育児中に「在宅勤務で対応しているから育児休業は取らなくていい」と考えていませんか?実は、育児休業と在宅勤務は法律上まったく別の制度であり、在宅勤務を選んだ場合は育児休業給付金が一切受け取れないという重大な違いがあります。
この記事では、育休と在宅勤務の法的な違いから、給付金が受け取れない理由、正しい育休申請の手続き・必要書類・給付金額の計算方法まで、労働者と企業の人事担当者の双方が実務で活用できるよう詳しく解説します。
育休と在宅勤務は法律上まったく別物【最初に理解すべき基本概念】
育児休業と在宅勤務は、一見どちらも「子どもの育児をしながら会社に関わる手段」のように見えます。しかし法律の観点では、この2つは根本的に性質が異なります。この違いを最初に正確に理解することが、給付金の受け取り可否を判断するうえで最も重要なポイントです。
育児休業の法的定義(育児・介護休業法第5~6条)
育児休業は、育児・介護休業法第5条~第6条に基づいて認められた「休業」という法的地位です。
具体的には、労働者が雇用契約上の地位を保持したまま、一定期間にわたって労務提供の義務が免除される制度です。つまり、育休中の労働者は会社に対して働く義務を負わず、賃金も発生しません(ただし雇用関係は継続)。
法律が労働者に認めた「完全に仕事から離れる権利」であり、使用者はその取得を原則として拒否できません(育児・介護休業法第6条第1項)。
育児・介護休業法第5条第1項(要旨)
労働者は、その養育する1歳に満たない子について、事業主に申し出ることにより、育児休業をすることができる。
この「申し出をすることにより取得できる」という性質が重要です。育休は申請によって法的に確立される「休業状態」であり、在宅で仕事をしている状態とは本質的に異なります。
在宅勤務は就業扱い=給付金対象外の理由
一方、在宅勤務(テレワーク)は、就業の一形態です。自宅で作業していても、労働者は会社に対して労務を提供しており、雇用契約上の「働く義務」を履行しています。
育児休業給付金は、雇用保険法第61条の4に基づく給付であり、支給要件の一つとして「被保険者が育児休業を取得していること」が明確に定められています。在宅勤務中の労働者は育児休業を取得しておらず就業状態にあるため、この要件を満たしません。
結果として、以下のような損失が生じます。
- 育児休業給付金(賃金の最大67%相当)が受け取れない
- 育休中の社会保険料(健康保険・厚生年金)の免除が適用されない
- 育児休業という法的地位による復帰時の地位保障が生じない
在宅勤務で育児に対応している期間は、法律上は「通常の就業」であり、有給休暇や時短勤務と同様の扱いになります。給付金の受け取りを期待して在宅勤務を続けていた場合、後から取り返しがつかない不利益を被るリスクがあります。
育休と在宅勤務の比較表
以下の表で、6つの重要項目における育休と在宅勤務の違いを整理します。
| 比較項目 | 育児休業 | 在宅勤務 |
|---|---|---|
| 法的性質 | 休職(労務提供義務なし) | 就業(労務提供義務あり) |
| 育児休業給付金 | ✅ 対象(要件充足時) | ❌ 対象外 |
| 社会保険料の免除 | ✅ 免除あり(月額約4万円) | ❌ 免除なし |
| 勤続年数カウント | ✅ 通算される | ✅ 通算される |
| 復帰時の地位保障 | ✅ 法律で保障 | 通常の就業扱い |
| 賃金の発生 | ❌ 原則なし(給付金あり) | ✅ 賃金が発生 |
この表からわかる通り、金銭面では育休のほうが大きな経済的メリット(給付金・社会保険料免除)があります。在宅勤務を選択した場合は賃金こそ発生しますが、給付金と社会保険料免除を合算した額と比較した際にどちらが有利かを、事前にシミュレーションすることが重要です。
育児休業が給付金対象、在宅勤務が非対象の理由【雇用保険法の条件】
育児休業給付金は、雇用保険制度の一環として設けられた給付です。財源は雇用保険料であり、「休業により賃金が得られない状態の労働者を支援する」という目的で設計されています。
雇用保険法に定められた支給要件
育児休業給付金(雇用保険法第61条の4)が支給されるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
【育児休業給付金の支給要件】
✅ 雇用保険の被保険者であること
