育休給付金をいくら受け取れるのか、給与明細を見ながら計算しようとして「なぜかうまく金額が合わない」と感じたことはありませんか?その原因の多くは、給与の全額が育休給付金の計算に使われるわけではないという仕組みにあります。
通勤手当・家族手当・賞与など、日常的に受け取っているはずの給与の一部が「除外給与」として計算から外れるため、実際の受取額は思ったより少なくなるケースが少なくありません。
この記事では、育休給付金の計算から外れる「除外給与」の完全リストを法的根拠とともに解説します。手当の種類ごとに「なぜ除外されるのか」を丁寧に説明するため、ご自身の給付額をより正確に見積もることができるようになります。
育休給付金の「除外給与」とは何か?基本を3分で理解する
賃金日額とは?育休給付金の計算に使われる基準額の仕組み
育休給付金の支給額は、次の計算式で算出されます。
育休給付金(月額)= 賃金日額 × 支給日数 × 給付率(67%または50%)
この計算の出発点となる「賃金日額」は、育休開始前の6か月間に受け取った賃金の総額を180で割った金額です。
賃金日額 = 育休開始前6か月の賃金総額 ÷ 180
ここで重要なのが、「賃金総額」の中身です。毎月の給与明細に記載されている金額をすべて合計すればよいわけではなく、特定の給与項目は賃金総額から除外して計算するというルールが法律で定められています。この除外される項目が「除外給与」です。
なお、2025年時点の給付率は、育休開始から通算180日目までは67%、181日目以降は50%が適用されます。賃金日額には上限額(2025年度:14,310円)と下限額が設定されており、どれだけ高収入であっても給付金に上限が生じます。
除外給与が設けられている法的理由(雇用保険法第14条・施行規則第6条)
除外給与の制度は、雇用保険法第14条と雇用保険法施行規則第6条を根拠としています。
| 法令 | 条文 | 定めている内容 |
|---|---|---|
| 雇用保険法 | 第14条第1項 | 賃金日額の基本的な定義 |
| 雇用保険法 | 第14条第3項 | 賃金に算入しない給与項目の列挙 |
| 雇用保険法施行規則 | 第5条〜第6条 | 除外給与の詳細な定義と分類 |
育休給付金の給付率(67%・50%)は、「通常の労働時の賃金を補填する」という補償的な性格に基づいて設計されています。このとき「通常の賃金」とは、労働の対価として安定的・継続的に支払われる賃金を指します。
一方で、家族の人数や通勤方法・住居形態といった個人の生活属性に応じて支給される手当や、年に数回まとめて支払われる賞与のような臨時的な給与は、労働の対価として安定的に得られるものとは性質が異なります。
そのため法律は、これら2種類の給与を「賃金日額の算定に含める賃金」から切り離し、より純粋に「労働対価としての賃金」だけを基準額の計算に用いることとしています。これが除外給与制度の根本的な理由です。
【完全リスト】計算対象外となる除外給与の一覧表
除外給与は大きく2つのカテゴリに分類されます。「付加的給与」(個人属性に基づき支給される手当)と「臨時的給与」(支給が不定期または一時的な給与)です。以下の一覧表を確認し、自分の給与明細に該当する項目がないか照合してください。
【付加的給与】家族手当・住宅手当・通勤手当など5項目
付加的給与とは、本来の労働対価ではなく、労働者の個人的な生活事情や属性に対して上乗せ支給される手当です。雇用保険法施行規則第6条第1項に規定されています。
| 手当の種類 | 具体的な名称例 | 除外の理由 |
|---|---|---|
| 家族手当 | 配偶者手当、扶養手当、子ども手当 | 家族構成という個人属性に基づく支給であり、労働の対価ではない |
| 住宅手当 | 家賃補助、住宅補助、持家補助 | 居住形態・住居費という個人事情に基づく支給 |
