育休復帰後に時短勤務を選択した場合、「給与はどのくらい減るのか」「賞与の計算はどうなるのか」という疑問を持つ方は多いでしょう。企業の人事担当者にとっても、適法な計算方法と不合理な減額の境界線は悩ましいポイントです。
本記事では、育休復帰後の時短勤務における給与・賞与の計算方法を、法的根拠・具体的な計算例・2022年改正のポイントとともに完全解説します。
目次
- 育休復帰後の時短勤務制度とは|給与・賞与の基礎知識
- 時短勤務中の給与計算|減額ルール・著しく不合理とは
- 賞与の算定パターン3選|比例計算・一律・実績連動
- 育児時間と時短勤務の給与比較|無給・有給の違いを整理
- 企業が整備すべき規定・書類・申請フロー
- よくある質問(FAQ)
育休復帰後の時短勤務制度とは|給与・賞与の基礎知識
時短勤務制度と育児時間の違い(給与・給付の有無)
育児に関連した労働時間短縮の制度には、大きく分けて「育児時間」と「時短勤務制度(所定労働時間短縮)」の2種類があります。似て非なるこの2つを混同すると、給与計算で大きなミスが生じるため、まず整理しておきましょう。
| 項目 | 育児時間(労基法第67条) | 時短勤務制度(育介法第23条) |
|---|---|---|
| 対象年齢 | 生後1年未満の子 | 3歳未満の子 |
| 短縮時間 | 1日2回・各15分以上 | 1日6時間(原則) |
| 給与 | 無給(法律上の原則) | 有給(短縮分の賃金は不支給可だが著しい減額は禁止) |
| 給付金 | なし | 条件次第で育児休業給付金は対象外(時短中は別制度) |
| 義務 | 企業側の付与義務あり | 企業側の実施義務あり |
ポイント: 育児時間は「無給」が法律上の原則です。一方、時短勤務制度は「短縮した分の賃金を支払わないこと自体は違法ではない」ものの、著しく不合理な減額は禁止されています。この区分をしっかり理解することが給与計算の第一歩です。
2022年4月改正で何が変わったか|有期雇用の拡大対象化
2022年4月1日施行の育児・介護休業法改正により、時短勤務制度の適用対象が大幅に拡大されました。
【改正前】
– 有期雇用労働者(契約社員・パートタイマーなど)は、原則として時短勤務制度の対象外
【改正後】
– 有期雇用労働者も以下の両方を満たせば対象に
– ✅ 同一企業での継続勤務期間が1年以上
– ✅ 子が3歳になる日までの間に労働契約の期間が満了する予定がない
人事担当者は、契約社員やパート従業員からの時短勤務申請も受理・対応できる体制を整える必要があります。給与計算においても、正社員と同様の「著しく不合理な減額禁止」ルールが適用されます。
時短勤務が給与に影響する仕組み|法的根拠と企業判断の境界線
時短勤務中の給与減額について、育児・介護休業法第23条は次のように定めています。
「所定労働時間を短縮する措置を講ずるにあたり、著しく不合理な賃金の減額をしてはならない」(育介法第23条の2 趣旨)
つまり、所定労働時間が短くなった分に応じた給与の減額は適法ですが、それを大幅に超える減額や、時短取得を理由とした不利益な取り扱いは違法になります。
【企業判断が許容される範囲の目安】
所定労働時間:8時間 → 6時間(短縮:2時間)
許容される減額上限の考え方:
基本給の時短比例カット(6/8 = 75%支給)
→ 月額給与 30万円 × 75% = 22万5,000円
これを大きく下回る減額(例:月15万円)は「著しく不合理」の可能性が高い
時短勤務中の給与計算|減額ルール・著しく不合理とは
給与減額の法的制限|「著しく不合理な減額」の定義
「著しく不合理な減額」とは、厚生労働省の指針・行政解釈において、概ね以下のように解釈されています。
- 時間短縮の比率を大幅に超えた賃金カット
- 時短取得を理由とした降格・等級変更を伴う実質的な減給
- 時短勤務者だけを対象とした一方的な手当廃止
判例上は「ノーワーク・ノーペイの原則」により、働かなかった時間分の賃金を支払わないこと自体は合法とされています。しかし、それを超えてペナルティ的に減額する行為は違法となります。
時短勤務中の基本給・手当の計算方法(実例)
【計算例:月給制の場合】
