育児と介護を同時に担う「ダブルケア」の状況に置かれた労働者が増えています。子どもの育休中に、親の介護も必要になった——そのような場面で「育休の給付金はどうなる?」「介護休暇と同時に取れるの?」という疑問を持つ方は多いでしょう。
本記事では、育休給付金と介護休暇の同時取得に関する条件・申請手続き・給付金額の計算方法を、2023年法改正の内容も踏まえて徹底解説します。
ダブルケアとは|育休と介護休暇の同時取得が増加
ダブルケアの定義と対象者
ダブルケアとは、育児(子の養育)と介護(親や配偶者などの介護)を同時並行で担う状況を指します。内閣府の調査(2016年)では、ダブルケアを行う人は全国で約25万人と推計されており、うち約6割が女性です。
晩婚化・晩産化が進む日本では、30〜40代で子育てをしながら、同時に親の介護が始まるという事態は珍しくなくなっています。特に育休取得中の労働者が介護の局面にも直面するケースが、近年急増しています。
対象となるのは主に以下のような方々です。
- 育休取得中に親や配偶者の親が要介護状態になった方
- 介護を担いながら出産・育休取得を予定している方
- 企業の人事・総務担当者として従業員を支援する立場の方
なぜ今、ダブルケア支援が重要なのか
少子高齢化の加速により、育児期間と介護期間が重なる「サンドウィッチ世代」が増加しています。ダブルケアを担う労働者は、離職リスクが非常に高く、厚生労働省の調査でもダブルケア経験者の約3割がキャリアに何らかの影響があったと回答しています。
こうした背景から、育休と介護休暇を適切に組み合わせて取得できる制度整備が、企業の人材確保・労働者保護の両面から求められています。
2023年改正で何が変わったのか
2023年4月施行の育児・介護休業法改正では、ダブルケア支援に関連する以下の点が見直されました。
| 改正ポイント | 改正前 | 改正後(2023年〜) |
|---|---|---|
| 介護休暇の同居要件 | 原則同居が要件 | 別居でも取得可に柔軟化 |
| 育休の分割取得 | 原則1回 | 2回に分割可 |
| パパの育休取得促進 | 努力義務 | 個別周知・意向確認が義務化 |
| 雇用環境整備 | 努力義務 | 義務化(研修・相談窓口設置等) |
これにより、遠方の親を介護しながら育休を取得するケースでも、より柔軟に制度を活用できるようになりました。
育休給付金と介護休暇|制度の基礎知識
育児休業給付金とは|雇用保険からの給付
育児休業給付金は、雇用保険法第61条の4・第61条の5に基づいて支給される給付です。会社からの賃金ではなく、雇用保険(ハローワーク)から支給されます。
給付額は以下の通りです。
- 育休開始から180日(約6ヶ月)まで:休業開始時賃金月額の67%
- 181日目以降:休業開始時賃金月額の50%
例)賃金月額が30万円の場合
– 開始〜180日目:30万円 × 67% = 20万1,000円/月
– 181日目以降:30万円 × 50% = 15万円/月
また、育児休業給付金は非課税かつ社会保険料も免除(育休中の健康保険・厚生年金保険料は免除)となるため、手取りベースでは給付率以上の実質的な保障となります。
介護休暇とは|給付金ではなく休暇権
ここは非常に重要なポイントです。介護休暇には、雇用保険からの給付金は原則ありません。
育児・介護休業法第16条に定める「介護休暇」は、1年間に5日(対象家族が2人以上の場合は10日)取得できる権利ですが、その期間中の賃金は無給が原則です。
「介護休暇」と「介護休業」の違いに注意
– 介護休暇:短期(1日・半日単位)の休暇。給付金なし(無給)
– 介護休業:最大93日間の長期休業。雇用保険から介護休業給付金(賃金月額の67%)が支給される
介護を理由とした長期の休業には「介護休業」を取得し、介護休業給付金を受け取る方法があります。ダブルケアの場面では、育児休業と介護休業のどちらを先に・どのように組み合わせるかを戦略的に検討することが大切です。
同時取得時の法的地位と給付ルール
育児休業と介護休業(または介護休暇)を同時に取得することは、育児・介護休業法上、明示的に禁止されていません。ただし、給付金の取り扱いには以下のルールがあります。
| 組み合わせ | 給付金の扱い |
|---|---|
| 育児休業 + 介護休暇(短期・無給) | 育児休業給付金は継続して受給可能 |
| 育児休業 + 介護休業(長期) | 両方の給付を同時に受給することは不可。どちらか一方を選択 |
| 育児休業終了後に介護休業開始 | それぞれの給付金を順番に受給可能 |
ダブルケア育休の対象者条件|あなたは受給対象?
