妻が産前産後休業(産休)を取得している最中に、パパが出生時育休を取得することは可能なのでしょうか。結論から言えば、同時取得は完全に合法であり、制度上も想定されている取得パターンです。
しかし、「妻が産休中だから給付金が制限される?」「重複期間の上限は何日?」など、具体的なルールがわからないまま申請を迷っているケースは少なくありません。
この記事では、育休・産休制度の専門的な観点から、妻の産休とパパの出生時育休を同時取得した場合の給付金の計算方法・期間の重複ルール・申請手続きを、図表・具体的な数字を交えて詳しく解説します。
妻の産休中にパパが出生時育休を取るとどうなる?制度の全体像
| 項目 | 妻の産休中 | 妻の産休終了後 |
|---|---|---|
| パパ育休の取得可否 | 可能(同時取得OK) | 可能 |
| 育児休業給付金の対象 | 給付対象外(産休と重複) | 給付対象(67%相当) |
| 給付率 | 0%(調整あり) | 67%(月給の67%) |
| 出生時育休の分割取得 | 産休期間内で最大4週間 | 残り期間を分割可能 |
| 申請方法 | ハローワークへ出生時育休申出 | 給付金支給申請書を提出 |
出生時育休(パパ育休)の基本ルール:期間・分割・要件
出生時育休(正式名称:出生時育児休業)は、2022年10月の育児・介護休業法改正により新設された制度です。法的根拠は育児・介護休業法第9条の2に規定されており、従来の育児休業とは別に取得できます。
取得可能期間の基本ルール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 取得可能期間 | 子の出生日から8週間以内 |
| 最大取得日数 | 28日間(4週間) |
| 分割取得 | 2回まで分割可能 |
| 各回の最短期間 | 1日単位(就業規則で別途定める場合あり) |
| 対象雇用形態 | 正社員・有期契約社員(1年以上勤続)を問わず取得可 |
取得要件(育児・介護休業法第9条の2)
- 同一の子の出生日から8週間以内に取得すること
- 同一事業主に1年以上継続して雇用されていること
- 雇用期間が終了することが明らかでないこと
また、2022年の法改正では「育休プラス(パパ・ママ育休プラス)」の拡充とあわせて、出生時育休は通常の育児休業とは別枠で取得できる点が重要です。つまり、出生時育休28日間を使い切った後で、通常の育児休業(最大1年間)をさらに取得することも可能です。
妻の産前産後休業との関係:同時取得は可能か?
結論:妻が産休中であっても、パパの出生時育休取得に制限は一切ありません。
「妻が育休を取っている間だけ、パパも育休を取れる」「妻が産休中は給付金が出ない」といった誤解が広まっていますが、これらはすべて誤りです。
妻の就業状況・休業状況に関わらず、パパは子の出生日から8週間以内であれば、独立して出生時育休を取得できます。
産前産後休業(産休)の基本概要
| 区分 | 期間 | 根拠法 |
|---|---|---|
| 産前休業 | 出産予定日の6週間前(多胎の場合は14週間前)から | 労働基準法第65条 |
| 産後休業 | 出産翌日から8週間(強制休業は6週間) | 労働基準法第65条 |
妻が産後8週間の産後休業を取得している間は、パパが取得する出生時育休の期間(最大28日)と重複する部分が生じます。この重複が、給付金の計算にどう影響するかが、本記事の核心です。
期間重複時の給付金ルール:同時取得で給付金はどう調整される?
