夫婦でそろって育児休業を取得しようと考えたとき、「配偶者も給付金をもらい始めたら、自分の給付金が減らされるのでは?」という不安を抱える方は少なくありません。結論から言えば、給付金の直接的な減額はありません。しかし、間接的に世帯の手取りや手続きに影響する場面が複数存在します。
本記事では、2025年現在の制度をもとに、夫婦同時育休取得時の給付金への影響・注意点・申請手続きを、人事担当者・育休取得者の双方が理解できるよう体系的に解説します。
育休を夫婦同時に取得したとき、給付金はどうなる?【結論から解説】
給付金の「直接調整」は原則なし
まず最重要ポイントを明確にします。
配偶者が育児休業給付金を受給開始しても、自身の給付額が減額・停止されることはありません。
これは雇用保険法第61条の4に基づく制度設計によるものです。育児休業給付金は「各被保険者の育休前賃金」を基準に個別に計算されるため、配偶者の受給状況は計算式に組み込まれていません。
たとえば、夫の月収が35万円・妻の月収が28万円で、ともに育休を同時取得した場合、それぞれが独立して給付金を受け取ります。夫の給付が妻の受給によって削られることはなく、逆も同様です。
この点は厚生労働省の育児休業給付制度の見直しに関する通知(令和4年)でも、両親の給付はそれぞれ独立した被保険者資格に基づくものとして整理されています。
それでも注意が必要な「間接的影響」とは
直接の給付額調整はないとはいえ、夫婦同時育休には見落とせない間接的影響が存在します。以降の章で詳しく解説しますが、まず概要を把握しておきましょう。
| 影響ポイント | 内容 | 詳細 |
|---|---|---|
| ① 出生後休業支援給付金の受給条件 | 両親それぞれが一定期間取得しないと非対象 | H2③で解説 |
| ② 育休延長の可否判定 | 1歳・1歳半時点での「保育所未入所」要件に注意 | H2④で解説 |
| ③ 配偶者の就業状況の確認義務 | ハローワークへの届出内容の正確性が問われる | H2⑤で解説 |
| ④ 扶養判定・税・社会保険への影響 | 両者が同時に収入ゼロになる期間の家計影響 | H2⑥で解説 |
| ⑤ 保育園入園の優先度判定 | 自治体によって「両親育休中」の点数計算が異なる | H2④で解説 |
これらは「給付金そのもの」の話ではありませんが、育休期間の設計を誤ると受給できるはずの給付金を取りこぼすリスクがあります。順を追って確認していきましょう。
夫婦同時育休の取得要件と対象者を確認しよう
本人(育休取得者)の基本要件チェックリスト
育児休業給付金を受け取るためには、本人が以下の条件をすべて満たす必要があります。
雇用保険の被保険者であること
一般被保険者または高年齢被保険者として雇用保険に加入していることが前提です。公務員・自営業者・フリーランスは雇用保険の対象外となるため、育児休業給付金の受給対象にはなりません。
育休前2年間に賃金支払基礎日数11日以上の月が12か月以上あること
産休中の期間は2年間の算定から除外できます。また、疾病・負傷による休業期間も除外できるため、条件を満たせないケースは意外と少数です。不安な場合はハローワークに事前確認することを推奨します。
育休期間中の就労日数・収入が一定基準以下であること
支給単位期間(原則1か月)中に就労した日数が10日以下(または80時間以下)であること、かつ育休中に支払われる賃金が休業開始時賃金月額の80%未満であることが必要です。
雇用継続の見込みがあること
育休終了後に引き続き雇用されることが見込まれる場合に限ります。育休中に解雇・自己都合退職が確定している場合は受給できません。
配偶者の要件と「対象外」になるケース
夫婦それぞれが育児休業給付金を受け取るためには、配偶者本人も同じ雇用保険上の要件を個別に満たす必要があります。
以下のケースでは、配偶者側の給付金が発生しないため、「同時取得による相互影響」を考慮する場面は生じません。
| 配偶者の状況 | 給付金の有無 | 主な理由 |
|---|---|---|
| 公務員(国家・地方) | なし(共済制度で別途支援) | 雇用保険非適用 |
| 自営業・フリーランス | なし | 雇用保険未加入 |
| 育休を取得していない | なし | 育休取得が前提 |
| 雇用保険の受給要件を未充足 | なし | 12か月要件等を満たさず |
