産前休業はいつから取得できるのか、祝日や日曜日はカウントするのか——実務担当者や妊娠中の方が必ずぶつかるこの疑問に、法的根拠をもとに明確にお答えします。結論から言えば、祝日・日曜日・土曜日はすべて通常の日数としてカウントします。本記事では計算の根拠から具体的な逆算手順、申請書類まで網羅的に解説します。
産前6週間とは?制度の基本と法的根拠
| 計算方法 | 祝日・日曜の扱い | 対象者 | 休業期間 |
|---|---|---|---|
| 通常妊娠(日数単位) | すべてカウント対象 | 妊娠中の労働者 | 6週間(42日) |
| 多胎妊娠(日数単位) | すべてカウント対象 | 双子以上の妊娠者 | 14週間(98日) |
| 出産予定日からの逆算 | カウント対象に含める | 全対象者共通 | 出産予定日の42日前が開始日 |
| 早産・遅産の場合 | 予定日ベースで計算 | 実際の出産日に関わらず | 医学的根拠に基づく対応 |
産前産後休業は、妊娠・出産にともなう母体保護を目的とした休業制度です。このうち「産前休業」は、出産予定日を基準に逆算した6週間(42日間)が対象期間となります。
制度の根拠は労働基準法第65条第1項です。条文には次のように定められています。
使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
重要なのは「請求した場合」という点です。産前休業は労働者が申請して初めて取得できる権利であり、自動的に休業が始まるわけではありません。取得したい場合は会社への申請が必要です。
「6週間」の具体的な計算方法については、昭和58年3月10日付の厚生労働省通達(基発第144号)で詳細が定められています。この通達が産前6週間の日数の数え方をめぐる実務上の基準となっており、「祝日・休日を含めてカウントする」という解釈の法的根拠でもあります。
対象となる労働者の範囲
産前産後休業は、雇用形態や勤続期間を問わず、すべての女性労働者が対象です。具体的には次のとおりです。
| 区分 | 対象の可否 |
|---|---|
| 正社員 | ◎ 対象 |
| 契約社員・嘱託社員 | ◎ 対象 |
| パート・アルバイト | ◎ 対象 |
| 有期契約労働者 | ◎ 対象 |
| 入社直後の労働者 | ◎ 対象(勤続期間の制限なし) |
| 日雇い労働者 | △ 要件によって異なる |
育児・介護休業法の育児休業は「一定の雇用期間」という要件がありますが、産前産後休業には勤続期間の要件が存在しません。入社翌月に妊娠が判明した場合でも、出産予定日の6週間前から休業を請求できます。
なお、自営業者や無職の方は労働基準法の適用対象外のため、産前産後休業制度は利用できません。ただし、国民健康保険や任意継続保険に加入している場合でも、健康保険法上の出産育児一時金(50万円)は受給できます。
多胎妊娠の場合は産前14週間に延長される
双子・三つ子以上の多胎妊娠の場合、産前休業期間は14週間(98日)に延長されます。これは労働基準法第65条第1項の括弧書きに明記されており、単胎妊娠の6週間より大幅に長い期間を確保できます。
多胎妊娠かどうかの確認は、産婦人科での超音波検査によって判明します。母子手帳の交付時や医師の診断書で「多胎」と記載されていれば、会社への申請時にその旨を伝えましょう。計算上は「出産予定日の98日前」から休業開始日となります。
【核心】祝日・日曜日・土曜日は産前6週間の計算に含まれるか?