育児休業給付の受給要件(チェックリスト)
以下の要件をすべて満たす方が、育児休業給付金の受給対象となります。
チェックリスト:育児休業給付の受給要件
- □ 雇用保険の被保険者である
- □ 育児休業開始日前の2年間に、雇用保険加入期間が12ヶ月以上ある(各月に11日以上勤務した月が12ヶ月以上)
- □ 同一の子について、初めて(または2回目以内の)育児休業を取得する
- □ 育児休業中の給与が、休業前給与の80%未満である(※支給停止基準:賃金が休業前の80%以上になると給付停止)
- □ 子が1歳未満(延長の場合は最長2歳未満)である
給付停止ラインの詳細
休業中に会社から賃金が支払われる場合、その額と育休給付金の合計が「休業前賃金月額の80%」を超えると、超えた分の給付金が減額・停止されます。
介護休暇との同時取得に必要な追加要件
育児休業中に介護休暇を取得する場合、以下の要件を確認してください。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 介護対象者の範囲 | 配偶者・父母・子・配偶者の父母・祖父母・兄弟姉妹・孫(同居・別居問わず) |
| 介護の必要性 | 負傷・疾病・身体上もしくは精神上の障害による「要介護状態」。要介護認定1以上が目安だが、法律上は「2週間以上の常時介護が必要な状態」が基準 |
| 申請方法 | 会社の介護休暇規程に基づき、原則として事前に申し出る |
| 同居要件 | 2023年改正により撤廃。別居の親の介護でも可 |
対象外になるケースと例外規定
以下に該当する場合は、給付金の受給ができない・または制限される可能性があります。
- 雇用保険未加入:パート・アルバイトでも加入要件を満たせば対象になりますが、未加入の場合は対象外
- 加入期間不足:育休開始日前2年間に11日以上勤務した月が12ヶ月未満の場合
- 休業中の給与が高額:会社から支払われる賃金が休業前の80%以上に達する場合、給付金が減額・停止
- 同一の子の育休取得が3回目以降:2022年改正で分割2回まで認められているため、3回目以降は原則対象外
例外規定
パパ・ママ育休プラス制度(両親ともに育休取得の場合、子が1歳2ヶ月まで延長可)、保育所未入所などの事由による1歳6ヶ月・2歳までの延長は可能です。
給付金の計算方法|具体例で徹底解説
賃金月額の計算方法
育児休業給付金の計算の基礎となる「休業開始時賃金日額」は、以下の手順で算出します。
【休業開始時賃金日額の計算】
育休開始前6ヶ月間の賃金合計 ÷ 180日
= 賃金日額
賃金日額 × 30日
≒ 賃金月額(給付計算の基準)
具体的な給付金額シミュレーション
【ケース①】月給30万円・育休6ヶ月取得の場合
| 期間 | 計算式 | 月額給付金 |
|---|---|---|
| 1〜6ヶ月目(180日) | 300,000円 × 67% | 201,000円 |
| 7ヶ月目以降 | 300,000円 × 50% | 150,000円 |
【ケース②】月給25万円・育休を最長2年取得の場合
| 期間 | 給付率 | 月額給付金 |
|---|---|---|
| 開始〜180日 | 67% | 167,500円 |
| 181日〜2歳到達前 | 50% | 125,000円 |
上限額・下限額に注意