| 育休期間が完全に重複しない | 独立して受給 | 相互影響の検討不要 |
公務員の配偶者との組み合わせは特に多いケースです。この場合、雇用保険被保険者である側のみが育児休業給付金を受給し、公務員側は共済組合の育児休業手当金を受け取ります。両者の制度は独立しており、互いの受給に影響しません。
出生後休業支援給付金の受給には夫婦の連携が必須
2025年4月から新設された「出生後休業支援給付金」は、夫婦同時育休取得の影響を最も強く受ける給付金です。制度の概要と受給条件を正確に把握しておくことが重要です。
出生後休業支援給付金とは
出生後休業支援給付金は、子の出生後の一定期間において両親がともに育休を取得した場合に、通常の育児休業給付金(給付率67%)に上乗せして給付されるものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 給付対象期間 | 子の出生後28日以内 |
| 支給額(上乗せ分) | 休業前賃金の最大13%相当 |
| 給付後の合計給付率 | 最大80%(手取りベースでは約100%相当) |
| 申請窓口 | ハローワーク(事業主経由が原則) |
| 対象 | 雇用保険被保険者(男女問わず) |
手取り100%の根拠:育休中は社会保険料が免除されます。給付率80%+社会保険料免除分を合算すると、実質的な手取りが育休前とほぼ同水準になるとされています。
出生後休業支援給付金を受け取るための両親の条件
この給付金は「配偶者も育休を取得していること」が受給の絶対条件です。具体的には以下のいずれかに該当する必要があります。
被保険者本人が出生後休業を取得していること
産後パパ育休(出生時育児休業)または通常の育児休業を子の出生後28日以内に取得していること。
配偶者も子の出生後8週間以内に育休を取得していること
配偶者(もう一方の親)が育休を取得している期間と、本人の育休期間に一定の重複があることが必要です。
つまり、どちらか一方しか育休を取得しない場合、または取得期間が全く重複しない場合は、この上乗せ給付は受け取れません。
夫婦の育休開始・終了のタイミングを事前にすり合わせておくことが、世帯全体の給付金最大化につながります。
出生後休業支援給付金の申請手続きと必要書類
申請は育休取得者本人が勤務先を通じてハローワークへ行います。
必要書類(主なもの)
- 育児休業給付受給資格確認票(初回のみ)
- 育児休業給付金支給申請書
- 賃金台帳・出勤簿(育休前の賃金確認用)
- 母子健康手帳(出生の事実確認)
- 配偶者の育休取得を証明する書類(配偶者の勤務先発行の育休取得証明書など)
申請期限
育休開始から原則2か月以内に初回申請を行います。出生後休業支援給付金の上乗せ分も同一の申請フローで処理されるため、配偶者の育休取得証明書を早めに入手しておくことが重要です。
育休延長と保育園判定への影響
1歳・1歳半時点の育休延長要件
育休は原則として子が1歳になるまでですが、一定の条件を満たせば1歳半・2歳まで延長できます。延長を申請するには、「保育所等に入所を希望しているが入所できない」という事実をハローワークに証明する必要があります。
ここで夫婦同時育休が問題になるケースがあります。
自治体の判断によっては、「両親がともに育休中=保育の必要性が低い」とみなし、入所申込みを受け付けない、または選考で不利になることがある
保育所の入所選考は各自治体の条例・基準に委ねられており、全国一律のルールはありません。一方が職場復帰している場合と、両方が育休中の場合では指数(点数)に差がつく自治体が多いのが実情です。
育休延長を確実にするための対策
育休延長を視野に入れている場合、以下の点を事前に確認・対策しておきましょう。
お住まいの自治体の入所選考基準を確認する
自治体の保育課窓口またはウェブサイトで、「育休中の両親」に割り当てられる指数を確認します。自治体によって加点・減点の扱いが異なります。
どちらかが先に復職する「時差取得」も検討する
保育園入所の点数を上げるために、一方が1歳前後に復職し、その後もう一方が育休を継続するという時差取得戦略が有効なケースがあります。
育休延長の届出期限を守る
育休延長は、延長前の育休終了日の2週間前までに会社へ申し出る必要があります(育児・介護休業法第5条)。ハローワークへの給付金申請は事業主経由で行います。
