本記事は2025年4月改正に基づく情報を提供していますが、制度の詳細・最終的な手続きについては管轄の年金事務所・健康保険組合へ必ずご確認ください。
2025年4月1日、育児休業中の社会保険料免除制度が廃止されます。これにより、すでに育休を取得して保険料免除を受けた労働者に対して、過去の免除期間分の保険料を遡及して納付する義務が生じます。
「自分は対象者になるのか」「いくら払えばいいのか」「いつまでに手続きすればいいのか」——こうした疑問を持つ労働者・人事担当者に向けて、対象者条件・計算額・必要書類・納付期限を体系的に解説します。本ガイドに従い、2025年9月30日の期限までに確実に対応することで、延滞金の発生を防ぎ、将来の年金受取額を適切に確保できます。
2025年改正・育休保険料免除廃止とは
何が変わるのか——免除制度の廃止タイムライン
これまで育児休業中は、厚生年金保険料・健康保険料の両方が、労働者負担分・事業主負担分ともに免除されていました。この免除制度は「育休取得をためらわせない」ための財政支援として機能してきた一方で、現役世代の保険財政を圧迫するとの指摘が続いてきました。
2025年4月1日の改正施行を境に、免除制度の全面廃止と、過去の免除受給者への遡及納付義務が同時に発動します。
| 時期 | 制度内容 |
|---|---|
| 〜2025年3月31日 | 育休中の社会保険料(厚生年金・健康保険)が全額免除(労使双方) |
| 2025年4月1日〜 | 新規取得者は免除なし。既取得者は免除期間分を遡及納付 |
| 遡及納付期限 | 施行日から原則6か月以内(2025年9月30日が目安) |
制度廃止の背景には、「育休中の収入は育児休業給付金で一定程度補填されており、社会保険料まで全額免除するのは過剰な二重支援」という財政審議会の提言があります。加えて、育休を長期化するインセンティブとして機能していた側面への批判も改正を後押しました。今回の改正により、働きながら育児を支援する制度設計へと転換されます。
法的根拠——育児・介護休業法の改正内容
今回の改正は複数の法律にまたがります。
育児・介護休業法 第23条
育児休業中の労働者に対する経済的支援措置に関する規定。今回の改正では、保険料免除に関する事業主への配慮義務条項が削除されました。
厚生年金保険法 第15条・第15条の2
育児休業期間中の保険料免除規定。第15条の2が削除されることで、免除の法的根拠がなくなります。なお、第15条本体の「月末時点で育休中の者は当月分免除」というルールは廃止対象です。
健康保険法 第162条
育児休業中の保険料免除規定。厚生年金と同様に廃止されます。労使折半の原則に戻るため、事業主も含めた保険料コストの見直しが企業に求められます。
経過措置について
2025年3月31日時点で育休中の労働者については、休業終了後に遡及納付通知が届く仕組みとなっています。一方、2025年4月1日以降に初めて育休を開始する労働者には免除制度自体が適用されないため、遡及納付は発生しません。経過措置により、制度変更に伴う混乱を最小限に抑える配慮がなされています。
⚠️ 重要: 本改正に関する厚生労働省の最終政令・省令は執筆時点(2025年1月)において確定情報が流動的な部分があります。適用除外・経過措置の詳細は、管轄年金事務所または協会けんぽの最新通知を必ず確認してください。
遡及納付の対象者は誰か
対象者の基本条件4つ
以下の4条件をすべて満たす場合、遡及納付の対象者となります。
| 確認項目 | 条件 | 判定方法 |
|---|---|---|
| ① 休業開始日 | 2025年3月31日以前に育児休業を開始している | 育児休業開始・終了届の控えで確認 |
| ② 免除受領の有無 | 育休期間中に社会保険料免除を受けている | 社会保険料免除決定通知書で確認 |
| ③ 企業勤務状況 | 継続勤務・離職・転職問わず全員が対象 | 在籍確認書類または離職票で確認 |
| ④ 既納付状況 | 遡及納付をまだ完了していない | 年金事務所への照会で確認 |
上記①〜④のすべてに該当する方は、遅滞なく手続きを開始する必要があります。特に③の「離職者・転職者も対象」という点は見落とされやすいので注意が必要です。現在の就業状況にかかわらず、免除を受けた事実がある限り納付義務が生じます。
対象外となるケース
以下に該当する場合は遡及納付の対象外です。誤って二重納付しないよう、必ず事前確認を行ってください。