賃金日額には雇用保険上の上限・下限があります(毎年8月1日に改定)。2023年8月時点では、賃金日額の上限は15,690円(50%給付時は13,290円)です。実際の給付額は必ずハローワークまたは社労士に確認してください。
申請手続きの全ステップ|必要書類と期限
育児休業給付金の申請フロー
STEP1:育休開始前
└→ 会社へ育児休業申出書を提出(原則1ヶ月前まで)
STEP2:育休開始後10日以内
└→ 会社がハローワークへ「育児休業給付受給資格確認票・
育児休業給付金支給申請書」を提出
STEP3:支給申請(2ヶ月ごと)
└→ 会社またはご自身が支給申請書を提出
STEP4:給付金受取
└→ ハローワーク審査後、指定口座に振り込み
必要書類一覧
【育児休業給付金の申請に必要な書類】
| 書類名 | 取得先 | 備考 |
|---|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認票・申請書 | ハローワーク窓口 or 厚労省HP | 会社が代行申請 |
| 雇用保険被保険者証 | 会社保管または本人 | 被保険者番号確認用 |
| 母子健康手帳のコピー(出生届出済証明欄) | 市区町村 | 子の出生確認用 |
| 賃金台帳・出勤簿 | 会社 | 直近6ヶ月分 |
| 本人名義の通帳コピー | 本人 | 給付金振込先確認用 |
【介護休暇取得に必要な書類(会社へ提出)】
| 書類名 | 内容 |
|---|---|
| 介護休暇申出書 | 会社所定の様式(なければ口頭可だが書面が望ましい) |
| 介護対象者の状況確認書類 | 要介護認定通知書のコピー、または医師の診断書等 |
申請期限と注意事項
| 手続き | 期限 |
|---|---|
| 育休の申し出 | 育休開始予定日の1ヶ月前まで(緊急の場合は2週間前) |
| 受給資格確認の申請 | 育休開始後速やかに(遅くとも2ヶ月以内が目安) |
| 支給申請 | 各支給対象期間(2ヶ月ごと)の末日翌日から2ヶ月以内 |
| 介護休暇の申し出 | 当日の申し出も可(緊急性を考慮した制度設計) |
申請が遅れた場合
育児休業給付金の支給申請には時効(2年)がありますが、期限を過ぎると手続きが煩雑になります。会社の人事担当者と連携して早めに対応しましょう。
企業の人事担当者向け|ダブルケア従業員への対応手順
人事担当者がすべき6つの対応
- 制度の周知:育休・介護休暇の取得可能性を、採用時・育休申出時の双方で個別に説明する(2023年改正で義務化)
- 就業規則の整備:介護休暇の取得手続き・証明書類の規定を明文化する
- 申請書類のサポート:ハローワーク申請代行(育児休業給付は会社経由が原則)
- 給付金計算の確認:社会保険労務士と連携して正確な給付額を従業員に伝える
- 復職プランの検討:ダブルケア終了後のキャリア復帰を見据えた個別面談
- 外部機関の紹介:地域包括支援センター・ファミリーサポートセンター等への橋渡し
企業に課せられる法的義務(2023年改正対応)
| 義務 | 内容 |
|---|---|
| 個別周知・意向確認 | 妊娠・出産の申出があった際に育休制度を個別に説明し、取得意向を確認 |
| 雇用環境整備 | 研修の実施・相談窓口設置・取得事例の収集・提供のうち1つ以上実施 |
| 育休取得状況の公表 | 従業員1,000人超の企業は育休取得率の公表が義務 |
よくある質問と回答
Q1. 育休中に親が倒れて介護が必要になりました。育休給付金はそのままもらえますか?