前提条件
- 月額基本給:30万円
- 所定労働時間:1日8時間・月160時間
- 時短後の労働時間:1日6時間・月120時間
▼ 時短比例計算(最も一般的な方法)
月額基本給 × (時短後の時間 / 所定労働時間)
= 30万円 × (120h / 160h)
= 30万円 × 0.75
= 22万5,000円
▼ 時間給換算計算
時間単価 = 30万円 ÷ 160h = 1,875円/時間
月額 = 1,875円 × 120h = 22万5,000円
※ どちらの計算方式も結果は同じ。就業規則に計算方法を明記することが重要。
通勤手当・扶養手当・調整手当の扱い|減額対象外か
各種手当の扱いは手当の「性質」によって異なります。
| 手当の種類 | 時短による減額 | 理由・根拠 |
|---|---|---|
| 通勤手当 | 原則減額なし | 実費補填的性格。出勤日数が変わらない限り変更不要 |
| 家族手当・扶養手当 | 減額なし | 生活補填的性格。労働時間と無関係 |
| 職務手当・役職手当 | 減額なし(原則) | 職位・役職に対して支払われるもの |
| 精皆勤手当 | 出勤実態による | 短縮時間分の欠勤扱いをしない規定が必要 |
| 残業手当 | 支給不要(時短中は発生しにくい) | 所定時間内の勤務が前提 |
| 調整手当 | ケースによる | 手当の性質・支給目的の定義次第 |
人事担当者へのアドバイス: 各手当について「何を目的に支払うか」を就業規則・賃金規程に明記しておくことが、トラブル防止の最大の対策です。
有期雇用労働者の給与計算における注意点(2022年改正後)
2022年改正後、有期雇用労働者への時短勤務が義務化されたことで、給与計算上も正社員と同等の配慮が求められます。
【注意点チェックリスト】
- [ ] 契約書・雇用条件通知書に時短勤務時の賃金計算方法を明記しているか
- [ ] 時短取得を理由に契約更新を拒絶していないか(不利益取り扱いの禁止)
- [ ] 時短期間中の社会保険料の計算を月額変更届で適切に処理しているか
- [ ] 賞与算定期間中の時短勤務月数を正確に把握しているか
賞与の算定パターン3選|比例計算・一律・実績連動
時短勤務中の賞与計算は、法律が具体的な方法を指定していないため、企業の賃金規程による部分が大きいです。ただし、前述の「著しく不合理な減額禁止」は賞与にも適用されます。
実務でよく用いられる3つの算定パターンを解説します。
パターン1:時短比例計算(最も標準的)
算定期間中の実労働時間比率に応じて賞与額を比例配分する方法です。
計算式:
賞与額 = 満額支給基準額 × (実労働時間 / 所定労働時間)
計算例:
- 賞与満額基準:50万円
- 算定期間の所定労働時間:960時間(6ヶ月)
- 算定期間の実労働時間:720時間(時短・6時間/日換算)
賞与額 = 50万円 × (720h / 960h)
= 50万円 × 0.75
= 37万5,000円
【メリット】公平性が高く、説明が容易
【デメリット】賞与算定期間をまたぐ時短の管理が煩雑になることも
パターン2:出勤日数比例計算
算定期間中の出勤日数比率で賞与を計算する方法です。
計算式:
賞与額 = 満額支給基準額 × (実出勤日数 / 所定出勤日数)
計算例:
- 賞与満額基準:50万円
- 算定期間の所定出勤日数:120日
- 算定期間の実出勤日数:118日(時短中でも出勤日は同じ)
賞与額 = 50万円 × (118日 / 120日)
= 50万円 × 0.983
≒ 49万2,000円
【メリット】出勤率が高い場合、労働者に有利になりやすい
【デメリット】時短勤務の実態(1日の労働時間差)が反映されにくい面も
注意: この計算方式を採用する場合、時短勤務の「短縮した時間」を欠勤として扱わないよう就業規則に明記することが必要です。
パターン3:実績・評価連動計算
評価期間中の業績評価・人事考課をベースに賞与額を決定する方法です。時短勤務者だからといって評価を下げることは、不利益取り扱いにあたる場合があります。
計算式(例):
賞与額 = 基礎額 × 評価係数 × 在籍期間係数
計算例:
- 基礎額(グレードに応じた基準額):40万円
