育児休業中は収入が減少するなか、社会保険料の免除制度は労働者にとって大きな経済的支援です。2025年の法改正によってこの制度にも重要な変更が加わります。本記事では、改正前後の比較・対象者要件・申請手続き・必要書類を体系的に解説します。人事担当者にも参考になる実務情報を盛り込んでいますので、ぜひ最後までご確認ください。
2025年改正の概要|何が変わったのか
改正前後の比較表
2025年4月改正の主な変更点を一覧表で整理します。
| 項目 | 改正前(〜2025年3月) | 改正後(2025年4月〜) |
|---|---|---|
| 給与支給期間の取扱い | 月内に給与支給がある場合でも月単位で免除 | 月末時点で育児休業を取得しているかで判定(短期取得への見直し) |
| 対象児童年齢 | 原則1歳未満(延長で最大2歳) | 延長・特例要件の判定基準が整理・明確化 |
| 被扶養配偶者の要件 | 一部条件付きで免除対象 | 要件緩和・対象範囲を拡大 |
| 複数児育児の扱い | 個別対応・運用が不統一 | 複数児同時育児に対応した延長規定を明文化 |
| 短期育休(1か月未満)の賞与保険料 | 支給月末以外でも一定条件で免除 | 月末在籍要件を厳格化し、一部免除廃止 |
| 申請書類の様式 | 旧様式 | 2025年4月対応の新様式に更新 |
⚠️ ポイント:特に「短期育休における賞与保険料の免除廃止」は実務上の影響が大きい変更です。詳しくはH2-4で解説します。
改正の背景と厚生労働省の狙い
今回の改正は、少子化対策の強化と育児と仕事の両立支援の実効性向上を主な目的としています。
厚生労働省が問題視したのは、制度の「抜け穴的利用」でした。一部の事業者が、賞与支給月の月末だけ短期の育児休業を取得させることで、本来の育休目的とは異なる形で賞与の社会保険料を免除させるケースが指摘されていました。
2025年改正では、こうした不適切な利用を防止しつつ、真に育児に専念する労働者の保険料負担を適切に軽減することにバランスを取った制度設計がなされています。
また、共働き世帯の増加・男性育休取得の促進を踏まえ、被扶養配偶者の要件緩和や複数児育児への対応も盛り込まれました。
2025年4月施行日のスケジュール
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2024年秋〜冬 | 改正内容の通達・様式更新の予告 |
| 2025年4月1日 | 新制度施行開始 |
| 2025年4月以降に開始する育休 | 新ルール適用 |
| 2025年3月31日以前に開始した育休 | 原則として旧ルールが継続適用(経過措置) |
経過措置のポイント:2025年3月31日以前に育児休業を開始した場合は、引き続き旧制度の免除ルールが適用されます。新制度が適用されるのは2025年4月1日以降に新たに育児休業を開始した方が原則となります。年度をまたいで育休を取得している方は、自社の人事担当者または年金事務所に確認してください。
保険料免除の対象者|あなたは該当するか
対象者の要件チェックリスト
以下の項目をすべて満たしている場合、保険料免除の対象となります。
☑ 厚生年金保険・健康保険に加入している
☑ 育児・介護休業法に基づく育児休業を取得している
☑ 育児休業期間が「月末をまたいでいる」または「同一月内で14日以上」
(2025年改正ルール)
☑ 対象の子が1歳未満(延長要件を満たす場合は最大2歳まで)
☑ 勤務先が適用事業所である(個人事業主や国民年金のみの加入は対象外)
対象外となるケース(主な例)
- 自営業者・個人事業主(国民年金のみ加入)
- 有給休暇のみ取得している期間
- 育児休業ではなく「育児短時間勤務」を利用している場合
- 雇用保険未加入の方(育児休業給付金は別途不支給)
雇用形態別の対象条件
| 雇用形態 | 保険料免除の可否 | 注意点 |
|---|---|---|
| 正社員 | ○ 対象 | 原則すべての要件を満たす |
| 契約社員 | ○ 対象(条件あり) | 社会保険加入が要件。週20時間以上・月額8.8万円以上等の適用要件を確認 |
| 派遣社員 | ○ 対象(条件あり) | 派遣元事業主が手続きを行う。派遣先ではなく派遣元に確認 |
| 有期雇用労働者 | △ 一部対象 | 2022年改正で取得要件が緩和。育休終了後も雇用継続が見込まれる場合は取得可 |
| 自営業・個人事業主 | ✕ 対象外 | 国民健康保険・国民年金は免除制度なし |
| 公務員 | △ 別制度適用 | 共済組合の規定による。本記事の対象外 |
📌 2022年育児・介護休業法改正の影響:有期雇用労働者の「同一事業主に引き続き1年以上雇用」要件が廃止されたため、短期雇用の方でも育休取得・保険料免除の対象となるケースが増えています。
複数児同時育児の場合
2人以上の子を同時に育てている場合(双子・年子など)、育児休業の延長・免除期間についても特例が設けられています。
| ケース | 育休・免除期間 |
|---|---|
| 1人の子 | 原則1歳まで(延長で最大2歳) |
| 双子・多胎児 | 各児について個別に育休期間が認められる。保険料免除も同様に延長対応 |
| 年子(上の子の育休中に下の子が生まれた場合) | 下の子の誕生時点で新たに育休申請が可能。免除期間はそれぞれの育休期間に対応 |
