育児休業中に養子縁組が解除・廃止されると、育児休業給付金の受給資格を失い、返納義務が生じる可能性があります。しかし、「具体的に何をすればよいのか」「どのくらいの金額を返せばよいのか」が分からず、不安を抱えている方も多いでしょう。
この記事では、育休中に養子養親関係が廃止された場合の制度の仕組み・返納が必要なケースの判定・ハローワークへの手続き・必要書類・返納額の計算方法まで、労働者本人と企業の人事担当者の両方に向けて、法的根拠を踏まえてわかりやすく解説します。
育休中に養子縁組が廃止されると何が起きる?制度の基本を理解しよう
育児・介護休業法上の「子」の定義と養子の位置づけ
育児休業は、「子」を養育する労働者が取得できる制度です。育児・介護休業法第2条第1号では、育休の対象となる「子」を次のように定義しています。
育児・介護休業法 第2条第1号(要旨)
「子」とは、労働者が養育する実子および養子(特別養子を含む)をいう。
つまり、法律上は実子と養子は同等に扱われます。養子縁組が成立した時点でその子は法律上の「子」となり、養親である労働者は育児休業を取得する権利を得ます。
一方で、民法上の離縁(養子縁組の解除)が成立した瞬間に、その子は「子」の定義から外れます。育休は「子を養育するための制度」であるため、養育すべき子が法律上存在しなくなれば、育休の前提条件そのものが消滅することになります。
| 区分 | 育休取得の可否 | 根拠 |
|---|---|---|
| 実子 | ○(常に対象) | 育児・介護休業法第2条第1号 |
| 養子(縁組中) | ○(縁組が継続している間) | 育児・介護休業法第2条第1号 |
| 元養子(離縁後) | ✕(要件を喪失) | 育児・介護休業法第2条第1号 |
| 特別養子 | ○(離縁は原則不可) | 民法第817条の10 |
なお、特別養子縁組(民法第817条の2以下)は原則として離縁が認められない制度のため、本記事で解説する「廃止」の問題は、主に普通養子縁組を対象とします。
給付要件を失うとはどういうことか?雇用保険法第61条の4を解説
育児休業給付金は、雇用保険法第61条の4(育休給付)および第61条の4の2(出生時育休給付)を根拠として支給されます。支給要件の核心は、「育児休業を取得している労働者が、対象となる子を現に養育している」ことです。
雇用保険法施行規則第108条以下では、支給要件を失った場合の返納義務が定められています。具体的には、養子縁組が廃止された時点で「育育している子」が存在しなくなるため、以下の2つの問題が同時に発生します。
- 廃止日以降の給付金支給が停止される
- 廃止日以降に支払われた給付金(既支給分)は返納義務の対象となる
⚠️ 重要なポイント
給付金の返納義務が生じるのは「廃止日以降に支給された分」に限られます。廃止日よりも前に適正に支給された給付金は原則として返納不要です。ただし、不正受給(虚偽の申告など)が認められた場合は別途追徴の対象となります。
また、育休そのものの継続については、雇用保険給付とは切り離して考える必要があります。育休中に養子縁組が廃止されても、事業主との労使協定や就業規則の内容によっては休業自体を一定期間継続できる場合があります。ただし、給付金は支給されなくなります。
給付金返納が必要なケース・不要なケースを図解で確認
返納が必要になる3つの条件
育児休業給付金の返納義務が生じるのは、以下の3つの条件がすべて揃った場合です。
条件①:養子縁組が正式に成立していること(起点)
普通養子縁組の届出(離縁届ではなく縁組届)が受理され、戸籍に記載されていること。
条件②:養子縁組成立後に育児休業を開始し、給付金を受給していること(継続)
育休開始日が養子縁組成立日と同日または以降であること。給付金の受給が実際に行われていること。
条件③:育児休業の取得中に養子縁組が廃止されたこと(廃止)
離縁届が受理された日(廃止日)の時点で、まだ育休期間中であること。
この3条件が揃うと、廃止日以降に受領した給付金は返納対象となります。
ケース別の判定フローチャート
自分が返納対象かどうかを確認するために、以下のフローで判定してください。
STEP 1:養子縁組(普通養子縁組)を根拠に育休を取得していましたか?
↓ YES ↓ NO
STEP 2 へ → 返納不要(実子等の場合は別制度)
STEP 2:育休期間中(開始日〜終了日の間)に離縁届が受理されましたか?
