育休・産休中に「解雇する」と言われた、あるいは退職を迫られた——そのような状況に直面したとき、多くの労働者は「本当に違法なのか」「どう対応すればいいのか」と戸惑います。結論から言えば、育休・産休中の解雇は法律で明確に禁止されており、違反した企業は損害賠償責任を負います。
本記事では、解雇禁止の法的根拠・保護対象・不利益取扱いとの違い・損害賠償の請求方法まで、労働者と企業担当者の双方が正確に理解できるよう体系的に解説します。
育休中の解雇禁止とは|法的根拠を徹底解説
育休は「雇用契約を存続させながら、労務提供義務を一時的に免除する制度」です。つまり、育休中も雇用契約は継続しており、企業はその契約を解雇によって終了させることを一切禁じられています。
この禁止規定は複数の法律が重層的に保護しており、どれか一つではなくすべての法律が同時に適用されます。
育児介護休業法第10条「育休中・申出者への解雇禁止」
育児・介護休業法第10条は、育休取得を理由とした解雇その他の不利益取扱いを明確に禁止しています。
保護される行為の範囲:
| 状況 | 保護内容 |
|---|---|
| 育休を申し出た時点 | 申出後すぐに解雇禁止が適用 |
| 育休開始中 | 全期間にわたって解雇禁止 |
| 育休を取得しようとしている | 事実上の解雇予告も禁止対象 |
ポイント: 「育休申出をした」という行為そのものが保護のトリガーになります。まだ育休が始まっていなくても、申し出た翌日に解雇通告を受けた場合も違法です。
育児介護休業法第11条「育休終了後30日間の解雇禁止」
育休が終了しても、すぐに解雇できるわけではありません。育児・介護休業法第11条により、育休終了日から起算して30日間は解雇が禁止されています。
この規定は、育休から職場復帰した直後の労働者を保護するものです。「育休が終わったからもう解雇できる」と誤解している企業担当者も多いため、特に注意が必要です。
実務上の注意: 育休終了日が明確でない場合(育休の延長を繰り返した場合など)は、最終的な育休終了日から30日間をカウントします。
育児介護休業法第12条「不利益取扱い禁止」との違い
同法第12条の「不利益取扱い禁止」は、解雇以外の広範な不利益行為を禁止するものです。
| 条文 | 禁止内容 | 主な違反例 |
|---|---|---|
| 第10条 | 解雇・雇用契約の終了 | 育休中の解雇通告、契約不更新 |
| 第12条 | 解雇以外の不利益取扱い | 降格、減給、賞与カット、配置転換強要、職場復帰拒否 |
「解雇はしていないが、育休から戻ったら降格させた」「賞与を大幅にカットした」という行為は第12条違反に該当します。解雇禁止(第10条)と不利益取扱い禁止(第12条)はセットで理解することが重要です。
産前産後休業中の解雇禁止(労働基準法第19条)
産前産後休業中の解雇禁止は、育児・介護休業法ではなく労働基準法第19条が根拠となります。
保護期間:
産前休業:出産予定日の6週間前から(多胎妊娠は14週間前から)
産後休業:出産日の翌日から8週間
└─ この全期間+産後休業終了後30日間は解雇禁止
労働基準法第19条は育児・介護休業法よりも罰則規定が厳しく(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)、刑事責任を問われる可能性があります。
男女雇用機会均等法による追加保護
男女雇用機会均等法第9条は、妊娠・出産・産前産後休業の取得を理由とした解雇を禁止しています。
さらに同条第4項では、妊娠中・産後1年以内の解雇は原則として違法と推定されます(企業側が「妊娠・出産と無関係」であることを立証しない限り、解雇は無効)。
この「推定規定」は労働者にとって非常に有利な仕組みです。「妊娠とは関係ない理由で解雇した」と企業が主張しても、その立証責任は企業側にあります。
解雇禁止の対象者|雇用形態別・段階別の保護範囲
育休中の解雇禁止は、雇用形態・勤続年数・給与額に関係なくすべての労働者に適用されます。「パートだから」「試用期間中だから」という理由で保護が外れることはありません。
正社員の解雇禁止範囲と適用期間
正社員は最も手厚い保護を受けます。育休の申出から育休終了後30日間まで、連続して解雇禁止規定が適用されます。
保護タイムライン(正社員の例):
妊娠発覚
↓
産前休業開始(出産6週前)──┐
↓ │ 労基法第19条による保護
出産 │
↓ │
産後休業終了(産後8週)────┘
↓
育休開始──────────────────┐
↓ │ 育介法第10条による保護
育休終了 │
↓ │
育休終了後30日間──────────┘ 育介法第11条による保護
契約社員・派遣社員の保護(契約期間満了時の注意点)
契約社員・派遣社員にも解雇禁止は適用されますが、契約期間満了による雇止めについては注意が必要です。
- 原則: 育休中であっても、契約期間の満了を理由とした雇止めは「解雇」とは異なるため、直ちに違法とはなりません
- 例外: 反復更新の実態がある場合、雇止めは解雇と同視され、合理的理由なく雇止めを行えば無効となります(労働契約法第19条)
派遣社員の場合: 派遣元(雇用主)と派遣先の双方が法的義務を負います。派遣先が育休を理由に「派遣を終了してほしい」と派遣元に申し入れる行為も、間接的な不利益取扱いとして問題になります。
パート・アルバイトも対象(雇用契約がある限り保護)
パートタイム・アルバイトも、雇用契約(労働契約)がある限り、育児・介護休業法の保護を受けます。
育休取得の要件として「同一事業主に引き続き1年以上雇用されていること」がありましたが、2022年4月の法改正により労使協定がない限り、入社1年未満でも育休取得が可能になりました。育休を取得できる条件が広がったことで、保護対象者も拡大しています。
