育休を申し出てきた従業員に対して「この人は対象外かもしれない」と感じたとき、人事担当者はどう判断すればよいでしょうか。誤った判定は従業員の権利侵害につながり、適切な判定を怠れば企業側に法的リスクが生じます。
本記事では、育児・介護休業法に基づく4つの対象外基準を正確に解説し、障害・性別・国籍などによる違法な差別との区別を明確にします。人事担当者が自信を持って適法な判定を行えるよう、判定フロー・違法事例・差別防止の実務手順まで網羅的に説明します。
育休制度における対象外従業員とは?法的根拠から理解する
育休(育児休業)は、すべての従業員が無条件で取得できる制度ではありません。育児・介護休業法(以下、育休法)が定める要件を満たす従業員のみが対象となります。
「対象外」の判定が適法かどうかは、法律の要件に基づいた客観的事実によって判断されます。感情的な判断や特定属性への偏見が混入した瞬間、それは「対象外判定」ではなく「差別」になります。この区別を理解することが、企業の法令遵守の第一歩です。
育児・介護休業法第5条とは?育休取得の4つの適用要件
育休の申出・取得資格を定めているのが育児・介護休業法第5条です。2022年の改正法施行(2022年10月)以降、有期契約労働者の要件が緩和され、より広い従業員層が対象となりました。
以下の4要件をすべて満たす場合に、従業員は育休を取得できます。
| 要件番号 | 要件内容 | 判定の基準時点 |
|---|---|---|
| 要件① | 同一企業に1年以上継続雇用されている | 育休申出日時点 |
| 要件② | 子が1歳6ヶ月(最大2歳)になるまでの育休期間中、雇用が継続される見込みがある | 申出日以降の予定 |
| 要件③ | 育休取得後も就業を継続する予定がある(復帰意思あり) | 本人の申告内容 |
| 要件④ | 有期契約の場合、契約満了日が育休終了予定日の翌日以降30日以上ある | 契約書の満了日 |
📌 重要ポイント
2022年10月施行の改正法により、「週3日以上勤務」という所定労働日数要件は労使協定がある場合のみ適用されることになりました。週2日以下であっても、労使協定がなければ一律に対象外にすることはできません。最新の自社労使協定の内容を必ず確認してください。
法的根拠となる4つの法律と企業の義務
育休の対象外判定・差別防止に関係する法律は育休法だけではありません。人事担当者が把握すべき4つの主要法律とその禁止事項を整理します。
育児・介護休業法(育休法)
- 禁止事項:育休申出・取得を理由とした不利益取扱い(降格・解雇・減給など)
- 企業義務:申出があった場合、要件確認のうえ原則として認める義務
- 罰則:厚生労働大臣の勧告に従わない場合、企業名の公表(第56条の2)
労働基準法(産前産後休業)
- 禁止事項:産前6週間・産後8週間の就業(本人申出がある場合の産前、産後は強制)
- 企業義務:産後8週間の就業禁止は事業主の絶対的義務
- 罰則:6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金(第119条)
障害者差別解消法(2016年施行・2021年改正)
- 禁止事項:障害を理由とした「不当な差別的取扱い」
- 企業義務:合理的配慮の提供(民間企業は2024年4月から義務化)
- 具体例:「障害があるから育休中の業務調整ができない」として対象外にすることは禁止
男女雇用機会均等法
- 禁止事項:妊娠・出産・育休申出を理由とした解雇・不利益取扱い(第9条)
- 企業義務:妊娠判明後の不利益取扱いは「原則として違法」と推定される
- 罰則:厚生労働大臣による報告徴収・助言・指導・勧告(第29条)
育休対象外従業員の4パターン分類と判定フロー
育休の対象外となる従業員は、大きく4つのパターンに分類できます。それぞれの判定根拠・確認書類・判定時の注意点を詳しく解説します。
育休対象外判定フローチャート
従業員から育休申出
↓
【STEP1】同一企業での継続雇用が1年以上か?
↓ NO → 対象外(要件①未充足)
↓ YES
【STEP2】有期契約社員か?
