パパ育休(出生時育児休業)を申請・取得中に、突然の解雇や会社の倒産に直面する父親は少なくありません。「育児休業給付金はどうなるの?」「失業手当と両方もらえる?」という不安を抱えた方のために、本記事では失業の形態ごとの受給権の継続条件・消滅条件、申請手続きと必要書類、給付金の計算方法と調整ルールをすべて解説します。
重要なポイントは、会社都合離職なら条件付きで受給権が継続される一方、自己都合退職では受給権が消滅するという点です。離職の理由によって、その後の経済的サポートが大きく異なるため、正確な知識に基づいた判断が不可欠です。
パパ育休中の失業における給付金受給権の基本ルール
原則:労働者としての身分を失うと受給権は消滅する
育児休業給付金は、雇用保険の被保険者であることを前提とした制度です。育児・介護休業法に基づく育児休業中であっても、離職により雇用保険の被保険者資格を失った場合は、原則として受給権は消滅します。
法的根拠は以下のとおりです。
| 法律・告示 | 内容 |
|---|---|
| 雇用保険法 第61条の4 | 育児休業給付金は「被保険者」を対象とする |
| 育児・介護休業法 第9条の2 | 出生時育児休業(パパ育休)の取得要件 |
| 厚生労働省告示 第331号 | 育児休業給付金の支給要件の詳細 |
つまり、パパ育休を申請した後であっても、退職・解雇によって雇用保険の被保険者でなくなった時点で受給権は消えるのが基本ルールです。
しかし重要なのは、離職の理由(会社都合か自己都合か)によって例外的な継続措置が存在する点です。以下で詳しく解説します。
受給権が「継続される」ケース:会社都合離職の場合
パパ育休申請後に会社側の事情によって離職となった場合、育児休業給付金の受給権は例外的に継続される取り扱いが認められています。
会社都合離職に該当する主なケース
- 整理解雇・希望退職(リストラ)
- 事業の廃止・倒産
- 事業所の閉鎖・移転に伴う離職
- 労働条件の一方的な引き下げによる退職
- 親会社の経営悪化に伴うグループ会社の解散
これらは、雇用保険法上の「特定受給資格者」または「特定理由離職者」に該当します。
なぜ会社都合なら継続されるのか
会社都合離職は、労働者の意思や責任によるものではありません。厚生労働省の通達では、育休取得中に会社都合で職を失った労働者を保護する観点から、給付金の継続受給を認める扱いをしています。
具体的には、以下の要件をすべて満たす場合に継続が認められます。
- 離職前2年間に雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上あること
- 育休申請の対象となる子が引き続き育休の対象期間内であること
- 次の就職先が決まっていないこと
- ハローワークへの所定の届け出が完了していること
📌 実務上のポイント
会社都合離職では、通常の失業手当(基本手当)に比べて給付制限期間(通常2〜3か月)がなく、すぐに失業手当の受給資格が発生します。育児休業給付金との調整については後述します。
受給権が「消滅する」ケース:自己都合退職の場合
自らの意思で退職した場合(自己都合退職)は、育児休業給付金の受給権は原則として消滅します。
なぜ自己都合では消滅するのか
自己都合退職は、労働者が能動的に労働者としての地位を手放した行為です。育児休業給付金は「育休から職場に復帰する意思がある労働者」を前提とした給付であり、自ら退職を選んだ場合はその前提が崩れると判断されます。
既に支給された分は返納不要
重要な救済措置として、育休取得中にすでに支給された給付金は返納する必要がありません。消滅するのは「今後の受給権」であり、過去分は正当な受給として扱われます。
| タイミング | 扱い |
|---|---|
| 自己都合退職前に支給済みの給付金 | 返納不要 |
| 自己都合退職後に未支給だった分 | 受給権消滅・支給なし |
また、自己都合退職後に失業手当(雇用保険の基本手当)を申請した場合は、給付制限期間が原則2か月(令和2年10月以降、5年間で2回目まで)設けられます。この期間は失業手当も支給されないため、収入が途絶えるリスクがある点に注意が必要です。
その他の受給権消滅パターン
会社都合・自己都合以外にも、以下の状況で受給権は消滅します。
| 状況 | 説明 |
|---|---|
| 次の就職先で就業開始 | 新たな雇用保険の被保険者となった時点で育休給付金の受給権は終了 |
| 育休終了後に職場復帰して就業開始 | 育児休業期間が終了した時点で給付対象外になる |
| 育休対象の子が育休期間終了前に死亡 | 育休の前提事由が消滅するため受給権も消滅 |
| 育休申請の取り消し | 休業事実がなくなるため支給対象外 |
特に「次の就職が決まった場合」は、就業開始日の前日が給付金の最終支給対象日となります。就職日を正確にハローワークへ申告することが義務付けられています。
失業形態別の給付金受給権判定フロー
実際に失業した際、「自分のケースは継続か消滅か」を正確に判断するためのフローを示します。
失業(離職)が発生した
↓
【STEP 1】離職理由の確認