| 通勤手当 | 交通費実費、定期代相当額、ガソリン代補助 | 通勤方法・居住地という個人の選択に基づく支出補填 |
| 別居手当(単身赴任手当) | 単身赴任手当、別居補助 | 一時的・臨時的な居住状況に基づく支給 |
| 子女教育手当 | 教育費補助、学費援助 | 子どもの就学という個人属性に基づく支給 |
ポイント: これらは会社によって名称が異なる場合があります。「○○補助」「○○支援金」という名称であっても、支給の実態が上記の性質に該当すれば除外給与として扱われます。名称だけで判断せず、支給目的・支給条件を確認することが重要です。
【臨時的給与】賞与・退職金・臨時手当・見舞金など5項目
臨時的給与とは、月々の給与とは別に、不定期または特定の事由が生じたときにのみ支払われる給与です。雇用保険法施行規則第6条第2項に規定されています。
| 給与の種類 | 具体的な名称例 | 除外の理由 |
|---|---|---|
| 賞与・ボーナス | 夏季賞与、冬季賞与、期末手当、決算賞与 | 月1回以上定期的に支払われる賃金ではなく、臨時的支給と解釈される |
| 退職手当・退職金 | 退職一時金、早期退職優遇金 | 雇用終了時にのみ発生する明白に一時的な給与 |
| 臨時手当・特別手当 | 特別賞与、創立記念手当、功績金 | 定期的・継続的な支給ではなく異例的な支給 |
| 祝い金・見舞金 | 出産祝い金、傷病見舞金、災害見舞金 | 特定事由の発生時にのみ支給される社会通念上の給与外給付 |
| 懲罰的給与・減額分 | 遅刻控除、懲戒減給 | 懲罰的性質を持つため通常賃金の計算に含めない |
ポイント: 賞与については特に誤解が多いため注意が必要です。毎月「月例賞与」として支給される場合でも、雇用保険上の取り扱いは支給形態の実態によって異なります。不明な場合はハローワークに事前確認することを推奨します。
各除外給与の詳細解説:「なぜ外れるのか」を項目別に理解する
家族手当が除外される理由と実務での注意点
家族手当(扶養手当・配偶者手当・子ども手当)が除外給与とされるのは、「誰と一緒に暮らしているか」という個人の家族構成を理由に支給される手当であり、その人が仕事としてどれだけ働いたかとは無関係だからです。
たとえば、同じ職種・同じ労働時間で働く2人の社員であっても、一方は扶養家族が多く家族手当を多く受け取り、もう一方は扶養家族がいないため家族手当ゼロ、という状況があり得ます。育休給付金はあくまで「休業前に労働の対価として安定して得ていた賃金を補填する」制度であるため、このような属性依存の手当は算定基礎から外す設計になっています。
実務での注意点:
– 「扶養手当」「配偶者手当」という名称でなくても、家族人数・扶養状況に応じて支給額が変わる手当はすべて該当します
– 子どもの誕生を機に新たに家族手当が支給された場合、それは賃金日額に含まれません
– 産休・育休前に給与が上がったと感じていても、その上昇が家族手当の新規支給・増額によるものであれば給付額には反映されません
通勤手当が除外される理由と実務での注意点
通勤手当は、多くの会社で給与明細の「支給」欄に記載されており、給与の一部として認識されがちです。しかし雇用保険の観点では、通勤手当は「労働者がどこに住んでいるか」「どの交通手段を選ぶか」という個人の選択に基づく支出の補填であり、労働の対価ではないと位置づけられています。
実際、同じオフィスで働く社員であっても、徒歩通勤の人は通勤手当ゼロ、電車で遠方から通勤する人は月数万円の通勤手当を受け取るという差が生じます。この差は労働内容・労働量とは無関係であるため、育休給付金の算定から除外されます。
実務での注意点:
– 通勤手当が非課税限度額(月15万円)を超えて支給されている場合、超過分は課税給与として扱われますが、雇用保険上の賃金日額算定からは全額除外されます