↓ YES → 契約満了日は育休終了予定日の翌日から30日以上後か?
↓ NO → 対象外(要件④未充足)
↓ YES → STEP3へ
↓ NO(無期契約)→ STEP3へ
【STEP3】本人に育休取得後の復帰意思があるか?
↓ NO(本人申告) → 対象外(要件③未充足)
↓ YES
【STEP4】労使協定で週2日以下を除外していないか?
↓ 除外あり+週2日以下 → 対象外(労使協定による除外)
↓ 該当なし
↓
【育休対象】→ 申出を承認・手続きへ
勤続1年未満の従業員が対象外になる理由と判定方法
法的根拠:育休法第5条第1項第1号
申出時点において、同一事業主に引き続き1年以上雇用されていない従業員は、育休の対象外となります。
判定で確認すべき事項
| 確認項目 | 確認書類 | 注意点 |
|---|---|---|
| 雇用開始日 | 雇用契約書・労働者名簿 | 試用期間も継続雇用期間に含まれる |
| 申出日 | 育休申出書の受付日 | 申出日≠育休開始日。申出日時点で1年を判定 |
| 転籍・出向の有無 | 人事異動記録 | グループ会社間の転籍は「別会社」扱いになる場合あり |
⚠️ 注意:試用期間中の雇用は「継続雇用」にカウントされます。「試用期間中だから対象外」という判定は誤りです。
有期契約社員が対象外になる判定基準と正確な計算方法
法的根拠:育休法第5条第1項第2号
有期契約労働者については、「育休期間の終了予定日の翌日から起算して、30日以上の雇用継続見込み」 があるかどうかが基準です。
計算例
【例1】育休終了予定日:2025年10月31日
契約満了日 :2025年11月20日
→ 育休終了翌日(11月1日)から契約満了日(11月20日)まで=20日
→ 30日未満のため「対象外」と判定可能
【例2】育休終了予定日:2025年10月31日
契約満了日 :2025年12月5日
→ 育休終了翌日(11月1日)から契約満了日(12月5日)まで=35日
→ 30日以上のため「対象」
判定時の重要な注意点
- 「契約更新の可能性がある」場合は、更新後の期間も含めて判定するかどうか個別検討が必要です
- 「どうせ更新しないから」という見込みで対象外にすることは違法です。客観的な契約書記載に基づいて判定してください
- 雇用継続の見込みについて判断が難しい場合は、労働局の雇用均等室に事前相談することを推奨します
復帰意思がない従業員の対象外判定と確認プロセス
法的根拠:育休法第5条第1項(解釈運用基準)
「育休取得後に職場に戻る意思がない」と本人が明言している場合は、育休の趣旨(雇用継続を前提とした休業)に合致しないとして、対象外とする余地があります。
ただし、この判定は本人の明確な意思表示に基づくことが絶対条件です。
確認プロセスの推奨手順
- 書面による申出受理:まず申出を口頭で受け付けず、所定の申出書を提出してもらう
- 面談の実施:復帰予定日・復帰後の勤務形態について個別面談を実施する
- 意思確認の記録:「育休後に退職する意向がある」旨を本人が自署した確認書を取得する
- 判定の文書化:対象外と判定した根拠・経緯を人事記録に残す
⚠️ 絶対禁止:企業側が「どうせ戻ってこないだろう」と勝手に判断して対象外とすることは、妊娠・出産を理由とした不利益取扱いとみなされ違法です。必ず本人の明確な意思表示を書面で確認してください。
労使協定に基づく週2日以下勤務の対象外判定
法的根拠:育休法第6条第1項ただし書き
2022年改正後、「週の所定労働日数が2日以下」の従業員を対象外とするには、労使協定の締結が必要です。労使協定がない場合、週2日以下の従業員であっても育休の対象から除外することはできません。
労使協定で対象外とできる従業員の要件
| 条件 | 詳細 |
|---|---|
| 勤続1年未満 | 申出日時点で1年未満(労使協定がなくても対象外) |
| 週所定労働日数2日以下 | 労使協定がある場合のみ対象外にできる |
| 育休終了日が明らかに雇用期間を超える有期契約 | 労使協定と客観的事実に基づく |