2025年改正では、このような複数児育児への対応規定が明文化され、実務上の運用が統一されました。
免除される保険料の種類と金額目安
免除される保険料の種類
育児休業中に免除される社会保険料は以下のとおりです。
| 保険料の種類 | 被保険者(本人)分 | 事業主分 |
|---|---|---|
| 厚生年金保険料 | ✅ 免除 | ✅ 免除 |
| 健康保険料 | ✅ 免除 | ✅ 免除 |
| 介護保険料(40歳以上) | ✅ 免除 | ✅ 免除 |
| 雇用保険料 | ✗ 免除されない | ✗ 免除されない |
| 労働保険料 | ✗ 免除されない | ✗ 免除されない |
⚠️ 重要:免除されても「保険料を納付したものとして扱われる」ため、将来の年金額や傷病手当金の計算に影響しません。
月額保険料の免除額目安
標準報酬月額に応じた免除額の目安(本人負担分のみ)を示します。
| 標準報酬月額 | 健康保険料(本人分/月) | 厚生年金保険料(本人分/月) | 合計免除額目安/月 |
|---|---|---|---|
| 20万円 | 約9,900円 | 約18,300円 | 約28,200円 |
| 30万円 | 約14,850円 | 約27,450円 | 約42,300円 |
| 40万円 | 約19,800円 | 約36,600円 | 約56,400円 |
※健康保険料率は協会けんぽ(東京都・2024年度)10.00%を基準に試算。組合健保は料率が異なります。
※事業主負担分も同額が免除されるため、会社・本人合計の免除額は上記の2倍になります。
2025年改正で最も注意すべき変更点|短期育休と賞与保険料
賞与保険料の免除ルール変更(実務上最重要)
2025年改正で特に影響が大きいのが、月末をまたがない短期育休(1か月未満)における賞与保険料の免除廃止です。
改正前(〜2025年3月)
– 賞与支給月の末日が育休期間中であれば、賞与にかかる保険料も免除
改正後(2025年4月〜)
– 賞与保険料の免除は、育休期間が1か月超の場合のみ適用
– 月末だけ短期育休を取得して賞与の保険料を免除する運用は不可
【具体例】
賞与支給日:6月25日
育休期間:6月28日〜6月30日(3日間)
改正前:月末を含む育休中なので賞与保険料免除 ✅
改正後:育休期間が1か月以下のため賞与保険料免除 ✗
この変更は、会社・本人の双方に影響するため、人事担当者は特に注意が必要です。
申請手続きの流れと必要書類
申請の全体フロー
【STEP 1】育児休業開始(労働者)
↓ 育児休業開始前に会社へ申請書を提出
【STEP 2】会社内での手続き(人事・総務)
↓ 育休開始後、速やかに(遅くとも翌月末日まで)
【STEP 3】事業主から年金事務所へ届出
↓ 健康保険組合加入の場合は組合へも届出
【STEP 4】協会けんぽ or 健康保険組合への届出
↓ 並行してハローワークへの育休給付金申請も行う
【STEP 5】保険料免除の開始
↓ 翌月の給与・賞与から保険料が控除されなくなる
【STEP 6】育休終了・復職時に終了届を提出
必要書類一覧(2025年改正対応版)
従業員が準備する書類
| 書類名 | 提出先 | 備考 |
|---|---|---|
| 育児休業申出書 | 勤務先 | 育休開始の1か月前までに提出が望ましい |
| 育児休業給付金支給申請書 | 会社経由でハローワーク | 初回は育休開始から4か月以内 |
| 母子健康手帳のコピー(出生届出済証明欄) | 勤務先 | 子の生年月日確認用 |
| 育児休業取得証明書(保育所不承諾通知) | 勤務先 | 1歳以降延長の場合に必要 |
事業主が提出する書類(年金事務所・健康保険組合向け)
| 書類名 | 提出先 | 提出期限 |
|---|---|---|
| 育児休業等取得者申出書(新規・延長) | 年金事務所または健康保険組合 | 育休開始後、当月または翌月末日まで |
| 育児休業等取得者終了届 | 同上 | 育休終了後速やかに |
| 産前産後休業取得者申出書(産休の場合) | 同上 | 産休開始後速やかに |
📌 申請漏れに注意:保険料免除は「自動適用」ではありません。事業主が必ず届出を行う必要があります。手続きが遅れた場合でも遡及適用できるケースがありますが、必ず速やかに対応することを推奨します。
申請期限と注意事項
| 手続き | 期限 | 遅延した場合 |
|---|---|---|
| 育休給付金の初回申請 | 育休開始から4か月以内 | 時効は2年。遅れても原則申請可能 |
| 保険料免除の届出 | 育休開始後、当月末または翌月末 | 遅れた月の免除が受けられない可能性あり |
| 延長申請 | 1歳到達日の2週間前まで | 延長理由を証明する書類(保育所入所不承諾通知等)が必要 |
人事担当者向け実務チェックリスト
2025年4月以降の育休申請に対応するため、以下の点を確認してください。
☑ 社内の育児休業申出書・申請フローを新制度に対応させた
☑ 年金事務所・健康保険組合への届出様式を2025年4月版に更新した
☑ 賞与支給月の育休取得者に対する保険料免除ルール変更を周知した
☑ 有期雇用労働者への育休制度説明を更新した
☑ 複数名が同時期に育休取得する場合の対応フローを整備した
☑ 育休給付金申請のハローワーク手続きと社会保険手続きを並行管理できる体制
を整えた
よくある質問(FAQ)
Q1. 育休中に給与が一部支払われていても保険料は免除されますか?
