育休給付金は企業負担ではない【事業主が知るべき雇用保険の仕組み】

育休給付金は企業負担ではない【事業主が知るべき雇用保険の仕組み】 育休給付金

育休給付金について「企業が負担するのでは?」という誤解を持つ人事担当者や労働者は多くいます。しかし実際には企業の直接負担ではなく、雇用保険の保険料で賄われる社会保障制度です。

本記事では、育休給付金の財源構造、事業主が負担すべき拠出金の仕組み、そして労働者・企業双方が理解すべき実務的な知識を、図解を交えて詳しく解説します。企業の人事担当者も育休取得を検討している労働者も、この記事で正確な理解を得られます。


育休給付金は企業負担ではない【重要な誤解を解く】

育休給付金の正体=雇用保険二事業の給付

育休給付金は、厚生労働省が管理する雇用保険から支出される給付金です。企業が給与から直接支払うものではなく、社会保障制度の一部として国が管理しています。

【雇用保険の構造図】
┌─────────────────────────────────────────────────┐
│             雇用保険(2つの給付体系)               │
├─────────────────────────────────────────────────┤
│                                                 │
│  ① 失業等給付(保険事故:失業状態)              │
│     ├─ 基本手当(失業給付)                    │
│     ├─ 技能習得手当                           │
│     ├─ 広域求職活動費                         │
│     └─ 再就職手当                             │
│                                                 │
│  ② 雇用継続給付(保険事故:在職継続困難)       │
│     ├─ 育児休業給付 ★ ← ここが対象!        │
│     ├─ 介護休業給付                           │
│     └─ 高年齢雇用継続給付                     │
│                                                 │
└─────────────────────────────────────────────────┘

重要ポイント:
✓ 雇用保険法第61条~第67条で規定
✓ 保険料で賄われる公的給付
✓ 企業は給付金を負担していない

企業の直接負担がない理由

企業が育休給付金を直接支払わないのは、雇用保険二事業の「事業主拠出金」がすべての財源になっているからです。

項目 企業負担 労働者負担
一般保険料(失業等給付) 給与の0.95%~1.55% 給与の0.5%
事業主拠出金(雇用継続給付) 給与の0.85% ―(負担なし)
育休給付金の財源 上記拠出金で賄う 直接負担なし

このため、育休給付金は「企業が従業員に支払う給与」ではなく、「社会保険制度から支給される給付」として扱われます。


育休給付金の財源構造【雇用保険料の内訳】

雇用保険料の内訳と事業主拠出金

事業主が負担する雇用保険関連の費用は、以下のように分類されます。

【事業主が負担する保険料の内訳】

月額給与 ¥300,000 の従業員の場合

1. 一般保険料(失業等給付用)
   300,000円 × 1.55% = 4,650円 ← 企業負担
   300,000円 × 0.50% = 1,500円 ← 労働者負担(給与天引き)

2. 事業主拠出金(雇用継続給付用)
   300,000円 × 0.85% = 2,550円 ← 企業負担のみ

───────────────────────────────
企業が毎月負担する合計:4,650円 + 2,550円 = 7,200円
労働者が負担する合計:1,500円(給与から天引き)
───────────────────────────────

育休給付金の支給(例:月300,000円 × 67%)
受給者が受け取る額:201,000円
↑ この財源となるのが「事業主拠出金(0.85%)」です

重要な理解:
一般保険料(0.95%~1.55%) → 失業給付など、失業状態の給付に充当
事業主拠出金(0.85%) → 育児休業給付、介護休業給付など、雇用を継続するための給付に充当

給与から差し引かれる保険料の計算方法

労働者の給与から天引きされる雇用保険料は、事業主拠出金とは別です。

計算例:月額給与300,000円の場合

【労働者が給与から支払う雇用保険料】

基本給:¥300,000

雇用保険料 = ¥300,000 × 0.5% = ¥1,500
↑ 毎月の給与から自動的に天引きされます

給与手取り:¥300,000 - ¥1,500 = ¥298,500

この労働者が育児休業に入った場合:

【育児休業中の給付金】

受給資格:
✓ 雇用保険に12ヶ月以上加入
✓ 過去2年間に11日以上の給与支払い基礎日数が12ヶ月以上
✓ 育児休業中の就業がない

給付額:
育児休業給付金 = 月額給与 × 67%(最初の6ヶ月)
              = ¥300,000 × 67% = ¥201,000

※ 7ヶ月目以降は50%に低下

給付期間:子どもが1歳になるまで(最大2年間まで延長可能)

