育児休業の取得を検討しているが、「どんな書類が必要なの?」「企業は何をしなければならないの?」と悩む方は多いはずです。育休に関する法律は近年改正が続いており、2024年にも重要な改正が施行されました。しかし、インターネット上には「2025年から育休取得計画書の作成が企業に義務付けられた」といった不正確な情報が散見されます。
本記事では、現行法に基づく正確な情報をもとに、育休申請時に必要な書類・計画書の種類、企業に法的に義務付けられている対応、そして従業員が自主的に準備すべき書類について、手続きフローを含めて詳しく解説します。厚生労働省が公開する法令と制度をベースに、信頼できる情報をお届けします。
【2024年改正】育休申請時に企業が求める書類・計画書とは
| 書類・計画書の種類 | 法的義務の有無 | 提出者 | 主な記載内容 |
|---|---|---|---|
| 育休申出書 | 企業に義務あり | 従業員 | 育休開始・終了予定日、子の生年月日 |
| 育休取得計画書 | 義務なし(自主的準備) | 従業員 | 育休中の過ごし方、復帰予定、キャリア見通し |
| 育児休業取扱い指定書 | 企業に義務あり | 企業 | 育休期間、給与・社保取扱い、復帰予定部署 |
| 面談記録 | 2024年改正で義務化 | 企業 | 従業員との協議内容、育休に関する相談事項 |
育休「申出書」と「計画書」の違い
育休に関連する書類として、「育児休業申出書」と「育休取得計画書」という言葉を耳にすることがあります。しかし、この二つはまったく性格が異なります。
育児休業申出書は、育児・介護休業法に基づいて従業員が企業に提出する法的に定められた正式な申請書類です。育休を取得するためには必ずこの申出書を提出しなければなりません。提出されると、企業側は原則として拒否できないという強い法的効力を持ちます。
一方、育休取得計画書は、企業や個人が自主的に作成する任意の内部書類です。2024年12月時点において、「2025年から育休取得計画書の作成を企業に義務付ける」という法改正は施行も決定もされていません。この情報は誤りであり、正確な法律に基づいた判断が重要です。
ただし、企業の就業規則や社内規程によって、育休申請時に計画書の提出を求めているケースはあります。これはあくまで各社の社内ルールによるものであり、法的義務とは区別して理解する必要があります。
| 項目 | 育児休業申出書 | 育休取得計画書 |
|---|---|---|
| 根拠 | 育児・介護休業法第5条 | 企業の社内規程(任意) |
| 提出義務 | あり(法的義務) | 企業による(任意) |
| 拒否の可否 | 企業は原則拒否不可 | 企業が独自に設定 |
| 様式 | 法令に準拠した書式 | 企業が独自に設定 |
企業が法的に義務付けられている対応
2024年改正後の育児・介護休業法では、企業に対する義務と努力義務が整理されています。以下は企業が法的に対応しなければならない主な事項です。
法的義務(必ず実施しなければならないもの)
- 育休申請を受理すること(第5条・第6条)
- 育休に関する規定を就業規則に定め、従業員に周知すること(第21条)
- 妊娠・出産の申し出をした従業員に対して個別に育休制度を説明し、取得意向を確認すること(第21条の2:2022年10月改正で義務化)
- 育休を理由とした不利益取扱いやハラスメントを防止する措置を講じること(第25条)
努力義務(できる限り実施することが求められるもの)
- 育休を取りやすい職場環境の整備(業務の棚卸し、マニュアル化など)
- 特に男性従業員の育休取得促進のための働きかけ
- 育休取得状況の把握と改善への取り組み
2024年4月改正で新たに追加された主な対応
2024年4月施行の改正では、子の看護休暇の拡充や柔軟な育休取得を可能にするルール整備が行われました。また、常時1,000人超の大企業には育児休業取得状況の公表義務が課せられています(2023年4月施行済み)。
従業員が自主的に準備すべき計画書とは
法的義務ではないものの、育休をスムーズに取得・復帰するために、従業員が自主的に計画書を作成することは非常に有益です。特に以下の点を整理しておくと、上司・同僚との調整が格段にスムーズになります。
- 育休開始・終了の予定期間
- 担当業務の引き継ぎ先と引き継ぎスケジュール
- 復職後の勤務形態の希望(時短勤務、テレワーク等)
- 保育園の入園申し込み状況と復職タイミングの見通し
これらをまとめた「育休取得計画書」は、法律上の書類ではありませんが、職場との信頼関係を築くうえで重要なコミュニケーションツールとなります。
育休取得計画書の記載事項|実務上よく使われる項目
