育児休業給付金を受け取るために、「育児休業中である」という要件を満たさなければなりません。しかし、「育休中に少しだけ働いたら給付金はどうなるの?」「副業収入があると支給停止になる?」という疑問を持つ方は多くいます。
本記事では、育児・介護休業法と雇用保険法それぞれの法的定義を整理したうえで、月10日・80時間ルールの具体的な計算方法、兼業・副業収入が給付金に与える影響、そして申請書類まで網羅的に解説します。
育児休業給付金を受けるための「育児休業中」とは何か
育児休業給付金は、雇用保険制度の一部として支給される給付金です。給付金を受け取るためには、単に「会社に育休の申請を出した」だけでは不十分で、雇用保険法が定める「育児休業中」の状態を実際に満たしている必要があります。
まず前提として、育児休業に関する法律は大きく2つに分かれています。育児・介護休業法は「育休を取る権利」を定めた法律であり、雇用保険法は「給付金を受け取る要件」を定めた法律です。この2つは目的が異なるため、定義にも微妙な違いがあります。
育児・介護休業法と雇用保険法の定義の違い
以下の表で、2つの法律における「育児休業」の定義の違いを整理します。
| 比較項目 | 育児・介護休業法(第2条・第5条) | 雇用保険法(第61条の7) |
|---|---|---|
| 目的 | 休業を取る「権利」の保障 | 給付金を受け取る「要件」の規定 |
| 対象 | 原則として全労働者 | 雇用保険被保険者に限定 |
| 子の年齢 | 原則1歳未満(延長あり) | 原則1歳未満(最大2歳まで延長可) |
| 就業制限 | 原則として就業しないこと | 就業日数・時間・賃金に上限あり |
| 賃金規定 | 特になし | 休業前賃金の80%未満であること |
ポイント: 育児・介護休業法上の「育休」と、雇用保険法上の「給付金対象となる育休」は別物です。会社から育休の許可を得ていても、雇用保険法の要件を満たさなければ給付金は支給されません。
「育児休業中」と認定されるための3つの基本条件
給付金の観点から「育児休業中」と認定されるには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。チェックリストとして確認してください。
✅ 条件①:雇用保険に加入していること
- 雇用保険の被保険者であること
- 育休開始前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上の月が12ヶ月以上あること
- 同一の事業主のもとで雇用が継続されていること
✅ 条件②:子の年齢要件を満たしていること
- 原則として、子が1歳に達する日の前日までの休業期間であること
- 保育所等の入所不承諾など正当な理由がある場合は、最長1歳6ヶ月まで延長可能
- さらに延長事由が継続する場合は、最長2歳まで延長可能(雇用保険法施行規則第101条の19)
✅ 条件③:休業期間中の給与が通常の80%未満であること
- 育休期間中に支払われた賃金が、休業開始時の賃金月額(休業開始時賃金日額×30)の80%未満であること
- 80%以上の賃金が支払われた場合、その月は給付金の支給対象外となります
育休中の就業・兼業はどこまで許される?日数・時間の上限ルール
育児休業中でも、一定の範囲内であれば就業することが認められています。しかし「どこまで働けるか」の上限を誤解していると、給付金が不支給になるリスクがあります。ここでは、月10日・80時間ルールを具体例とともに詳しく解説します。
月10日・80時間ルールの計算方法と具体例
雇用保険法施行規則第101条の14に基づき、育休中の就業には以下の上限が定められています。
【上限の基本ルール】
| 指標 | 上限 |
|---|---|
| 就業日数 | 月10日以下 |
| 就業時間(日数が10日を超える場合) | 月80時間以下 |
つまり、「就業日数が月10日以下」かつ「就業時間が月80時間以下」の両方を満たす必要があります。就業日数が10日を超えた場合、その月は「育児休業中」とみなされず、給付金が支給停止となります。
【具体例①:ルールの範囲内のケース】
Aさんの育休中の就業状況(ある月)
– 就業日数:8日
– 就業時間:合計56時間→ 日数10日以下✅、時間80時間以下✅
→ 給付金支給対象(ただし賃金額によって減額の可能性あり)
【具体例②:日数超過で支給停止のケース】
Bさんの育休中の就業状況(ある月)
– 就業日数:12日
– 就業時間:合計72時間→ 日数12日で10日超過❌