↓ YES ↓ NO
STEP 3 へ → 返納不要(育休終了後の廃止のため)
STEP 3:廃止日以降に給付金の振込を受けましたか?
↓ YES ↓ NO
【返納対象あり】 → 返納不要(廃止前に給付は完結)
廃止日以降の受領分を返納
具体的なケース別判定表
| ケース | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 養子縁組→育休開始→育休中に廃止 | 返納対象 | 廃止日以降の受給分を返納 |
| 養子縁組→育休開始→育休終了後に廃止 | 返納不要 | 給付が終了後の廃止のため |
| 養子縁組→育休開始→廃止前に育休を自主終了 | 返納不要 | 終了時点で要件を満たしていた |
| 育休中に調停・審判進行中→廃止未確定 | 廃止届受理日が判定基準 | 正式廃止日に遡及して判定 |
| 育休取得前に養子縁組が廃止 | 返納不要(育休そのものが無効) | 給付を受給していない |
| 特別養子縁組が廃止された(例外的) | 個別にハローワークへ相談 | 特別養子は離縁原則不可 |
📌 調停・審判中の取り扱い注意
養子縁組の廃止が家庭裁判所の審判や調停で争われている場合、正式に離縁届が受理された日が「廃止日」として扱われます。審判中であっても、廃止が確定するまでは給付金の受給が可能です。ただし、確定後は速やかにハローワークへ報告してください。
返納手続きの全ステップ:労働者本人向け
STEP 1:離縁届の提出と戸籍への反映を確認する
養子縁組の廃止は、離縁届を市区町村の戸籍担当窓口に提出することで成立します(民法第811条)。協議離縁の場合は養親・養子(15歳以上)双方の署名捺印が必要で、市区町村に届出た日が離縁の成立日となります。
離縁届受理後にやること:
– 戸籍謄本を取得し、離縁が正式に反映されていることを確認する
– 離縁届の受理証明書(必要に応じて)を取得しておく
⚠️ 離縁届の提出は速やかに行い、その後の報告手続きも遅滞なく進めることが重要です。届出が遅れると、余分な給付金を受領してしまうリスクがあります。
STEP 2:勤務先(事業主)への報告
離縁届の受理後、できるだけ速やかに勤務先の人事部・総務部に報告してください。
報告時に伝える内容:
– 離縁届の受理日(=廃止日)
– 養子縁組を根拠に育休を取得していた旨
– 今後の育休継続の意向(継続希望か、育休終了希望か)
事業主はこの報告を受けてから、ハローワークへの届出手続きを進めます。労働者本人がハローワークに直接赴く必要は基本的にありません(手続きは事業主経由が原則)。
STEP 3:ハローワークへの報告(事業主経由)
事業主は、育児休業給付金の支給に関する変更事実をハローワークへ報告する義務を負います。
提出する書類(事業主が準備するもの):
| 書類名 | 内容・備考 |
|---|---|
| 育児休業給付金支給要件確認票 | 支給要件の変更を確認するための書類 |
| 離縁届の受理証明書または戸籍謄本 | 廃止の事実を証明する公的書類 |
| 育児休業給付金支給申請書(修正) | 支給対象期間の再計算のために必要 |
| 雇用保険被保険者証 | 被保険者の確認 |
ハローワークは受理した書類を基に、廃止日以降の支給対象期間を確定し、返納すべき金額を通知します。
STEP 4:育休の継続・終了を決定する
養子縁組廃止後、育休を継続するかどうかは給付金の問題とは別に判断します。
育休を継続できる可能性がある場合:
– 実子や別の養子など、他に育育対象となる子が存在する場合
– 事業主との合意により、別の理由で休業を継続できる場合
育休を終了する場合:
– 廃止日をもって育休終了の申し出を行う(育児・介護休業法第15条)
– 事業主に育休終了の申し出書(任意書式または事業所書式)を提出する
💡 他の子(実子等)が存在する場合は、その子を対象として育休を継続できる場合があります。ただし、給付金の支給要件は再度確認が必要ですので、事業主を通じてハローワークに照会してください。
STEP 5:給付金の返納手続き
ハローワークから返納額の通知が届いたら、指定された方法で返納を行います。
返納の流れ:
- ハローワーク(または都道府県労働局)から納付書が郵送される
- 納付書に記載された返納期限(通常は通知から30日以内)を確認する
- 金融機関(銀行・郵便局等)の窓口またはペイジー等で納付する
- 納付後、領収書を必ず保管する
分割払いについて:
一括納付が困難な場合は、ハローワークに相談することで分割払いが認められる場合があります。ただし、分割払いは申請が必要で、自動的に適用されるわけではありません。返納が困難な場合は、納付書が届いた直後に担当窓口へ相談してください。
返納金額の計算方法
返納対象期間の確定
返納対象となるのは、離縁届が受理された日(廃止日)以降に支給された給付金です。
育児休業給付金は、通常2ヶ月ごとにまとめて支給されます(雇用保険法施行規則第101条の13)。このため、廃止日が支給対象期間の途中に来る場合、日割り計算が行われます。
返納対象期間の計算式:
返納対象日数 = 支給対象期間の総日数のうち、廃止日以降の日数
