育児参加への意識が高まる中、「パパ育休(出生時育休)を取りながら、通常育休も同時に使えないか?」という疑問を持つ方が増えています。結論から言えば、同一期間に両制度を並行取得することは法律上できません。なぜ「4週間」を最大限に活用したくても同時取得が認められないのか、その法的根拠と制度設計の背景を人事担当者・取得予定者の双方に向けてわかりやすく解説します。
パパ育休と通常育休が「同時取得不可」の理由【法的根拠を解説】
| 制度名 | 取得可能期間 | 分割取得 | 同時取得 | 給付金対象 |
|---|---|---|---|---|
| パパ育休(出生時育休) | 出生後8週間以内 | 最大2回まで可 | ×(不可) | 〇(実取得期間のみ) |
| 通常育休 | 子が1歳(最長2歳) | 原則分割不可 | ×(不可) | 〇(実取得期間のみ) |
| パパ育休後の通常育休 | パパ育休終了後から開始 | 要件による | 〇(順次取得可) | 〇(実取得期間のみ) |
根本的な制度設計思想
出生時育休(パパ育休)は育児・介護休業法第9条の2、通常育休は同法第5条にそれぞれ独立した制度として規定されています。
厚生労働省のガイダンスは以下のように示しています。
「出生時育休と通常の育児休業は、それぞれ独立した制度として設けられており、同一の期間に重複して取得することは認められていない。」
(厚生労働省『育児・介護休業法ガイダンス』2023年版)
同時取得が認められない理由は、大きく次の3点に整理できます。
| 理由 | 内容 |
|---|---|
| ① 二重給付の禁止 | 育児休業給付金は「実際に休業した期間」に対して支給されるため、同一期間に2制度から給付を受けることは二重受給となる |
| ② 労働者身分の一元化 | 法律上、育児休業中の身分(休業者としての扱い)は1つの制度に紐づけられる。複数の休業状態を同時に持つことは法的に想定されていない |
| ③ 制度の独立性 | 出生時育休は「出産直後の集中支援」、通常育休は「継続的な育児支援」という異なる政策目的を持つ独立制度であり、統合利用は立法趣旨に反する |
法律条文で確認する「同時取得不可」の根拠
育児・介護休業法 第9条の2 第1項(抜粋)
「労働者は、その子の出生の日から起算して8週間を経過する日の
翌日までの期間内に、4週間以内の期間を定めて、
出生時育児休業(以下「出生時育休」という。)を
することができる。」
この条文が「8週間の期間内」「最大4週間」という上限を明示しているのに加え、同法第5条(通常育休)は「育児休業」として別途規定されています。両条文に「他の育休制度と重複して利用できる」旨の規定は存在しません。法律の不遡及原則に従い、明示的に認められていない限り、同一期間の並行利用は不可と解釈されます。
出生時育休(パパ育休)の制度概要|対象者と基本ルール
出生時育休とは何か|通常育休との違い
2022年10月1日の育児・介護休業法改正により創設された出生時育休は、産後8週間という「母体回復期」に父親が積極的に育児参加できるよう設計された制度です。
| 比較項目 | 出生時育休(パパ育休) | 通常育休 |
|---|---|---|
| 法律根拠 | 第9条の2 | 第5条 |
| 取得可能期間 | 子の出生〜8週間以内 | 子の出生〜1歳(最大2歳) |
| 最大取得日数 | 28日(4週間) | 子1人当たり原則1年間 |
| 分割取得 | 最大2回 | 最大3回(2022年改正) |
| 就業の可否 | 労使協定締結で一部就業可 | 原則不可 |
| 申請期限 | 取得希望日の2週間前まで | 取得希望日の1ヶ月前まで |
| 給付率(休業開始180日以内) | 67% | 67% |
| 給付率(180日経過後) | 50% | 50% |
| 社会保険料 | 全額免除 | 全額免除 |
2025年改正ポイント: 育児休業給付金は休業開始28日間(180日以内相当)について給付率が実質13%上乗せ(手取りベース約80%)となる制度拡充が施行されています(雇用保険法改正)。最新の給付率は申請時点の法令で確認してください。
出生時育休の対象者要件|1年以上継続雇用が必須
出生時育休を取得できるのは以下の要件をすべて満たす労働者です。
【必須要件】
- 継続雇用期間:申請日時点で同一企業に1年以上継続勤務していること
- 取得開始時期:子の出生日から8週間以内に育休を開始すること
- 労使協定:会社が労使協定で除外対象を定めている場合、その対象者でないこと
【対象となる雇用形態】
- 正社員:すべて対象
- 有期契約社員:「子が2歳になるまでに労働契約が終了することが明らかでない」場合は対象
- 派遣社員:派遣元事業主に申請(2022年改正で要件緩和)
- 日雇い労働者:対象外
【除外対象(労使協定で設定可能)】
- 入社1年未満の労働者
- 申請日から8週間以内に雇用関係が終了する労働者
- 週の所定労働日数が2日以下の労働者
最大2回の分割取得ルール|いつ分割できるのか
出生時育休の大きな特徴は「最大2回の分割取得」です。ただし、分割のタイミングと条件には注意が必要です。
【分割取得の基本ルール】
例:子の出生日=4月1日(産後8週間=5月26日まで)
■ 1回目:4月1日〜4月14日(14日間)
■ 2回目:5月1日〜5月14日(14日間)