✅ 育児休業を取得していること(法的に認められた「休業」状態)
✅ 育休開始前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある
月が12ヶ月以上あること
✅ 育休期間中に就業している日が、
各支給単位期間(約1ヶ月)に10日以下であること
(または就業時間が80時間以下であること)
✅ 育休期間中の賃金が休業開始時賃金月額の80%未満であること
在宅勤務で通常就業している状態は、「育児休業を取得していること」という第2の要件を根本的に満たしません。雇用保険法は「休業状態」を前提として設計されており、在宅勤務という就業状態とは相容れない制度なのです。
また、就業日数の条件(10日以下または80時間以下)という要件も注目に値します。育休中であっても、一定以上の日数・時間を超えて就業した場合は、その支給単位期間の給付金が支給されなくなります。育休中の在宅勤務(いわゆる「育休中の一時就労」)には上限があり、これを超えると給付金が不支給になるため注意が必要です。
社会保険料免除の条件と在宅勤務との関係
育児休業中は、健康保険法第159条および厚生年金保険法第81条の2に基づき、育休期間中の社会保険料(健康保険・厚生年金)が労使双方とも免除されます。
この免除は「育児休業等を取得している期間」に対して適用されるものであり、在宅勤務という就業状態には一切適用されません。
社会保険料の免除額は収入水準によって異なりますが、月収30万円の場合、労働者負担分だけで月額約4.4万円(健保・年金合計)が免除されます。育休期間が1年間であれば約53万円もの負担が免除されることになり、この経済的メリットは非常に大きなものです。
育児休業の取得要件と申請対象者【あなたは対象か確認しよう】
給付金を受け取るために育休取得を検討する前に、まず自分が育児休業の取得要件を満たしているかを確認しましょう。
育児休業の取得要件(育児・介護休業法第5条)
【育児休業を取得できる条件】
✅ 雇用関係
└─ 雇用契約期間の定めがない(正社員等)
└─ または、契約更新により子が1歳6ヶ月になるまで
雇用継続が見込まれる有期雇用労働者
✅ 勤続期間
└─ 同一事業主のもとに継続して1年以上雇用されていることが
原則(※2022年10月以降の法改正により、
労使協定がない場合はこの要件が廃止)
✅ 申出のタイミング
└─ 育休開始希望日の1ヶ月前までに申し出ること
(産後パパ育休の場合は2週間前まで)
✅ 取得期間
└─ 子が原則1歳になるまで(最長2歳まで延長可)
2022年10月の法改正ポイント
育児・介護休業法の改正により、有期雇用労働者の育休取得要件である「1年以上の継続雇用」の要件が廃止されました(労使協定による除外規定を設けた場合を除く)。以前より多くの有期雇用労働者が育休を取得しやすくなっています。
育児休業給付金の受給要件(勤続年数・雇用保険加入条件)
育休が取れても、給付金を受け取るには別途、雇用保険の受給要件を満たす必要があります。
【育児休業給付金の受給要件】
✅ 雇用保険の一般被保険者であること
✅ 育休開始前の2年間に「賃金支払基礎日数が11日以上」の月が
通算12ヶ月以上あること
(育休前に産休を取得している場合は、産休前の期間でカウント可能)
パートタイム労働者や派遣労働者でも、雇用保険に加入していれば対象になります。一方、雇用保険に未加入の場合(週所定労働時間が20時間未満など)は、育休を取得しても給付金は受け取れません。
育児休業の申請手続きと必要書類【ステップごとに解説】
育休を正式に取得し、給付金を受け取るためには、決められた手順と書類の準備が必要です。以下のステップを順に確認してください。
ステップ1:育児休業の申し出(育休開始1ヶ月前までに)
提出先: 勤務先(直属上司または人事部門)
必要書類:
□ 育児休業申出書
└─ 厚生労働省が公開する様式例を使用、または会社所定の書式
└─ 記載内容:氏名・休業開始日・終了予定日・子の氏名と生年月日
□ 添付書類
├─ 出生証明書のコピー
├─ または母子健康手帳の出生届出済証明のコピー
├─ 健康保険証のコピー(扶養追加手続きと合わせて提出)
└─ 保育所等の利用申込書のコピー(1歳以降への延長申請時に必要)
重要ポイント: 育児休業の申し出は、使用者が拒否することは原則できません(育児・介護休業法第6条)。申し出を行ったことを証明するために、書面での提出・受領確認を行うことを強くお勧めします。