A. はい、育休の要件(育児対象の子が1歳未満など)を満たしている限り、介護休暇を取得しても育休給付金は継続して受給できます。ただし、育休を一旦中断して介護休業に切り替えた場合は、育休給付金は停止し、代わりに介護休業給付金(賃金月額の67%)が支給されます。
Q2. 介護休暇中の給付金はありますか?
A. 介護休暇(1年間5〜10日の短期休暇)には、雇用保険からの給付金はありません。一方、93日を上限とする「介護休業」については、介護休業給付金(賃金月額の67%)を受け取ることができます。
Q3. 育休と介護休業は同時に取得できますか?
A. 同時取得は法律上禁止されていませんが、給付金を同時に二重受給することはできません。どちらか一方を選択して申請する必要があります。実務上は育休を優先し、介護は休暇(短期・無給)で対応するか、育休終了後に介護休業を取得するケースが多いです。
Q4. パートタイム労働者でもダブルケアで給付金は受け取れますか?
A. 雇用保険に加入しており、育休開始前2年間に12ヶ月以上の加入期間があれば、パートタイム労働者でも育児休業給付金を受け取れます。週20時間以上・31日以上の雇用見込みがある場合は雇用保険に加入義務があります。
Q5. 2023年改正で介護休暇の同居要件はなくなりましたか?
A. はい。2023年4月の改正により、介護休暇の対象となる家族に関する同居要件が柔軟化されました。別居している親や義理の親の介護でも、法定の対象家族であれば介護休暇を取得できます。
Q6. 給付金の受け取りはいつ頃になりますか?
A. 申請から給付まで、通常1〜2ヶ月程度かかります。育休開始直後は無給期間が生じることがあるため、生活費の準備をしておくことをおすすめします。支給は2ヶ月分まとめて振り込まれるのが一般的です。
まとめ:ダブルケアは制度を正しく組み合わせることが鍵
ダブルケアに直面した場合、育休給付金と介護の各制度を正しく組み合わせて活用することが、キャリアと生活を守る上で非常に重要です。
| 制度 | 給付の有無 | 最大期間 | 給付率 |
|---|---|---|---|
| 育児休業給付金 | あり(雇用保険) | 最長2年(延長含む) | 67%→50% |
| 介護休暇 | なし(無給が原則) | 年5〜10日 | — |
| 介護休業給付金 | あり(雇用保険) | 通算93日 | 67% |
ダブルケアは一人で抱え込まず、会社の人事担当者・ハローワーク・社会保険労務士・地域の相談窓口を積極的に活用してください。制度を正確に理解し、申請漏れなく活用することで、育児と介護の両立をより安心して行えます。
参考法令・資料
– 育児・介護休業法(令和4年改正)
– 雇用保険法第61条の4・第61条の5
– 厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」(2023年版)
– 厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続き」
– 内閣府「ダブルケアに関する実態把握調査」(2016年)
よくある質問(FAQ)
Q. ダブルケアとは何ですか?
A. 育児と介護を同時に担う状況を指します。晩婚化により30~40代で子育てと親の介護が重なるケースが増えており、全国で約25万人が該当します。
Q. 育休と介護休暇は同時に取得できますか?
A. 法律上は禁止されていません。ただし給付金の扱いが異なるため、育休給付金と介護休業給付金の同時受給は制限される場合があります。
Q. 育児休業給付金はいくらもらえますか?
A. 開始から180日まで月額賃金の67%、181日目以降は50%です。例えば月30万円の場合、最初6ヶ月は20万1,000円となります。
Q. 介護休業と介護休暇の違いは何ですか?
A. 介護休暇は年間5日の短期休暇で無給、介護休業は最大93日の長期休業で給付金あります。ダブルケアでは両者の使い分けが重要です。
Q. 2023年の法改正で何が変わりましたか?
A. 介護休暇の同居要件が緩和され別居でも取得可、育休の2回分割取得が可能、企業のパパ育休促進が義務化されました。