合計:28日間(最大4週間)
※ 各分割の最低期間:法律上の定めはないが、
実務上は1日単位での取得が可能
【通常育休との連続取得時の注意点】
出生時育休終了後に引き続き通常育休を取得することは可能です(連続取得)。ただし、以下の条件を守る必要があります。
- 出生時育休の終了日の翌日から通常育休を開始する
- 通常育休の申請は取得開始1ヶ月前までに会社へ届出
- 両制度の合計期間が育児休業給付金の受給上限(原則1年)に通算される
育児休業給付金の仕組み|「同時取得不可」の経済的理由
給付金は「実際に休業した期間」に対して支給される
育児休業給付金は雇用保険から支給されます(根拠法:雇用保険法第61条の7)。給付の基本原則は「実際に休業した日数×賃金日額×給付率」であり、「休業していない日」には給付されません。
同一期間に2制度を並行利用した場合の問題点:
【仮に並行取得を認めた場合のシミュレーション(NG例)】
賃金日額:15,000円
給付率:67%
出生時育休の給付:15,000円 × 67% × 28日=281,400円
通常育休の給付:15,000円 × 67% × 28日=281,400円
合計:562,800円(二重受給)
↓ 実際の「休業実態」は同じ28日間
→ 給付額は281,400円が正当
二重給付は雇用保険財政を不当に圧迫するため、
制度設計上から同時取得を禁止
給付率の変遷と正確な計算方法
育児休業給付金の給付率は以下のとおりです(2024年度現在)。
| 取得期間 | 給付率 | 実質手取り(社会保険料免除考慮) |
|---|---|---|
| 休業開始〜180日目 | 賃金の67% | 約80% |
| 181日目以降 | 賃金の50% | 約60% |
【給付金の計算式】
育児休業給付金の1ヶ月あたり支給額
= 休業開始前6ヶ月の賃金合計 ÷ 180日
(=賃金日額)
× 支給日数 × 給付率(67%または50%)
※ 上限額:2024年度
67%適用時:上限 約310,143円/月
50%適用時:上限 約231,450円/月
【社会保険料免除の効果】
育児休業期間中は、健康保険・厚生年金保険の保険料が全額免除されます(健康保険法第159条、厚生年金保険法第81条の2)。月額保険料が仮に5万円の場合、この免除だけで実質的な手取りが大きく改善します。
正しい期間選択の方法|出生時育休と通常育休の最適な使い方
同時取得はできないからこそ、「いつ・どちらの制度を使うか」の戦略的選択が重要です。
パターン別の最適な取得スケジュール
【パターンA:出生時育休(4週間)+通常育休(連続)】
出生日
|
|←── 出生時育休(最大28日)──→|←── 通常育休(〜1歳まで)──→|
Day1 Day28 Day29
産後すぐに在宅サポートをしつつ、育休期間を長く確保したい場合に最適です。
【パターンB:出生時育休(2回に分割)】
出生日 産後8週
| |
|← 1回目(14日) →| 空白期間 |← 2回目(14日) →|
Day1 Day14 Day22 Day35(8週末)
仕事の繁忙期を避けながら柔軟に取得したい場合に最適です。
【パターンC:出生時育休(2回分割)+通常育休】
出生日 1回目終了 職場復帰 2回目 通常育休
| | | | |
|← 1回目 →|← 職場復帰 →|← 2回目 →|← 通常育休(最大1年)→|
最も柔軟な取得方法です。仕事・育児のバランスを段階的に調整できます。
申請手続きの流れと必要書類
【出生時育休の申請フロー】
Step 1:取得希望日の2週間前までに会社へ申請
(通常育休は1ヶ月前まで)
Step 2:会社が育児休業取得の確認・承認
Step 3:会社がハローワークへ「育児休業給付受給資格確認票」を提出
Step 4:育休開始(給付金は2ヶ月ごとに支給申請)
Step 5:育休終了・職場復帰後に会社が終了届を提出
【必要書類一覧】
| 書類名 | 提出先 | 備考 |
|---|---|---|
| 育児休業申出書 | 勤務先 | 法定様式または会社所定様式 |
| 出生証明書(母子手帳のコピー) | 勤務先 | 子の出生事実の証明 |
| 育児休業給付受給資格確認票 | ハローワーク(会社経由) | 会社が代行手続き |
| 育児休業給付金支給申請書 | ハローワーク(会社経由) | 2ヶ月ごとに申請 |
| 健康保険・厚生年金保険育児休業等取得者申出書 | 年金事務所(会社経由) | 社会保険料免除のため |
企業の人事担当者が押さえるべき実務ポイント
労使協定の整備が対象者要件を左右する
出生時育休で「1年未満の継続雇用者を除外する」には、労使協定の締結が必須です。協定なしに口頭で除外することは違法となります。
【労使協定に定めるべき事項】
- 出生時育休の除外対象者の範囲
- 除外の条件(継続雇用1年未満など)
- 協定の有効期間と更新条件
給与計算担当者が注意すべき「ノーワーク・ノーペイ」の原則
育休期間中は賃金の支払義務がありません(労働基準法の原則)。給与計算では以下を確認してください。
- 月給制:育休日数分を差し引いた日割り計算
- 賞与:育休期間を算定対象から除外する規定が就業規則にあるか確認
- 年次有給休暇:育休期間は出勤日数に算入されない(付与日数計算に影響あり)
よくある質問(FAQ)
Q1. 出生時育休中に少しだけ働いてもいいですか?