- 2025年4月1日以降に育休を新規取得した方:免除制度自体が廃止後のため、遡及の対象となる免除期間が存在しません
- すでに遡及納付を完了した方:年金事務所から送付される「遡及納付完了通知書」で確認できます
- 免除期間がゼロの方:育休期間中に何らかの理由で保険料を支払い続けていた場合(例:月の末日前に育休終了、旧制度の適用外)
- 国民健康保険・国民年金加入者:遡及納付は厚生年金・健康保険(被用者保険)の免除制度廃止に伴うものであり、自営業者等への適用はありません
離職者・転職者も対象——対応方法
現職でない場合であっても、免除を受けた実績がある限り遡及納付義務は消滅しません。ただし、手続き窓口や書類の調達先が現職者と異なります。
離職者の場合
元の勤務先企業が年金事務所への届出を行う義務を負います。ただし企業側の対応が遅延した場合は、元従業員本人が直接年金事務所へ連絡して「個人対象者として登録」してもらう手続きが必要です。必要書類として「離職票または退職証明書のコピー」「本人確認書類(マイナンバーカードまたは運転免許証)」を持参してください。
転職者の場合
前職の勤務期間中の免除分については、前職の企業が納付義務者となります。前職の人事部門に連絡し、遡及納付手続きの進捗を確認しましょう。現在の勤務先には原則として手続き義務は発生しません。転職前後で対応窓口が異なるため、企業内での情報共有が重要です。
遡及納付額の計算方法
保険料の基本計算式
遡及納付額は、育休前の「標準報酬月額」に免除期間の月数と保険料率を掛け合わせて算出します。
遡及納付額(労働者負担分)=
標準報酬月額 × 保険料率(労働者負担分) × 免除月数
保険料率(2025年時点)
| 保険の種類 | 労働者負担率 | 事業主負担率 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 厚生年金保険 | 9.15% | 9.15% | 18.3% |
| 健康保険(協会けんぽ・全国平均) | 約5.0%前後 | 約5.0%前後 | 約10.0%前後 |
※健康保険料率は都道府県・組合によって異なります。正確な料率は加入中の健康保険組合または協会けんぽ支部へご確認ください。
計算シミュレーション例
【例①】月収30万円・育休期間6か月の場合
標準報酬月額:300,000円
| 保険種別 | 計算式 | 労働者負担額 |
|---|---|---|
| 厚生年金 | 300,000円 × 9.15% × 6か月 | 164,700円 |
| 健康保険 | 300,000円 × 5.0% × 6か月 | 90,000円 |
| 合計 | 254,700円 |
【例②】月収40万円・育休期間12か月の場合
標準報酬月額:400,000円
| 保険種別 | 計算式 | 労働者負担額 |
|---|---|---|
| 厚生年金 | 400,000円 × 9.15% × 12か月 | 439,200円 |
| 健康保険 | 400,000円 × 5.0% × 12か月 | 240,000円 |
| 合計 | 679,200円 |
⚠️ 注意: 上記はあくまでも概算シミュレーションです。実際の納付額は、年金事務所・健康保険組合から送付される「遡及納付計算書」に記載された金額が正式となります。自己計算額と通知額が異なる場合は、必ず発行元に問い合わせてください。
事業主負担分はどうなるか
遡及納付は労働者負担分だけでなく、事業主負担分も含めて追加納付が必要です。企業側は、労働者の遡及納付額と同額の事業主分保険料を別途納付します。
企業の人事・経理担当者は、対象者人数・標準報酬月額・免除月数を一覧化したうえで、年金事務所から送られてくる「遡及納付計算書(事業主分)」の金額と突き合わせて確認作業を行ってください。事業主負担分は企業の社会保険料コストとなるため、予算管理が重要です。
必要書類と準備チェックリスト
企業が準備する書類
| 書類名 | 用途 | 取得先 |
|---|---|---|
| 育児休業開始・終了届の控え | 対象期間の確認 | 自社保管分 |
| 給与台帳(休業前直近3か月分) | 標準報酬月額の確認 | 自社経理部門 |
| 社会保険料免除決定通知書 | 免除期間・金額の確認 | 年金事務所から取り寄せ |
| 遡及納付対象者一覧表 | 対象者の全体把握 | 自社で作成(様式は年金事務所に確認) |
| 育児休業等取得者申出書(控え) | 申出内容の確認 | 自社保管分 |