この記事でもっとも重要なテーマです。結論は「含まれる」です。祝日・日曜日・土曜日は産前6週間の計算から除外されません。出産予定日から単純に42日を逆算した日が、産前休業の開始可能日となります。
「日曜日や祝日は会社が休みなのだから、カウントしなくていいのでは?」と思う方も多いですが、これは誤りです。産前産後休業における「週」は、会社の就業カレンダーではなく暦上の1週間(7日間)を基準とするため、曜日や祝日の有無にかかわらず42日を均等にカウントします。
根拠となる通達(昭58.3.10 基発第144号)の内容
基発第144号は、産前6週間の「週」の数え方について次のように定めています。
「6週間」の計算は、出産予定日を基準として、その日から起算して6週間前の日を休業開始可能日とする。この際、日曜日・祝日・休日等は除外せず、通常の暦日によって計算する。
この通達のポイントを整理すると以下のとおりです。
- 「週」=日曜日から土曜日までの暦上の7日間で計算する
- 祝日・国民の祝日・振替休日を含むすべての日がカウント対象
- 会社が定める所定休日(土曜日・創立記念日など)も除外しない
- 出産予定日の取扱いについては、実務上「出産予定日を初日とするか翌日とするか」で解釈が分かれることがあるため、社内規程や所轄の労働基準監督署に確認することが望ましい
企業の人事担当者が就業規則を整備する際も、この通達の解釈に従い「暦日計算」で運用することが標準的です。
「週単位」と「日数単位」の計算、どちらが正しい?
実務でよく見られる混乱として、「6週間前の同じ曜日を探す方法」と「42日を単純に逆算する方法」のどちらが正しいのか、という疑問があります。
結論:どちらも同じ結果になるため、どちらの考え方でも構いません。
- 6週間=7日×6週=42日
- 42日をそのまま逆算する方法と、6週間前の同曜日を探す方法は、理論上まったく同じ日を指します
ただし「6週間前の同じ曜日」という表現は、曜日によっては誤解が生じる場合があります。実務上は「出産予定日から42日を引いた日」と覚えておくのが最もシンプルで正確です。
【例】出産予定日が10月15日(月曜)の場合
10月15日の42日前 = 9月3日(火曜)が産前休業の開始可能日
産前6週間の開始日を出産予定日から逆算する手順
実際に産前休業の開始日を計算するステップを、具体例を交えながら解説します。
ステップ形式でわかる開始日の求め方
ステップ1:出産予定日を確認する
産婦人科で告知された出産予定日を確認します。母子手帳の「予定日」欄や、医師から発行された診断書・出産予定日確認書に記載された日付が基準です。
ステップ2:出産予定日から42日を引く
出産予定日をX日とし、X-42日を計算します。この日が「産前休業の開始可能日」です。祝日・日曜日・土曜日はいっさい除外しません。
ステップ3:開始日の曜日・前後関係を確認する
算出された日が土曜日・日曜日・祝日であっても、その日から休業開始は可能です。ただし多くの場合、その前後の平日が実務上の「最終出勤日」や「休業開始届の基準日」になります。
ステップ4:会社への申請書を提出する
産前休業を取得するには、会社所定の「産前産後休業申請書」に記載して提出します。できるだけ開始予定日の2〜4週間前までに提出するとスムーズです。
具体的な計算例(月別シミュレーション)
以下は出産予定日ごとに、産前6週間の開始日を一覧化したものです。
| 出産予定日 | 産前6週間の開始日(42日前) | 備考 |
|---|---|---|
| 2025年1月10日(金) | 2024年11月29日(金) | 年をまたぐ |
| 2025年3月20日(木) | 2025年2月6日(木) | — |
| 2025年5月5日(月) | 2025年3月24日(月) | 5/3〜5日のGWを含んでカウント |
| 2025年8月15日(金) | 2025年7月4日(金) | お盆時期を含んでカウント |
| 2025年12月25日(木) | 2025年11月13日(木) | 年末を含んでカウント |
ゴールデンウィーク・お盆・年末年始などの連休も除外されません。暦通りに42日を引くだけです。
早産・遅産・帝王切開の場合の扱い
産前休業は出産予定日を基準として計算しますが、実際の出産が予定日より前後することがあります。それぞれの扱いを確認しましょう。
早産(予定日より前に出産した場合)
出産予定日の前に出産が起きた場合、産前休業は出産日をもって終了します。産後休業は実際の出産日の翌日からスタートします。産前休業期間が短縮されても、産後8週間は変わりません。
遅産(予定日を過ぎて出産した場合)