- 評価係数(S:1.3 / A:1.0 / B:0.8):1.0(A評価)
- 在籍期間係数(算定期間中フル在籍:1.0):1.0
賞与額 = 40万円 × 1.0 × 1.0 = 40万円
【メリット】成果・貢献度を正当に反映できる
【デメリット】時短を理由に意図的に低評価にするリスクがある(違法の可能性)
3パターンの比較まとめ
| 算定パターン | 公平性 | 管理の手軽さ | 労働者への説明のしやすさ |
|---|---|---|---|
| ①時短比例 | ◎ | △(時間管理が必要) | ◎ |
| ②出勤日数比例 | △〜○ | ○ | ○ |
| ③評価連動 | ○(運用次第) | △(評価の適正運用が必要) | △ |
育児時間と時短勤務の給与比較|無給・有給の違いを整理
給与への影響を整理する一覧表
| 比較項目 | 育児時間(労基法67条) | 時短勤務(育介法23条) |
|---|---|---|
| 根拠法令 | 労働基準法第67条 | 育児・介護休業法第23条 |
| 対象となる子 | 生後1年未満 | 3歳未満 |
| 1日の短縮時間 | 合計30分(2回×15分) | 最大2時間(通常1日6時間勤務) |
| 給与の扱い | 無給(有給にすることも可) | 比例減額が標準(著しい減額は禁止) |
| 育休給付金との関係 | 対象外(育休ではない) | 対象外(時短勤務は就労中) |
| 賞与への影響 | 欠勤扱いか否かによる | 賃金規程の算定方法による |
復帰予定者へのアドバイス: 育休給付金(雇用保険)は、育休中のみ支給される制度です。時短勤務に切り替えた時点で育休給付金の支給は終了し、以降は時短勤務分の給与(減額後)が収入となります。育休終了後の家計計画を立てる際は、必ずこの切り替えポイントを確認してください。
企業が整備すべき規定・書類・申請フロー
必要書類チェックリスト
【従業員が提出する書類】
| 書類名 | 提出タイミング | 備考 |
|---|---|---|
| 時短勤務申請書 | 取得開始予定日の1ヶ月前まで | 会社所定の様式を使用 |
| 子の出生を証明する書類 | 申請時 | 母子手帳・住民票など |
| 育休終了証明(必要に応じ) | 育休→時短切替時 | 育休終了日の確認に使用 |
【企業側が対応・整備する書類】
| 対応事項 | タイミング | 担当 |
|---|---|---|
| 時短勤務承認通知書の交付 | 申請受理後速やかに | 人事部門 |
| 賃金変更通知書の交付 | 給与変更前 | 人事・給与担当 |
| 月額変更届(社会保険)の提出 | 変更後3ヶ月経過後に判定 | 社会保険担当 |
| 就業規則・賃金規程の確認・更新 | 改正法施行前 | 人事部門・社労士 |
申請フロー(従業員・企業双方)
【Step 1】従業員:時短勤務開始の1ヶ月前に申請書を提出
↓
【Step 2】企業:受理・審査・承認通知書の交付(拒否できる正当理由がある場合のみ拒否可)
↓
【Step 3】企業:給与変更額を算定・通知(賃金規程に基づき計算)
↓
【Step 4】企業:勤怠システムへの時短設定・給与計算ソフトの変更
↓
【Step 5】企業:社会保険の月額変更届の要否を3ヶ月経過後に確認
↓
【Step 6】賞与算定期間:時短勤務期間・時間を正確に記録・保管
↓
【Step 7】賞与支給時:賃金規程のパターンに従い賞与額を算定・通知
社会保険料の計算における注意点
時短勤務による給与減額は、社会保険料にも影響します。
【月額変更届(随時改定)の対象となる条件】
① 時短開始後、固定的賃金(基本給・手当)が変動した月から
② 3ヶ月連続して支払われた賃金の平均が
③ 現在の標準報酬月額と2等級以上の差がある場合
→ 上記3条件をすべて満たしたら、4ヶ月目から新しい標準報酬月額を適用
社会保険料が下がることで、手取り収入の減少幅が給与減額幅より小さくなるケースもあります。従業員への説明時に合わせて案内するとよいでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 時短勤務中でも昇給・昇格はありますか?