保育園申込みにおける「育休中」の取り扱い
以下は、自治体によって対応が異なる主な判定ポイントです。
| 判定項目 | 片方育休中の場合 | 両方育休中の場合 |
|---|---|---|
| 基本指数(就労状況) | 就労側が高い点数 | 両者とも育休点数 |
| 入所申込みの受付 | 多くの自治体で可能 | 受け付けない自治体あり |
| 育休延長の証明効果 | 比較的認められやすい | 自治体判断による |
上記の理由から、育休期間の設計は給付金だけでなく保育所入所戦略とセットで考えることが重要です。
ハローワーク申請における配偶者の育休状況の記載
申請書への正確な記載が重要な理由
育児休業給付金の申請書(育児休業給付金支給申請書)には、育休期間中の就労状況・収入に関する記載が求められます。配偶者が同時に育休中である事実は直接の記入欄はありませんが、以下の観点で正確な申告が求められます。
育休中の就労日数・収入の申告
配偶者の育休とは直接関係ありませんが、自身が育休中にパートやアルバイトなど就労した場合は必ず申告が必要です。支給単位期間中の就労日数が10日超(または80時間超)になると、その期間の給付金は不支給となります。
賃金の支払いがある場合の80%ルール
育休中に会社から賃金が支払われている場合、その合計額が休業開始時賃金月額の80%以上になると給付金が停止されます。配偶者の給付金は計算に含まれませんが、自身に支払われる賃金は漏れなく申告する必要があります。
申請スケジュールと提出先
| 申請タイミング | 内容 | 提出先 |
|---|---|---|
| 育休開始後2か月以内 | 受給資格確認・初回申請 | ハローワーク(事業主経由) |
| 以降2か月ごと | 継続給付申請 | 同上 |
| 育休延長時 | 延長理由証明書の添付 | 同上 |
| 育休終了後 | 育休終了届・給付終了の確認 | 同上 |
夫婦それぞれが勤務先の人事担当者と連携して申請スケジュールを管理することが、給付金の取りこぼし防止につながります。
世帯の手取り・税・社会保険への影響
夫婦同時育休中の社会保険料免除
育休中は、本人の申し出により社会保険料(健康保険・厚生年金)が免除されます(育児・介護休業法第16条の2、健康保険法第159条等)。夫婦が同時に育休を取得している場合、両者の社会保険料が同時に免除されるため、世帯として支払う保険料負担がゼロになります。
ただし、免除期間中も健康保険の給付(医療費の負担軽減等)は継続して受けられます。
所得税・住民税への影響
育児休業給付金は所得税の非課税所得です(所得税法第9条第1項第15号)。そのため、育休中の給付金については確定申告や年末調整で課税されることはありません。
ただし以下の点は注意が必要です。
住民税は前年所得に基づいて課税される
住民税は前年の収入に基づいて翌年に課税されます。育休1年目に育休に入った場合、前年の給与収入に対する住民税が育休中に請求されることになります。収入がゼロでも住民税の支払いが発生するため、資金計画に織り込んでおく必要があります。
配偶者控除・扶養控除の適用可否
給付金は非課税所得のため、給付金のみの収入であれば「所得なし」として扱われます。夫婦のどちらかが育休中で給付金のみを受け取っている場合、もう一方の所得税計算上の「配偶者控除(または配偶者特別控除)」の対象になる可能性があります。ただし、育休前の給与収入が基準を超えている場合は適用外となることが多いため、年末調整の際に確認が必要です。
世帯の手取り試算例
以下はモデルケースによる概算です(2025年制度に基づく)。
モデルケース:夫・妻ともに月収30万円で育休取得
| 項目 | 夫 | 妻 |
|---|---|---|
| 育休前月収 | 300,000円 | 300,000円 |
| 賃金日額(概算) | 約10,000円 | 約10,000円 |
| 育休開始〜180日の給付率 | 67% | 67% |
| 月額給付金(概算) | 約201,000円 | 約201,000円 |
| 出生後休業支援給付金(上乗せ・該当期間) | 最大+39,000円 | 最大+39,000円 |
| 社会保険料免除効果(月額概算) | 約43,000円 | 約43,000円 |
| 実質的な手取り相当額(概算) | 約244,000円〜 | 約244,000円〜 |