育児休業給付金の基本計算式
育児休業給付金の支給額は、以下の計算式で算出されます。
育休開始から180日目まで(給付率67%):
支給額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%
育休181日目以降(給付率50%):
支給額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 50%
「休業開始時賃金日額」の求め方:
休業開始時賃金日額 = 育休開始前6ヶ月間の総賃金 ÷ 180
具体的な計算例
【例】廃止日:育休開始171日目 / 2ヶ月分の支給対象期間(141〜200日目)に廃止が発生
前提条件:
– 休業開始時賃金日額:10,000円
– 支給対象期間:141日目〜200日目(60日間)
– 廃止発生日:171日目(給付率67%適用期間中)
– 支給済み給付金:60日分
【141〜170日目(廃止前・30日間)】 → 返納不要
支給額 = 10,000円 × 30日 × 67% = 201,000円
【171〜180日目(廃止後・給付率67%・10日間)】 → 返納対象
返納額 = 10,000円 × 10日 × 67% = 67,000円
【181〜200日目(廃止後・給付率50%・20日間)】 → 返納対象
返納額 = 10,000円 × 20日 × 50% = 100,000円
【返納合計額】
67,000円 + 100,000円 = 167,000円
⚠️ 上限額の確認を忘れずに
賃金日額には上限が設定されており、2024年度時点では15,430円(上限)が適用されます(毎年8月に改定)。実際の計算はハローワークが行いますが、概算を把握する際には上限額を確認してください。
企業の人事担当者が対応すべきこと
報告を受けたらすぐにやること(チェックリスト)
従業員から養子縁組廃止の報告を受けた人事担当者は、以下の対応を速やかに進めてください。
- [ ] 報告内容の記録:廃止日・報告受理日・担当者名を記録する
- [ ] 雇用保険台帳・給付申請記録の確認:対象者の給付受給状況を確認する
- [ ] ハローワークへの事実報告:給付変更・返納手続きを開始する
- [ ] 必要書類の収集:従業員から戸籍謄本・離縁届受理証明書を受領する
- [ ] 育休継続の意向確認:従業員との面談を実施する
- [ ] 社会保険・給与計算への反映:育休終了日が変更になる場合は手続きを更新する
企業が注意すべき法的リスク
① 虚偽申告への連帯責任
事業主が虚偽の内容でハローワークに申告した場合、雇用保険法第10条の4により不正受給として扱われ、追徴金(返納額の2倍)が課される場合があります。従業員からの申告を鵜呑みにせず、必ず公的書類(戸籍謄本等)で事実確認を行ってください。
② 給付変更の報告遅延
報告が遅れると、廃止日以降の給付が継続して支払われ続け、返納額が膨らみます。従業員が申告しやすい環境を整えるとともに、育休中の定期確認(半年に1回程度) を人事管理の一環として取り入れることを推奨します。
③ 個人情報の適切な管理
離縁・養子縁組廃止は極めてプライベートな事情です。取得した個人情報(戸籍謄本等)は個人情報保護法に基づき適切に管理し、業務上必要な担当者のみが閲覧できるよう管理体制を整えてください。
給付金以外に影響する手続き
社会保険(健康保険・厚生年金)への影響
育休中の社会保険料免除は、育休期間に基づいて適用されます。養子縁組廃止により育休が終了する場合、育休終了日の翌月から社会保険料の支払いが再開されます。管轄の年金事務所または健康保険組合への届出も忘れずに行ってください。
必要な手続き:
– 育児休業等終了時報告(日本年金機構)
– 健康保険・厚生年金保険 育児休業等終了届(事業主が提出)
住民税・所得税への影響
育休終了により就業が再開された場合、住民税・所得税の特別徴収方法が変わる可能性があります。給与担当部門と連携して対応してください。
扶養控除・家族手当の見直し
養子縁組廃止により、税務上の扶養親族から外れる場合があります。年末調整の際に扶養控除の見直しが必要になる可能性があるため、税務担当者または顧問税理士に確認してください。
相談窓口と問い合わせ先
手続きに不明な点がある場合は、以下の窓口に相談してください。
| 相談内容 | 窓口 | 連絡先 |
|---|---|---|
| 給付金返納・ハローワーク手続き | 最寄りのハローワーク(公共職業安定所) | ハローワークインターネットサービスで検索 |
| 育休・産休制度の一般的な相談 | 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室) | 0120-461-049(女性の職業生活相談窓口) |
| 養子縁組の法律的相談 | 日本司法支援センター(法テラス) | 0570-078374 |
| 社会保険の手続き | 最寄りの年金事務所 | 0570-05-1165 |
よくある質問(FAQ)
Q1. 離縁届を提出した日と市区町村が受理した日がずれる場合、廃止日はどちらですか?