労働者個人が準備する書類
| 書類名 | 用途 | 備考 |
|---|---|---|
| 本人確認書類(マイナンバーカード等) | 本人確認 | 離職者は必須 |
| 基礎年金番号通知書またはねんきん定期便 | 年金番号確認 | 年金事務所での手続き時 |
| 社会保険料免除決定通知書のコピー | 免除期間確認 | 企業経由で取得可 |
| 離職票・退職証明書(離職者のみ) | 在籍状況の証明 | 前職企業から発行 |
書類取り寄せ先一覧
| 保険の種類 | 手続き窓口 | 連絡先 |
|---|---|---|
| 厚生年金保険 | 管轄の年金事務所 | 0120-657-830(ねんきんダイヤル) |
| 健康保険(協会けんぽ) | 協会けんぽ都道府県支部 | 各支部の電話番号を確認 |
| 健康保険(健康保険組合) | 加入の健康保険組合 | 組合の窓口へ直接問い合わせ |
納付期限と手続きの流れ
納付期限
遡及納付の期限は、2025年4月1日の施行日から原則6か月以内(2025年9月30日) が目安とされています。ただし、対象者の特定・通知発送に時間がかかるケースでは、年金事務所との協議のうえで期限が延長される場合があります。
⚠️ 期限内に納付が完了しない場合、延滞金(年率2.4〜8.7%) が発生します。延滞金の免除申請制度は現時点では設けられていないため、早期対応が最優先事項です。
手続きの全体フロー
【STEP 1】対象者の確認(2025年1〜3月)
企業の人事部門が、過去の育休取得者リストと
免除決定通知書を照合して対象者を特定する
↓
【STEP 2】年金事務所・健康保険組合へ届出(2025年4月〜)
「遡及納付対象者一覧表」と必要書類一式を提出
企業が対象者全員分をまとめて届出するのが原則
↓
【STEP 3】遡及納付計算書・納付額通知の受領
年金事務所・健康保険組合から
対象者ごとの計算書が企業あてに送付される
↓
【STEP 4】労働者への通知と費用負担調整
企業は労働者に計算書を転送し、
労働者負担分の回収方法(給与天引き等)を協議
↓
【STEP 5】保険料の納付(期限:原則2025年9月30日)
企業が事業主負担分・労働者負担分を合算して
年金事務所・健康保険組合へ一括納付
↓
【STEP 6】納付完了報告・記録保管
納付完了後、年金事務所から「遡及納付完了通知」が発行される
企業・労働者ともに書類を5年間保管すること
企業の人事担当者がやるべき優先タスク
施行日(2025年4月1日)前後に集中して対応が必要な業務を優先順位順に示します。
- 過去5年分の育休取得者リストの整備(2025年1〜2月中に完了)
- 社会保険料免除決定通知書の一括取り寄せ(年金事務所へ申請)
- 免除期間・標準報酬月額の一覧表作成(対象者ごとに整理)
- 年金事務所・健康保険組合への事前相談(手続き方法・提出期限の確認)
- 対象労働者への事前周知(説明会・文書通知の実施)
- 離職者・転職者への個別連絡(連絡先が不明な場合は年金事務所へ相談)
対象者が多い企業では、社会保険労務士への外注も検討値します。
労働者負担分の回収と企業の費用処理
労働者負担分の回収方法
企業が立替えた労働者負担分の遡及保険料は、労働者から回収する必要があります。主な回収方法は以下の3つです。
① 給与からの分割天引き
在職中の場合、労働者の同意を得たうえで数か月に分けて給与から控除する方法が最も一般的です。一時的な負担を分散できるため、労働者・企業双方にとって合理的な選択肢です。ただし、賃金全額払いの原則(労働基準法第24条) との関係から、必ず労働者の書面同意を得てください。
② 一括徴収
余裕がある場合は一括回収も可能です。在職者・離職者ともに適用できますが、離職者からの回収は困難なケースも多いため、在職中に速やかに対応することが推奨されます。
③ 退職金・未払賃金との相殺(離職者の場合)
離職後に遡及納付が判明した場合、退職金や未払賃金との相殺で対応することがあります。この場合も本人の書面同意が必要です。
企業の経費処理
事業主負担分の遡及保険料は、法定福利費(租税公課) として損金処理できます。遡及分の計上時期は、年金事務所から「遡及納付計算書」が届いた事業年度の費用として処理するのが原則です。詳細は顧問税理士・社会保険労務士に確認してください。現金支出時と費用計上時のずれが生じるため、経理部門への早期通知が必要です。
退職者・転職者への特別対応ガイド