A. 育児休業期間中に給与の支給がある場合でも、育児・介護休業法に基づく育児休業であれば、2025年改正後の免除判定基準(月末在籍要件または同一月14日以上)を満たしていれば、月額保険料は免除されます。ただし、給与額によっては育休給付金の支給額が調整される場合がある点に注意してください。
Q2. パートタイムでも社会保険料の免除を受けられますか?
A. 健康保険・厚生年金保険に加入しているパートタイム労働者であれば、対象となります。社会保険への加入要件(週20時間以上勤務・月額賃金8.8万円以上など)を満たしている方が対象です。国民健康保険・国民年金のみ加入の方は免除制度の対象外です。
Q3. 育休中に保険料が免除されると、将来の年金はどうなりますか?
A. 免除期間中も「保険料を納付したものとして扱われる」ため、将来の年金額に影響しません。これは育児休業期間中の保険料免除制度の大きなメリットの一つです(厚生年金保険法第13条の2に基づく)。
Q4. 産後パパ育休(出生時育児休業)も保険料免除の対象ですか?
A. 対象となります。2022年10月に創設された産後パパ育休(子の出生後8週間以内に最大4週間取得可能)も、育児・介護休業法に基づく育児休業として扱われ、保険料免除の対象です。2025年改正後も同様に対象です。
Q5. 1か月に2回育休を分割取得した場合、保険料免除はどうなりますか?
A. 2022年改正で育休の分割取得(2回まで)が可能になりました。分割取得の場合も、各取得期間が月末をまたぐ、または同一月内で14日以上という2025年改正後の判定基準を満たせば、それぞれの期間で保険料免除が受けられます。
Q6. 申請を会社がしてくれない場合はどうすればよいですか?
A. 保険料免除の届出は事業主が行う義務があります。会社が手続きをしない場合は、まず人事・総務担当部署に確認してください。それでも対応されない場合は、年金事務所または労働基準監督署に相談することができます。
まとめ
2025年4月の改正による育休保険料免除制度の主な変更点を再確認しましょう。
| 変更点 | 内容 |
|---|---|
| 賞与保険料の免除要件厳格化 | 1か月超の育休取得が条件に(短期育休は対象外) |
| 複数児育児の延長規定明文化 | 双子・年子への対応が統一 |
| 被扶養配偶者要件の緩和 | 対象範囲の拡大 |
| 申請様式の更新 | 2025年4月対応の新様式を使用 |
育休中の保険料免除は、本人・事業主双方の保険料が免除されるうえ、将来の年金にも影響しない大変有利な制度です。2025年4月以降に育休を取得予定の方は、新ルールを正確に理解し、申請漏れのないよう早めに準備を進めてください。
参考法令・公的資料
- 厚生年金保険法 第13条・第13条の2
- 健康保険法 第161条
- 育児・介護休業法 第23条
- 雇用保険法 第60条の3〜第60条の7
- 厚生労働省「育児休業、産後パパ育休中の社会保険料免除について」
- 日本年金機構「育児休業等期間中における社会保険料の免除」
本記事の情報は2025年4月時点の情報をもとに作成しています。制度の詳細・最新情報は、年金事務所・ハローワーク・厚生労働省の公式サイトでご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 2025年改正で育休中の保険料免除はどう変わりますか?
A. 月末時点での育児休業取得状況で判定する方式に変更されました。短期育休の賞与保険料免除が厳格化され、月末在籍要件が適用されます。
Q. 2025年4月以降、誰が新しい保険料免除制度の対象になりますか?
A. 厚生年金保険・健康保険加入者で、育児休業を月末またぎで14日以上取得し、対象児が1歳未満の方が対象です。延長要件で最大2歳まで対応します。
Q. 2025年3月31日以前に育休を開始した場合、どのルールが適用されますか?
A. 経過措置により、旧制度のルールが継続適用されます。新制度が適用されるのは2025年4月1日以降に開始した育休が原則です。
Q. 短期育休(1か月未満)の保険料免除はどうなりますか?
A. 月末在籍要件が厳格化されました。月末時点で育児休業を取得していない場合、賞与保険料の免除が廃止される可能性があります。
Q. 契約社員や派遣社員も保険料免除の対象になりますか?
A. 社会保険加入が要件です。契約社員は加入条件を、派遣社員は派遣元での加入状況を確認してください。