企業の社内規程や慣行として育休取得計画書の提出を求める場合、一般的に以下の項目が記載対象となります。法的書式はないため、各社が独自にフォーマットを定めていますが、実務上よく使われる記載事項を解説します。
基本情報(本人・出産予定日・育休期間)
まず、計画書の基本情報として以下を明記します。
- 従業員の基本情報:氏名、所属部署、社員番号、役職
- 出産予定日または出産日:配偶者(パートナー)が出産する場合はその予定日
- 育休開始予定日:産前産後休業(産休)と育休の区分に注意
- 育休終了予定日:子が1歳(最長2歳)になるまでの範囲内で設定
- 育休取得期間の合計日数
なお、産前産後休業(産休)は出産前6週間・出産後8週間(多胎妊娠の場合は産前14週間)が法律で定められており、育休とは別制度であることに注意が必要です。
復帰計画(復職予定時期・勤務形態の変更)
育休取得計画書において、復職後の見通しを記載することは職場への配慮として重要です。
- 復職予定日:保育園の入園予定日に合わせて設定するケースが多い
- 育児短時間勤務制度の利用有無:子が3歳になるまでの間、1日6時間の短時間勤務が法律上の権利として認められています(育児・介護休業法第23条)
- フレックスタイム・テレワーク等の活用希望:社内制度の範囲で記載
- 時間外労働・深夜業の制限申請予定:子が小学校就学前まで制限を申請できる権利があります
これらを事前に計画書に盛り込むことで、復職後の人員配置を企業が事前に検討できるようになります。
業務引き継ぎ・代替要員の配置見通し
育休取得による業務への影響を最小化するため、引き継ぎ計画を明記します。
- 現在の担当業務一覧:主要プロジェクト・定常業務・対外的な窓口業務などを整理
- 引き継ぎ先の候補者名または体制案:上司と相談の上記載
- 引き継ぎ完了目標日:育休開始の2〜4週間前を目安に設定するのが一般的
- 育休中の緊急連絡に関する取り決め:基本的に育休中の労働義務はないため、連絡対応は最小限に留めるよう事前に合意しておくことが推奨されます
保育園申し込み状況・育児サポート体制
復職タイミングと保育環境は密接に関連します。以下の情報を整理しておくと、職場との復職時期調整がスムーズになります。
- 保育園の申し込み予定時期・申し込み済みかどうか
- 希望する保育形態(認可保育園、認定こども園、企業主導型保育施設など)
- 家族・パートナーのサポート体制(配偶者の育休取得予定、祖父母のサポートなど)
- 育休延長の可能性:保育所に入所できない場合は子が1歳6ヶ月・2歳まで育休を延長できます(育児・介護休業法第5条第3項・第4項)
育児休業申出書の正式な手続きフロー
申出期間(最低1ヶ月前まで)と書式
育児・介護休業法では、育休の申し出は育休開始予定日の1ヶ月前までに行うことが原則です(第6条第2項)。ただし、出産予定日より早く出産した場合など、やむを得ない理由がある場合は例外的に短い期間でも申請できます。
書式については、法律上「育児休業申出書」という書類を提出することが求められており、厚生労働省のモデル様式を活用するか、企業が独自に定めた書式を使用します。書式に定めがない場合は、以下の事項を記載した書面であれば有効です。
育児休業申出書の必須記載事項(育児・介護休業法施行規則第5条)
- 申し出年月日
- 申出者の氏名
- 育児休業に係る子の氏名・生年月日(出生前は出産予定日)
- 育休開始予定日
- 育休終了予定日
男性が配偶者の出産後に取得できる「産後パパ育休(出生時育児休業)」については、出生後8週間以内に4週間まで分割して取得でき、申し出期限は開始予定日の2週間前までと通常の育休より短く設定されています(育児・介護休業法第9条の2)。
企業に提出する手順・受理の確認方法
育休申出の一般的な手順は以下のとおりです。
ステップ1:上司・人事部門への事前相談
法律上は突然の申し出も可能ですが、業務引き継ぎや代替人員の手配を円滑に進めるため、事前に上司と相談しておくことが現実的です。この段階で業務引き継ぎの方向性を話し合います。
ステップ2:育児休業申出書の作成・提出
定められた期限(育休開始1ヶ月前、産後パパ育休は2週間前)までに育児休業申出書を人事部門に提出します。
ステップ3:企業からの通知
企業は申し出を受理した場合、育休開始・終了予定日を書面または電磁的方法で従業員に通知する義務があります(第6条第3項)。この通知をもって受理確認とします。受理通知は必ず保管しておきましょう。
ステップ4:社会保険・雇用保険手続き
企業が育休期間中の社会保険料免除手続きを行います。
申出書と雇用保険手続きの関連性
育児休業給付金を受け取るためには、育児休業申出書の提出だけでなく、企業経由でハローワークへの給付金申請が必要です。