出生時育児休業給付金の支給条件と給付率(67%のしくみ)
出生時育休中の給付金は、出生時育児休業給付金として雇用保険から支給されます。根拠法は雇用保険法第67条の4です。
支給の基本条件
- 雇用保険の被保険者であること
- 休業開始前の2年間に12か月以上の被保険者期間があること
- 休業中の就業日数が10日以下(または就業時間80時間以下)であること
給付金の計算式
出生時育児休業給付金 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%
「休業開始時賃金日額」は、育休開始前6か月間の賃金総額を180で割った金額です。
具体的な計算例
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 休業前の月収(額面) | 30万円 |
| 休業開始時賃金日額 | 30万円 × 6 ÷ 180 = 10,000円 |
| 出生時育休取得日数 | 28日間 |
| 給付金(67%) | 10,000円 × 28日 × 67% = 187,600円 |
実質80%相当になる理由
育休中は社会保険料(健康保険・厚生年金)の支払いが免除されます。さらに所得税がかからないため、手取りベースで考えると給付金の実質的な給付率は約80%相当になると言われています。この免除措置により、名目上の67%給付が、実質的には手取りの80%程度に相当する効果を生み出しています。
賃金日額の上限・下限(2025年度)
| 区分 | 金額 |
|---|---|
| 賃金日額の上限 | 15,190円 |
| 賃金日額の下限 | 2,869円 |
| 給付金の上限(1日あたり) | 10,177円(15,190円×67%) |
妻の産休期間とパパの出生時育休が重複するとどうなるか
ここが最も重要なポイントです。妻の産休中にパパが出生時育休を取得しても、パパの給付金は減額・制限されません。
つまり、妻の産休給付(健康保険の出産手当金)とパパの出生時育児休業給付金は、それぞれ独立して満額支給されます。
妻の産休中の給付金(出産手当金)との比較
| 区分 | 対象者 | 支給元 | 給付率 |
|---|---|---|---|
| 出産手当金 | 妻(産休取得者) | 健康保険 | 標準報酬日額の2/3(約67%) |
| 出生時育児休業給付金 | パパ(出生時育休取得者) | 雇用保険 | 休業開始時賃金日額の67% |
妻の出産手当金とパパの出生時育児休業給付金は、支給元(健康保険 vs 雇用保険)が異なるため、どちらか一方が減額されることはありません。
このため、夫婦で同時に産休・出生時育休を取得した場合、家計への影響を最小限に抑えられることになります。
重複期間の「上限28日」とは何か:正確な理解
「上限28日」とは、妻の産休との重複によって生じる制限ではなく、出生時育休そのものの法定上限日数を指します。
出生時育休の上限 = 子の出生日から8週間以内 × 最大28日(4週間)
ただし、出生時育休の「28日間」のカウント方法には注意が必要です。
28日のカウントルール
- 取得した暦日数(土日・祝日含む)で計算
- 2回に分割取得した場合は、合計が28日を超えないこと
- 例:1回目14日 + 2回目14日 = 合計28日(上限到達)
妻の産後休業期間(8週間)との重複イメージ
妻の産後休業(56日間):
|=== 産後休業(56日間)=========================|
パパの出生時育休(最大28日):
|=== 出生時育休(最大28日)===|
重複可能な最大期間:28日(パパの出生時育休上限)
妻の産後休業は56日間(8週間)ですが、パパが同期間内に取得できる出生時育休は最大28日間です。この28日間全体が妻の産後休業と重複していても、パパの給付金は満額(67%)が支給されます。
給付金の具体的な計算例:ケース別シミュレーション
ケース①:出生日からすぐ28日間連続取得
妻の産後休業とパパの出生時育休が最大限重複するケースです。
条件
– 出生日:4月1日
– パパの月収:35万円
– パパ取得期間:4月1日〜4月28日(28日間)
– 妻の産後休業:4月1日〜5月26日(56日間)
計算
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 賃金日額 | 35万円 × 6 ÷ 180 | 11,667円 |
| 賃金日額(上限調整) | 上限15,190円以内のため適用なし | 11,667円 |
| 給付金総額 | 11,667円 × 28日 × 67% | 218,822円 |
→ 妻の産後休業と完全に重複していますが、パパの給付金は満額218,822円が支給されます。
ケース②:2回に分割取得し、一部を産後休業終了後に取得
条件
– 出生日:4月1日
– パパ取得①:4月1日〜4月14日(14日間)→ 妻の産後休業と重複
– パパ取得②:5月10日〜5月23日(14日間)→ 妻の産後休業と重複(5月26日まで産後休業のため)
– 月収:30万円
計算
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 賃金日額 | 30万円 × 6 ÷ 180 | 10,000円 |
| 1回目給付金 | 10,000円 × 14日 × 67% | 93,800円 |
| 2回目給付金 | 10,000円 × 14日 × 67% | 93,800円 |
