死産・流産時の産後休業と給付要件|出産手当金の申請手順

死産・流産時の産後休業と給付要件|出産手当金の申請手順 産前産後休業

妊娠中に死産や流産を経験した場合でも、一定の条件を満たせば産後休業を取得し、出産手当金を受給できます。しかし、この制度を知らずに休業を取得しなかったり、申請を見送ってしまうケースは少なくありません。

本記事では、死産・流産時の産後休業制度の法的根拠から、給付を受けられる具体的な要件、申請手続きと必要書類、そして出産手当金の計算方法まで、労働者・企業人事担当者の両方が実務で活用できる情報をわかりやすく解説します。


死産・流産でも産後休業は取得できる?制度の基本を確認

「死産や流産の場合、産後休業は取れないのでは?」と思っている方は多いです。しかし実際には、妊娠4か月(85日)以上での死産・流産であれば、産後休業の取得と出産手当金の受給が認められています

産前休業中に死産・流産した場合はもちろん、産前休業に入る前に死産・流産した場合にも、この制度が適用される可能性があります。まずは制度の全体像を確認しましょう。

産後休業が認められる根拠法(労基法・健保法・厚労省通知)

死産・流産時の産後休業と給付は、複数の法律と行政通知によって裏付けられています。下記の3本柱を押さえることが、制度理解の出発点です。

根拠 条文・通知 内容
労働基準法 第65条第2項 産後8週間の休業規定。「出産」には死産・流産を含む
健康保険法 第98条第1項 出産手当金の支給要件。妊娠4か月以上の分娩が対象
厚生労働省通知 健発0401第1号(平成29年) 流産・死産時の出産手当金支給の取扱いを明確化

特に重要なのは、労働基準法第65条の「出産」という言葉の定義です。同法において「出産」とは、妊娠4か月以上の分娩(死産・流産を含む) を指します。したがって、胎児が生きて生まれなかった場合でも、妊娠4か月以上であれば法律上の「出産」として扱われ、産後休業の権利が発生します。

健康保険法第98条第1項が定める出産手当金についても同様の解釈が適用され、厚生労働省の通知でさらに明確化されています。企業の人事担当者は、この法的根拠を理解したうえで、対象となる従業員に制度を案内することが求められます。

「産前休業中」と「産前休業前」で扱いが変わるポイント

死産・流産が起きたタイミングによって、産後休業の取り扱いに違いが生じます。

ケース①:産前休業中に死産・流産した場合

産前休業に入った後に死産・流産が発生した場合、産前休業はその時点で終了し、労働者が希望すれば産後休業に移行できます。産後休業の期間は、死産・流産の日(分娩日)の翌日から起算して最大8週間です。

この場合、産前休業中の出産手当金は分娩日(死産・流産日)までが支給対象となり、その後の産後休業期間についても引き続き出産手当金が支給されます。

ケース②:産前休業前(就業中)に死産・流産した場合

産前休業を開始する前に死産・流産が発生した場合も、妊娠4か月以上であれば産後休業を取得できます。この場合、産前休業の取得はなかったことになりますが、死産・流産後に産後休業を申し出ることで、その翌日から最大8週間の産後休業と出産手当金を受けることができます。

タイミング 産前休業の扱い 産後休業 出産手当金
産前休業中に発生 分娩日で終了 翌日から最大8週間 両期間対象
産前休業前に発生 取得なし 翌日から最大8週間 産後休業期間のみ対象

給付を受けられる対象者の要件(妊娠4か月以上が重要)

出産手当金の支給を受けるには、いくつかの要件を同時に満たす必要があります。「自分は対象になるか」を確認するため、全要件を整理しました。

「妊娠4か月以上」の具体的な判定方法(85日・在胎週数の目安)

給付対象となる死産・流産か否かを分けるのが、「妊娠4か月以上」という要件です。この判定には「最終月経開始日から85日」という基準が用いられます。

妊娠4か月 = 最終月経開始日から起算して85日目以降
           = 最終月経開始日の属する月から数えて4か月目に入った日以降

わかりやすい計算例:

