育休を取得したのに、給付金が受け取れない——そんな事態が実際に起きています。その原因の多くは「企業の育休制度が法定基準を満たしていないこと」にあります。制度を整備していると思っていた企業側も、給付金を当然受け取れると思っていた労働者側も、知らないうちに「給付対象外」の落とし穴にはまってしまうケースがあるのです。
本記事では、育休給付金が支給対象外になる具体的なパターンを、法的根拠とともに丁寧に解説します。企業の人事担当者の方も、育休取得を検討している方も、ぜひ最後まで確認してください。
育休給付金が「支給対象外」になるケースとは?まず押さえるべき基本
育休給付金の支給要件は「法律」で決まっている
育休給付金(正式名称:育児休業給付金)は、雇用保険制度のなかに位置づけられた給付です。その支給要件は、雇用保険法第61条の4によって定められており、企業が独自に設けたルールがどれだけ手厚くても、国の法定基準を満たさなければ給付金は支給されません。
雇用保険法第61条の4が定める主な支給要件は以下の通りです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 雇用保険被保険者であること | 育休開始時点で雇用保険に加入していること |
| 継続雇用要件 | 育休開始前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12か月以上あること |
| 育児・介護休業法に基づく育休であること | 法律上の「育児休業」として認められる休業であること |
| 就業日数の制限を守ること | 育休期間中の就業日数が一定基準以下であること |
注目すべきは3番目の要件——「育児・介護休業法に基づく育休であること」です。これは、企業が定める育休制度が育児・介護休業法の要件に合致していなければ、そもそも「法的な育児休業」として認められないことを意味します。
つまり、企業が「育休を与えている」と言っていても、その制度が法律の基準を外れていれば、給付金は支給されないのです。
企業制度が「認められない場合」とはどういう意味か
「企業制度が認められない場合」とは、端的に言うと次のような状況を指します。
【企業が定めた育休制度の流れ】
企業が定めた育休制度→法定基準(育児・介護休業法)との照合→基準を満たさない→「法的な育児休業」として認められない→雇用保険法の給付要件を充足しない→育休給付金が支給対象外
たとえば、育休期間を「最長6か月まで」と独自に制限している企業があったとします。その企業の従業員が6か月の育休を取得した場合、表面上は育休を取っているように見えますが、法定基準(原則として子が満3歳に達するまで)より短い制度に基づく休業であるため、法的な問題が生じます。
また、有期雇用の従業員を制度の対象外としていたり、就業規則に育休の規程が存在しなかったりする場合も同様です。このような「企業制度の不備」が、給付金の受け取れない原因になります。
重要なのは、企業側も労働者側も「問題があった」と気づかないまま申請してしまうケースが多いという点です。申請後にハローワークの審査で否認されてから初めて発覚する、という事例も少なくありません。
企業の育休制度が法定基準に合致しない主な理由
制度設計そのものに問題があるパターンを、具体的に見ていきましょう。企業担当者・労働者の双方にとって、自社・自分の状況を確認すべきチェックポイントとして活用してください。
育休期間が法定より短く設定されている
育児・介護休業法第5条は、子が1歳に達するまでの育児休業取得を原則として定め、保育所に入れない場合などの事情があれば最長2歳まで延長できると規定しています。さらに、同法第23条では、企業が「育児休業に関する制度に準ずる措置」として、子が3歳に達するまでの間、就業しつつ育児が可能な措置を講じることを義務づけています。
問題が生じるのは、企業が「うちの育休は最大6か月まで」「産後1年を超えたら復職してもらう」などと、法律の定める期間より短い期間に独自制限を設けているケースです。
このような制度のもとで取得した育休は、法定基準の育児休業に該当しないと判断されるリスクがあります。特に、子が1歳を超えて保育所に入れず育休を延長しようとした際に「延長できない」と言われた場合、その後の給付金も受け取れなくなる可能性があります。
確認すべきポイント
- 自社の就業規則・育休規程に「子が1歳(延長の場合は最長2歳)まで取得可能」と明記されているか
- 延長申請(1歳6か月・2歳)の手続きが定められているか
- 3歳未満の子を持つ従業員への短時間勤務等の措置が整備されているか
有期雇用・パート労働者を対象外にしている
かつての育児・介護休業法では、有期雇用労働者が育休を取得するためには「引き続き雇用された期間が1年以上」「子が1歳6か月に達する日までに労働契約が満了することが明らかでない」という2つの条件を満たす必要がありました。また、労使協定を締結することで「雇用期間が1年未満の者」を育休の対象外とすることも認められていました。
しかし、2022年(令和4年)4月の法改正により、この取り扱いが大きく変わりました。改正後は「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件が廃止され、有期雇用労働者が育休を取得する際の条件は「子が1歳6か月に達する日までに労働契約が満了することが明らかでない」という1点のみとなりました。
つまり、雇用期間が1年未満であっても、契約が更新される見込みがあれば育休を取得できるようになったのです。
問題のある企業制度の例
- 2022年4月以前の古い就業規則をそのまま使い続け、「勤続1年未満の有期雇用者は対象外」と記載している
