双子や三つ子を妊娠した場合、産前休業の期間は通常の8週間から14週間へ延長されます。しかし「産前14週間を全て取得する」か「産前6週間に絞って取得する」かは、労働者自身が選択できる制度です。
この選択は給付金の総額・育児休業給付金の開始時期・職場復帰のタイミングに直接影響するため、正しく理解したうえで判断することが重要です。本記事では、法的根拠・給付金の計算方法・申請手続き・必要書類まで、多胎妊娠の産前産後休業制度を完全解説します。
多胎妊娠の産前休業とは|14週間と6週間の法的根拠
法的根拠:労働基準法65条と多胎妊娠特例
産前産後休業の根拠となる法律は労働基準法第65条です。同条第1項・第2項では以下のように定められています。
第1項(産前): 使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
第2項(産後): 使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。
単胎妊娠(1人の赤ちゃんを妊娠)では産前6週間が上限ですが、多胎妊娠(双子・三つ子以上)では産前14週間まで休業が認められています。これは身体的負担が大きい多胎妊娠に配慮した特例措置です。
重要なのは、この規定が「請求した場合」に適用される点です。つまり産前14週間の全期間を必ず取得しなければならないわけではなく、いつから休業を開始するかは労働者が選択できます。
単胎妊娠との休業期間比較
| 区分 | 産前休業 | 産後休業 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 単胎妊娠 | 最大8週間 | 8週間(前半6週間強制) | 最大16週間 |
| 多胎妊娠 | 最大14週間 | 8週間(前半6週間強制) | 最大22週間 |
産後休業については多胎・単胎を問わず8週間(うち6週間は強制休業) が適用されます。多胎妊娠の特例はあくまで産前休業の延長という点を押さえておきましょう。
なぜ「選択制」なのか|制度改正の背景
産前14週間は多胎妊娠の妊婦に与えられた権利であり、義務ではありません。仕事を続けたい・経済的に長期休業が難しい・会社との調整が必要などの事情により、産前14週間より短い期間で休業を開始することも認められています。
実務上は「産前6週間」を選択するケースが多く見られます。この場合は単胎妊娠と同じタイミングで休業開始することになりますが、後述するように給付金の受給期間・総額が変わります。 自身の体調・キャリアプラン・給付金への影響を総合的に判断することが大切です。
産前14週間を選択した場合|給付金・手続き・メリット
産前14週間選択時の給付金計算式と月額目安
産前産後休業中の給付金として主に健康保険の出産手当金が支給されます。出産手当金は、産前産後休業中に給与が支払われない場合に、これを補償する保障制度です。
出産手当金の計算式は以下の通りです。
出産手当金(1日あたり)= 支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 2/3
産前14週間(98日)取得した場合の合計受給額の目安:
| 標準報酬月額(平均) | 1日あたりの給付金 | 産前14週間(98日)の合計 |
|---|---|---|
| 20万円 | 約4,444円 | 約435,500円 |
| 30万円 | 約6,667円 | 約653,500円 |
| 40万円 | 約8,889円 | 約871,100円 |
産後8週間(56日)分も同額の出産手当金が支給されるため、産前14週間を取得した場合の出産手当金の受給期間は合計154日(22週間) となります。
これに加えて、出産育児一時金が赤ちゃん1人あたり50万円(産科医療補償制度加入の医療機関で出産した場合)支給されます。双子の場合は合計100万円、三つ子の場合は合計150万円となります。
必要な申請書類と提出期限
出産手当金の申請は、勤務先を通じて全国健康保険協会(協会けんぽ)または健康保険組合に行います。
必要書類一覧
| 書類名 | 入手先 | 備考 |
|---|---|---|
| 健康保険出産手当金支給申請書 | 協会けんぽ・健保組合の窓口またはHP | 被保険者・事業主・医師が各欄に記入 |