最終月経開始日が1月1日の場合、

  • 1月:第1か月目
  • 2月:第2か月目
  • 3月:第3か月目
  • 4月1日以降:第4か月目 → この日(85日目)以降の死産・流産が対象

在胎週数でいうと、おおよそ妊娠13週以降が妊娠4か月以上に相当します(1か月=28日として計算)。ただし、在胎週数の数え方は医学的・法的に多少の差異があるため、判定が境界線上のケースでは医師の診断書に基づいて判断することが必要です。

妊娠期間 目安の週数 給付対象
妊娠4か月未満(85日未満) 〜12週 対象外
妊娠4か月以上(85日以降) 13週〜 対象

判定が難しい境界線ケース: 最終月経から85日前後で死産・流産が起きた場合は、主治医または産婦人科医に診断書の作成を依頼し、「妊娠4か月以上の分娩である」旨を明記してもらうことで、保険者に給付対象であることを証明できます。

対象外となるケースの一覧(傷病手当金・労災・被保険者資格なし)

以下のいずれかに該当する場合は、出産手当金の支給を受けることができません。事前に確認しておきましょう。

対象外となるケース 理由・補足
妊娠4か月未満(85日未満)の流産 法律上の「出産」に該当しない
健康保険の被保険者でない 夫の扶養に入っている場合、国民健康保険加入の場合は対象外
傷病手当金を受給中 傷病手当金と出産手当金は同一期間の同時受給不可(いずれか一方)
労災保険で給付を受けている 労災給付と出産手当金の併給はできない
退職後に産後休業を開始した場合(資格継続要件を満たさない) 被保険者期間が継続して1年未満の場合は資格喪失後給付の対象外になる可能性あり
任意継続被保険者として加入した場合 任意継続被保険者は出産手当金の対象外(健康保険法上)

【注意】傷病手当金との調整について

死産・流産後に体調不良で仕事ができない状態が続き、医師から労務不能と診断された場合、傷病手当金の対象にもなり得ます。しかし、産後休業期間中は出産手当金が優先されます。同一期間で両方を受給することはできないため、どちらの給付が有利かを保険者に相談のうえ選択してください。


出産手当金の支給内容と金額の計算方法

要件を満たした場合に受け取れる出産手当金の具体的な内容を確認しましょう。

支給期間と支給額の基本

死産・流産の場合、産後休業として認められる期間は最大8週間(56日) です。ただし、出産手当金の産後分として支給されるのは産後休業として取得した日数分であり、本人が取得を申し出た期間に限られます。

出産手当金の1日あたりの支給額の計算式:

1日あたりの支給額 = 標準報酬日額 × 2/3

標準報酬日額 = 標準報酬月額 ÷ 30

計算例:

標準報酬月額が30万円の場合、

標準報酬日額 = 300,000円 ÷ 30 = 10,000円
1日あたりの出産手当金 = 10,000円 × 2/3 ≒ 6,667円
産後8週間(56日)取得した場合の合計 = 6,667円 × 56日 = 約373,352円

なお、産休中に給与が支払われている場合、出産手当金は給与との差額のみ支給されます(給与額が出産手当金を上回る日は支給なし)。

社会保険料の免除について

産後休業期間中は、社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)が免除されます。これは労働者本人の負担分だけでなく、事業主負担分も免除の対象です。

死産・流産の場合も同様で、産後休業として認定された期間であれば、月をまたぐ形で休業を取得した月については所定の手続きにより社会保険料が免除されます。免除申請は産前産後休業取得者申出書を日本年金機構(または健康保険組合)に提出することで行います。

出産育児一時金も受給できる

死産・流産(妊娠4か月以上)の場合、出産手当金に加え出産育児一時金も受給できます。2023年4月以降の支給額は原則50万円(産科医療補償制度加入の医療機関の場合)です。