ステップ2:社会保険料免除の手続き(会社が対応)
育休取得が確定したら、事業主がその旨を年金事務所(または健康保険組合)に届け出ます。
手続き: 健康保険・厚生年金保険 育児休業等取得者申出書の提出
提出先: 年金事務所または健康保険組合
提出タイミング: 育休取得後、速やかに(育休終了後でも可)
この届出により、育休期間中の社会保険料が労使双方とも免除されます。労働者側での手続きは不要ですが、会社が手続きを行っているか確認しておきましょう。
ステップ3:育児休業給付金の申請(ハローワークへ)
申請主体: 原則として事業主(会社が代理申請)
提出先: 事業所を管轄するハローワーク
必要書類:
□ 育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書
□ 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
└─ 休業開始前の賃金水準を証明する書類(会社が作成)
□ 添付書類
├─ 賃金台帳(直近6~12ヶ月分)
├─ 出勤簿またはタイムカード(直近6~12ヶ月分)
└─ 母子健康手帳のコピー(子の出生日確認のため)
申請期限: 育休開始日から4ヶ月以内に初回申請を行うこと(期限を過ぎると時効により受け取れない可能性があります)
支給サイクル: 2ヶ月ごとに申請・支給(初回のみ最初の2ヶ月分をまとめて申請)
育児休業給付金の金額計算方法【実際にいくらもらえるか】
育休を取得した場合、実際にどれだけの給付金を受け取れるのかをシミュレーションしてみましょう。
給付金額の基本計算式
育児休業給付金の支給額は、「休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 給付率」で計算されます。
【給付率】
・育休開始から180日間(約6ヶ月):67%
・181日目以降~育休終了まで :50%
【休業開始時賃金日額の算出】
休業開始前6ヶ月間の賃金合計 ÷ 180日
(賞与は含まない)
具体的な計算例
月収30万円の場合(育休前6ヶ月平均):
【休業開始時賃金日額の計算】
30万円 × 6ヶ月 ÷ 180日 = 10,000円(賃金日額)
【育休開始~180日間の給付額(67%)】
10,000円 × 30日 × 67% = 201,000円/月
【181日目以降の給付額(50%)】
10,000円 × 30日 × 50% = 150,000円/月
この例では、育休開始から6ヶ月間は月約20万1,000円、それ以降は月約15万円の給付金を受け取ることができます。
社会保険料免除との合算効果
月収30万円の場合、社会保険料の労働者負担分(健康保険・厚生年金の合計)は月額約4.4万円です(標準報酬月額30万円の場合)。育休中はこれが免除されるため、手取りベースで見ると給付金の実質的な価値はさらに高くなります。
また、厚生年金については、育休中に保険料が免除されても年金受給額の計算上は保険料を納めたものとして扱われるという特別なメリットもあります(将来の年金額が減らない)。
2歳まで延長できるケースと給付金の継続
保育所等が見つからないなどの理由がある場合、育休は1歳6ヶ月、さらには2歳まで延長できます(育児・介護休業法第5条第3項・第4項)。延長期間も引き続き給付金(50%)が支給されます。
延長には、「1歳の誕生日の前日までに保育所の入所申込を行ったが入所できない旨の通知書等」の提出が必要です。
在宅勤務を選んだ場合に受けられる支援制度
在宅勤務を選択した場合でも、いくつかの支援制度を利用できます。ただし、育児休業給付金・社会保険料免除との差はやはり大きいため、十分に比較・検討してください。
短時間勤務制度(育児・介護休業法第23条)
3歳未満の子を養育する労働者は、1日の所定労働時間を原則6時間に短縮する権利があります。在宅勤務と短時間勤務を組み合わせることで、育児と仕事を両立しやすくなります。ただし、短縮分の賃金は発生しないため、実質的に収入は減少します。
育児目的休暇・年次有給休暇
育休を取らずに有給休暇を消化して育児に対応する選択肢もあります。有給休暇消化中は通常賃金が支払われますが、育休給付金と社会保険料免除の組み合わせと比較した場合の実質的な経済効果は、個人の賃金水準や税負担によって異なります。