| 医師または助産師の証明 | 申請書内の「医師・助産師記載欄」に記入 | 多胎妊娠であることの証明も兼ねる |
| 出産予定日・出産日が確認できる書類 | 母子健康手帳のコピーなど | 実際の出産日が予定日と異なる場合に必要 |
申請期限
出産手当金の請求権の消滅時効は2年間(支給事由が生じた日の翌日から起算)です。ただし、休業中に給与が支払われた場合は不支給または一部減額となるため、休業開始後できるだけ速やかに申請することを推奨します。
申請タイミングは産前分・産後分をまとめて産後に申請する方法と、分割して途中申請する方法があります。会社の担当者に確認したうえで手続きを進めましょう。
育児休業給付金の開始時期への影響
産前14週間を取得した場合、育児休業は産後休業(8週間)が終了した翌日から開始されます。出産から数えると産後8週間後が育休開始日となる点は産前6週間の場合と変わりません。
育児休業給付金(雇用保険)は育休開始後から支給されるため、産前休業期間の長短は育児休業給付金の総額に直接影響しません。 産前休業の選択により育児休業の期間自体が変わるわけではないからです。
ただし、産前14週間を取得すると職場復帰(または育休終了)までの総休業期間が長くなるため、キャリアへの影響・復職後の仕事内容・保育園の入園時期などと合わせて検討してください。
産前6週間を選択した場合|給付金・手続き・注意点
産前6週間選択時の給付金への影響
多胎妊娠でも産前6週間のみ取得することを選択した場合、出産手当金の受給期間は産前42日(6週間)+産後56日(8週間)=合計98日となります。
産前14週間を選択した場合と比較すると、出産手当金の受給額に56日分の差が生じます。
| 標準報酬月額(平均) | 産前14週間の場合(154日) | 産前6週間の場合(98日) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 20万円 | 約684,800円 | 約435,500円 | 約249,300円 |
| 30万円 | 約1,027,200円 | 約653,400円 | 約373,800円 |
| 40万円 | 約1,369,600円 | 約871,100円 | 約498,500円 |
※産後8週間分を含む合計額。標準報酬月額÷30×2/3×日数で計算
産前6週間を選択するメリットとしては、休業期間が短い分だけ職場への影響を抑えられること、昇給・賞与算定への影響を軽減できること、また一部の企業では休業期間中も給与が支払われる制度があり、出産手当金が減額される可能性があることが挙げられます。
一方のデメリットは、多胎妊娠は身体的負担が大きく、妊娠後期に無理をすることで早産・切迫早産のリスクが高まる点です。医師の指示や自身の体調を最優先に判断してください。
産前6週間を選択した場合の手続き
産前6週間を選択した場合も、手続きの基本的な流れは産前14週間と同様です。
- 医師または助産師に多胎妊娠であることを確認してもらう
- 出産予定日の6週間前までに会社へ産前休業取得の申し出を行う
- 産前休業開始後、健康保険から出産手当金の申請手続きへ進む
多胎妊娠であっても産前6週間を選択した場合、申請書類に特別な記載は不要です。ただし、後述する産前休業開始後の住民税・社会保険料の取り扱いは同様に発生するため、注意が必要です。
産前休業中の社会保険・住民税の取り扱い
社会保険料の免除
産前産後休業期間中は社会保険料(健康保険・厚生年金保険)が免除されます。この免除は事業主の申請によって適用されるため、会社の担当者に対して産前休業の取得を正式に申し出ることが前提となります。
免除の申請書類は「産前産後休業取得者申出書」(日本年金機構の様式)です。事業主が年金事務所または健康保険組合に提出します。
免除期間:産前休業開始日の属する月から産後休業終了日の翌日の属する月の前月まで
社会保険料が免除されても年金の受給額に影響はない(納付したものとして扱われる)ため、労働者にとって実質的なメリットのみが生じます。
住民税の支払い
産前産後休業中も住民税の支払い義務は継続します。通常は給与から天引き(特別徴収)されますが、休業中は給与が支払われないため会社から請求書が送付されたり、普通徴収に切り替わったりする場合があります。
特に産前14週間を選択する場合は休業開始が早まるため、住民税の支払い方法を事前に会社の経理・総務担当者に確認しておくことをお勧めします。