育休給付金の対象要件と給付率

育休給付金を受給するには、複数の要件を満たす必要があります。

受給要件チェックリスト

要件 詳細 確認方法
雇用保険加入 育児休業開始日に加入していること 雇用保険被保険者証で確認
被保険者期間 過去2年間に12ヶ月以上、各月11日以上の給与支払い基礎日数 ハローワークで申請時に確認
育児休業の取得 育児・介護休業法に基づく休業 会社の休業届提出
就業していない 育児休業期間中、他の企業での就業がないこと 誓約書の提出
給与支払いがない 給付対象月に、給付金相当額以上の給与を受けていない 給与明細で確認

対象児童の範囲

【育休給付金の対象となる児童】

✅ 対象:
  • 実子(嫡出子・非嫡出子問わず)
  • 養子(特別養子・普通養子)
  • 配偶者の連れ子(民法上の親子関係がある)

✓ 児童は日本国内に住んでいることが条件

❌ 対象外:
  • 生物学的にのみ親の関係(親権がない場合)
  • 児童が日本国外に住んでいる場合

給付期間と給付率の段階的変化

育休給付金の給付額は、取得期間によって段階的に低下します。

【給付期間と給付率】

子どもが1歳になるまで
├─ 0ヶ月~6ヶ月目:給付率 67%
│  例:月給300,000円 × 67% = ¥201,000
│
├─ 6ヶ月~1歳:給付率 50%
│  例:月給300,000円 × 50% = ¥150,000
│
└─ 保育所に入園できない等の事情:最大2年間延長可能
   (1歳~1歳6ヶ月、1歳6ヶ月~2歳)

【給付額の上限・下限(令和6年度)】

上限額:
  • 標準賞与日額が5,088円以上の場合
  • 月額給付上限 = 340,922円(67%の月)

下限額:
  • 標準賞与日額が5,088円未満の場合
  • 月額給付下限 = 当該者の67% × 基本月額

事業主が負担すべき保険料の実務的注意点

雇用保険関連費用の企業決算上の扱い

企業会計上、事業主拠出金はどのように処理されるのでしょうか。

【企業決算での処理】

事業主拠出金(給与0.85%)
  ↓
租税公課 または 福利厚生費として計上
  ↓
給与の一部として定期的に納付
  ↓
ハローワークへ年1回の納付確認

※ 給与支払い時に「事業主拠出金」として単独計上する企業もあれば、
  「雇用保険料」に含めて記載する企業もあります。

保険料納付の手続き

【事業主拠出金の納付フロー】

1. 毎月の給与計算時
   └─ 事業主拠出金を「給与関連費用」として計上

2. 毎月末または翌月初
   └─ 労働者負担分(0.5%)とともに納付

3. 年1回(4月)
   └─ 確定保険関係成立届の提出
   └─ 過去1年間の保険料徴収確定

4. 翌年度
   └─ 新しい保険関係が開始

育休給付金申請時の企業の対応

企業が育休給付金申請で行うべき実務手続きを確認しましょう。

申請に必要な企業側の書類

書類 作成者 提出先 時期
育児休業給付金支給申請書 ハローワーク記入 ハローワーク 休業開始から約2週間以内
育児休業取得の確認書 企業(人事部) ハローワーク 申請と同時
賃金台帳(申請対象月) 企業(経理部) ハローワーク 申請と同時
雇用契約書の写し 企業 ハローワーク 初回申請時
給与明細(申請対象月) 企業(経理部) 従業員経由でハローワークへ 毎月

企業が記入する主な項目

【育児休業給付金支給申請書の企業記入欄】

・氏名、住所、生年月日
・雇用契約の内容(常勤/非常勤)
・育児休業期間(開始日・予定終了日)
・給与支払い状況(基本給、手当の内訳)
・給付対象月の給与額
・事業所情報(事業所番号、企業名)

※ 多くの項目は従業員が記入し、企業が確認・押印する形式

育休給付金と所得税・社会保険の関係

育休給付金は非課税所得

重要な特例として、育休給付金は所得税の対象にはなりません

【所得税の扱い】

給与所得:¥300,000
  ↓ 所得税対象

育児休業給付金:¥201,000
  ↓ ⚠️ 非課税

年末調整時:
  • 給与所得としてカウントされない
  • 税務署への報告対象外

社会保険料(厚生年金・健康保険)への影響

【社会保険料の扱い】

育児休業期間中:
┌─────────────────────────────────┐
│ 育児休業保険料免除制度             │
├─────────────────────────────────┤
│ 事業主が「育児休業保険料免除申出書」│
│ を年金事務所に提出することで:      │
│                                   │
│ ✓ 厚生年金:保険料が免除          │
│ ✓ 健康保険:保険料が免除          │
│ ✓ ただし受給期間はカウントされる  │
│                                   │
│ 手続き:申出書を年金事務所へ提出   │
│ 期限:休業開始日から30日以内      │
└─────────────────────────────────┘

