2025年4月、育休給付金の給付率を引き上げる新制度がスタートしました。「育休中の収入が実質80%になる」という話を耳にした方も多いでしょう。しかし、この制度はすべての育休取得者に自動的に適用されるわけではなく、一定の条件を満たした対象者のみが恩恵を受けられる仕組みです。
本記事では、給付率80%引き上げの対象者条件を中心に、2つの給付の組み合わせ構造・具体的な支給額の計算方法・申請手続き・よくある質問までを、申請前に確認すべきポイントとして体系的に解説します。この記事を読むことで、自分たちが80%給付の対象者であるかを正確に判定でき、安心して育休を取得するための計画を立てることができます。
育休給付金の給付率が80%に引き上げられる制度とは?【2025年4月改正の全体像】
なぜ80%に引き上げるのか?少子化対策と男性育休促進の背景
日本の合計特殊出生率は2023年に過去最低の1.20を記録し、少子化対策は国家的な急務となっています。政府は2023年に「こども未来戦略方針」を策定し、その柱の一つとして男性の育休取得率の大幅向上を掲げました。
男性育休取得を阻む最大の障壁の一つが「収入の減少」です。従来の育休給付金の給付率は最大67%(休業開始から180日以内)であり、社会保険料免除を考慮しても手取りで約80%程度にとどまっていました。しかし休業180日超になると給付率は50%に下がり、長期育休を取得しにくいという現実がありました。
今回の制度改正では、夫婦がともに育休を取得することを条件に、給付率を実質80%まで引き上げるという新しいアプローチが導入されました。男性育休の取得を金銭的にサポートすることで、育休取得のハードルを下げ、少子化に歯止めをかける狙いがあります。
政府目標として、男性の育休取得率を2025年度に50%、2030年度に85%に引き上げることが掲げられており、今回の給付率改正はその実現に向けた具体的な施策です。
「育児休業給付金67%」と「出生後休業支援給付金13%」の2本立て構造
「給付率80%」という数字は、実は2つの別々の給付を合算した数字です。この点が最も誤解されやすいポイントのため、まず構造を整理します。
| 給付の種類 | 給付率 | 根拠法 | 支給機関 |
|---|---|---|---|
| 育児休業給付金 | 休業開始から180日以内:67% 180日超:50% |
雇用保険法第61条の4 | ハローワーク |
| 出生後休業支援給付金(新設) | 13% | 雇用保険法第61条の4の2 | ハローワーク |
| 合計(対象者のみ) | 最大80% | — | — |
育児休業給付金は、育休取得者全員を対象とした既存の給付です。休業開始から180日以内は賃金の67%、180日超は50%が支給されます。
出生後休業支援給付金は、2025年4月1日に新設された給付です。夫婦が一定期間ともに育休を取得した場合に、通常の育児休業給付金に上乗せして13%が追加支給されます。
この2つを合計することで「67% + 13% = 80%」となります。さらに、育休中は社会保険料(健康保険・厚生年金)が労使ともに免除されるため、実質的な手取りは従前の給与の約10割相当になると言われています。
ポイント: 80%の給付率は出生後休業支援給付金の対象者条件を満たした場合のみ適用されます。条件を満たさない場合は従来通り最大67%(180日以内)となります。
給付率80%引き上げの対象者になるための3つの基本条件
給付率80%を受けるためには、まず「育休給付金の受給資格そのもの」を満たしたうえで、「出生後休業支援給付金の追加条件」をクリアする必要があります。
条件①|雇用保険に加入していること(加入期間の要件緩和も解説)
育休給付金を受給するための大前提は、雇用保険の被保険者であることです。
法的根拠: 雇用保険法第4条第1項、第61条の4
雇用保険加入要件の詳細
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 同一の事業主に継続して31日以上雇用される見込みがあること
パートタイマー・派遣労働者・契約社員であっても、上記2要件を満たせば雇用保険に加入でき、給付金の受給対象となります。
2024年度改正による「加入期間要件」の緩和
従来は「育休開始日前2年間に賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヶ月以上」という要件がありました。2024年度の改正により、この12ヶ月という加入期間要件が大幅に緩和されました。
具体的には、育児休業開始日前2年間の被保険者期間が12ヶ月に満たない場合でも、育休開始日前4年間まで算定期間を延長して要件を判断するようになりました。転職直後や産前休業をはさんでいるケースでも受給できる可能性が高まっています。
対象労働者の例:
– 正社員(フルタイム)
– パートタイマー(週20時間以上)
– 派遣社員(31日以上の雇用見込みあり)