- パートタイム労働者について「正社員以外は対象外」と明記している
- 派遣労働者に対して育休制度の案内をしていない
このような古い規定が残ったままになっている企業では、育休を申し出た有期雇用労働者が「あなたは対象外」と言われてしまうことがあります。実際には法律上の権利があるにもかかわらず、誤った制度に基づいて取得を拒まれれば、給付金を受け取る機会そのものを失うことになります。
なお、雇用保険法における給付金の受給要件については、育休開始前の2年間に賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12か月以上あることが引き続き求められます。パート・有期雇用の方はこの点も合わせて確認が必要です。
復職を前提としない育休制度になっている
育児・介護休業法第6条は、事業主が従業員から育休の申出を受けた場合、原則としてこれを拒むことができないと規定しています。裏を返せば、企業は「育休を取得した従業員が職場に戻れる体制」を前提として制度を整備しなければなりません。
ところが、実態として次のような問題を抱える企業制度が存在します。
- 育休規程に「復職後の部署・条件は会社の判断による」とのみ記載されており、事実上復職保証がない
- 「育休後は一度退職扱いとし、希望者は再雇用する」という制度設計になっている
- 育休申請時に「復職しない場合の条件」だけが詳細に記載されており、復職前提の規定が薄い
このような制度では、育児・介護休業法が定める「育児休業」の定義(育休後に同じ事業主のもとで就業することを前提とした休業)に該当しないと判断されるリスクがあります。「退職→再雇用」型の制度は、育休ではなく「任意の休業」として扱われる可能性があり、その場合は給付金の支給対象外となります。
申請手続き上の不備が引き起こす給付対象外
制度設計の問題だけでなく、申請手続きの形式的な不備によっても給付金が受け取れなくなることがあります。
就業規則・育休規程が整備されていない
育休給付金を申請する際、ハローワークは「事業所に育児休業に関する制度が存在すること」を確認します。これを証明するのが就業規則・育休規程です。
労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する事業所に対して就業規則の作成・届出を義務づけており、育児・介護休業法は育休に関する規程の整備を全事業主に求めています。
育休規程が存在しない、または就業規則に育休について明記されていない場合、次の問題が生じます。
- ハローワークへの申請時に制度の実在を証明できない
- 育休の申出を受けた事業主が適切に対応できず、手続きが遅延する
- 最悪の場合、給付金の申請自体を受け付けてもらえない
育休規程に最低限記載すべき項目
| 記載項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 取得できる従業員の範囲(無期・有期、勤続要件など) |
| 申請方法 | 申請書の様式・提出先・提出時期 |
| 休業期間 | 取得できる期間の上限と延長の条件 |
| 給与・賞与 | 休業中の処遇 |
| 社会保険 | 保険料の取り扱い |
| 復職 | 復職の手続きと条件 |
育休申請書の不提出・不備
雇用保険法施行規則第106条は、育休給付金の支給申請にあたり、書面による手続きを求めています。また、育児・介護休業法も、従業員が育休を申し出る際に「書面等による申出」を認めており、企業は申出の記録を保管することが求められます。
育休申請書が提出されていない、または以下のような不備がある場合、給付金の申請が通らないリスクがあります。
- 申請書に「育休開始日・終了予定日」が明記されていない
- 事業主の受理印・承認のサインがない
- 申請書の様式が育児・介護休業法に対応していない古い書式のまま
事業主証明書の不適切な記載
育休給付金をハローワークへ申請する際、事業主証明書(育児休業給付金支給申請書の事業主記載欄)の記載が必要です。ここには次の情報を正確に記入しなければなりません。
- 育休の開始日・終了予定日
- 育休期間中の就業日数・賃金支払い状況
- 雇用形態・雇用期間
- 保険料の納付状況
この事業主証明の記載に誤りや虚偽があった場合、給付金の支給が停止されるだけでなく、不正受給として返還を求められるケースもあります。人事担当者は申請ごとに内容を慎重に確認する必要があります。
労働者側の要件不足による給付対象外
企業制度の問題とは別に、労働者自身の要件を満たしていないことが原因で給付対象外になるケースも少なくありません。
雇用保険の加入期間が不足している
育休給付金を受け取るためには、育休開始前の2年間(被保険者期間の特例が認められる場合は最大4年間)に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12か月以上あることが必要です。
この要件を満たせない主な状況として、次のものが挙げられます。
- 転職直後で雇用保険への加入期間が短い
- 産前休業・療養休業などのために就業日数が足りない月が多かった
- 育休前に雇用保険未加入の会社で働いていた期間が長い
なお、産前休業・産後休業・別の育児休業・疾病などにより休業していた期間がある場合は、その期間を除いて2年間さかのぼることができます(最大4年間)。これにより、出産直前まで育休を繰り返していた方でも受給できるケースがあります。
育休期間中の就業日数が多すぎる
育休給付金の支給期間中に就業した場合、就業日数が育休期間の日数の10分の1以下(かつ月10日以下、もしくは80時間以下)を超えると、その支給単位期間の給付金が不支給となります。