| 合計 | 187,600円 |
→ 2回取得のうち、どちらも妻の産後休業と重複していますが、両回とも満額支給されます。
ケース③:高収入の場合(賃金日額が上限に達するケース)
条件
– 月収:60万円(賃金日額:20,000円)
– 賃金日額の上限:15,190円(2025年度)
計算
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 賃金日額(実際) | 60万円 × 6 ÷ 180 | 20,000円 |
| 上限適用後の賃金日額 | 上限15,190円を適用 | 15,190円 |
| 給付金(28日) | 15,190円 × 28日 × 67% | 285,165円 |
→ 月収が一定額を超えると、賃金日額に上限が設定されるため注意が必要です。
申請手続きの流れと必要書類
パパが出生時育休を申請する際の手続き手順
出生時育休の申請は、事業主(会社)経由でハローワークに行うのが基本です。パパが直接ハローワークに申請することは原則できません。
手続きのタイムライン
【STEP 1】出産予定日の1か月前までに
└→ 会社に出生時育休の「取得の意向」を伝える(努力義務)
【STEP 2】出産予定日または出生日確定後2週間前まで
└→「育児休業申出書」を会社に提出(最低2週間前)
【STEP 3】育休開始後
└→ 会社がハローワークに「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」を提出
【STEP 4】育休終了後(速やかに)
└→ 会社経由で「出生時育児休業給付金支給申請書」をハローワークに提出
(育休終了日の翌日から2か月以内が目安)
【STEP 5】ハローワーク審査・給付金振込
└→ 申請から約2〜4週間で指定口座に振込
申請時期の特例:出生日に即日取得する場合
緊急を要する場合(出生日から即日取得など)は、出生後できる限り速やかに申出書を提出することで対応できます。事前の2週間前申出が間に合わない場合は、会社と協議の上、申出期限の繰り上げを行いましょう。
必要書類の一覧
会社への申請時(パパが準備する書類)
| 書類名 | 備考 |
|---|---|
| 育児休業申出書(出生時育休用) | 会社の様式または厚労省の参考様式を使用 |
| 母子健康手帳(出産前申請時) | 出産予定日の確認用 |
| 出生届(出生後申請時) | 子の出生日・氏名の確認用 |
会社がハローワークに提出する書類
| 書類名 | タイミング |
|---|---|
| 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 | 育休開始後、速やかに |
| 出生時育児休業給付金支給申請書 | 育休終了後、2か月以内 |
| 育児休業申出書の写し | 上記に添付 |
| 母子健康手帳の写し(出生日ページ) | 上記に添付 |
重要: 給付金はパパの雇用保険口座(給与振込口座)に支給されます。妻の口座に合算されることはありません。
社会保険料の免除申請
育休中は、会社が年金事務所(日本年金機構)に申請することで社会保険料(健康保険・厚生年金)が免除されます。パパが個別に手続きする必要はありませんが、会社の担当者に申請漏れがないか確認することをお勧めします。
社会保険料免除の適用期間
- 育休開始月〜終了翌月の前月まで
- 月内に14日以上の育休取得が必要(2022年10月〜の改正による)
手続きでよくある注意点とミス
申請のタイミングに関する注意点
よくあるミス①:育休終了後の申請期限を過ぎてしまう
出生時育児休業給付金は、育休終了後に事業主経由で申請します。申請が遅れると給付金が受け取れなくなるケースがあるため、会社の担当者に早めに確認しましょう。
厚生労働省の指針では、育休終了日から2か月以内の申請が推奨されています(時効は2年)。
よくあるミス②:分割取得の2回目を8週間以内に忘れる
出生時育休の2回目取得は、子の出生日から8週間以内に開始する必要があります。8週間の期限を超えてしまうと、2回目の取得ができなくなります。カレンダーで期限日を必ず確認しておきましょう。
よくあるミス③:就業日数の条件を知らずに超過する
出生時育休中に就業する場合(育児・介護休業法第9条の2第6項)、就業日数が10日超かつ就業時間が80時間超になると、給付金が支給されなくなる場合があります。テレワーク・短時間就業を行う際は、事前に会社と調整してください。
2025年改正の最新情報
2025年4月施行の育児・介護休業法改正では、以下の変更が予定されています(本記事執筆時点での情報です。最新情報は厚生労働省のウェブサイトをご確認ください)。
主な改正ポイント
| 改正内容 | 内容 |
|---|---|
| 育休取得状況の公表義務の拡大 | 従業員300人超の企業から100人超に拡大 |
| 育休給付金の給付率引き上げ(検討中) | 子が2歳になるまでの一定期間について給付率80%化が検討 |
| 柔軟な育休取得制度の新設 | 子が2歳になるまでの期間の一定範囲で育休を柔軟取得可能にする方針 |
特に給付率の引き上げについては、出生時育休を含む育児休業全般に影響する可能性があるため、最新の厚生労働省の通知を必ず確認してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 妻が専業主婦(産休なし)でも、パパは出生時育休を取得できますか?