📌 人事担当者チェックリスト:自社に「所定労働日数2日以下の従業員を育休対象外とする」旨の労使協定があるか、協定の有効期間が切れていないかを今すぐ確認してください。
違法な対象外判定の事例と差別防止の実務対応
適法な対象外判定の基準を理解したうえで、次に「やってはいけない判定」の具体例を確認します。
違法な対象外判定の具体的事例
以下の判定理由はすべて違法です。関連法律と合わせて確認してください。
| 違法な判定理由 | 違反する法律 | リスク |
|---|---|---|
| 「障害があるから育休中の業務対応が難しい」として対象外 | 障害者差別解消法第7条 | 差別的取扱いとして行政指導・損害賠償 |
| 「妊娠を申告した時点で契約更新しない」 | 男女雇用機会均等法第9条 | 解雇・雇い止めの無効、慰謝料請求 |
| 「女性スタッフは業務上重要なので育休は困る」として拒否 | 育休法第10条・均等法 | 企業名公表・行政指導 |
| 「外国人だから制度対象外」 | 国籍差別(労基法3条) | 損害賠償・社会的信用失墜 |
| 「男性社員の育休は前例がないから認めない」 | 育休法第10条 | 不利益取扱いとして無効 |
| 「正社員登用試験に落ちたから対象外」 | 育休法(雇用形態を理由とした差別) | 行政指導・訴訟リスク |
差別防止のための企業内体制整備と実務手順
差別的判定を防ぐには、個人の判断に依存せず、組織的な仕組みを整備することが重要です。
① 判定フローの標準化
- 育休申出受理から判定までの手順をフロー図・チェックリストで明文化する
- 判定担当者が1人にならないよう、必ず複数名(人事+管理職)で承認する体制を設ける
② 判定記録の保管
- 対象外と判定した場合、根拠となる客観的事実・確認書類・担当者名・判定日を記録する
- 記録は少なくとも5年間保存する(労働関係法令の記録保存義務に準拠)
③ 管理職への差別防止研修
- 年1回以上、育休法・均等法・障害者差別解消法の改正内容を含む研修を実施する
- 特に「妊娠報告後の言動」「育休申出後の業務アサイン変更」に関する事例演習を含める
④ 相談窓口の設置
- 従業員が不当な対象外判定を受けたと感じた場合の内部相談窓口を設置する
- 外部の都道府県労働局 雇用均等室への相談方法も全従業員に周知する
育休給付金の基本と対象外の場合の代替支援
対象外と判定された場合でも、活用できる給付・支援制度があります。人事担当者として、対象外の従業員へ丁寧に情報提供することが信頼関係の維持につながります。
育児休業給付金の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 給付主体 | 雇用保険(ハローワーク) |
| 給付率 | 休業開始から180日間:賃金の67%、181日目以降:50% |
| 支給上限(2024年度) | 開始180日間:31万143円/月、181日目以降:23万1,450円/月 |
| 申請窓口 | 事業主経由でハローワークへ申請 |
| 申請期限 | 休業開始から2ヶ月ごとに申請(事業主が代行) |
| 非課税 | 育児休業給付金は所得税・住民税非課税 |
対象外と判定された従業員への代替支援案内
| 状況 | 活用できる制度 |
|---|---|
| 勤続1年未満で育休対象外 | 出産手当金(健康保険)・出産育児一時金は利用可能 |
| 有期契約で雇い止め予定 | 失業給付(雇用保険)・特定受給資格者として受給可能 |
| 育休給付金非対象 | 自治体の育児支援給付・子育て世帯向け給付金を案内 |
📌 人事担当者の実務アドバイス:対象外と判定した場合でも、「制度を使えません」と告げるだけでなく、「代わりに利用できる制度」を書面で案内することが従業員との信頼関係を守り、不必要なトラブルを防ぎます。
FAQ:育休対象外判定でよくある疑問
Q1. 試用期間中の従業員が妊娠・出産を申し出た場合、対象外にできますか?