– テレワーク手当や在宅勤務手当は、支給の実態(通勤費相当か、それとも通信費・光熱費補助か)によって扱いが異なるため、ハローワークへの確認を推奨します
住宅手当が除外される理由と実務での注意点
住宅手当・家賃補助は、労働者の居住形態(賃貸か持家か)や家賃水準に応じて支給される手当であり、労働の対価とは性質が異なります。住んでいる場所・住居の選択は個人の生活事情に基づくものであり、労働量や労働内容を反映しないためです。
実務での注意点:
– 「住宅手当」という名称でなくても、賃貸在住者にのみ支給される「家賃補助」や、住宅ローン返済を支援する「持家手当」も同様に除外対象です
– 社宅・寮に入居している場合、社宅費用の企業負担分は現物給与として扱われることがあり、計算方法が複雑になります。この場合は必ずハローワークまたは社会保険労務士に相談してください
賞与・ボーナスが除外される理由と実務での注意点
賞与は、多くの労働者にとって年収の重要な部分を占めますが、育休給付金の賃金日額算定では完全に除外されます。
除外の根拠は、雇用保険法上の「賃金日額に算入する賃金」が「被保険者期間中の各月において、月1回以上かつ定期的に支払われる賃金」に限定されているためです。一般的な賞与は年2回など不定期(月1回未満)の支給であるため、この定義から外れます。
【重要】年収に占める賞与の割合が高いほど、
賃金日額は実際の年収から大きく乖離します
例:月給30万円 + 賞与150万円(年収510万円)の場合
→ 賃金日額の算定基礎 = 月給30万円 × 6か月 = 180万円
→ 賃金日額 = 180万円 ÷ 180 = 10,000円
→ 育休給付金(月額)= 10,000円 × 30日 × 67% = 201,000円
賞与を含めた年収ベースの計算とは大きく異なります
実務での注意点:
– 業績連動型の「月例インセンティブ」が毎月支払われている場合、その性質が「定期的に支払われる賃金」に該当するかどうかは支給形態の実態によります
– 決算期の業績により支給される「決算賞与」は、たとえ毎年支払われていても、月1回未満支給であれば除外されます
– 「賞与が多い年」の育休開始は、給付額に有利にも不利にも影響しません。賞与は計算に入らないため、月給が同じであれば賞与の多寡に関わらず給付額は同じになります
その他の除外給与(退職手当・見舞金・懲罰的給与)
退職手当・退職金は、雇用関係の終了という特定の事由が生じた時にのみ発生する一時的な給与であり、在職中の労働の継続的対価とは明確に異なります。雇用保険の賃金日額算定から当然に除外されます。
祝い金・見舞金(出産祝い金・傷病見舞金・災害見舞金など)は、特定の人生上の出来事や災害に対して支給される社会的・人道的な給付であり、労働の対価という性質を持ちません。金額が大きくても、育休給付金の算定には一切影響しません。
懲罰的給与・減額分は、遅刻・早退・懲戒処分に伴う減給措置を指します。これらは通常の賃金支払いとは性質が異なるため、賃金日額の算定においては標準的な賃金額をベースに計算し、懲罰的減額分を含めた調整は行いません。
除外給与を踏まえた育休給付金の正確な計算方法
実際に育休給付金の見込み額を計算する手順を以下に示します。
ステップ1:育休開始前6か月分の給与明細を準備する
育休開始日の直前の完全な賃金支払月(月の途中で育休が始まった場合はその前月)から遡って6か月分の給与明細を用意します。給与明細には、基本給から各種手当、控除額まですべての項目が記載されていることを確認してください。
ステップ2:各月の給与から除外給与を差し引く
毎月の「総支給額」から、以下の除外給与を差し引きます。
算入賃金 = 総支給額
− 家族手当
− 住宅手当
− 通勤手当
− 単身赴任手当(別居手当)
− 子女教育手当
− 賞与(当該月に支給されていた場合)
− その他臨時的給与・見舞金等
ステップ3:6か月分の算入賃金を合計し、180で割る
賃金日額 = 6か月分の算入賃金の合計 ÷ 180