→ その月は「育児休業中」と認定されず、給付金は支給停止
【具体例③:時間超過で支給停止のケース】
Cさんの育休中の就業状況(ある月)
– 就業日数:9日(10日以内)
– 就業時間:合計85時間→ 就業日数はクリアするが、80時間超過❌
→ その月は給付金支給停止
育休中就業の「同一事業主」と「他社副業」の違い
育休中の就業には、就業先が同じ会社か別の会社かによって取り扱いが異なります。
同一事業主での就業(育休元の会社で働く場合)
育児・介護休業法に基づく「育休中の一時的就労」として、上記の月10日・80時間ルールの範囲内で認められています。ただし、この就業による賃金は給付金の計算に影響します(後述)。
なお、産後パパ育休(出生時育児休業)期間中は、労使協定が締結されている場合に限り、同一事業主での就業が認められます(育児・介護休業法第9条の5)。
他社・副業・フリーランスとして働く場合
雇用保険法は、「雇用保険被保険者として雇用されている事業主以外」からの収入については、月10日・80時間のカウント対象外となります。つまり、育休を取得している会社(雇用保険の被保険者として登録されている事業主)以外での就業日数・時間は、10日・80時間のルール計算には含まれません。
ただし、他社での就業収入が給与として支払われる場合、育休中の賃金総額(元の会社+他社)が休業前賃金の80%以上になると、給付金が支給停止または減額されます。
副業・兼業収入と給付金の減額計算
「月10日・80時間ルールをクリアしていれば、収入があっても大丈夫」と思われがちですが、収入額によって給付金が減額・停止されるケースがあります。ここでは、賃金と給付金の関係を詳しく解説します。
給付金の基本支給額と賃金との関係
育児休業給付金の支給額は、以下の計算式で算出されます(2025年現在)。
【支給額の基本計算式】
| 育休開始からの期間 | 支給率 |
|---|---|
| 育休開始〜180日目まで | 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67% |
| 181日目以降 | 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 50% |
【上限額・下限額(2025年度)】
| 区分 | 上限額(月額) | 下限額(月額) |
|---|---|---|
| 67%支給期間 | 310,143円 | 50,601円 |
| 50%支給期間 | 231,450円 | 50,601円 |
※上限額・下限額は毎年8月1日に改定されます。最新情報はハローワークまたは厚生労働省公式サイトでご確認ください。
賃金が発生した場合の減額計算(80%ルール)
育休中に就業して賃金が支払われた場合、休業開始時賃金月額(賃金日額×30)との合計額に応じて、給付金が減額または支給停止されます。
【減額・停止の判定基準】
| 就業賃金の水準 | 給付金への影響 |
|---|---|
| 賃金が休業前月額の 13%以下 | 給付金は全額支給 |
| 賃金が休業前月額の 13%超〜80%未満 | 「賃金+給付金=休業前月額の80%」となるよう減額支給 |
| 賃金が休業前月額の 80%以上 | 給付金は支給停止 |
【具体的な計算例】
Dさんの場合
– 休業開始時賃金月額:300,000円(日額10,000円×30日)
– 67%支給期間の給付金基準額:300,000円 × 67% = 201,000円
– 育休中の就業で得た賃金:60,000円(月額の20%)
① 賃金が13%(39,000円)を超えているため、減額計算に入る
② 「賃金+給付金」の上限は月額の80%:300,000円 × 80% = 240,000円
③ 給付金 = 240,000円 − 60,000円(就業賃金)= 180,000円
④ 元の基準額201,000円から180,000円に減額される
給付金が支給停止・不支給になる具体的なケース
「育児休業中」とみなされない、または給付金が停止・不支給となる状況を整理します。
就業状況による支給停止
以下のいずれかに該当する月は、その月分の給付金が支給停止となります。
❌ 支給停止となるケース
- 就業日数が月10日を超えた月
- 就業時間が月80時間を超えた月(日数が10日超の場合も同様)
- 賃金が休業前賃金月額の80%以上となった月
⚠️ 注意が必要なケース
- 「研修・会議への参加」も就業日数・時間のカウント対象となる場合があります。事業主に事前確認が必要です。