いわゆる「育休中の在宅ワーク」や「スポット的な出勤」が基準を超えてしまった場合、支給停止が発生します。また就業収入が一定水準を超えると、給付金の全額または一部が支給されなくなります。
企業が雇用保険・社会保険に未加入
これは労働者側の問題ではなく企業側の問題ですが、在籍している企業が雇用保険に加入していない場合、そもそも給付金を受け取ることができません。雇用保険の加入義務は「1週間の所定労働時間が20時間以上」「31日以上雇用が見込まれる」従業員を使用する全事業主に課されています。
もし在籍中の企業が雇用保険に加入していないことが発覚した場合は、遡って加入手続きをとることが可能なケースもあります(最大2年間)。ハローワークや労働基準監督署に相談することをおすすめします。
給付金額と申請スケジュールの確認
給付対象外になるリスクを理解したうえで、正常に受給できる場合の給付額と申請の流れも確認しておきましょう。
育休給付金の支給額
育休給付金の支給額は、育休開始前6か月の賃金を180で割った額(休業開始時賃金日額)をもとに計算します。
| 期間 | 支給率 | 計算式 |
|---|---|---|
| 育休開始から180日目まで | 67% | 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67% |
| 181日目以降 | 50% | 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 50% |
計算例(月収30万円の場合)
- 休業開始時賃金日額:300,000円 ÷ 30日 ≈ 10,000円
- 最初の180日:10,000円 × 30日 × 67% = 201,000円/月
- 181日以降:10,000円 × 30日 × 50% = 150,000円/月
なお、育休中に賃金が支払われている場合は、支給額が調整または不支給となります。賃金が「休業開始時賃金月額の80%未満」に抑えられている場合は、差額を補完する形で給付金が支給される仕組みです。
申請スケジュールと必要書類
育休給付金は、育休開始から2か月ごとにハローワークへ申請します。申請期限は支給単位期間の末日から4か月以内ですが、期限を過ぎると受給権が消滅する場合があります。
初回申請に必要な主な書類
| 書類 | 取得先・作成者 |
|---|---|
| 育児休業給付金支給申請書 | ハローワーク(または電子申請) |
| 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 | 事業主が作成 |
| 育児休業申出書(コピー) | 本人申出・事業主受理 |
| 母子健康手帳(出生を確認できるページ) | 本人 |
| 賃金台帳・出勤簿 | 事業主が準備 |
| 振込先口座情報 | 本人 |
申請は原則として事業主を通じて行います。事業主がハローワークに書類を提出し、審査を経て支給決定通知が届く流れです。電子申請(e-Gov)にも対応しており、手続きのペーパーレス化を進める企業も増えています。
企業担当者が今すぐ実施すべきセルフチェック
自社の育休制度が法定基準を満たしているか、以下のチェックリストで確認してください。
制度設計の確認
– [ ] 育休の取得可能期間が「子が1歳(延長の場合は最長2歳)まで」と明記されているか
– [ ] 有期雇用・パート従業員も法定要件を満たせば育休を取得できる制度になっているか
– [ ] 2022年4月改正前の「勤続1年未満除外」規定が削除されているか
– [ ] 育休後の復職について具体的な規定があるか
書類・手続きの確認
– [ ] 就業規則に育休に関する条項が設けられているか
– [ ] 育休申請書の様式が整備されているか
– [ ] 育休期間中の賃金・賞与・社会保険の取り扱いが明記されているか
– [ ] 事業主証明書の記載方法を担当者が把握しているか
雇用保険関係の確認
– [ ] 全従業員(要件を満たす者)が雇用保険に加入しているか
– [ ] 雇用保険料を適切に納付しているか
– [ ] 直近の就業規則をハローワーク・労働基準監督署に届け出ているか
一つでもチェックできない項目があれば、早急に制度の見直しを行ってください。対応が難しい場合は、社会保険労務士や都道府県の「育業応援宣言」推進窓口などに相談することをおすすめします。
給付対象外と判断された場合の対応方法
もし育休給付金が「支給対象外」と判断された場合、以下の対応を検討してください。
1. 不支給通知の内容を詳細に確認する
ハローワークから不支給通知が届いた場合、必ず「不支給理由」を確認します。理由が「企業制度の不備」にあるのか、「労働者側の要件不足」にあるのかで、次の対応が変わります。
2. 審査請求(不服申立て)を行う
不支給決定に納得できない場合、決定を知った日の翌日から3か月以内に雇用保険審査官へ審査請求を行うことができます(雇用保険法第69条)。
3. 企業制度を修正して再申請できないか確認する
企業の育休規程の不備が原因であれば、規程を修正・整備したうえで再度申請できる場合があります。ただし、すでに取得した育休の期間が遡って認められるかどうかは個別の状況によります。
4. 社会保険労務士・ハローワークに相談する
不支給理由が複雑な場合や、企業と労働者の間で解釈が食い違っている場合は、専門家のサポートを受けることが有効です。ハローワークの窓口は無料で相談を受け付けており、社会保険労務士への相談も選択肢のひとつです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 育休規程が就業規則に入っていない小規模企業でも、育休給付金は受け取れますか?