– 有期契約社員(育休開始時点で雇用継続1年以上または育休終了予定日までの契約がある)
条件②|育児休業を取得していること(取得期間と分割取得のルール)
育休給付金の受給には、育児・介護休業法に基づく育児休業を適法に取得していることが必要です。
法的根拠: 育児・介護休業法第2条、雇用保険法第61条の4
取得できる期間
- 原則:子が1歳になるまで(最長で2歳まで延長可能)
- 延長要件:保育所に入所できない等のやむを得ない理由がある場合
分割取得について
2022年10月の法改正により、育児休業は2回まで分割取得が可能になりました。また「産後パパ育休(出生時育児休業)」として、子の出生後8週間以内に最大4週間(28日)、2回に分割して取得できる制度も整備されています。
出生後休業支援給付金における取得期間の要件
出生後休業支援給付金(追加の13%)を受給するためには、取得期間にも条件があります。詳しくは次のセクションで解説しますが、子の出生後一定の期間内に育休を取得していることが必要です。
条件③|給付要件(賃金支払基礎日数)を満たすこと
育休給付金の支給要件として、育休開始前の就労実績が求められます。
法的根拠: 雇用保険法第61条の4第2項
賃金支払基礎日数の要件
育児休業を開始した日前2年間(最大4年間まで延長可能)に、賃金支払基礎日数が11日以上ある完全月が12ヶ月以上あることが必要です。
| 確認ポイント | 内容 |
|---|---|
| 算定期間 | 育休開始日前2年間(最大4年に延長) |
| 必要月数 | 12ヶ月以上 |
| 1ヶ月の条件 | 賃金支払基礎日数が11日以上 |
| 11日未満の月の扱い | 労働時間が80時間以上であれば算入可能(2022年改正) |
注意: 産前休業・産後休業期間中は就労していないため、この期間が2年間の算定期間に含まれると要件を満たしにくくなる場合があります。その際は算定期間を最大4年まで延長して判断します。
出生後休業支援給付金(追加13%)の対象者条件【最重要】
給付率を67%から80%に引き上げる核心は、出生後休業支援給付金の受給条件にあります。ここが本制度のポイントであり、すべての育休取得者に適用されるわけではありません。
夫婦がともに育休を取得することが必須条件
出生後休業支援給付金は、被保険者とその配偶者の両方が育休を取得することを要件としています。片方のみの育休取得では、追加の13%は支給されません。
夫婦同時取得の具体的な条件
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 子の出生後の取得期間 | 子の出生後8週間(56日)以内に育休を取得すること |
| 必要な取得日数(被保険者本人) | 14日以上の育休取得 |
| 必要な取得日数(配偶者) | 14日以上の育休取得 |
| 同時取得の要否 | 完全な同時取得は不要。期間が重なっていなくても可(両者が各自14日以上取得していれば対象) |
ポイント: 夫婦双方がそれぞれ独立して14日以上の育休を取得することが条件です。「同時に休む期間」が何日必要かという規定はなく、各自の取得期間が要件を満たしていれば、時期がずれていても対象となります。
一人親・配偶者がいない場合
配偶者がいない一人親(シングルマザー・シングルファーザー)や、配偶者が育休取得困難な場合は、配偶者の育休取得要件を免除する特例が設けられています。配偶者が育休を取得できないやむを得ない理由(配偶者の死亡、配偶者が障害を有する等)がある場合には、本人のみの取得でも出生後休業支援給付金の対象となります。
支給対象期間:子の出生後28日間
出生後休業支援給付金(13%上乗せ)の支給対象となる育休期間は、子の出生後28日間(4週間)に限られます。
この28日間の育休を夫婦それぞれが取得することが条件であり、28日を超えた育休期間については通常の育児休業給付金(67%または50%)のみが適用されます。
給付率80%を適用した場合の支給額計算方法
実際にどれくらいの金額が支給されるのか、具体的な計算方法を解説します。
給付額の基本計算式
育児休業給付金(67%部分)の計算:
支給額 = 休業開始時の賃金日額 × 支給日数 × 67%
出生後休業支援給付金(13%部分)の計算:
支給額 = 休業開始時の賃金日額 × 支給日数 × 13%
合計(対象者):
合計支給額 = 休業開始時の賃金日額 × 支給日数 × 80%
賃金日額の算出方法
賃金日額は、育休開始前6ヶ月間の賃金を180で割った金額です。
賃金日額 = 育休開始前6ヶ月の賃金総額 ÷ 180
ただし、賃金日額には上限・下限が設けられています(毎年8月に改定)。
| 区分 | 金額(2025年度目安) |
|---|---|
| 賃金日額の上限 | 約15,190円(変動あり) |
| 賃金日額の下限 | 約2,869円(変動あり) |
| 支給額の上限(67%の場合・1ヶ月) | 約305,721円 |