※賃金日額の計算は休業開始前6か月の賃金総額÷180日で算出します。賞与は含みません。実際の給付額はハローワークが算定するため、上記はあくまで概算値です。
世帯合計で見ると、夫婦同時育休でも月額48万円〜50万円程度の実質収入を確保できることが分かります。
まとめ:世帯で育休を設計するための5つのポイント
夫婦同時育休取得における給付金への影響を整理すると、以下の5点が重要です。
① 給付金の直接減額はない
配偶者が給付金を受け始めても、自身の給付金額は変わりません。各被保険者が独立して給付を受ける仕組みです(雇用保険法第61条の4)。
② 出生後休業支援給付金は「同時取得」が受給の鍵
上乗せ給付(最大+13%)を受けるには、両親が出生後の一定期間に重複して育休を取得することが必須条件です。育休開始日のタイミングを事前に調整しましょう。
③ 育休延長は保育所入所戦略とセットで考える
両親同時育休中は保育所入所選考で不利になる自治体があります。延長を予定している場合は、自治体の判定基準を事前確認し、必要に応じて時差取得を検討します。
④ 社会保険料免除・非課税の効果を最大化する
給付金は非課税、社会保険料は免除。住民税は前年収入に基づくため、育休1年目の資金計画に住民税支払いを組み込む必要があります。
⑤ 申請手続きは会社・ハローワークと連携して行う
育児休業給付金の申請は事業主経由が原則です。夫婦それぞれの勤務先に育休開始を早めに届け出て、2か月ごとの継続申請が滞らないようにしましょう。
制度の詳細はお住まいの地域のハローワーク、または勤務先の人事担当者に確認することを強くお勧めします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 夫婦で同時に育休を取得すると、どちらかの給付金が減りますか?
いいえ、減りません。育児休業給付金は各被保険者の育休前賃金をもとに個別に計算されるため、配偶者の受給状況は自身の給付額に影響しません(雇用保険法第61条の4)。
Q2. 配偶者が公務員の場合、自分の給付金に影響はありますか?
影響はありません。公務員は雇用保険の適用外であるため、配偶者の育休取得の有無にかかわらず、雇用保険被保険者である自身の給付金は独立して計算・支給されます。
Q3. 出生後休業支援給付金を受け取るには、配偶者も育休を取る必要がありますか?
はい、必要です。この給付金は両親がともに育休を取得することを要件としています。配偶者が育休を取得していない場合、または育休期間が全く重複しない場合は、上乗せ給付の対象になりません。
Q4. 育休延長を申請したいのですが、夫婦同時育休中でも認められますか?
認められる場合が多いですが、延長の前提となる「保育所に入所できない」という要件の証明は、自治体によって判断が異なります。両親が同時に育休中だと保育所入所の優先度が下がり、延長の証明書を得にくくなるケースがあるため、事前に自治体の保育課に確認してください。
Q5. 育休中の給付金は確定申告が必要ですか?
育児休業給付金は所得税法上の非課税所得であるため、給付金だけでは確定申告の義務は生じません。ただし、育休前に給与収入があった年については年末調整が必要です。また、住民税は前年所得に課税されるため、育休中も支払いが発生することを念頭に置いてください。
Q6. 夫婦の育休期間が1日でも重複していれば出生後休業支援給付金を受け取れますか?
受給要件の詳細は制度設計によりますが、原則として「子の出生後28日以内」という対象期間内に、両親の育休期間が重複していることが必要です。重複が1日だけの場合でも要件を満たす可能性はありますが、正確な判定はハローワークに確認してください。
参考法令・ガイドライン
- 育児・介護休業法(令和4年改正版)
- 雇用保険法 第61条の4(育児休業給付)
- 育児・介護休業法施行規則 第9条・第10条
- 厚生労働省「育児休業給付の内容及び支給申請手続きについて」
- ハローワーク「雇用保険の給付制度について」
- 厚生労働省通知「育児休業給付制度の見直しについて(令和4年)」
免責事項: 本記事は2025年4月時点の法令・制度に基づいて作成しています。給付金の詳細な金額・条件は個別の事情によって異なります。最新情報および個別事案については、ハローワークまたは社会保険労務士にご相談ください。