育児休業給付金の支給要件(雇用保険法第61条の4)
- 雇用保険に加入していること
- 育休開始前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヶ月以上あること
- 育休中に就業日数が一定基準を超えないこと(支給単位期間(1ヶ月)中に就業日が10日以下、または就業時間が80時間以下)
給付金の計算方法
| 育休期間 | 給付率 | 計算式 |
|---|---|---|
| 育休開始から180日目まで | 休業前賃金の67% | 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67% |
| 181日目以降 | 休業前賃金の50% | 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 50% |
計算例:休業開始前の月給が30万円の場合
- 賃金日額:30万円 ÷ 30日 = 10,000円
- 最初の180日間(支給日数30日の場合):10,000円 × 30日 × 67% = 201,000円/月
- 181日目以降(支給日数30日の場合):10,000円 × 30日 × 50% = 150,000円/月
なお、2025年4月からの改正では、一定の条件(夫婦ともに育休を取得し、それぞれ14日以上育休を取得する場合)を満たすと、育休開始後28日間に限り給付率が手取り収入ベースで実質10割相当(給付率80%)に引き上げられます。
申請のタイミングについては、育休開始から約2ヶ月後に企業がハローワークに申請を行い、支給決定後に給付金が振り込まれる流れです。初回の振り込みまでに2〜3ヶ月かかるケースもあるため、事前に生活費の準備をしておくことが重要です。
記載漏れがあった場合の対応
育児休業申出書に記載漏れや誤りがあった場合、企業は補正を求めることができます(育児・介護休業法施行規則第5条)。ただし、企業側が補正を理由に育休の開始を不当に遅らせることは許されません。
記載漏れに気づいた場合は速やかに人事部門に連絡し、訂正・補正の対応をとりましょう。特に育休開始・終了予定日の誤記は給付金の受給に影響するため、正確な記載が重要です。
2024年改正法で企業に新たに義務付けられた対応
個別周知・意向確認の義務化(2022年施行)
2022年4月1日施行の改正で導入され、現在も継続している重要な制度です。妊娠・出産を申し出た従業員(本人または配偶者が対象)に対し、企業は個別に育休制度を説明し、取得意向を確認する義務を負います(育児・介護休業法第21条)。
周知すべき事項は以下のとおりです。
- 育児休業・産後パパ育休に関する制度の内容
- 育休申請の手続き
- 育休中・育休後の待遇(給付金、社会保険料免除など)
- 育休後の配置・処遇に関する事項
この個別周知は、面談・書面・電子メールなどの方法で行う必要があり、「社内イントラに載せているから確認してください」という一般周知だけでは義務を果たしたことにはなりません。
育休取得しやすい環境整備の義務化
2022年改正から、企業は育休を取得しやすい雇用環境の整備が義務付けられています。具体的には、以下のうち少なくとも1つ以上の措置を実施しなければなりません。
- 育休に関する研修の実施
- 育休に関する相談窓口の設置
- 育休取得事例の収集・従業員への提供
- 育休取得の促進に関する方針の周知
これらは「努力義務」ではなく義務(措置義務)である点に注意してください。
大企業の育休取得率公表義務(2023年施行)
常時雇用する従業員が1,000人超の企業は、毎年1回、男性労働者の育休取得率または育休と育児目的休暇の取得率を公表する義務があります(育児・介護休業法第22条の2)。公表先は自社のウェブサイトや厚生労働省の「両立支援のひろば」などが対象となります。
300人超〜1,000人以下の企業については、2025年4月からこの公表義務が拡大される予定です。
有期雇用労働者の育休取得要件の緩和(2022年施行)
2022年4月改正以前は、有期雇用労働者が育休を取得するためには「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件がありました。現在はこの要件が廃止され、「1歳6ヶ月までの間に契約が満了することが明らかでない」という要件のみで育休を取得できるようになっています。
社会保険料の免除と育休期間中の給付まとめ
社会保険料の免除
育休期間中は、本人負担分・企業負担分ともに健康保険料および厚生年金保険料が免除されます(健康保険法第159条、厚生年金保険法第81条の2)。この免除を受けるためには、企業が年金事務所に「育児休業等取得者申出書」を提出する必要があります。