はい、取得できます。妻の就業状況は、パパの出生時育休取得の要件に含まれていません。子の出生日から8週間以内であれば、妻が働いていない場合でも取得可能です。
Q2. 妻の産休中にパパが出生時育休を取ると、妻の出産手当金は減額されますか?
いいえ、減額されません。妻の出産手当金(健康保険から支給)とパパの出生時育児休業給付金(雇用保険から支給)は、支給元も計算基礎も異なるため、互いに影響しません。
Q3. 出生時育休の28日間は連続して取得しなければなりませんか?
いいえ、2回まで分割して取得できます。例えば14日間ずつに分けて取得することも可能です。ただし、合計28日を超えることはできません。
Q4. パパが出生時育休を取得中に、少しだけ仕事をすることはできますか?
一定の条件のもとで就業することは可能です。ただし、就業日数が10日以下(かつ就業時間80時間以下)でなければ給付金が支給されないため、注意が必要です。就業する場合は事前に会社と書面で合意を取り交わす必要があります(育児・介護休業法第9条の2第6項)。
Q5. 出生時育休の給付金の振込先はどこになりますか?
パパ本人の雇用保険に紐づいた口座(通常は給与振込口座)に振り込まれます。妻の口座や共同口座に直接振り込まれることはありません。
Q6. 会社が「産休中に出生時育休は取れない」と言っています。正しいですか?
正しくありません。育児・介護休業法第9条の2により、妻の産休状況にかかわらずパパは出生時育休を取得できます。会社がこれを拒否・制限することは違法です(育児・介護休業法第10条により不利益取扱いも禁止)。会社との話し合いが難航する場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)または総合労働相談コーナーに相談してください(無料)。
Q7. ハローワークに直接、出生時育休の申請に行けますか?
給付金申請は、原則として事業主(会社)経由で行います。パパが直接ハローワークに申請することはできません。会社の人事・総務担当者に申請手続きを依頼してください。ただし、会社が手続きを行わない場合などの例外的な状況では、ハローワークに相談することも可能です。
まとめ
妻の産前産後休業中にパパが出生時育休を同時取得することは、法律上明確に認められており、給付金も満額支給されます。
この記事のポイントを整理します。
- 出生時育休は子の出生日から8週間以内・最大28日間・2回分割取得が可能
- 妻の産休状況はパパの取得要件に無関係
- 妻の出産手当金とパパの出生時育児休業給付金は独立して満額支給(調整なし)
- 給付金は休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%で計算(賃金日額に上限あり)
- 申請は会社経由でハローワークに行い、育休終了後2か月以内を目安に完了させる
- 育休中は社会保険料が免除されるため、実質的な給付率は約80%相当
制度をしっかり理解した上で申請を進めることで、育休取得中の家計への不安を最小限に抑えられます。不明な点は、会社の人事担当者または最寄りのハローワーク・労働局にご相談ください。
参考リンク
本記事は2025年1月時点の法令・通知に基づいて作成しています。制度の内容は変更される場合がありますので、最新情報は厚生労働省のウェブサイトまたは管轄のハローワークでご確認ください。