- テレワークによる就業も、就業時間として計算されます。
- 有給休暇を使用した日も、就業日数にカウントされます。
育休の終了・撤回による不支給
以下の状況では、育児休業自体が終了したとみなされ、給付金の支給が終了します。
- 育休を取り消し・撤回した場合
- 育休期間中に離職した場合
- 子が死亡した場合(支給対象期間終了)
- 子を養育しなくなった場合(養子縁組の解消等)
育休給付金の申請手続きと必要書類
育児休業給付金の申請は、原則として事業主(会社)を通じてハローワークに行います。労働者が直接ハローワークに申請するのではなく、会社の人事・総務部門が手続きを代行する仕組みです。
申請の流れ
① 労働者が会社に育休取得を申請(育休開始の1ヶ月前までに)
↓
② 会社がハローワークへ「育児休業給付受給資格確認票」を提出
↓
③ ハローワークが受給資格を確認・通知
↓
④ 育休開始(給付対象期間スタート)
↓
⑤ 2ヶ月ごとに支給申請(申請期限:各支給対象期間の末日翌日から2ヶ月以内)
↓
⑥ ハローワークが審査・給付金を口座振込
申請に必要な書類
【初回申請時】
| 書類名 | 取得先 | 備考 |
|---|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認票(初回申請書)(様式第33号の2) | ハローワーク・厚労省HP | 事業主が記入 |
| 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書(様式第33号の3) | ハローワーク・厚労省HP | 賃金台帳等の添付必要 |
| 母子健康手帳(出生証明ページのコピー) | 自治体 | 子の出生を証明 |
| 育児休業申出書(社内書類) | 会社書式 | 育休申請の証明 |
【2回目以降の支給申請時(2ヶ月ごと)】
| 書類名 | 取得先 | 備考 |
|---|---|---|
| 育児休業給付金支給申請書(様式第33号の5) | ハローワーク・厚労省HP | 事業主が記入 |
| 賃金台帳・出勤簿のコピー | 会社 | 就業日数・賃金の確認用 |
【延長申請時(1歳以降も休業を継続する場合)】
| 書類名 | 備考 |
|---|---|
| 保育所等の入所不承諾通知書 | 市区町村が発行 |
| 育児休業期間変更申出書 | 社内書類 |
申請期限と注意点
- 初回申請: 育休開始日から4ヶ月以内
- 2回目以降: 各支給対象期間(2ヶ月)終了日の翌日から2ヶ月以内
- 申請が遅れると時効(2年)の範囲内であれば遡及請求も可能ですが、手続きが煩雑になるため、期限内申請を強く推奨します
産後パパ育休(出生時育児休業)における「育児休業中」の特別ルール
2022年10月に施行された「産後パパ育休」制度では、通常の育休とは異なるルールが設けられています。
【産後パパ育休の概要】
- 対象:子の出生後8週間以内の期間
- 取得可能日数:最大28日間(2回まで分割取得可)
- 給付金:出生時育児休業給付金として67%が支給
【産後パパ育休中の就業ルール(特例)】
産後パパ育休中は、労使協定の締結がある場合に限り、同一事業主のもとでの就業が認められます(育児・介護休業法第9条の5第2項)。
就業の上限は以下のとおりです。
| 指標 | 上限 |
|---|---|
| 就業日数 | 育休取得日数の50%以下 |
| 就業時間 | 育休取得日数 × 所定労働時間の50%以下 |
例えば28日間取得した場合、就業できるのは最大14日(または所定労働時間の50%相当)までです。
育休給付金と確定申告の関係
育児休業給付金は、非課税所得に分類されます(所得税法第9条)。そのため、給付金のみが収入源の期間は、原則として確定申告は不要です。
ただし、以下の場合は確定申告が必要となります。
- 育休中に副業・兼業収入が20万円を超えた場合(給与所得以外の所得として申告義務あり)
- 年の途中で職場復帰し、年末調整を受けた場合でも、副業収入があるとき
- 医療費控除やふるさと納税の還付を受けたい場合
副業収入がある方は、育休給付金自体は非課税でも、副業収入の申告が必要なケースがあるため、税務署または税理士への確認を推奨します。
🚪 育休中・復職後のお悩みをプロに相談
育休ハラスメント・退職強要など、退職代行サービスが安心サポート
よくある質問(FAQ)
Q1. 育休中にパートや派遣社員として別の会社で働いた場合、給付金はどうなりますか?
