。特に社会保険料の免除、育児休業給付金の非課税、勤続年数の算入という3つのポイントを押さえることで、誤った計算や不利益な取り扱いを防ぐことができます。企業の人事・給与担当者は、月次の給与計算段階から育休状況を正確に把握し、社会保険労務士や税理士との連携体制を整備することが重要です。育休取得者本人も、年末調整時期に源泉徴収票の記載内容を確認し、不明な点は会社の人事部門に相談することをお勧めします。


まとめ

育休期間の退職金・年末調整における取り扱いのポイントを改めて整理します。

項目 取り扱いの原則
勤続年数への算入 育休期間も原則として勤続年数に算入
退職金計算の基準 育休期間を含む勤続年数で退職所得控除を計算
年末調整の対象 実際に支払われた給与のみが対象
育児休業給付金の扱い 給与所得ではないため年末調整・課税対象外
社会保険料控除 実際に納付した分のみ控除対象(免除期間は除く)
不利益取り扱いの禁止 育休を理由とした退職金の不利益な減額は法的リスクあり

育休取得者の人事・給与処理は、法律の解釈が複雑なケースもあります。企業の人事担当者の方は、社会保険労務士や税理士と連携しながら適切な対応を行うことをお勧めします。育休取得を検討している方は、会社の就業規則・退職金規程を事前に確認し、不明点は人事部門に相談するとよいでしょう。

本記事で説明した退職金計算・年末調整の原則を理解することで、育休取得者の待遇に関する誤解や紛争を未然に防ぎ、企業と従業員の双方がルールに基づいた公正な処理を実現することができます。


参考法令・情報源

  • 育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)
  • 労働基準法第12条
  • 雇用保険法第61条の4〜第61条の8
  • 所得税法第30条、第190条〜第198条
  • 健康保険法第159条
  • 厚生年金保険法第81条の2
  • 厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」(最新版)
  • 国税庁「年末調整のしかた」(最新版)

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