給付の種類 支給額(目安) 申請先
出産手当金 標準報酬日額 × 2/3 × 休業日数 協会けんぽ・健康保険組合
出産育児一時金 50万円(原則) 協会けんぽ・健康保険組合

申請手続きの流れと必要書類

死産・流産後の産後休業取得から出産手当金受給までの流れを、ステップごとに解説します。

手続きの全体フロー

STEP 1:死産・流産の診断・届出
         ↓
STEP 2:労働者が産後休業の意思表示(事業主へ)
         ↓
STEP 3:事業主が産後休業を認定・記録
         ↓
STEP 4:出産手当金の申請書を保険者に提出
         ↓
STEP 5:保険者が審査・給付決定
         ↓
STEP 6:出産手当金の振込

STEP 1:死産届・診断書の取得

死産の場合(妊娠12週以降)、死産届を市区町村役場に提出する義務があります(死産届は死産後7日以内)。この届出の受理証明書や、医師が発行する死産証明書が後の申請で必要になります。

流産(自然流産)の場合は死産届の提出義務がないケースもありますが、医師から診断書または証明書を発行してもらうことで、保険者への申請に使用できます。

STEP 2:産後休業の意思表示(事業主への通知)

産後休業を取得するためには、労働者本人が事業主に対して産後休業の取得を申し出る必要があります。法律上は強制休業ではなく、本人の申し出に基づく休業です。

申し出の方法は口頭でも書面でも認められますが、後のトラブル防止のために書面(メールを含む)で記録を残すことを強く推奨します。企業の人事担当者は、この申し出を受けた場合、産後休業開始日と終了予定日を記録し、社内の勤怠管理・給与計算に反映させてください。

STEP 3:必要書類の準備

出産手当金を申請するために必要な書類は以下のとおりです。

【出産手当金申請書】

書類名 取得先・発行元 記載内容
健康保険 出産手当金支給申請書 協会けんぽ・健康保険組合のウェブサイト 本人・事業主・医師の各証明欄あり
医師または助産師の証明 主治医・産婦人科医 分娩(死産・流産)の事実、分娩日、妊娠週数など
事業主の証明 勤務先(会社) 休業期間、給与支払いの有無など
死産証明書または診断書 医療機関 死産・流産の事実を証明
死産届受理証明書(死産の場合) 市区町村役場 死産届提出の証明
被保険者証(コピー) 本人保管 保険資格の確認

【社会保険料免除申請書(産前産後休業取得者申出書)】

こちらは事業主が日本年金機構または健康保険組合に提出する書類です。産後休業開始後、速やかに提出することで社会保険料免除が適用されます。

STEP 4:申請書の提出と審査

申請書類が揃ったら、協会けんぽの管轄都道府県支部または加入している健康保険組合に提出します。

  • 提出方法: 郵送または窓口持参(健康保険組合によってはオンライン提出も可)
  • 提出のタイミング: 産後休業終了後(または月ごとに分割申請も可能)
  • 時効: 出産手当金の請求権は、支給事由が生じた日(休業日)の翌日から2年間で時効消滅します。早めの申請を心がけましょう。

STEP 5:給付決定と振込

保険者による審査後(通常1〜2か月程度)、指定の口座に出産手当金が振り込まれます。審査に時間がかかる場合や、追加書類の提出を求められることもあるため、提出後も連絡が取れる状態を維持してください。


企業の人事担当者が注意すべき実務ポイント

従業員が死産・流産を経験した場合、人事担当者は正確な制度案内と適切な対応が求められます。

従業員への周知と配慮

死産・流産は、当事者にとって非常につらい経験です。制度の案内は必要ですが、本人の心理的な状態に配慮した伝え方が求められます。一般的に、以下の順序で対応することが推奨されます。

  1. まずは従業員の状況を確認し、休養の意向を確認する
  2. 落ち着いた段階で、産後休業制度と給付について文書で案内する
  3. 申請書類の準備を側面からサポートする(書類の入手代行など)