A. 育休を取得している会社(雇用保険被保険者として登録されている事業主)以外での就業は、月10日・80時間のカウント対象外です。ただし、別会社での賃金収入が元の休業前月額との合計で80%以上になった場合、その月の給付金は停止されます。また、別の会社で新たに雇用保険被保険者となった場合は、元の会社での育休の扱いが変わる可能性があるため、ハローワークへの確認が必要です。
Q2. 育休中に就業した日数が月10日を超えてしまいました。給付金は全額もらえなくなりますか?
A. 就業日数が月10日を超えた月は、その月分の給付金が支給停止となります。ただし、翌月以降も引き続き10日以下に収まっていれば、翌月分は通常どおり給付されます。あくまで「月単位」での判定であるため、1ヶ月だけ超過しても以降の給付資格全体が失われるわけではありません。
Q3. 育休中に会社から強制的に研修に参加させられました。就業日数にカウントされますか?
A. 原則としてカウントされます。使用者の指揮命令下で行う研修・教育訓練は「就業」とみなされます。育休中の就業は労働者の同意が必要(同一事業主の場合)であるため、会社が一方的に研修参加を命じることは育児・介護休業法上も問題があります。このようなケースはハローワークや都道府県労働局に相談してください。
Q4. 育休開始から半年後に50%支給に切り替わりましたが、副業収入との関係はどう変わりますか?
A. 支給率が67%から50%に切り替わっても、減額・停止の判定基準(80%ルールや13%ルール)自体は変わりません。ただし、支給される給付金の基準額が下がるため、就業収入との合計が休業前月額の80%を超えるかどうかの計算結果が変わります。支給率切り替え後は、許容できる就業収入の上限が実質的に高くなる(給付金が減額されにくくなる)傾向があります。
Q5. 夫婦で交代して育休を取得する「パパ・ママ育休プラス」でも、同じ給付要件が適用されますか?
A. 「パパ・ママ育休プラス」(育児・介護休業法第9条の2)を利用して育休を1歳2ヶ月まで延長した場合も、育児休業給付金の受給要件(就業日数・時間の上限、賃金の80%未満)は同様に適用されます。ただし、1歳以降は「育休延長」の手続きが別途必要で、延長事由の証明書類(保育所等の不承諾通知)の提出も求められます。
まとめ:「育児休業中」の定義を正しく理解して給付金を確実に受け取ろう
本記事の要点を整理します。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 法的定義 | 育児・介護休業法と雇用保険法で定義が異なる。給付金は雇用保険法の要件が優先 |
| 3つの基本条件 | ①雇用保険加入、②子の年齢要件(原則1歳未満)、③賃金が休業前の80%未満 |
| 就業の上限 | 月10日以下かつ月80時間以下(同一事業主での就業) |
| 副業収入の影響 | 賃金13%超で減額、80%以上で支給停止 |
| 申請方法 | 会社経由でハローワークへ。2ヶ月ごとに支給申請 |
| 産後パパ育休 | 就業上限が「取得日数の50%以下」と別ルール |
育児休業給付金の「育児休業中」の定義は、一見シンプルに見えて複数の要件が組み合わさっています。特に兼業・副業を検討している方は、就業日数・時間・収入額の3つの軸すべてを確認することが重要です。
手続きや計算方法に不安がある場合は、お近くのハローワークまたは社会保険労務士への相談をご検討ください。正確な情報をもとに、安心して育児休業を取得・継続してください。
本記事の情報は2025年時点の法令・制度に基づいています。制度改正により内容が変更される場合があるため、最新情報は厚生労働省公式サイトまたはハローワークでご確認ください。