育児・介護休業法は、従業員数に関わらずすべての事業主に育休制度の整備を義務づけています。就業規則への記載がない場合でも、育休申出の事実・育休期間の実態・事業主証明が揃えば給付金が認められるケースはありますが、書類不備によりハローワーク審査が通らないリスクが高まります。就業規則への明記を早急に行うことを強く推奨します。
Q2. 2022年の法改正前に入社した有期雇用従業員の場合、旧制度が適用されますか?
入社時期ではなく、育休を取得する時点の法律が適用されます。2022年4月1日以降に育休を開始する場合は、改正後の基準(「勤続1年以上」要件の廃止)が適用されます。古い就業規則の規定は法律の下位にあるため、現行法に反する企業規定は無効となります。
Q3. 産前休業中に退職・解雇された場合、育休給付金は受け取れますか?
育休給付金は育休取得中の在籍が前提となるため、退職後の受給はできません。ただし、退職前に雇用保険の被保険者期間が12か月以上ある場合は、失業給付(基本手当)の受給対象になる可能性があります。また、妊娠・出産・育休取得を理由とした解雇・不当な退職勧奨は育児・介護休業法第10条で禁じられており、違法となります。
Q4. 育休取得中に副業・フリーランスとして収入を得た場合、給付金はどうなりますか?
育休中の就業として計上される就業日数が、支給単位期間の日数の10分の1以下(かつ月10日以下または80時間以下)を超えた場合、その期間の給付金は不支給となります。副業収入の有無だけでなく「就業日数・時間」が判断基準となる点に注意が必要です。
Q5. 事業主が育休給付金の申請手続きを行ってくれない場合はどうすればよいですか?
事業主が手続きを怠っている場合、労働者が直接ハローワークに相談することができます。ハローワークは事業主への指導を行うことができ、正当な理由なく申請に協力しない事業主に対しては、育児・介護休業法に基づく指導・勧告が行われます。また、労働者本人がやむを得ない事情を証明することで、直接申請できる場合もあります。
まとめ:企業制度の整備が給付金受給の「入口」
育休給付金は、雇用保険制度に基づく重要な経済的支援です。しかし、その受給の前提には「企業が法定基準を満たした育休制度を整備していること」があります。
企業制度の不備が原因で給付対象外になるパターンは大きく次の3つです。
- 制度設計の問題:育休期間が短い・有期雇用者を除外・復職前提でない
- 書類・手続きの問題:就業規則未整備・申請書不備・事業主証明ミス
- 労働者要件の不足:雇用保険加入期間・就業日数・企業の保険未加入
労働者の方は、育休を申し出る前に自社の就業規則を確認し、不安があれば人事担当者やハローワークに確認を取ることをおすすめします。企業の人事担当者は、本記事で紹介したチェックリストをもとに制度の現状を点検し、法改正への対応漏れがないか早急に確認してください。
育休制度の正しい整備は、従業員が安心して育休を取得できる環境をつくるだけでなく、企業が優秀な人材を継続的に確保するための土台にもなります。法定基準を満たした制度設計こそが、すべての出発点です。
参考法令・資料
- 雇用保険法 第61条の4(育児休業給付)
- 育児・介護休業法 第2条・第5条・第6条・第10条・第23条
- 雇用保険法施行規則 第101条の11~第101条の19
- 厚生労働省「育児・介護休業法について」(各種リーフレット)
- ハローワーク「育児休業給付の内容と支給申請手続」