企業側の証明義務

出産手当金申請書には、事業主による証明(休業期間・給与支払い状況) が必要です。事業主はこの証明を拒否することはできません。速やかかつ正確に記載・押印し、従業員の申請手続きをサポートしてください。

産後休業中の就業は厳禁

産後6週間(42日)は、本人が請求した場合のみ就業可能とされています(健康保険法上の出産手当金支給条件に影響するため)。産後6週間経過後〜8週間(56日)の間は、医師が認めた場合に限り就業が可能です。死産・流産の場合も、この原則は同様に適用されます。就業させてしまうと出産手当金が支給されない日が発生するため注意が必要です。


よくある疑問とイレギュラーケース対応

Q1. 流産後に退職した場合でも出産手当金を受け取れますか?

資格喪失後の出産手当金(継続給付)を受けるには、①被保険者として1年以上継続して加入していること、②資格喪失時点で出産手当金を受給中またはその要件を満たしていること、という2つの条件が必要です。退職前に産後休業を開始していた場合は、継続給付として退職後も受給できます。ただし、任意継続被保険者として加入した場合は対象外です。

Q2. 国民健康保険に加入している自営業者は対象になりますか?

国民健康保険には出産手当金の制度がありません(一部の国民健康保険組合を除く)。そのため、夫の扶養に入っている方や自営業者の方は、協会けんぽや健康保険組合の出産手当金を受け取ることができません。ただし、出産育児一時金は国民健康保険からも支給されます(妊娠4か月以上の死産・流産の場合)。

Q3. 傷病手当金を受給中に死産・流産した場合はどうなりますか?

産後休業期間が始まった時点で出産手当金の受給資格が発生しますが、傷病手当金と出産手当金は同一期間に重複して受給できません。原則として、産後休業期間中は出産手当金が優先されます。傷病手当金のほうが金額が高い場合でも、この原則は変わりません。具体的な取扱いは保険者に確認してください。

Q4. 流産後の産後休業中に、保険者から「死産証明書と死産届受理証明書の両方が必要」と言われました。どちらが必要ですか?

保険者によって求める書類が異なる場合があります。一般的には、医師が発行する死産証明書(診断書) が基本書類となります。死産届受理証明書は妊娠12週以降の死産で役所に届け出た場合に取得できる書類です。保険者から求められた場合は追加で用意しましょう。12週未満の流産の場合は死産届の義務がないため、医師の診断書のみで対応できることが多いです。

Q5. 申請書類の「医師の証明」欄に何を書いてもらえばよいですか?

医師には、①分娩(死産・流産)の事実、②分娩日(死産・流産の日)、③妊娠週数(4か月以上であること)、④産後休業の必要性の4点を証明していただく必要があります。申請書の書式(出産手当金支給申請書)に医師記載欄が設けられているため、その欄に記入してもらうことで対応できます。


まとめ

死産・流産時の産後休業と出産手当金について、重要なポイントを整理します。

確認事項 内容
対象要件 妊娠4か月(85日)以上の死産・流産、健康保険被保険者であること
休業期間 分娩日翌日から最大8週間(56日)
支給額 標準報酬日額 × 2/3 × 取得日数
申請先 協会けんぽまたは加入健康保険組合
申請期限 支給事由発生の翌日から2年以内
他の給付 出産育児一時金(50万円)も併給可能

死産・流産は、当事者にとって非常に辛い経験です。しかし、こうした制度をきちんと活用することで、身体的・経済的な回復の一助とすることができます。申請手続きに不安がある場合は、加入している協会けんぽ・健康保険組合の窓口に相談するか、社会保険労務士に相談することを検討してください。企業の人事担当者も、対象となる従業員に対して積極的に情報を提供し、申請をサポートする体制を整えましょう。


【関連リンク・参考情報】
– 全国健康保険協会(協会けんぽ):出産手当金の申請書ダウンロード
– 厚生労働省:産前産後休業に関する資料
– 日本年金機構:産前産後休業期間中の社会保険料免除

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