A. 試用期間も「継続雇用期間」に含まれます。勤続1年未満であれば要件①を満たさないため対象外となりますが、試用期間中であることを理由に対象外にすることは、要件の誤解釈です。また、試用期間中を理由とした解雇は、妊娠・出産差別として違法とみなされる可能性があります。
Q2. 育休後に退職すると「なんとなく」思っているが、本人はまだ言っていない。対象外にできますか?
A. できません。企業側の「予測」や「推測」で対象外にすることは違法です。本人が書面で「育休後に退職する意向がある」と明示した場合にのみ、要件③の未充足として判定できます。
Q3. 有期契約社員が育休中に契約満了になった場合はどうなりますか?
A. 契約満了による雇用終了は、育休を理由とした解雇ではないため、契約書通りに処理することは違法ではありません。ただし、「育休を取得したから更新しない」という実態がある場合は、不利益取扱いとして育休法第10条違反になります。更新しない理由を客観的に説明できる記録を残すことが重要です。
Q4. 障害のある従業員が育休を申し出た場合、職場環境の整備が難しいとして断れますか?
A. 断れません。障害を理由とした育休の拒否は、障害者差別解消法第7条が禁止する「不当な差別的取扱い」に該当します。育休中・育休後の職場環境整備については、「合理的配慮」として対応策を検討する義務があります(2024年4月以降、民間企業も法的義務)。
Q5. 男性社員の育休申出を「業務上の支障」を理由に断ることはできますか?
A. 原則としてできません。「業務上の都合」は育休取得を拒否する正当な理由にはなりません。育休法第10条は、育休申出・取得を理由とした不利益取扱いを明確に禁止しています。業務対応は企業側が対策を講じる義務があります(代替要員の確保、業務の再配分など)。
まとめ:適法な対象外判定の3原則
育休対象外判定において人事担当者が守るべき原則を最後に整理します。
原則① 客観的事実に基づく
感情・推測・先入観ではなく、雇用契約書・勤怠記録・本人の書面申告など客観的証拠に基づいて判定する。原則② 記録を残す
判定理由・確認書類・関係者・判定日を必ず文書で保管する。後から「差別では」と問われたとき、根拠を示せる体制を整える。原則③ 代替支援を案内する
対象外と判定した場合でも、活用できる給付制度・相談窓口を書面で案内し、従業員の不利益を最小化する姿勢を示す。
育休対象外判定は、法律の条文を正確に読み、組織として公正な手続きを実行することで、従業員の権利を守りながら企業のリスクも回避できます。判定に迷った場合は、都道府県労働局の雇用均等室(0120-794-713) に事前相談することを強くお勧めします。
本記事は2024年12月時点の法令・行政通達に基づいて作成しています。法改正等により内容が変更される場合があります。最新情報は厚生労働省公式サイトまたは所轄労働局でご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 育休対象外の判定で最も重要な法的根拠は何ですか?
A. 育児・介護休業法第5条の4つの要件です。同一企業1年以上勤続、雇用継続見込み、復帰意思、有期契約の場合の契約期間が基準となります。
Q. 障害や国籍を理由に育休を対象外にしても良いですか?
A. 絶対に禁止です。障害者差別解消法と男女雇用機会均等法により、障害・性別・国籍などによる差別的取扱いは違法となり、罰則対象になります。
Q. 2022年の改正で何が変わりましたか?
A. 有期契約労働者の要件が緩和され、「週3日以上」の所定労働日数要件は労使協定がある場合のみ適用されるようになりました。
Q. 育休申出を理由に降格や減給してもいいですか?
A. 違法です。育児・介護休業法で育休申出・取得を理由とした不利益取扱いは禁止であり、企業名公表などの罰則対象となります。
Q. 対象外判定の際、確認すべき主要な書類は何ですか?
A. 雇用契約書(雇用開始日、雇用期間)、有期契約の場合は契約満了日、本人の復帰意思確認書などが必要です。