試用期間中の解雇禁止(試用期間は免除されない)
試用期間中であっても、育休・産休を理由とした解雇は禁止されています。「まだ試用期間中なので解雇できる」という主張は法律上認められません。
試用期間は「適性の判断期間」であり、解雇禁止規定の適用外にはなりません。試用期間中の解雇であっても、妊娠・育休が理由であれば男女雇用機会均等法違反・育児介護休業法違反の両方が成立します。
産前産後休業中の対象者と保護期間
| 種別 | 産前休業 | 産後休業 |
|---|---|---|
| 単胎妊娠 | 出産予定日の6週間前から | 出産翌日から8週間 |
| 多胎妊娠(双子など) | 出産予定日の14週間前から | 出産翌日から8週間 |
産後8週間の産後休業は法定の強制休業であり、労働者が希望しても就業させることができません(医師が認めた場合の産後6週間経過後を除く)。
「解雇禁止」と「不利益取扱い禁止」の具体的な違反事例
解雇以外にも、育休取得を理由とした不利益取扱いは広く禁止されています。企業担当者が特に注意すべき具体的な違反事例を整理します。
違反となる行為の一覧
| 行為 | 違反する法律 | 具体例 |
|---|---|---|
| 育休中の解雇通告 | 育介法第10条 | 「育休取得者は解雇する」と伝える |
| 退職勧奨の強要 | 育介法第12条 | 「育休を取るなら辞めてほしい」 |
| 育休後の降格 | 育介法第12条 | 復帰後に役職・職位を下げる |
| 賞与の大幅カット | 育介法第12条 | 育休取得を理由に賞与算定から全除外 |
| 妊娠を理由とした解雇 | 均等法第9条 | 「妊娠したから解雇」は推定違法 |
| 産休中の整理解雇 | 労基法第19条 | 経営悪化を理由でも産休中は禁止 |
違反時の対応|損害賠償請求と行政への申告方法
育休・産休中に違法な解雇・不利益取扱いを受けた場合、労働者は複数の手段で対抗できます。
解雇の無効主張と地位確認請求
違法な解雇は法律上無効です(民法第90条・労働契約法第16条)。解雇通告を受けても、以下の手順で対応してください。
Step 1: 解雇通知書の受領と保管
解雇理由が記載された書面を必ず受け取り、日付・内容を記録してください。口頭での解雇通告の場合は、日時・発言内容をメモしておきましょう。
Step 2: 解雇理由証明書の請求
労働基準法第22条に基づき、解雇理由証明書の交付を請求できます。書面で請求することを推奨します。
Step 3: 解雇無効の主張
解雇が無効であることを書面(内容証明郵便)で企業に通知し、雇用関係の継続と未払い賃金の支払いを求めます。
損害賠償請求の根拠と金額の目安
違法解雇による損害賠償請求の主な根拠は以下の通りです。
| 請求の根拠 | 請求できる内容 |
|---|---|
| 雇用関係存続 | 解雇期間中の賃金全額(バックペイ) |
| 不法行為(民法第709条) | 精神的苦痛に対する慰謝料 |
| 債務不履行(民法第415条) | 企業の義務違反による損害賠償 |
| 育休給付金の逸失 | 違法解雇で受給できなくなった給付金相当額 |
損害賠償の目安:
– 賃金バックペイ:解雇期間中の月給×月数(上限なし)
– 慰謝料:事案によって異なりますが、50万〜300万円程度が裁判例の目安
– 弁護士費用:認容額の10%程度を損害として請求できる場合があります
行政機関への申告・相談窓口
| 相談窓口 | 対応内容 | 連絡先 |
|---|---|---|
| 都道府県労働局雇用環境・均等部 | 育介法・均等法違反の申告・指導 | 各都道府県の労働局に設置 |
| 労働基準監督署 | 労基法第19条違反の申告 | 全国の労働基準監督署 |
| 労働局あっせん制度 | 無料・非公開の紛争解決手続き | 申請費用無料 |
| 法テラス | 弁護士費用の立替制度 | 0570-078374 |
重要: 育児・介護休業法違反(解雇禁止違反)の申告は、都道府県労働局の「雇用環境・均等部(室)」が窓口です。労働基準監督署ではなく、労働局に申告することがポイントです。
裁判(労働審判・民事訴訟)の活用
行政対応で解決しない場合は、司法手段を活用します。
労働審判(推奨):
– 申立てから原則3回以内の期日で解決(通常3〜6ヶ月)
– 費用:申立手数料のみ(数千〜数万円程度)
– 相手企業との調停・審判で実質的な解決が可能
民事訴訟:
– 労働審判の異議申立て後、または直接提訴
– 判決に拘束力があり、確定後は強制執行が可能
企業担当者が押さえるべき対応手順と社内整備
企業の人事担当者は、解雇禁止規定の違反リスクを防ぐため、以下の対応を整備してください。
育休取得者への対応チェックリスト
□ 育休申出の受理書面を作成・交付する
□ 育休期間中の賃金・社会保険料負担を確認する
□ 職場復帰後のポジションを事前に確保する
□ 業務引継ぎ計画を育休前に策定する
□ 育休中の解雇・退職勧奨を一切行わない
□ 育休終了後30日間は解雇禁止期間として社内周知する
□ 管理職に対して育介法・均等法の研修を実施する
整理解雇(リストラ)時の注意点
経営悪化などによる整理解雇(リストラ)であっても、産休・育休中は原則として解雇できません(労働基準法第19条ただし書きにある「やむを得ない事由のある場合」は極めて限定的)。
整理解雇の4要件(①必要性、②回避努力、③人選の合理性、④手続きの相当性)をすべて満たしたとしても、産休・育休中はさらに高いハードルがあります。弁護士への相談なしに産休・育休中の従業員を整理解雇することは避けてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 育休中に会社が倒産した場合はどうなりますか?