├─ 会社都合(解雇・倒産・整理解雇など)
│ ↓
│ 【STEP 2】被保険者期間の確認
│ 離職前2年間に12か月以上 → 継続要件を満たす
│ ↓
│ 【STEP 3】ハローワークへ届け出(受給権継続)
│
└─ 自己都合退職
↓
受給権消滅(既支給分は返納不要)
↓
失業手当の申請へ切り替え
(2か月の給付制限あり)
判定の際に最も重要な「離職証明書の離職理由コード」
離職票には「離職理由コード」が記載されます。このコードが受給権の継続・消滅を左右します。
| コード | 離職理由 | 受給権の扱い |
|---|---|---|
| 11・12・21・22・31・32 | 会社都合(解雇・倒産など) | 継続可能性あり |
| 40・50 | 正当な理由のある自己都合 | ケースにより継続 |
| 33・34・44・45 | 自己都合退職 | 原則消滅 |
⚠️ 注意
離職証明書の理由コードに誤りがあると、受給権の判定に影響します。「会社都合なのに自己都合と記載されている」場合は、ハローワークに異議申し立てが可能です。
申請手続きの流れと必要書類
失業後の手続きフロー(全体像)
失業発生(離職日)
↓
① 企業から離職票・離職証明書を受け取る(10日以内が目安)
↓
② ハローワークに失業手当の申請
(育児休業給付金継続要件の確認も同時に行う)
↓
③ 育児休業給付金の継続受給意思をハローワークへ申告
↓
④ 育児休業給付金支給申請書(様式第8号)を提出
↓
⑤ 失業手当と育児休業給付金の調整手続き
↓
⑥ 給付金支給開始
必要書類一覧
ハローワークへ提出する書類
| 書類名 | 入手先 | 備考 |
|---|---|---|
| 雇用保険被保険者離職票(1・2) | 前の勤務先が発行 | 失業手当申請の必須書類 |
| 育児休業給付金支給申請書(様式第8号) | ハローワークまたは厚生労働省HP | 継続受給を申請する場合 |
| 失業認定申告書 | ハローワーク窓口 | 失業の事実の確認 |
| 子の出生証明書または戸籍抄本 | 市区町村窓口 | 育休対象児の確認 |
| 育児休業取得確認書 | 勤務していた企業 | 育休の事実を証明 |
| 本人確認書類(マイナンバーカードなど) | 本人 | 身分証明 |
| 雇用保険被保険者証 | 勤務していた企業または本人保管 | 被保険者番号の確認 |
| 写真2枚(3cm×2.5cm) | 本人 | ハローワーク申請時 |
申請期限の目安
| 手続き | 期限 |
|---|---|
| 離職票の受け取り | 離職後10日以内(企業の義務) |
| ハローワークへの失業申請 | 離職後なるべく早く(受給開始が遅れるため) |
| 育児休業給付金支給申請書の提出 | 支給単位期間終了後から2か月以内 |
申請時の注意事項
① 「会社都合」であることを必ず確認する
ハローワークの窓口では、離職票に記載された離職理由コードを担当者と一緒に確認してください。誤ったコードが記載されていると、継続判定に不利益が生じます。
② 育休の事実を証明する書類を必ず準備する
育休を取得していた事実を証明するために、企業から「育児休業取得確認書」または「就業規則・育休申請書の控え」を受け取っておきましょう。
③ 複数の窓口が連携していることを把握する
育児休業給付金は企業経由でハローワークに申請する形が一般的ですが、離職後は本人がハローワークに直接申請する形になります。窓口が変わる点を理解した上で手続きを進めてください。
給付金の計算方法と失業手当との調整ルール
育児休業給付金の基本計算式
育児休業給付金の支給額は以下のとおりです。
| 期間 | 給付率 | 計算式 |
|---|---|---|
| 育休開始から180日目まで | 休業開始時賃金日額 × 67% | 賃金日額 × 67% × 支給日数 |
| 181日目以降 | 休業開始時賃金日額 × 50% | 賃金日額 × 50% × 支給日数 |
出生時育休(パパ育休)の場合は、子の出生後8週間以内に最大28日間取得でき、上記の67%の給付率が適用されます。
計算例
- 休業開始時賃金日額:12,000円(月収36万円の場合)
- 支給額(67%の場合):12,000円 × 67% = 8,040円/日
- 28日間の合計:8,040円 × 28日 = 225,120円
📌 2025年度の上限額
賃金日額の上限は15,690円(60歳以上は12,870円)に設定されています(毎年8月に改定)。給付金の上限は1日あたり10,512円(67%の場合)となります。
失業手当(基本手当)との調整ルール
育児休業給付金と失業手当(基本手当)は原則として同時受給できません。これは両者がともに雇用保険から支給されるためです。
調整の基本ルール
| 状況 | 調整内容 |
|---|---|
| 育休給付金を受給中に失業手当を申請した場合 | 育休給付金の支給が優先停止され、失業手当の審査が始まる |
| 失業手当の受給資格決定後 | 失業手当の受給期間中は育休給付金は支給されない |
| 失業手当の受給が終了した後 | 育休期間内であれば育休給付金の再受給は不可 |