廃止日は「市区町村が離縁届を受理した日」となります(民法第812条・第739条準用)。郵送で提出した場合は届出が到着して受理された日が基準です。必ず受理証明書で日付を確認してください。
Q2. 養子縁組廃止後も、実子がいる場合は育休を継続できますか?
はい、継続できます。実子(または他の養子)が育育対象として存在する場合、その子を対象とした育休・給付金の受給が可能です。ただし、養子を対象とした育休から実子を対象とした育休への切り替え手続きが必要になるため、事業主を通じてハローワークに確認してください。
Q3. 返納額を一括で支払えない場合はどうすればよいですか?
ハローワーク(都道府県労働局)に分割払いの相談をすることができます。分割払いが認められるかどうかは個別の状況によりますが、経済的に困難な事情がある場合は早めに担当窓口へ相談してください。放置すると延滞金が発生する可能性があります。
Q4. 養子縁組廃止を勤務先に知らせたくない場合でも、報告は必要ですか?
はい、必要です。育児休業給付金は事業主経由で申請・受給する仕組みのため、支給要件が変わった場合は事業主への報告義務があります。報告を怠ると不正受給とみなされ、返納額に加えて追徴金が課されるリスクがあります。プライバシーへの配慮は事業主に求めることができますが、報告自体は省略できません。
Q5. 育休中の産後パパ育休(出生時育児休業)を取得中に養子縁組が廃止された場合はどうなりますか?
産後パパ育休(雇用保険法第61条の4の2)も同様の仕組みが適用されます。廃止日以降の出生時育児休業給付金は返納対象となります。手続きはハローワークへの通常の育休給付変更手続きに準じます。
Q6. 特別養子縁組の場合も離縁・廃止が起こりえますか?
特別養子縁組は、民法第817条の10により原則として離縁が認められません。例外的に離縁が認められるのは、養親による虐待・悪意の遺棄など、子の利益を著しく害する事由が認められた場合のみで、家庭裁判所の審判が必要です。したがって、特別養子縁組の廃止は極めてまれなケースであり、発生した場合は個別にハローワーク・弁護士・社会保険労務士に相談することを強くお勧めします。
まとめ:育休中の養子縁組廃止は速やかな対応が鉄則
育休中に養子縁組が廃止された場合、給付金の返納手続きが必要になるケースがあります。本記事のポイントを最後に整理します。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 廃止日の確定 | 離縁届の受理日が基準(戸籍謄本で確認) |
| 返納対象の判定 | 廃止日以降に受領した給付金が対象 |
| 手続きの順序 | 戸籍確認 → 事業主報告 → ハローワーク届出 → 返納 |
| 企業担当者の役割 | 事実確認・書類収集・ハローワーク届出・育休終了手続き |
| 相談先 | ハローワーク・都道府県労働局・法テラス |
育休中の養子縁組廃止は、法的・経済的に複雑な影響をもたらします。「後で報告すればいい」と考えて放置することが最大のリスクです。廃止の事実が判明した段階で、速やかに事業主に連絡し、ハローワークへの手続きを進めましょう。
手続きに不安を感じる場合は、社会保険労務士(SR)や最寄りのハローワークに相談することを強くお勧めします。育休・産休の制度は複雑ですが、正確な理解と速やかな対応により、後々のトラブルを防ぐことができます。