出産予定日を過ぎても出産がない場合、産前休業は実際に出産する日まで延長されます。出産が遅れた分だけ産前休業期間が伸びることになり、出産手当金の支給対象日数も増えます。
帝王切開の場合
予定帝王切開の場合も、労働基準法上の産前産後休業の計算方法は変わりません。手術日が実際の出産日として扱われます。ただし、医師の指示による入院が手術日より早い場合は、その期間を「産前休業」として扱うかどうか会社と事前に確認しておきましょう。
申請に必要な書類と手続きの全体フロー
産前産後休業を取得するには、会社への申請と健康保険への申請、それぞれの手続きが必要です。
会社への申請書類
| 書類名 | 提出時期 | 主な記載内容 |
|---|---|---|
| 産前産後休業申請書 | 休業開始日の2〜4週間前 | 出産予定日・休業開始日・復帰予定日 |
| 母子手帳の写し(表紙+予定日記載ページ) | 申請時 | 医師確認の出産予定日 |
| 出産予定日確認書(任意) | 申請時 | 医療機関が発行(不要な企業も多い) |
母子手帳は必ず原本の写しを取り、「出産予定日」が記載されているページを添付します。会社によってはフォーマットが異なる場合もあるため、人事部門に書式を確認してください。
健康保険・出産手当金の申請書類
産前産後休業中は給与が支払われない期間が生じます。この間の生活補償として、健康保険から出産手当金が支給されます。
| 書類名 | 提出先 | 提出時期 |
|---|---|---|
| 健康保険 出産手当金支給申請書 | 協会けんぽ・健康保険組合 | 産後休業終了後(分割申請も可能) |
| 医師・助産師の証明欄(上記申請書内) | 医療機関へ記入依頼 | 申請書作成時 |
| 出産証明書(戸籍または母子手帳の写し) | 保険者によって要否が異なる | 申請時 |
出産手当金の支給額と計算方法
出産手当金は、産前42日(多胎の場合98日)+産後56日の計98日間(多胎は154日間)を上限として支給されます。
支給額の計算式
1日あたりの支給額 = 標準報酬月額 ÷ 30日 × 2/3
たとえば標準報酬月額が30万円の場合、
300,000円 ÷ 30日 × 2/3 ≒ 6,667円/日
98日間合計 ≒ 653,266円
支給の条件は、健康保険に加入していること(政府管掌健康保険・組合健保いずれも対象)と、休業中に給与が支払われていないこと(または給与が出産手当金より低い場合は差額が支給)です。
なお、国民健康保険には出産手当金制度がないため、自営業者や国保加入者は受け取れません。
社会保険料免除の手続き
産前産後休業中は、社会保険料(健康保険・厚生年金)が免除されます。免除期間は保険料を納付したものとして年金額の計算に反映されるため、将来の年金に不利益はありません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 手続き書類 | 産前産後休業取得者申出書 |
| 提出先 | 会社経由で年金事務所・健康保険組合 |
| 免除開始 | 産前産後休業開始月から |
| 免除終了 | 産前産後休業終了翌月 |
| 手続きの主体 | 事業主(従業員本人ではなく会社が申請) |
人事担当者が押さえておくべき実務ポイント
産前産後休業の手続きは、従業員本人だけでなく人事・給与担当者にとっても正確な理解が求められます。厚生労働省の基発第144号や労働基準法の解釈を正確に認識することで、トラブルを未然に防ぎ、従業員の信頼を維持することができます。
就業規則への記載確認
自社の就業規則に産前産後休業の規定が正しく記載されているか確認しましょう。特に「産前6週間の計算は暦日によるものとする」という一文を盛り込むことで、祝日を含めた計算方法を明確化できます。
給与計算システムへの反映
産前産後休業の開始日・終了日を給与計算システムに正確に登録することが重要です。特に月の途中から休業開始になる場合の日割り計算や、出産手当金との調整(同一期間に給与と出産手当金が重複しないよう調整が必要)は見落とされやすいポイントです。
出産予定日変更時の対応
妊娠が進む中で出産予定日が変更になることがあります。その場合は、変更後の出産予定日を基準に産前6週間の開始日を再計算し、申請書類を修正します。変更が生じた際は速やかに人事部門へ連絡するよう、従業員にあらかじめ案内しておくことが大切です。
労働基準監督署への相談窓口
計算方法や申請について疑義が生じた場合は、最寄りの労働基準監督署に相談することをお勧めします。厚生労働省は全国の労働基準監督署に専門家を配置しており、法的解釈についての無料相談を受け付けています。
よくある質問
Q1. 産前休業は必ず取得しなければなりませんか?