会社都合離職で両方の権利がある場合の対応
会社都合離職では、失業手当を優先して受給するのが一般的です。理由は以下のとおりです。
- 失業手当には受給期間(原則1年間)の制限があるため、早めに使い切る必要がある
- 育休給付金は育休期間の終了とともに自動的に失効するが、失業手当は受給期間内なら権利が保全される
ただし、失業手当の受給期間中に育休給付金が停止されるため、ハローワークの担当者に必ずどちらが有利かを相談した上で選択することを強くおすすめします。
会社の人事担当者が知っておくべき対応事項
企業側の義務と手続き
| 対応事項 | 詳細 |
|---|---|
| 離職票の速やかな発行 | 育休中の従業員が離職となった場合、離職票を10日以内に発行する義務がある |
| 離職理由の正確な記載 | 会社都合離職を自己都合と誤記すると労働者に不利益が生じるため、正確な理由コードを記載する |
| 育児休業取得確認書の発行 | 従業員が給付金継続申請に使用するため、速やかに発行する |
| 雇用保険の資格喪失届の提出 | 離職日翌日から10日以内にハローワークへ提出する |
労働者からの問い合わせが多い状況への対応
育休中の従業員が解雇対象となる場合、育休を理由とした解雇は育児・介護休業法第10条により禁止されています。育休取得者を解雇する場合は、整理解雇の4要件(①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続きの相当性)を慎重に検討する必要があります。
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まとめ:失業時に最初にやるべき3つのこと
パパ育休中に失業した場合、焦りやすい状況ですが、以下の3ステップを順番に確認・実行してください。
STEP 1:離職理由を確認する
離職票に記載された理由コードを確認し、会社都合か自己都合かを正確に把握してください。
STEP 2:ハローワークに早めに相談する
育児休業給付金の継続要件と失業手当のどちらが有利かを、ハローワークの担当者と一緒に確認してください。一人で判断せず、社会保険労務士などの専門家の助言も積極的に求めましょう。
STEP 3:必要書類を速やかに収集する
離職票・育児休業取得確認書・子の出生証明書など、複数の書類が必要です。特に企業から取り寄せる書類は時間がかかる場合があるため、早めに依頼してください。
育休中の失業という想定外の事態に直面しても、正しい情報と適切な手続きによって受給権を守ることは十分可能です。本記事の内容を参考に、まずはハローワークへの相談から始めてみてください。
よくある質問
Q1. 育休中に解雇された場合、育休そのものは継続できますか?
育休は雇用関係を前提とするため、解雇によって雇用関係が消滅した場合は育休の法的な保護も終了します。ただし、育休中の解雇は育児・介護休業法第10条により原則禁止されており、整理解雇であっても4要件を満たさない場合は解雇無効を主張できます。まずは労働基準監督署や弁護士に相談することをおすすめします。
Q2. 育休給付金の受給権が消滅した後、失業手当を受け取れますか?
会社都合・自己都合いずれの場合も、所定の被保険者期間(離職前2年間で12か月以上)を満たしていれば失業手当の申請は可能です。自己都合の場合は2か月の給付制限がありますが、会社都合(特定受給資格者)は給付制限なしにすぐ受給できます。
Q3. 育休給付金を受給していた期間は、失業手当の受給日数に影響しますか?
育児休業給付金の受給期間は、失業手当(基本手当)の所定給付日数には直接影響しません。ただし、離職後の受給期間(原則1年間)内に受給しなければならない点に注意が必要です。育休給付金の手続きに時間がかかり、失業手当の申請が遅れると受給できる日数が減る可能性があります。
Q4. 育休中に会社が倒産した場合、未払い給与はどうなりますか?
会社倒産による未払い賃金は、「未払賃金立替払制度」(独立行政法人労働者健康安全機構が運営)を利用することで、一定額の立替払いを受けられます。育児休業中の期間の賃金も対象となりますが、育休中は無給の場合が多いため、実態に応じて確認が必要です。
Q5. パパ育休申請後すぐに解雇通知が届いた場合はどうすればよいですか?
育休申請後の解雇が育休取得を理由とするものであれば、育児・介護休業法違反となる可能性が高いです。まず都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)またはハローワークに相談し、状況を記録に残してください。解雇が不当である場合、労働審判や訴訟による救済も可能です。
Q6. 育休給付金の受給権が継続した場合、給付金の申請はどこにすればよいですか?
離職後の育児休業給付金は、本人がハローワークに直接申請します。通常は企業経由でハローワークに申請する形が一般的ですが、離職後は直接申請に切り替わります。様式第8号(育児休業給付金支給申請書)に必要事項を記入し、離職票・育児休業取得確認書などの添付書類とともに提出してください。不明点はハローワークの窓口で確認しながら進めると安心です。