産前休業の選択において押さえるべき注意点
選択のタイミング
産前休業の開始日は出産予定日を基準に逆算して決めます。
- 産前14週間選択の場合:出産予定日の98日前(14週間前)から取得可能
- 産前6週間選択の場合:出産予定日の42日前(6週間前)から取得可能
出産が予定日より早まった場合、産前休業の取得日数が短くなる可能性があります。その分だけ産後休業に繰り入れられるため、出産手当金の総受給日数に大きな影響は生じません(産後休業は産後56日間固定)。
有期雇用労働者(契約社員)の注意点
有期雇用労働者(契約社員・派遣社員など)も産前産後休業の取得権は認められています。ただし出産手当金の受給には健康保険の被保険者資格が必要です。
産前産後休業期間中に契約期間が満了し、雇用が終了した場合でも、一定の条件を満たせば継続して出産手当金を受け取れます。 健康保険の被保険者資格を1年以上有している場合は資格喪失後も受給可能ですので、事前に協会けんぽまたは健康保険組合に確認してください。
妻が専業主婦の場合・国民健康保険加入の場合
会社員の夫の扶養に入っている(被扶養者)場合や、国民健康保険に加入している場合は出産手当金は支給されません。 出産手当金はあくまで健康保険の被保険者本人を対象とした給付です。
ただし出産育児一時金(赤ちゃん1人あたり50万円)は被扶養者・国民健康保険加入者も受給できます。
会社への申し出と手続きの進め方
STEP1:医師に多胎妊娠を確認し、出産予定日を把握する
多胎妊娠の場合、多くはエコー検査(超音波検査)で早期に確認できます。産前14週間の特例を利用するためには、医師または助産師による診断が前提です。母子健康手帳に医師の記載がある場合は、その確認で十分です。
STEP2:出産予定日の14週間前までに会社へ申し出る
産前休業は労働者が請求することで権利が発生します。遅くとも取得希望日の2週間前までに書面(産前休業申請書など)で会社へ申し出ることが望ましいです。会社によって社内様式が異なりますので、人事・総務担当者に確認してください。
STEP3:会社が社会保険の手続きを行う
会社は産前休業開始後、速やかに「産前産後休業取得者申出書」を年金事務所または健康保険組合へ提出します。これにより社会保険料の免除が開始されます。提出期限は休業開始から概ね15日以内が目安です。
STEP4:出産手当金の申請を行う
出産後、会社担当者・医師と連携して「健康保険出産手当金支給申請書」を作成・提出します。申請書には以下の欄があります。
| 記入欄 | 記入者 |
|---|---|
| 被保険者記入欄(氏名・住所・休業期間など) | 本人 |
| 事業主記入欄(勤務状況・給与支払い状況) | 事業主(会社) |
| 医師・助産師記入欄(出産日・出産予定日の証明) | 担当医師または助産師 |
STEP5:出産育児一時金の申請を行う
出産育児一時金は健康保険(または国民健康保険)に申請します。多くの医療機関では「直接支払制度」を利用しており、一時金が医療機関に直接支払われるため、窓口での支払いは差額のみとなります。
双子の場合は赤ちゃんごとに申請が必要で、合計100万円(1人50万円×2)の支給を受けられます。直接支払制度を利用しない場合は、出産後に自分で申請することで後日受け取ることも可能です。
産前14週間 vs 産前6週間の選択チェックリスト
以下のチェックポイントを参考に、自身の状況に合った選択を判断してください。
産前14週間をおすすめする場合
- 医師から安静・自宅療養を指示されている
- 切迫早産・妊娠高血圧などのリスクが高い
- 多胎妊娠による身体的負担が大きい
- 出産手当金の受給額を最大化したい
- 産前から十分な休養を取ることを優先したい
産前6週間を選択する場合
- 体調が安定しており、医師から就業継続の許可がある
- 職場の事情・業務引継ぎの都合がある
- 産前の就業期間を長くしたい(昇給・賞与等への影響を抑えたい)
- 会社から産前休業中も給与が支払われる制度がある
体調を最優先してください。 多胎妊娠は単胎妊娠と比べて身体的負担が大きく、早産のリスクも高くなります。経済的な理由だけで産前6週間を選択することは避け、必ず産科医と相談したうえで判断してください。
よくある質問
Q1. 産前14週間を選択した後に、途中から出勤することはできますか?