事業主拠出金と企業経営への実務的な影響

中小企業における負担額のシミュレーション

【従業員30名の企業の年間費用例】

月額給与の平均:¥280,000

事業主拠出金年間合計:
= 280,000円 × 30名 × 0.85% × 12ヶ月
= ¥858,720 / 年

← 企業が負担する金額

このうち、実際に育休給付金として支給される額:
= 従業員の育児休業取得者のみに支給
= 例:2名が年1回ずつ6ヶ月取得した場合
  = 280,000 × 67% × 6ヶ月 × 2名 = ¥2,246,400

育休給付金が企業に与えるメリット

【企業にとってのメリット】

1. 直接的な給付金負担がない
   → 従業員の生活を支援(企業イメージ向上)

2. 雇用継続率の向上
   → 育児休業から復帰する従業員が多い

3. 優秀な人材の確保
   → 育休制度が充実している企業として認知

4. 採用活動の競争力向上
   → 特に女性労働者の応募増加

5. 助成金制度の活用
   → 両立支援等助成金の受給対象になる可能性
     (企業負担軽減の追加施策)

企業別の育休対応事例

事例1:上場企業の対応例

【大規模企業(従業員1,000名以上)】

取り組み内容:
✓ 育休給付金の仕組みを全従業員に周知
✓ 人事部による個別相談窓口の設置
✓ 育休復帰後のキャリア支援制度
✓ 両立支援等助成金の申請支援

企業の姿勢:
「育休給付金は社会保障制度のため、企業が負担していない」
と従業員に周知し、安心して育休を取得させる

事例2:中小企業の対応例

【中小企業(従業員50名程度)】

対応方法:
✓ ハローワークの無料相談を活用
✓ 就業規則に育休制度を明記
✓ 育休取得者に給付金申請書の書き方説明会を実施
✓ 社会保険労務士に手続き代行を依頼

課題と対策:
課題:「育休中の人員不足」
対策:育児・介護休業法では代替要員確保の法的義務がないため、
      人事部で事前に人員配置計画を立案

よくある質問(FAQ)

Q1:育休給付金が支給されないケースはありますか?

A:はい。以下の場合は支給されません。
– 雇用保険に12ヶ月未満の加入
– 育児休業中に他社で就業している
– 育児休業ではなく有給休暇で対応している
– 給付対象月に給付金相当額以上の給与を受けている

Q2:派遣社員も育休給付金を受け取れますか?

A:はい。派遣社員も以下の条件で受給可能です。
– 派遣元企業の雇用保険に加入していること
– 被保険者期間12ヶ月以上
– ただし派遣先での就業は終了する必要があります

Q3:育休給付金の申請に企業の同意は必須ですか?

A:いいえ。労働者の権利であり、企業の同意がなくても申請可能です。ただし企業は確認書への記入が必要なため、事前に申告することが一般的です。

Q4:給付金を受け取ると、企業への退職金計算に影響しますか?

A:いいえ。育休給付金は企業からの給与ではなく社会保障給付であるため、退職金計算の基礎に含まれません。

Q5:企業が育休給付金の額を上乗せして支給することは可能ですか?

A:はい。可能です。この場合、上乗せ分は企業の給与として扱われ、所得税・社会保険料の対象になります。


まとめ:企業と労働者が理解すべき3つのポイント

  1. 育休給付金は企業負担ではない
  2. 雇用保険の保険料(事業主拠出金0.85%)で賄われる
  3. 企業が給与から直接支払うものではない

  4. 事業主拠出金は保険料として当然の負担

  5. 企業が毎月給与の0.85%を負担
  6. これにより従業員の生活を支援できる社会保障制度が成立

  7. 申請手続きは企業と労働者の協力が不可欠

  8. 企業は確認書や賃金台帳の提出が必要
  9. 労働者がハローワークに申請する際、企業の協力が円滑な給付を実現

育休給付金は、出産・育児による経済的負担を軽減し、仕事と家庭の両立を支援する重要な社会保障制度です。企業の人事担当者も労働者も、正確な仕組みを理解することで、制度の恩恵を最大限に活用できるでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 育休給付金は企業が直接支払うのですか?
A. いいえ。育休給付金は雇用保険の事業主拠出金で賄われる社会保障制度です。企業が給与から直接支払うものではありません。

Q. 企業が負担する雇用保険料は育休給付金に使われますか?
A. はい。企業が負担する「事業主拠出金(給与の0.85%)」が育休給付金の主な財源となります。

Q. 育休給付金を受け取ると、企業の負担が増えますか?
A. いいえ。拠出金は従業員の育休取得の有無に関わらず、毎月一定額を納めているため増減しません。

Q. 育休給付金は労働者も負担していますか?
A. 育休給付金の財源である事業主拠出金は企業のみが負担し、労働者の直接負担はありません。

Q. 雇用保険料と育休給付金の関係を簡単に説明してください。
A. 企業が納める事業主拠出金(給与の0.85%)が積み立てられ、その資金から育休給付金が支給される仕組みです。

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