A. 時短勤務を理由に昇給・昇格を拒否することは、育児・介護休業法が禁止する不利益取り扱いに該当する可能性があります。評価は勤務実態・業績に基づいて行い、時短取得自体を評価に影響させないよう人事制度を整備することが重要です。
Q2. 賞与算定期間中に育休から復帰して時短勤務になった場合、賞与は全額もらえますか?
A. 算定期間中に育休や時短勤務が含まれる場合、在籍期間・実労働時間・評価などに応じて減額されることが一般的です。ただし、育休中を「欠勤扱い」にして過度に減額することは不利益取り扱いとして問題視されます。厚生労働省は、育休期間を欠勤扱いにする取り扱いについて慎重な対応を求めています。
Q3. 時短勤務中に残業を命じることはできますか?
A. 育児・介護休業法第16条の8に基づき、3歳未満の子を養育する労働者から所定外労働の免除申請があった場合、企業は原則として時間外労働を命じることができません。ただし、申請がない場合や業務上の必要性・代替困難性がある場合は個別判断が必要です。
Q4. 時短勤務を断られた場合はどうすればよいですか?
A. 育児・介護休業法上、3歳未満の子を養育する労働者への時短勤務は企業の義務です(第23条)。正当な理由なく申請を拒否することは違法です。もし拒否された場合は、①会社の人事部門・コンプライアンス窓口への相談、②都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)への申告(行政指導を求めることができる)を検討してください。
Q5. 産後パパ育休(出生時育児休業)から時短勤務に切り替える場合の手続きは?
A. 産後パパ育休(育介法第9条の2)は通常の育休とは別制度ですが、育休終了後に時短勤務に切り替える際の手続きは同様です。育休終了日の翌日が時短勤務開始日となるよう、1ヶ月前までに時短勤務申請書を提出します。育休給付金の受給が時短切替日で終了することも確認してください。
まとめ|時短勤務の給与・賞与計算で押さえるべき3つのポイント
育休復帰後の時短勤務における給与・賞与計算は、複数の法律・規則が絡み合う複雑なテーマです。本記事の内容を以下の3点に集約します。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| ①減額は比例が原則 | 時短比率(例:6/8時間)に応じた給与減額は適法。ただし「著しく不合理な減額」は育介法で禁止 |
| ②賞与は3パターンを規程で明確化 | ①時短比例②出勤日数比例③評価連動のいずれかを就業規則に明記し、従業員に周知することが必須 |
| ③2022年改正で有期雇用も対象に | 契約社員・パートへの時短勤務義務化に対応した規程・書類の整備が企業の責務 |
制度の適正な運用は、従業員の安心感・職場への信頼感を高め、優秀な人材の定着につながります。不明点は都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)や、社会保険労務士に相談することをお勧めします。
参考法令
– 育児休業、介護休業等育児又は家族の介護を行う労働者の就業環境の整備に関する法律(育児・介護休業法)第23条・第23条の2・第24条
– 労働基準法第67条
– 雇用保険法第61条の4
– 厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」(2022年改正対応版)
よくある質問(FAQ)
Q. 育休復帰後の時短勤務で給与はどのくらい減りますか?
A. 短縮した労働時間に応じた比例カットが基本です。例えば8時間から6時間に短縮した場合、給与は75%支給が目安。著しく不合理な減額は禁止されています。
Q. 時短勤務中の賞与(ボーナス)はどう計算されますか?
A. 企業ごとに異なります。比例計算、一律支給、実績連動の3パターンが一般的。就業規則で明記されていることが重要で、不合理な減額は避ける必要があります。
Q. 契約社員やパートも時短勤務制度を使えますか?
A. 2022年4月の改正で対象拡大。同一企業で1年以上勤続し、子が3歳までに契約終了予定がなければ時短勤務を利用できます。
Q. 育児時間と時短勤務制度の違いは何ですか?
A. 育児時間は生後1年未満の子に対し1日2回15分以上で無給、時短勤務は3歳未満の子に対し有給です。法的性質が異なります。
Q. 時短勤務中でも育児休業給付金は受け取れますか?
A. 時短勤務中は原則として育児休業給付金の対象外。別の給付制度の対象となる可能性があるため、ハローワークに相談が必要です。