上限額(14,310円)と下限額を超えないかも同時に確認してください。
ステップ4:育休給付金の月額を試算する
育休給付金(月額)= 賃金日額 × 30日 × 給付率
※育休開始から180日目まで:給付率67%
※181日目以降:給付率50%
計算例
月給30万円(基本給25万円 + 家族手当2万円 + 通勤手当3万円)の方が育休を取得した場合:
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 総支給額(月) | 300,000円 |
| 除外:家族手当 | −20,000円 |
| 除外:通勤手当 | −30,000円 |
| 算入賃金(月) | 250,000円 |
賃金日額 = 250,000円 × 6か月 ÷ 180 = 8,333円
育休給付金(月額・開始〜180日)
= 8,333円 × 30日 × 67% ≒ 167,500円
総支給額ベースで計算すると「300,000円 × 67% ≒ 201,000円」と誤って試算してしまいがちですが、正確には167,500円です。約33,500円の差が生じていることがわかります。
申請手続きと提出書類:ハローワークへの正確な申請のために
育休給付金の申請は、事業主(会社)経由でハローワーク(公共職業安定所)に行うのが一般的です。申請に際して提出が必要な書類は次のとおりです。
主な提出書類
| 書類名 | 説明・注意点 |
|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書 | 初回申請時に使用。ハローワークの所定書式 |
| 育児休業給付金支給申請書 | 2回目以降の申請に使用 |
| 賃金台帳(直近6か月分) | 除外給与を正確に区分して記載したもの |
| 出勤簿・タイムカード(直近6か月分) | 賃金支払い基礎日数の確認に使用 |
| 母子健康手帳(出産証明部分) | 出生日・育休対象児の確認 |
| 育児休業取得証明書 | 会社が発行する育休開始・終了予定日の証明書類 |
申請タイミングと注意事項
- 初回申請: 育休開始から約2か月後が最初の申請タイミングです(支給単位期間ごとに申請)
- 申請期限: 支給単位期間の末日から起算して4か月以内(期限を超えると支給を受けられなくなる場合があります)
- 賃金台帳の除外給与の記載: 賃金台帳には、除外給与を明確に区分して記載することが求められます。「通勤手当」「家族手当」を別項目として記載している給与体系であれば、ハローワークの審査もスムーズです
- 支払い: 申請受理後、概ね2週間程度でハローワークから支給決定通知が届き、指定口座に振り込まれます
人事担当者が押さえるべき実務ポイント
育休給付金の手続きを担当する人事・労務担当者は、以下の点に特に注意が必要です。
賃金台帳の項目設計を見直す
除外給与を正確に算定するためには、給与明細・賃金台帳で各手当が独立した項目として明記されていることが前提です。「諸手当」「その他手当」という一括項目で支給している場合、除外給与の区分が困難になり、申請時にトラブルが発生する可能性があります。育休取得者が増えることを見越して、給与体系の項目設計を見直しておくことを推奨します。
新設手当の雇用保険上の扱いを事前確認する
会社が新たに手当を新設した際、その手当が雇用保険上「除外給与」に該当するかどうかを必ず事前に確認してください。判断が難しい場合は、管轄のハローワークまたは社会保険労務士に照会することが最も確実です。
産休・育休取得者への事前説明を徹底する
給付金額の見込みについて、従業員が誤った期待を持ったまま育休に入ることがないよう、人事担当者は除外給与の仕組みを含めた正確な試算結果を事前に説明することが望ましいです。特に通勤手当・家族手当の合計額が大きい社員は、試算と実際の給付額に差が生じやすいため、丁寧なフォローが必要です。