A. 会社の倒産(破産・清算)は、労働基準法第19条ただし書きの「やむを得ない事由」に該当し、産休・育休中でも雇用関係が終了する場合があります。この場合、未払い賃金は未払賃金立替払制度(独立行政法人労働者健康安全機構)を通じて一定額の立替払いを受けられます。
Q2. 育休中に「退職届を書いてほしい」と言われた場合は?
A. 退職届への署名を強要されても、自由意思に基づかない退職合意は無効です。署名しないことを明確に伝え、やりとりを録音・記録してください。署名してしまった場合でも、強迫・錯誤を理由に取消しできる可能性があります。速やかに弁護士や労働局に相談してください。
Q3. 「業績不振による部署廃止」を理由に解雇されそうです。違法ですか?
A. 育休・産休中は、部署廃止・会社の業績不振を理由とする解雇も原則禁止です。ただし、会社全体が消滅するような倒産・解散の場合は例外となります。単なる部署廃止は「やむを得ない事由」には該当せず、違法な解雇となる可能性が高いです。
Q4. 育休取得後、職場復帰したら別の部署に異動させられました。これは違法ですか?
A. 育休取得を理由とした不利益な配置転換は育児・介護休業法第12条違反となる可能性があります。ただし、業務上の必要性があり、他の従業員も同様に異動している場合は合法となることもあります。「育休を取ったから」という理由が主因であれば違法です。
Q5. 育休給付金を受給中に解雇された場合、給付金はどうなりますか?
A. 違法な解雇によって育休が終了した場合、育休給付金(雇用保険から支給される給付)の受給権も失われる可能性があります。この逸失した給付金額も、企業への損害賠償請求の対象に含めることができます。解雇後はすぐにハローワークと弁護士の両方に相談することを推奨します。
まとめ
育休・産休中の解雇禁止は、育児・介護休業法・労働基準法・男女雇用機会均等法の三重の法律によって保護されています。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 保護期間 | 育休申出〜育休終了後30日間(産休中は別途保護) |
| 対象者 | 雇用形態・勤続年数問わずすべての労働者 |
| 違反時の対応 | 解雇無効主張・損害賠償請求・労働局申告・労働審判 |
| 企業の義務 | 申出受理・復帰ポジション確保・不利益取扱い禁止 |
育休中に解雇や退職勧奨を受けた場合は、一人で判断せず、まず労働局または弁護士に相談してください。 相談は無料で行えるケースが多く、あなたの権利を守るための専門的なサポートを受けられます。
本記事は2026年1月時点の法令に基づいています。法改正により内容が変わる場合がありますので、最新情報は厚生労働省のウェブサイトまたは専門家にご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 育休中に解雇すると言われました。本当に違法ですか?
A. はい、違法です。育児介護休業法第10条により、育休中の解雇は明確に禁止されており、企業は損害賠償責任を負います。
Q. パートやアルバイトも育休中の解雇禁止は適用されますか?
A. はい、適用されます。雇用形態に関係なく、すべての労働者が保護されます。正社員と同等の法的保護を受けます。
Q. 育休が終わったら解雇されてもいいですか?
A. いいえ。育休終了後も30日間は解雇禁止です。育児介護休業法第11条により、職場復帰直後の労働者を保護しています。
Q. 降格や減給は大丈夫ですか?
A. いいえ、違法です。解雇以外の降格・減給・配置転換強要は第12条の不利益取扱い禁止に該当します。解雇禁止と不利益取扱い禁止の両方で保護されます。
Q. 育休申出後、まだ育休が始まっていなくても解雇禁止は適用されますか?
A. はい、適用されます。育休を申し出た時点で保護が開始され、申出後の解雇は違法となります。