注意: 賃金日額の上限・下限および支給上限額は毎年8月1日に改定されます。最新の金額はハローワークまたは厚生労働省の公式ウェブサイトでご確認ください。
具体的な計算例
【例】月収30万円の場合(育休開始から28日間・夫婦同時取得の対象者)
月収30万円 ÷ 30日 = 賃金日額 10,000円
育児休業給付金(67%):
10,000円 × 28日 × 67% = 187,600円
出生後休業支援給付金(13%):
10,000円 × 28日 × 13% = 36,400円
合計:187,600円 + 36,400円 = 224,000円(28日間)
この計算に加えて、育休中は社会保険料(健康保険・厚生年金)が労使ともに免除されるため、実際の手取りへの影響はさらに小さくなります。社会保険料の免除額は月収の約15%程度(労働者負担分)となるため、「給付率80% + 社会保険料免除」で実質的な手取りは給与の約10割相当に近づきます。
申請手続きと必要書類
申請窓口と申請タイミング
育休給付金(出生後休業支援給付金を含む)の申請窓口は、事業所を管轄するハローワーク(公共職業安定所)です。通常は事業主(会社)を通じた申請が一般的です。
| 給付の種類 | 申請タイミング |
|---|---|
| 育児休業給付金 | 育休開始から約2ヶ月後(初回)、以降2ヶ月ごと |
| 出生後休業支援給付金 | 育休終了後(夫婦双方の育休取得実績が確認できた後) |
主な必要書類
育児休業給付金の申請書類:
– 育児休業給付受給資格確認票(初回のみ)
– 育児休業給付金支給申請書
– 賃金台帳・出勤簿(または賃金月額証明書)
– 母子健康手帳(子の出生を証明するページの写し)
– 育児休業取得の証明書類(会社発行)
出生後休業支援給付金の追加書類:
– 配偶者の育児休業取得を確認できる書類(配偶者の在籍会社が発行した育休証明書等)
– 配偶者の雇用保険被保険者証(写し)
注意: 申請書類の様式は厚生労働省・ハローワークのウェブサイトからダウンロードできます。書類の不備があると給付が遅れる場合があるため、事前に管轄のハローワークに確認することをお勧めします。
事業主の手続きフロー
- 育休開始前:育休申請書を労働者から受領、育児休業開始の確認
- 育休開始後2週間以内:ハローワークへ「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」を提出
- 育休開始から約1ヶ月後:「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書」を提出
- 以降2ヶ月ごと:「育児休業給付金支給申請書」を提出
- 出生後休業支援給付金:配偶者の育休取得実績が確認でき次第、追加申請を行う
80%給付率の対象外となるケースと注意点
以下のケースでは、出生後休業支援給付金(13%上乗せ)の対象外となります。80%を期待している場合は事前に確認してください。
| ケース | 対象外の理由 |
|---|---|
| 配偶者が育休を取得しない(または取得できない) | 夫婦同時取得要件を満たさない(特例あり) |
| 配偶者が雇用保険に加入していない | 配偶者側の給付対象外(自営業・専業主婦など) |
| 子の出生後8週間を過ぎてから育休を取得した | 取得期間要件を満たさない |
| 取得日数が14日未満 | 必要日数要件を満たさない |
| 育休開始から180日を超えた期間 | 通常の育休給付金は50%、上乗せ13%も対象外 |
配偶者が自営業・専業主婦(夫)の場合の特例: 配偶者が雇用保険に加入していない場合でも、一定の要件を満たせば出生後休業支援給付金の対象となる特例措置が検討されています。最新情報はハローワークまたは厚生労働省のウェブサイトでご確認ください。
企業の人事担当者が押さえておくべき対応ポイント
育休取得推進のための社内整備
2025年4月の制度改正を受け、人事担当者は以下の対応が求められます。
1. 就業規則・育休規程の確認・更新
出生後休業支援給付金に対応した育休規程の整備が必要です。特に「産後パパ育休(出生時育児休業)」の規定が適切に盛り込まれているか確認してください。
2. 従業員への制度周知
妊娠・出産の報告を受けた際に、配偶者を含む給付率80%の条件を丁寧に説明することで、男性育休取得の促進につながります。
3. 申請書類の整備と提出管理
出生後休業支援給付金の申請では、配偶者の育休取得証明書など従来と異なる書類が必要になります。申請漏れ・遅延がないよう、チェックリストの整備をお勧めします。
4. 社会保険料免除手続きの確認
育休中の社会保険料免除は、事業主から年金事務所への届出が必要です。育休開始・終了のタイミングで確実に手続きを行いましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 育休給付金の80%は、育休期間全体に適用されますか?