免除された期間も保険料を払ったものとして扱われるため、将来の年金額への影響はありません。
2022年10月からは、育休期間中の月内に2週間以上育休を取得した場合、その月の保険料が免除される仕組みに変更されました。また、賞与についても1ヶ月を超える育休取得の場合に賞与月の保険料が免除されます。
育休給付金・産休手当の整理
| 給付・手当の種類 | 対象者 | 給付率・金額 | 申請窓口 |
|---|---|---|---|
| 出産手当金 | 健康保険加入の本人(産休中) | 標準報酬日額の67% | 健康保険組合・協会けんぽ |
| 出産育児一時金 | 健康保険加入者(子1人ごと) | 50万円(直接支払制度あり) | 健康保険組合・協会けんぽ |
| 育児休業給付金 | 雇用保険加入者(育休中) | 休業前賃金の67%(開始180日間)・50%(以降) | ハローワーク(企業経由) |
| 児童手当 | 子を養育する保護者 | 子の年齢・収入により異なる | 市区町村 |
よくある疑問・注意点
Q1. 育休申出書は口頭でも有効ですか?
法律上は書面での申し出が原則です(育児・介護休業法施行規則第5条)。口頭での申し出は後々トラブルになりやすいため、必ず書面(電子メールでも可)で申し出を行い、企業からの受理通知も書面でもらうようにしましょう。
Q2. 企業が育休申請を拒否した場合はどうすればよいですか?
育児・介護休業法に定められた要件を満たしている場合、企業は育休申請を拒否できません(第6条)。拒否された場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談することができます。相談は無料で、調停・助言・勧告などの対応を受けることができます。
Q3. 育休中に転職・退職はできますか?
育休中に退職することは法律上可能ですが、退職した日をもって雇用保険被保険者でなくなるため、育児休業給付金の支給が終了します。また、育休期間中に転職活動をすることは制限されていませんが、育休中に別の会社で就業する行為は給付金の受給要件に抵触する可能性があるため注意が必要です。
Q4. パートタイム・派遣社員でも育休は取れますか?
雇用保険に加入しており、育休終了後も引き続き雇用される見込みがあれば、パートタイム・派遣社員でも育休を取得できます。2022年の改正により、「1年以上継続雇用」の要件は廃止されています。
Q5. 計画書の作成を企業に強制されたが、法的な義務はあるの?
現行法(2024年12月時点)において、「育休取得計画書」の提出を従業員に強制する法的義務は企業にはありません。ただし、企業の就業規則に定めがある場合は、就業規則上の義務として従う必要があります。就業規則の根拠なく強制する場合は、労働契約上の問題となる可能性があります。
Q6. 「育休取得計画書が2025年から義務化された」という情報を見ましたが本当ですか?
2024年12月時点において、そのような法改正は施行も確定もしていません。育休関連の法改正は毎年進展していますが、「育休取得計画書の企業への義務化」は現時点で法律に規定されていない情報です。法改正の情報は、厚生労働省の公式サイトや都道府県労働局で必ず確認するようにしましょう。
まとめ:育休手続きの全体像を正確に把握しよう
育休申請に関する手続きは複数の法律・制度が絡み合っており、情報が錯そうしやすい分野です。本記事のポイントを改めて整理します。
正確に理解すべき重要ポイント
- 育休申請に必要なのは「育児休業申出書」(法的義務)であり、「育休取得計画書」は任意の社内書類
- 2024年時点で「育休取得計画書の企業義務化」は存在しない
- 企業には個別周知・意向確認、雇用環境整備などの法的義務がある
- 育児休業給付金は育休開始から180日間は休業前賃金の67%、以降は50%
- 社会保険料は育休期間中、本人・企業ともに免除される
育休制度は労働者の権利として法律で守られています。不明点がある場合は、会社の人事部門に相談するとともに、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)や社会保険労務士への相談も活用しましょう。正確な情報をもとに、安心して育休を取得・運営できる職場づくりを進めていきましょう。
参考法令・参照先
- 育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)
- 雇用保険法
- 健康保険法・厚生年金保険法
- 厚生労働省「育児・介護休業法について」公式ページ
- 厚生労働省「育児休業給付について」ハローワーク公式ページ