子の看護休暇(育児・介護休業法第16条の2)
小学校就学前の子が病気・けがをした場合に、年間最大5日(子が2人以上の場合は10日)の看護休暇を取得できます。1日単位または時間単位での取得が可能です(2021年1月~)。
企業(人事担当者)が注意すべき実務対応
在宅勤務申請と育休申請の混同を防ぐ
人事担当者として最も注意すべき点は、労働者から「在宅で育児対応したい」という申し出があった際に、それが育児休業の申し出なのか在宅勤務の申し出なのかを明確に区別することです。
混同が生じると、本来育休を取得できたはずの労働者が給付金・社会保険料免除を受け損なうことになり、企業側も労働者への説明義務を果たさなかったとして問題になるケースがあります。
人事部門では、育休の申し出があった際に以下の内容を労働者に書面で説明することが重要です。
- 育児休業中は労務提供が不要であり、在宅勤務は認められないこと
- 育休を選択した場合の給付金・社会保険料免除のメリット
- 在宅勤務を選択した場合の給付金対象外についての注意
育休申し出を拒否した場合のリスク
育児休業の申し出があった場合、正当な理由なく拒否することは育児・介護休業法第6条違反となります。また、拒否または不利益取り扱いを行った場合、都道府県労働局による指導・公表の対象になる可能性があります(同法第56条の2)。
企業が指導・公表された場合、企業名がハローワークや都道府県労働局のウェブサイトで公表されるため、企業の採用活動に大きな悪影響が及びます。
職場復帰後の原職復帰の原則
育休を取得した労働者が職場復帰する際は、原職または原職相当職への復帰が原則です(厚生労働省の指針に基づく)。在宅勤務で通常就業を継続している場合は、このような法的保護は生じません。復帰後の配置転換や給与減額などを避けるためにも、育休を正式に取得することが労働者にとって有利です。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 在宅勤務をしながら育児休業も同時に取得することはできますか?
育児休業中の就労は、原則として認められていません。ただし、育休中でも例外的に就業することは可能であり、その場合は1支給単位期間(約1ヶ月)あたり10日以下または就業時間80時間以下という上限が設けられています。この上限を超えると、その期間の給付金は不支給となります。育休取得と並行して在宅勤務を行う場合は、この上限を厳守する必要があります。
Q2. 在宅勤務で育児対応後、やはり育休を取りたいと思ったら取得できますか?
在宅勤務中でも、育休の申し出要件(子が1歳になる前日までに申し出ることなど)を満たしていれば、育休を取得することは可能です。ただし、在宅勤務で就業継続していた期間は育休期間に含まれないため、給付金の受給開始は育休を申し出た時点以降となります。子の年齢と申し出タイミングには注意が必要です。
Q3. 育児休業給付金はいつ振り込まれますか?
申請書がハローワークで受理・審査されてから通常2~3週間で指定口座に振り込まれます。初回申請は育休開始から4ヶ月以内に行う必要があり、以降は2ヶ月ごとに継続申請を行います。振込先の口座は、申請書に記載した労働者本人の口座に直接振り込まれます(会社経由ではありません)。
Q4. 有期雇用(契約社員・パート)でも育休と給付金は取得できますか?
2022年10月の法改正以降、有期雇用労働者も「育休開始時に同一事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である」という要件なしに育休を申し出られるようになりました(ただし、労使協定により除外された場合は除く)。また、雇用保険に加入しており「育休開始前2年間に賃金支払基礎日数11日以上の月が12ヶ月以上」あれば、給付金の受給も可能です。
Q5. 夫婦が同時に育休を取得した場合、給付金はどうなりますか?
夫婦が同時または交互に育休を取得することは可能であり、それぞれが要件を満たしていれば双方が育児休業給付金を受け取ることができます。また、「パパ・ママ育休プラス制度」を活用すると、配偶者が育休を取得した場合に育休取得可能期間が子の1歳2ヶ月まで延長されます。2022年10月に新設された産後パパ育休(出生時育児休業)制度では、子の出生後8週間以内に最大4週間の育休を柔軟に取得でき、給付金も通常と同様に支給されます。