A. 可能です。ただし、労使協定が締結されている場合に限り、合意した範囲内での就業が認められます(法第9条の2第6項)。就業日数は育休期間の2分の1以下かつ所定労働日の半分以下が上限です。この場合も給付金は支給されますが、就業日数に応じて減額されます。
Q2. 通常育休を先に取得してから出生時育休は使えますか?
A. 取得できません。 出生時育休は「子の出生から8週間以内」という取得可能期間が法律で定められています(第9条の2第1項)。この期間を過ぎてから遡って取得することは認められていません。通常育休を先に開始した場合、その期間が産後8週間内であっても出生時育休として再申請することはできません。
Q3. 夫婦で同時に育休を取ることはできますか?
A. できます。 「同時取得不可」はあくまで「1人の労働者が同一の子について、複数の育休制度を重複して利用すること」の禁止です。夫婦がそれぞれの勤務先で育休を取得することは何ら制限されておらず、同時期に取得することも可能です(パパ・ママ育休プラス制度)。
Q4. 出生時育休の申請を会社に拒否されました。どうすればいいですか?
A. 要件を満たす労働者の申請を会社が拒否することは育児・介護休業法違反です。まず会社の人事部門に法的根拠(第9条の2)を示して再申請してください。それでも解決しない場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談することができます(相談無料・匿名可)。
Q5. パートタイム労働者もパパ育休は取得できますか?
A. 週2日以上勤務かつ1年以上継続雇用であれば取得できます。ただし、会社が労使協定で「週の所定労働日数が2日以下の労働者」を除外対象と定めている場合は取得できません。自社の就業規則と労使協定を確認してください。
まとめ|制度を正しく理解して最大限に活用しよう
パパ育休(出生時育休)と通常育休の同時取得が認められない理由は、二重給付の防止・労働者身分の一元化・制度の独立性という3つの法的原則に基づいています。
重要なポイントを整理します。
- ✅ 出生時育休(最大4週間)は産後8週間以内に取得開始
- ✅ 最大2回の分割取得が可能で、仕事の繁忙期に合わせた柔軟な計画が立てられる
- ✅ 出生時育休終了後、引き続き通常育休に移行することは可能(連続取得OK)
- ✅ 給付金は休業開始180日以内は実質手取り約80%
- ✅ 育休期間中は社会保険料が全額免除
- ✅ 申請は取得希望日の2週間前(出生時育休)または1ヶ月前(通常育休)までに会社へ
制度の「できないこと」を正確に理解し、「できること」を組み合わせることで、父親も子の誕生直後から育児に深く関わることが可能になります。不明点は社内の人事担当者または都道府県労働局に遠慮なく相談してください。
【参考法令・資料】
– 育児・介護休業法(令和4年改正版)
– 厚生労働省『育児・介護休業法ガイダンス』(2023年版)
– 雇用保険法第61条の7(育児休業給付)
– 厚生労働省「パパ育休(出生時育児休業)の概要」
よくある質問(FAQ)
Q. パパ育休と通常育休を同じ期間に取得できないのはなぜ?
A. 法律上、両制度は独立した別々の制度として設計されており、同一期間に重複取得することは二重給付禁止と労働者身分の一元化の観点から認められていません。
Q. パパ育休4週間を使った後に、通常育休を続けることはできますか?
A. はい、可能です。パパ育休4週間の終了後に通常育休を開始することで、連続した休業期間を確保できます。
Q. パパ育休の対象になるために必要な勤続年数は?
A. 申請時点で同一企業に1年以上の継続勤務が必須要件です。1年未満の場合は取得できません。
Q. パパ育休中に給付金と給料の両方は受け取れますか?
A. 育児休業給付金は実際に休業した期間に対してのみ支給されます。同時期に複数の給付を受けることはできません。
Q. パパ育休は何回に分けて取得できますか?
A. 最大2回まで分割取得が可能です。子の出生から8週間以内であれば、複数回に分けて計4週間を使用できます。