産前産後休業期間中は原則として就業することができません。ただし、産後休業については産後6週間経過後に「本人が請求し、医師が支障ないと認めた業務」であれば就業が可能です。産前休業期間中の就業は原則認められていないため、途中から出勤した場合は労働基準法違反となる可能性があります。なお、就業した日については出産手当金が支給されません(給与が支払われた場合は給付が調整されます)。
Q2. 産前14週間を選択した場合、育児休業給付金の額や期間は変わりますか?
育児休業給付金(雇用保険)は育休開始後から支給されるものであり、産前休業の取得期間が長くなっても育児休業の期間自体は変わりません。出産日翌日から8週間の産後休業が終了した翌日から育休を開始できる点は産前6週間を選択した場合と同様です。育休中の給付金額(育休開始から180日間は給付率67%、それ以降は50%)も変わりません。
Q3. 双子の場合、出産育児一時金は2人分もらえますか?
はい。出産育児一時金は赤ちゃんの人数ごとに支給されます。双子の場合は2人分(50万円×2=100万円)、三つ子の場合は3人分(50万円×3=150万円)が支給されます。申請は健康保険(または国民健康保険)の窓口または医療機関の直接支払制度を通じて行います。直接支払制度を利用した場合は医療機関が手続きを進めるため、患者側での特別な申請手続きは不要な場合がほとんどです。
Q4. 産前14週間を取得する場合、会社への申し出期限はいつですか?
法律上の明確な申し出期限は定められていませんが、出産予定日の14週間前より前から取得を希望する場合は、できるだけ早めに会社へ申し出ることが重要です。実務上は少なくとも2週間前までに書面で申し出ることが推奨されます。会社によって社内手続きの期限が設けられている場合もありますので、人事担当者に確認してください。
Q5. 出産が予定日より早まった場合、産前休業の給付金はどうなりますか?
出産が予定日より早まった場合、産前休業の実際の取得日数は短くなります。その分だけ出産手当金の産前分の支給日数は減りますが、産後休業は実際の出産日を起点として56日間が適用されますので、産前分の減少分は産後分で一部補われます。逆に予定日を超えて出産した場合は、産前休業が延長され、その超えた日数分も産前として出産手当金が支給されます。
Q6. 会社が産前産後休業の取得を拒否することはできますか?
できません。労働基準法第65条に基づく産前産後休業は労働者の権利であり、使用者はその請求を拒否することが法律上禁じられています。また、産前産後休業の取得を理由とした解雇や不利益な取り扱い(賃金の引き下げ・降格など)は均等法第9条により禁止されています。万一会社が拒否・不利益取り扱いを行った場合は、都道府県労働局・労働基準監督署に相談してください。
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まとめ
多胎妊娠の産前休業は、産前14週間と産前6週間のどちらを選択するかによって、出産手当金の受給総額に数十万円単位の差が生じます。この決断には経済的判断と健康管理の両面が関わってきます。
主なポイントを整理します。
- 法的根拠:労働基準法第65条第1項により、多胎妊娠では産前14週間の休業が認められている
- 選択制:産前14週間は権利であり、産前6週間など短い期間での取得も可能
- 出産手当金:標準報酬月額÷30×2/3×日数で計算。産前14週間選択で受給期間が最大22週間(154日)となり、受給総額は約35~50万円増加
- 出産育児一時金:赤ちゃん1人あたり50万円(双子は100万円、三つ子は150万円)。別途受給でき、産前休業の選択に影響されない
- 社会保険料:産前産後休業期間中は事業主申請により免除される。年金受給額には影響なし
- 体調最優先:多胎妊娠は早産リスクが高く、医学的には産前14週間の確保が推奨されている場合が多い
制度を正しく理解し、自身の健康と家族の状況に合った選択をすることが、安心して出産・育児に臨むための第一歩です。申請手続きに不安がある場合は、会社の人事担当者・協会けんぽ(0570-002-004)・年金事務所・各自治体の相談窓口にも積極的に相談してください。産科医と十分に相談したうえで、無理のない休業プランを立てましょう。
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