いいえ、産前休業は労働者の請求権です。取得するかどうかは本人の意思に委ねられており、会社が強制的に休ませることはできません。一方で産後休業は、出産後8週間は就業させてはならないと労働基準法で義務付けられており、こちらは強制的な休業となります。
Q2. 出産予定日の6週間前より早く休業を開始できますか?
労働基準法上の「産前6週間」より早く休む場合は、会社の育児支援制度や傷病手当金(医師の療養指示がある場合)、または有給休暇の取得という形になります。つまり産前6週間より早い休業は「産前産後休業」ではなく別の制度を活用することになります。
Q3. パートタイムでも出産手当金はもらえますか?
健康保険(会社の社会保険)に加入していれば、パートタイムでも出産手当金を受け取れます。週20時間以上・月額88,000円以上などの要件を満たして社会保険に加入している場合が対象です。国民健康保険のみ加入の場合は出産手当金がないため、出産育児一時金(50万円)の受給になります。
Q4. 産前休業開始日が土曜日の場合、実際の最終出勤日はいつになりますか?
産前6週間の開始日が土曜日であれば、その前日の金曜日が実質的な最終出勤日となります。ただし有給休暇や会社の所定休日との兼ね合いもあるため、人事担当者と相談の上、最終出勤日と休業開始日を明確に決めておきましょう。
Q5. 産前休業中に出産予定日より早く出産した場合、産後休業はいつから始まりますか?
実際の出産日の翌日から産後休業が始まります。産前休業の残り日数がどれだけあっても、出産が早まった時点で産前休業は終了し、翌日から産後8週間(56日間)が産後休業となります。出産手当金も実際の出産日に合わせて再計算されます。
Q6. 多胎妊娠の場合、14週間の計算でも祝日は除外されませんか?
はい、多胎妊娠の14週間(98日)の計算でも、祝日・日曜日・土曜日は除外されません。単胎妊娠の6週間と同様に、出産予定日から暦日で98日を逆算した日が産前休業の開始可能日です。
まとめ
産前6週間(42日)の計算における祝日・日曜日・土曜日の扱いについて、以下のポイントを押さえておきましょう。
| 確認事項 | 結論 |
|---|---|
| 祝日はカウントするか | する(除外しない) |
| 日曜日はカウントするか | する(除外しない) |
| 土曜日はカウントするか | する(除外しない) |
| 計算の基準 | 出産予定日から暦日で42日を逆算 |
| 法的根拠 | 労働基準法第65条・基発第144号 |
| 多胎妊娠の場合 | 98日(14週間)を逆算、祝日除外なし |
産前休業の取得は、母体保護のために非常に重要な権利です。出産予定日が決まったら早めに計算を行い、余裕を持って会社への申請手続きを進めましょう。
計算方法や申請書類について不明な点があれば、会社の人事部門または最寄りの労働基準監督署・社会保険労務士に相談することをおすすめします。特に出産予定日の変更や早産・遅産への対応については、医療機関と会社の双方で早期に連携することが、手続きをスムーズに進めるための鍵となります。