いいえ。出生後休業支援給付金(追加の13%)が適用されるのは、子の出生後28日間(4週間)の育休期間に限られます。28日を超えた育休期間については、通常の育児休業給付金(休業開始から180日以内は67%、180日超は50%)のみが適用されます。
Q2. 配偶者が専業主婦(夫)でも80%の給付率を受けられますか?
原則として、出生後休業支援給付金は配偶者も雇用保険に加入し、育休を取得することが条件です。ただし、一人親の場合や配偶者が育休取得困難な特段の事情がある場合には特例的な取り扱いがあります。詳細は管轄のハローワークにお問い合わせください。
Q3. パートタイマーや派遣社員でも80%の給付率の対象になりますか?
雇用保険に加入しており(週20時間以上・31日以上雇用の見込み)、かつ出生後休業支援給付金の対象者条件(夫婦14日以上の育休取得等)を満たせば、パートタイマーや派遣社員でも対象となります。
Q4. 育休を2回に分割した場合でも80%は適用されますか?
出生後休業支援給付金の条件は「子の出生後8週間以内に14日以上の育休を取得」することです。分割取得した2回の合計が14日以上であっても、8週間以内の取得分が14日に達しているかが判断基準となります。分割のスケジュールを組む際は、事前に確認しておくことをお勧めします。
Q5. 2025年4月より前に育休を開始した場合、新制度は適用されますか?
出生後休業支援給付金(新設給付)は、2025年4月1日以降に育休を開始した方が対象です。2025年4月より前に育休を開始している場合は、原則として旧制度(最大67%)が適用されます。ただし、2025年4月以降に新たに出生時育児休業を取得する場合など、詳細は管轄のハローワークにご確認ください。
Q6. 出生後休業支援給付金はいつ支給されますか?
出生後休業支援給付金は、育児休業給付金とは別途申請が必要であり、夫婦双方の育休取得実績が確認できた後に申請を行います。申請後、ハローワークでの審査を経て支給されます。申請は事業主経由で行うのが一般的です。
まとめ:給付率80%を確実に受給するための確認事項
育休給付金の給付率80%引き上げは、2つの給付(育児休業給付金67% + 出生後休業支援給付金13%)を組み合わせた制度であり、自動的に全員に適用されるものではありません。
給付率80%を受けるために確認すべき5つのポイントを最後に整理します。
| 確認事項 | 要件 |
|---|---|
| ① 雇用保険加入 | 週20時間以上・31日以上雇用見込みで加入済み |
| ② 就労実績 | 育休前2年間(最大4年)に賃金支払基礎日数11日以上の月が12ヶ月以上 |
| ③ 育休取得期間 | 子の出生後8週間(56日)以内に育休取得開始 |
| ④ 本人の取得日数 | 14日以上の育休取得 |
| ⑤ 配偶者の取得 | 配偶者も14日以上の育休取得(特例除く) |
申請手続きは会社を通じてハローワークに行います。制度の細部は改正により変わることがあるため、申請前に管轄のハローワークや社会保険労務士への相談を強くお勧めします。育休給付金を最大限に活用し、安心して育休を取得できる環境を整えましょう。
本記事で解説した対象者条件・計算方法・申請手続きを確認することで、2025年度の給付率80%制度を正確に理解し、自分たちの育休計画に活かしていただきたいと思います。
免責事項: 本記事は2025年4月時点の情報に基づいて執筆しています。法令・制度の改正により内容が変更になる場合があります。最新情報は厚生労働省・ハローワークの公式ウェブサイトまたは管轄のハローワークにてご確認ください。