離職者への対応は、在籍者と比べて複雑な手続きが発生します。
退職者への対応手順
- 元従業員の連絡先を確認する(退職時の住所・メールアドレス等)
- 書面で遡及納付の発生を通知する(内容証明郵便の使用を推奨)
- 本人の意向確認と回収方法の協議(分割・一括・源泉控除残余金との相殺等)
- 年金事務所への届出時に「退職者分」として明示する
元従業員への通知は、誠実で丁寧な対応が、トラブル防止に直結します。
連絡がとれない元従業員の場合
退職後に連絡がとれなくなった元従業員については、企業が年金事務所へ「連絡不能者として届出」する手続きが設けられています(詳細は管轄年金事務所に要確認)。この届出を行うことで、企業側の義務履行が認められ、延滞金責任が軽減される場合があります。公示送達の手続きも検討値します。
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まとめと対応チェックリスト
企業・人事担当者向けチェックリスト
- [ ] 2025年3月31日以前に育休取得した従業員リストを整備した
- [ ] 社会保険料免除決定通知書を全対象者分収集した
- [ ] 年金事務所・健康保険組合への事前相談を実施した
- [ ] 対象従業員に対して文書・説明会で周知を行った
- [ ] 離職者・転職者の連絡先を確認し個別通知を発送した
- [ ] 遡及納付計算書の受領後、金額の確認を完了した
- [ ] 2025年9月30日までの納付スケジュールを策定した
- [ ] 労働者負担分の回収について書面同意を取得した
労働者向けチェックリスト
- [ ] 自分が2025年3月31日以前に育休を取得していたか確認した
- [ ] 育休中に保険料免除を受けていたか確認した(通知書で確認)
- [ ] 会社の人事部門から連絡を受けているか確認した
- [ ] 遡及納付計算書の受領後、計算内容を確認した
- [ ] 負担額・回収方法について会社と合意した
- [ ] 2025年9月30日までに納付が完了することを確認した
よくある質問(FAQ)
Q1. 遡及納付を支払わないとどうなりますか?
納付期限(原則2025年9月30日)を過ぎると、延滞金が発生します。延滞金の年率は未納期間に応じて2.4〜8.7%で、滞納が長期化すると財産差押えの対象になる可能性もあります。通知が届いたら速やかに対応してください。
Q2. 育休中の免除期間が年金額に影響することはありますか?
遡及納付を完了した場合、免除期間分の厚生年金保険料が正式に納付されたとみなされるため、将来受け取る老齢厚生年金の計算に免除期間分が加算されます。つまり、遡及納付を行うことで、将来の年金受取額が増加するメリットもあります。
Q3. 分割納付は認められますか?
年金事務所・健康保険組合への申請により、一定条件のもとで分割納付が認められる場合があります。一括での支払いが困難な場合は、早めに管轄窓口へ相談してください。なお、分割納付の承認後も延滞金が発生する可能性がある点に注意が必要です。
Q4. 2025年4月に育休中の場合はどうなりますか?
2025年3月31日以前に育休を開始し、4月1日時点でまだ育休中の場合は、改正前の取得者として遡及納付の対象となります。4月1日以降の育休継続期間については、免除なしで通常の保険料徴収が行われる見込みです。具体的な月割り計算については年金事務所に確認してください。
Q5. 健康保険組合と協会けんぽで手続きは異なりますか?
基本的な手続きの流れは共通していますが、提出書類・様式・問い合わせ窓口は異なります。協会けんぽ加入者は都道府県支部、健康保険組合加入者は所属の組合窓口にそれぞれ確認してください。厚生年金の手続きは加入形態を問わず、管轄の年金事務所が窓口となります。
Q6. 企業が倒産・廃業していた場合、元従業員はどうすればよいですか?
企業が倒産・廃業している場合、元従業員は直接、管轄の年金事務所へ出向いて個人対象者として手続きを行います。廃業企業名・在職期間・基礎年金番号を持参し、遡及納付対象者として登録の申請をしてください。
専門家への相談を推奨
遡及納付に関する計算・手続きは、標準報酬月額の変動・免除期間の重複・事業主負担の按分など、個別事情によって複雑化します。社会保険労務士または管轄の年金事務所・健康保険組合への相談を強くお勧めします。制度への不明点は決して自己判断せず、必ず公式窓口に問い合わせることが、後々のトラブル回避につながります。

